デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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74話

真っ暗の室内を、机にあるパソコンの光だけが照らす、その机の前に座っているのは家の主人の蓮だ。時計の針が十一時を指している現在、部屋の明かりもつける事なく、顎に手を当てながら、彼の視線は画面だけに注がれている。

 

「やっぱり、司令官殿の言っていた以上の情報は無い…まあ、ASTのデータベースだとそんなもんか…」

 

画面に映し出されているのは、精霊化した折紙…いや、正体不明の精霊、〈デビル〉についての情報だった。昼間に琴里から聞き、家でその事についての調査をしているが、〈デビル〉については不明な点ばかりで目を惹くような事はまったくと言っていいほど無かった。

 

(DEMだったら、ここよりは多くのものがあると思うが、アカウントは凍結されてるしな…)

 

椅子の背もたれにもたれかかり、大きく息を吐く。今は折紙について少しでも知りたい、一体どうしたもんかと考えた時、部屋のドアがコンコンとノックされる。

 

「蓮、紅茶を淹れたんだけど、その…どうかしら?」

 

「七罪…?ああ、鍵は開いてるよ」

 

ドア越しに七罪の声が聞こえ、蓮はパソコンの画面を消した後、そう声を出す。すると、ゆっくりドアが開くのだが、部屋の電気がついてないのを見た七罪のため息が聞こえてくる。

 

「ちょっと…また明かりをつけないで…」

 

室内に明かりがついてないのを知った七罪は、慣れた手つきで明かりのスイッチをパチリと押した。すると、暗闇から一転、白い光が室内に溢れ、蓮は思わず目を瞑る。数秒後、部屋の明るさに慣れてきて目を開けると、そこには可愛らしい緑色の可愛らしいパジャマを着た七罪が、トレイを片手に立っている。

 

「暗い部屋で画面を見ると目を悪くするわよ。ただでさえ、本を読むときに眼鏡をしてるのに…」

 

「悪い悪い、昔ながらの癖みたいなもんで…」

 

七罪はまるで親のように説教しながら、トレイを机に置き、側にあった椅子を持ってくると蓮の隣に腰掛ける。蓮は苦笑いを浮かべ、軽く謝ってから、ティーカップを持つと中身を口に含んだ。それを七罪は緊張した顔で見つめる。

 

「ど、どう?茶葉はそこら辺で売ってるものだけど…、ま、不味かったら無理に飲まなくてもいいわよ!」

 

慌てた様子の七罪とは反対に、蓮は静かにティーカップを見つめる。そして、口に含んだ紅茶を飲み込むと、優しく微笑み、満足そうに頷いた。

 

「うん、とても美味しい…。市販されてるものだけど、お湯の温度や、淹れ方もちゃんとなってるな。でも、なんで家にあるやつを使わないで、わざわざ買いに行ったんだ?」

 

「それは…、あんな高級そうなものをダメにしたら大変だし…だったら安物でやった方がいいかなって…」

 

目を逸らしながら、失敗するのが怖かったと七罪は言う。それを聞いて、そんな事かと肩を竦める。

 

「大丈夫、ちゃんと出来てる。このレベルなら、高いものを使っても問題はないさ」

 

静かにそう言うと、カップにもう一度口をつける。本人は普通に飲んでいるつもりだと思うが、カップの持ち方や仕草は綺麗で、蓮の生きてきた環境を感じさせる。そんな姿を、七罪は何やら思いつめた様子で見ている。

 

「やっぱり…何か変よ。普段の蓮なら、軽口の一つや二つが入ってる所じゃない。ガラでもなく、何に悩んでるの?」

 

「え?そんなもんだったか?」

 

真剣な七罪の言葉に、蓮は珍しく怯んでしまう。その隙を逃さず、七罪はグイッと顔を近づけてプレッシャーをかけてくる。普段の彼女らしくない、あまりに大胆な行動だ。

 

「そりゃあ、あんたが悩むような事だから、私なんか力になれないかも知れないわ。でも!一緒に考えるぐらいは出来るわ!だから、一人で悩まないでほしいの…」

 

真っ直ぐ目を見た必死の頼み。だが、蓮は無情にもそれから目を逸らし、首を横に振る。

 

「その気持ちは嬉しい、とても嬉しいよ。だけど、悪い…言えない」

 

「どうして…そんなに難しい悩みなの?」

 

「言っても信じられないと思う。俺自身も、未だ現実の出来事だと思えないから」

 

自分と士道は過去に戻り、様々な事を行い、今いる世界は改変後の世界だ。そんな事を言っても士道と狂三以外は誰も信じないだろう。それを言うと、七罪は拳を握り、悔しそうに俯いてしまう。

