「2人とも! クッキィというものを作ったぞ!」
休み時間、士道の机にいた蓮と士道に向けて容器を突き出しながら十香は興奮気味に言ってきた。
周囲の男子は蓮と士道を怨嗟に満ちた目で見ている。
「ありがとな。十香。あとクッキィじゃなくてクッキーだぞ」
そう言いながら蓮は容器に手を伸ばしてクッキーを一つ手に取った。
クッキーは焦げたりしているがそれは一応、クッキーと呼べるものだった。
蓮はそれを口に運ぶ。
「ど、どうだ?美味しいか?」
十香は不安そうな目で蓮を見る。
「うん。めちゃくちゃ美味しい」
蓮は笑顔で言うと十香はとても嬉しそうな顔をする。
「うむ! そうか! ほらシドー。レンもこう言っているぞ! 早く食べて見るのだ!」
十香はクッキーを一つつまみ、士道の口元に持って行こうとした瞬間…
廊下の方から銀色の弾丸のようなものが一直線に飛んで来て、クッキーをバラバラに砕いた。
それはフォークであった。
わかった理由は廊下から1番遠い位置にいた蓮がフォークを人差し指と中指に挟んで"止めていた"からである。
「まったく…食べ物を粗末にするなよ…」
ため息混じりにフォークが飛んできた方向をみると、そこには折紙がいた。
「何をする!危ないではないか!」
「あなたのクッキーを彼に摂取させるわけにはいかない」
「一応、理由を聞いていいか?」
なぜそう思うのか蓮は理由を聞いて見た。
「彼女は手洗いが不十分だった。加えて調理中、舞い上がった小麦粉に咽せて3回クシャミをしている。これは非常に不衛生」
「なっ…!」
「よく見てるな…」
回数まで記録してるとは、恐ろしいほどの観察眼だった。
折紙の言葉を聞いた他の男子は視線が十香のクッキーに注がれている。
「十香、もう一個クッキー、もらっていいか?」
「うむ。別に構わんぞ」
蓮は十香からもう一個クッキーを貰うと、周りに見せつけるようにも食べる。男子はそれを羨ましそうに見ていた。
なんという性格の悪さだ。
「さあ、シドー! 私のクッキィを食べるのだ」
「私のクッキーの方が美味しいに決まっている」
2人ともクッキーが入った容器を士道に突き出して迫ってくる。
「人気者は大変だな。 士道」
「勘弁してくれ…」
結局、士道は二人のクッキーを同時に食べたが、それがさらに大きな争いの火種となった。
ーーーーーーーーーーーーーー
放課後、蓮は士道の家にいた。理由は琴里に呼び出されたからだ。
士道の家で勝手にインスタントコーヒーを作り、一口飲んでみる。
「はあ…やっぱり不味い」
「…インスタントだからね。仕方ないさ…」
向かいのテーブルにいる令音が角砂糖をカップに大量に入れながら言ってくる。
「…砂糖入れ過ぎだろ」
「そうかね? これぐらい普通だと思うが…」
試しに一口飲ませて貰うが…
「うわっ…メチャクチャ甘いぞ…こんなの飲むのか?」
このやりとりをしている間にも令音は砂糖を入れる手を止めない。
するとリビングのドアが乱暴に開いた。
「琴里ぃ! どういうことだ!」
入って来たのはキレ気味の士道だった。
「なんで十香が…って、なんで令音さんと蓮がいるんだよ?」
「…ああ、邪魔してるよ」
「同じく」
そう言って蓮はコーヒーを飲み始める。
「どういうことですか? 十香は今、〈フラクシナス〉に住んでいるんじゃ?」
「…まあ、それについては説明するから、とりあえず体を拭いてきたまえ」
雨に濡れたせいで、床がビショビショになっていた。
「十香がしばらくうちに住む!?」
「まあ、精霊用の特設住宅が出来るまでだけどねー」
二階の琴里の部屋で士道は十香が家にいる理由を聞いた。
「…検査の結果が安定してきたし、そろそろ外部に居住を移そうと思ってね」
「それでなんでうちなんですか?」
「それはレンかシンといる時が十香の精神が安定するからだ…」
精霊は精神が不安定になると霊力が逆流してしまうので、精神が安定する所で生活させたいのだ。
「レンの家でもよかったんだが、監視しやすいという理由で君の家が採用されたんだよ…」
「はあ…なるほど」
「それと君の訓練のためでもある…」
令音の言葉に士道は首を傾げた。
「え? でも精霊は…十香の霊力はもう封印したから大丈夫なんじゃ…」
「なに言ってんだよ、士道。精霊は他にもいるぞ」
「えっ…マジかよ!?」