 

それを見て、罪悪感のようなものを感じる蓮だが、そこである事を思いつく。七罪の協力が必須である、ある事なのだが、果たしてそれはやっていい事なのか、その判断がつかないまま、口を開く。

 

「えーと…でも、七罪が力になれる事…っていうか、七罪の助けが必須な事ならあるけど…」

 

「本当!?何何!?何をすれば良いの!?」

 

沈んでいた様子から一転、嬉しそうな様子で顔を上げた。さっきまでとはまた違う圧迫感に頬を痙攣らせるが、本人が協力的のため、あまり気は進まないが言ってみる事にする。

 

「えっと…士道の家で話した〈デビル〉に七罪は襲われたんだよな。それについて聞きたいんだ」

 

「えっ…?」

 

まさに予想外の質問とばかりに目を丸くする。蓮は、七罪が〈デビル〉に襲われたという事を琴里が言っていたのを思い出し、聞いて見た次第だ。

 

「で、でも、私を助けるために、蓮が戦って…」

 

「あー、いや、七罪から見た雰囲気を聞きたいんだ。どんな些細な事でも良いから」

 

おそらく、七罪は、自分を助けるために蓮が戦ってくれたため、自分より詳しいはずと言おうとしたのだろうが、それでは七罪に聞いた意味が無い。あくまで七罪自身から見た〈デビル〉の様子という風に聞き直した。

 

その質問に、七罪は唸り、難色を示している様子だ。それもそうだ、命の危機であった現場と自分を殺そうとした相手を思い出せと言っているのだ、ケロッと答えられる人物はそうそういないだろう。

 

「…ああ、やっぱり今言った事は忘れてくれ。怖い瞬間を思い出させたな」

 

やはり、そのような瞬間を思い出させるのは七罪の心境的に良くないと考え、やめるように言うが七罪は首を横に振った。

 

「だ、大丈夫よ。それで…どんな奴だったか…でしたっけ?」

 

「え?ああ、出来ればどんな行動をして来たとか、その辺りを教えてくれると助かる…」

 

「本当に…本当にいきなりだったわ。音もなく、いきなり現れたかと思うと、飛んでいた私に攻撃を仕掛けて来たの。その奇襲をもろに食らって、地面に落ちたわ。それでも、容赦無く攻撃を続けて来て、私はただ逃げ回る事しか出来なかった。あいつとは初対面の筈なのに、まるでずっと恨んでたみたいな殺意だった…」

 

七罪(精霊)を…ずっと恨んでいたような…容赦のなさ…」

 

七罪はガタガタと身体を震わせ、〈デビル〉の事を話す。それを聞いた蓮は、初対面の七罪に、容赦のない攻撃を加えたという点が気になった。それはまるで、改変前の世界の折紙にも似た考えだと感じたからだ。

 

「必死に逃げ回ったけど、それも限界になって、やられるって思った時に蓮が目の前に立ちはだかって戦ってくれたの。そうね、主に中〜遠距離で戦ってたと思うわ、手に持った短刀を投げつけたり、斬撃を飛ばしたりで…。そうして戦ってるうちに、十香達が増援に来てくれて助かったんだけど…」

 

「そうか、辛い事を思い出させたな。うん、だいぶ助かったよ」

 

何か大きな事を得たような、満足気な表情で七罪への感謝を述べてから、紅茶をまた口に含む。そのタイミングでカップの中身は空になり、それをトレイの上に戻した。

 

「本当に…蓮の力になれたの?こんな事、蓮も知ってるはずじゃあ…」

 

「いや、大きなヒントになったよ。ありがとう、七罪」

 

そう感謝を述べると、蓮は立ち上がり、右手でトレイを持ち、左手で七罪の手をギュッと握る。その顔は少し笑っていた。

 

「怖い事を思い出させたから、今日はベットの中で抱き合いながら寝ようか。そうすれば身体の震えも治るだろうし」

 

「えっ!?ええええ!?」

 

驚きの声を上げる七罪だが、抵抗することが出来ず、蓮のされるがままに引っ張られ、二人は部屋を出て行く。その夜、七罪が眠れない時を過ごしたのは言うまでもないだろう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ほい、一応、これを見ておいてくれ」

 

「ん?なんだ、これ?」

 

次の日の学校。ホームルームが始まる前の時間で、蓮は士道にホッチキスでまとめた数枚の紙を手渡した。それに疑問の声を出す士道に、欠伸混じりに答える。

 

「ASTのデータ内にあった〈デビル〉についての情報だ。今朝、プリントして持って来たんだ。でも、特別目を引くような情報は無かったよ。DEMにならもっとあるかもしれないけど、今は何も出来ないからな」

 

「あ、ありがとう…助かるよ…」

 

「あと、昨日の夜に七罪から〈デビル〉について聞いて見た。話を聞いた感じ、折紙と〈デビル〉が同一人物である可能性が濃くなったよ」

 

「や、やっぱりか…蓮がそう思うのなら、そうかも知れないな…」

 

周囲に目を配りながら言う蓮に、士道は戸惑い気味に頷く事しか出来ない。これが裏の世界の王か…そんな気迫に頬を痙攣らせながら感服する。だが、当の本人は何やら踏ん切りがつかない様子だ。

 

「頑張ってみたが、まだ折紙本人であるという証拠は見つからなかったよ。どうしたもんか…」

 

「はっ?いや、どう見たって〈デビル〉は…」

 

何を言ってるんだとばかりに眉を潜ませた士道は、昨日見た〈デビル〉の映像を思い出す。あの時の顔は間違いなく折紙だったはずだ。しかし、蓮はそうじゃないとばかりに顔を横に振る。

 

「別に同一人物じゃないって言ってる訳じゃない。むしろ、八〜九割は当たりだと思う。だが、その一〜二割に落とし穴がある可能性もある。折紙本人だと思って口説いたら、別人だったなんて全く笑えないからな」

 

それを聞いて、士道は蓮の言うことが分かった。つまり、蓮は〈デビル〉が折紙である確定的な証拠が欲しいのだ。回りくどい事だが、全ては自分の安全と霊力封印の事を気にかけての考えらしい。

 

「じゃ、じゃあ、どうすれば…」

 

「一番ありがたいのは、〈デビル〉本人が目の前に現れて、『私の名前は鳶一 折紙です』って言ってくれる事だな」

 

「ええ…、それは流石に無理だろ…」

 

精霊狩りの〈デビル〉に、そんな転校生のような自己紹介をしてもらうなど、自分が総理大臣になる以上に難しい事だろう。どうすれば〈デビル〉が折紙である確証を得られるか、考えていると、教室にホームルーム開始のチャイムが響き渡った。

 

「まあ、今すぐ思いつく必要も無いだろうし、いい考えが浮かんだら教えてくれよ」

 

「あ、ああ、あんまり期待しないでほしいけどな…」

 

その言葉を最後に、士道と蓮は自分の席へと戻って行く。蓮に渡された資料を見ながら士道は、取り敢えず、今日の学校が終わったら、改変前の世界で折紙が住んでいたマンションへと向かってみようと考えるが、折紙がこのクラスに居ない事を考えると、そこで生活している可能性は限りなく低い。

 

(どうしたもんか、いっそのこと次に戦った時にでも〈デビル〉本人に聞いてみるのは…)

 

蓮の方もどうすればいいか、頭を悩ませる。〈デビル〉という謎の存在にどうすれば近づけるかを。だが、良い案は全く出てこない。そんな現状にため息をした後、机に頬杖をつくと目を閉じ一眠りしようとするのだが…。

 

「鳶一 折紙です。皆さん、よろしくお願いします」

 

教室に響いたその自己紹介を聞いた瞬間、蓮の意識は一瞬で覚醒し、弾かれるような勢いで教卓方面に顔を向ける。そこには端正な顔の少女が立っていた。身体の線は細く、背中を隠す髪の色は色素が薄いため、まるでお姫様のような雰囲気を醸し出している。

その容姿は人目を引くものだが、蓮が驚いたのはそれだけが理由ではない。その顔は映像で見た〈デビル〉と瓜二つのものだったのだ、そして彼女が名乗った名前、鳶一 折紙。

 

たった今、〈デビル〉が鳶一 折紙だと自己紹介したのだ(・・・・・・・・)。その衝撃が抜けきらないうちに、折紙は珠恵教諭の指定された席、士道の隣の席へと歩いて行く。それを目だけで追っていると、その中に少なからず驚いた様子の士道の顔が映る。だが、面識の無いはずの折紙も、士道を見た瞬間、僅かながら動揺したような雰囲気を発したのを蓮は見逃さなかった。

 

折紙は、その驚きを誤魔化すように士道に軽く会釈すると、指定された席に腰を下ろす。角度が悪かったせいで顔は見えなかったが、あの時、折紙の顔にも何かしらのアクションが起きていたに違いない。ホームルームが始まる中、蓮は次に何をすべきか、人知れず思考するのだった。

 

 

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