ここで蓮から衝撃発言が飛び出した。
「何人いるかまでは分からないが、俺は十香以外にもう一人精霊を知っている。 十香を含めて二人以上は確実にいるぞ」
「彼の言う通りだ。君には引き続き、精霊と会話役をしてもらう。そのための訓練さ」
その言葉に士道は頭を抱えて、悩み出す。
「…少し、考えさせてくれ」
「士道、これだけは覚えて置いてくれ。お前は人も精霊も救う事が出来ることを…」
蓮はまるで言い聞かせるように言う。
「彼の言う通りだ。そういえば、君にはこれを渡していなかったね」
令音は懐から少し膨らんだ茶封筒を取り出して、蓮に渡した。
蓮は中身を確認すると、「まいど」と言った。
「蓮、それはなんだ?」
「ん?これは…」
そう言って茶封筒からあるものを取り出した。それは厚さ一センチの札束…百万円であった。
「お、お、お前…な、な、なんでそんな大金を…」
百万円という大金を目の前にして、士道はパニックになる。
「俺の給料だよ。だだ働きはしないって言っただろ」
「でも…そんな大金がもらえるのか…?」
「まあ、こっちも命がけだしな。これぐらい貰わないと、釣り合わないさ」
蓮は百万円を茶封筒に戻そうとした途中で手を止めた。
「士道。ちょっとこっちに来い」
蓮は手招きをして士道に近づいて来るように指示した。
「ん?どうかしたのか?」
士道が近づいた瞬間、"百万円で士道の頬を叩いた"
「ごほっ…!」
そう言って床に倒れる。
「それが百万の痛みだ。貴重な経験だったな」
しかし、百万円も関係なしに、普通に痛かった。
「とりあえず、十香はしばらくここに住むことになるから覚えておいてくれ」
「で、でも…それは…」
すると、琴里の部屋のドアが開いて、十香が顔を覗かせた。
「シドー…。やはりダメか? 私は…ここにいては…」
まるで捨てられる子犬のような表情で見つめる十香に否、と言えるわけが無い。
「どうする? 十香はああ言っているぞ」
「…わ、わかったよ」
士道はこう答えるしかない。
士道がほぼ強制的に答えさせられた後、四人は一階に降りてきてくつろいでいた。
ちなみに十香は士道の答えに安心したらしく、今はゲームに夢中になっている。
「なあ、蓮。 去年はなんで学校に来なかったんだ?」
蓮はコーヒーを飲んでいると、士道にそんな質問をされた。
「んー…。まあ、いろいろあってな」
人間、そう言われると逆に聞きたくなるものである。
「教えてくれよ。そう言われたら、結構気になるしな」
「簡単に言うと、世界中を回ってたのが理由だよ」
「世界中って…旅行してたってことなのか?」
「いや、旅行じゃ無いんだな。分かりやすく言うと、
その言い方に士道は眉を顰める。ほとんど言っている意味が分からない。それにその言い方では、まるで自分は今まで学校に行っていなかったように聞こえるのは気のせいだろうか。
「あ、あともう一つ質問いいか?」
「答えられる範囲なら」
「蓮は日本人じゃ…ない…よな?」
士道は不安気に言ってくる。確かに蓮は白い髪に青い目という、日本人離れした容姿を見て気になっていたのだ。
「ああ、俺はイギリス出身の人間」
「お前、イギリス人だったのか! じゃあ、その名前も…」
「上の名前は俺がつけた偽名だよ。まあ、適当に決めただけなんだが」
イギリスにいた頃はファミリーネームはなく、周りからはレンと呼ばれていた。それが自分の名前だったし、周りも
「じゃあ本名はなんて言うんだ?」
「…そのうち教えてやるよ。それより、明日、俺は学校に行かないから」
「え? なんでだよ…ってそういえば、明日、体育があったな」
士道は納得の声を出す。
蓮は背中を人に見られたく無いので、体育のある日は学校に来ない。
しかし、去年のようにテストの日以外、学校に来ないのと比べればまだマシだと士道は思っている。
「まあ、そういうことだ。だから十香の世話は任せたぞ」
「十香をペットみたいに言うなよ…」
「まあ、鳶一との喧嘩を止めろって意味だよ」
そう言って、コーヒーを全部飲み干してカップ持って台所に行き、洗い始めた。
「コーヒーご馳走さん。俺は明日はASTの基地にいる予定だから、何かあったら連絡をくれ」
洗い終わると、玄関へのドアを開けて出て行くので士道も外まで見送る。
「邪魔したな。訓練、頑張れよ。士道」
そう言って、自分の家に帰って行った。
翌朝、携帯を見てみると士道からメールが来ていた。
『すげえラジオあった。聞いてみてくれ。マジで心が打ち震える。人生観変わるぜこれ』
メールの中にURLが貼ってあり、サイト先に飛んでみるとよく分からない詩が朗読されていた。
しかし、蓮にはこれが何か分かった。
(あいつ…また訓練をミスしたな…)
蓮は返信を押して、内容を書いていく。
『今のは聞かなかった事にしておいてやるよ。訓練、頑張れ。』
そう、打ち込んで、メールを送った。
この内容に士道が優しさのあまり、涙を流したのは少し後の話…
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「蓮って、すごいですよね」
ASTの基地の整備室。整備をしていると同僚のミリィがそう言って来た。
時刻はちょうど学校の4時間目の授業が終わる時間だ。
「何がすごいんだ?」
「だって、CRーユニットにとても詳しいことやみんなとすぐ仲良くなったり、それってとてもすごい事だと思うんですよ」
蓮はここにまだ十回も来ていない。だが装備にとても詳しい事などが理由でメンバー全員に慕われている。
「それってすごい事なのか? よく分かんないが」
「すごい事ですよ。それに蓮はかっこいいじゃないですか!」
整備を終えて、考え出す。
そこまで長く生きてるわけでは無いが、この言葉は耳にタコが出来るほど聞いている。
しかし、蓮はこの事を誇りに思ったことはなく、自分には
「ミリィ、俺は…」
ウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ
突然、基地内にサイレンが響き渡る。空間震警報だ。
そして、これは精霊の出現を意味している。
基地内は慌ただしくなり、次々に戦闘員が入って来てCRーユニットを着けて出撃して行く。
(…また、精霊に気づけなかった…やはり…)
十香の時もそうだったが、蓮はまた精霊が現れることに気付けなかった。
そして半ば確信した。
このことは可能性の一つとして考えていたことであった。
もし、距離も関係なしだったら、たとえ地球の裏側にいても感じていただろう。
しかし、蓮は今までこの様な経験は無い。
蓮は心の中で今後の調査課題を考えていく。『自分を知る』これが蓮の最終目標だからだ。
(しかし…士道は大丈夫か…)
ASTが動いたと同時に〈フラクシナス〉も…士道たちも動き出しただろう。
見に行きたい所だが、戦闘から帰還した隊員のことを考えると下手にここを離れる訳にはいかない。
(今は待つことしか出来ないのか…)
警報が鳴り、いくらか経った頃、蓮は立ち上がりどこかに歩きだした。
「れ、蓮! どこに行くんですか?」
「ちょいと気分転換に近くの公園に行ってくる。ミリィ、留守番を頼む」
「でも、雨が降ってますよ」
「傘、借りていくよ。何かあったら呼びに来てくれ」
それだけ言って、蓮は歩いて行ってしまった。
蓮は基地の近くの公園に来ていた。気分転換と言ったが、本当はただジッとしていられなかっただけだ。
今は雨が降っている灰色の雲をボーと眺めていた。
(雨は嫌いだ…どうせなら晴れている方が良いんだがな…)
すると、公園の外から人が来て蓮の隣に並んだ。
その人物は黒い傘をさしていて、黒い髪に黒い長袖と全て黒で統一されていた。しかし、傘をさしているため、顔が見えない。
「雨が降っていますわね。あなたは雨がお嫌いですか?」
いきなり、相手は話しかけてきた。声や言葉使いからして女性だろうと考えられる。
「ああ、嫌いだ。どうせなら晴れている方がいい。そっちは?」
「わたくしは嫌いではありませんわよ。特に今日のような日は」
「へえ、良いことでもあったのか?」
「ええ、とてもとても良いことが…」
そう言って傘を上げて顔を蓮に見せてきた。
その顔はとても白く滑らかでに整った顔と赤い目、髪は二つに結わえてあり、髪で左半分を隠してあるのが気になるが
『美人』という言葉が一番似合うだろう。
「自己紹介しますわ。わたくしの名前は時崎 狂三…ASTからは〈ナイトメア〉と言われていますわ」
その言葉を聞いた途端、蓮は凍り付いた。
執筆はしたのですが投稿を忘れるという失態…
お前は馬鹿かと自分に言いたいです…