番外編 1話
四糸乃の霊力の封印が終わり、真那が天宮駐屯地にやって来た数日後…もう一人の兵士が駐屯地へとやって来ていた。
「ほ、本日付でここ、陸上自衛隊天宮駐屯地に配属になりました。岡峰 美紀恵二等陸士です!!ヨロシクお願いします!!」
もし漫画だったらばんっと効果音が付いていそうな紹介をした少女は明らかに緊張している様子で硬くなりながら敬礼をした。
来禅高校の制服を来た少女は背の低さと髪型がツインテールという外見の所為か、高校の制服を着ているのにも関わらず幼く見えてしまっている。
「アハハ、そう緊張しなくても大丈夫よ。入隊テストだとすごい結果を出したって聞いているから期待してるわよ」
そんな様子の美紀恵を見て、天宮駐屯地の隊長、燎子は苦笑いしながらそんな新兵に向かって言う。その時、部屋のドアが開き、一人の少年が入室して来た。
「隊長さーん。頼まれていた資料なんですが…って誰?この小さいの」
白髪の髪に青色の瞳をした少年、蓮が入ってくるなり美紀恵を見てそんな事を漏らした。その言葉に美紀恵は挨拶も忘れて「小さくないですー!」と頬を膨らませる。
「紹介するわ。こちらは岡峰 美紀恵二等陸士で今日からここに配属されるわ」
「配属って転属して来たとかじゃなくて新兵ですか?大丈夫かねぇ…」
最近、天宮市は精霊の出現が頻発している。医療用
「まあ、頑張れ。俺の名前は蓮、神代 蓮。整備士をやってるから何かあったら気軽に来いよ」
美紀恵の頭をポンポンと叩きながら自己紹介する。美紀恵も慌てて挨拶し、頭を下げた。
「それじゃあ俺はこれで。資料はここに置いておくんでチェックは任せましたよ。美紀恵も頑張ってな」
机に数枚の書類を置き、部屋を出て行った。美紀恵は出て行く蓮の背中を不思議そうに見つめていた。
「ふぇ…なんか、不思議な人ですね。容姿といい性格といい」
「蓮も四月にここに来たばかりなんだけど、あっという間にここに馴染んでね。少し変な所もあるけど、整備の腕は確かだから信用しても大丈夫よ。さて、あなたはここの実戦部隊だから、早速その力を見せてもらうわよ」
燎子は美紀恵を連れて廊下を歩いていく。
これはASTの中で起こったとある事件の始まりの瞬間だった。
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(あの新人…岡峰っていう名前だったな…)
格納庫へ向かう途中、蓮の頭にある気になる事が浮かんだ。美紀恵の姓である岡峰、この名前は確か企業である岡峰重工と全く同じであったのだが、もし社長令嬢ならなぜASTなんていう命の危険がある場所に来たのか分からない。
まあ、なにかしら理由があると思い、それ以上詮索するのは止める。誰にも知られたくない事はあるものだ。
「おーい、頼まれていた書類、渡してきたぞ」
「あっ!助かりましたよー。蓮」
格納庫への扉を開けて最初に出迎えたのは作業服の上に大きめの白衣を羽織り、眼鏡を掛けた金髪碧眼の容姿をしたミルドレッド・F・藤村、通称ミリィと呼ばれている少女だ。蓮に対してはとても好意的であり、ここで再会した時にはジャンプハグをして来た人物だ。
「しかし、蓮がこんな雑用するなんて珍しいですね」
「まあ、偶にはこんな事するのも悪くない」
今までは命令を下したり、設計などばかりしていたため、企業に属しながらも雑務どころか書類一枚を上司に届けたりする事も無かった。それゆえ、このようなパシリのような事でも新鮮味というものを感じ、実際に働いているという達成感を得る事が出来た。
そんな謎の達成感の中、机の上に置いてある、後で飲もうと思っていたコーヒーのカップを掴み、口に黒い液体を含もうとした時、ある違和感に気づいた。別のコーヒーそのものに異常はなく、変な色をしているという訳ではない。
(あれ?なんか
普段、コーヒーを飲む時、ピッタリ同じまでとは言わないがある程度決まった量をカップに注いでいる。これは意識しているという訳ではなく、分量の問題で一番好みの味を作るための癖のようなものだ。いつも飲んでいるため、手に持った感覚でなんとなく分かるのだが、なんだか軽く感じたのだ。
「なあミリィ。誰かこれを飲んだ奴がいるか?」
こんな所に放置したのは自分なので、誰かがもしうっかり飲んでしまっていても責める気はないが近くにいたミリィに一応聞いてみる。彼女は蓮が書類を燎子に届けている間もずっとここに居たはずだ。
「えぇ?い、いや、ミリィは知りませんよ!」
なにやら狼狽した様子で答えるミリィを不思議に思いながら、もう一度カップを傾ける。カップが口に触れそうになる時、ミリィがなにやらこちらを凝視しているのに気づき手を止める。
「なんだ?コーヒーを飲む俺がそんなに珍しいか?」
「えっ!?いや、何でもないです!何でもないですよ!」
狼狽というレベルを超え、パニックという言葉が似合いそうな様子で顔を真っ赤にしながら言うミリィを妙と思い、カップを机に置き、ミリィの目の前まで歩いていく。
「えっと…せっかく作ったのに、冷めちゃいますよ…?」
「ミリィ…少し、口を開けてみろ」
「ええっ!?いきなり女の子に口を開けろなんて…」
モジモジするミリィの言葉を無視し、両手で頬を挟むように抑え、グィッと押して無理矢理口を開かせる。予想通りコーヒーの香りがする。かなり濃い、それこそ、つい
「お前が犯人かっ!」
「きゃうっ!」
そう叫び、ミリィの額に頭突きを繰り出すと女の子らしい声を出して床に倒れる。
「はうぅ…せっかく蓮に間接キスするチャンスだと思いましたのにぃ…」
これを聞いて蓮はため息を一つした後、机まで戻り、置いてあるカップを手に持ち何も無かったように
「ん?なんだこれは…」
蓮は机に置いてある資料に目を向けた時、『
「DEM社…?ミリィ、何これ?」
「へへ…それは三日後に搬入される新型
ニヤニヤと笑みを浮かべながら説明するミリィを見ずに資料に視線を注ぐ。アシュクロフトは普通の
だが、蓮はこれを見た時、何か根拠がある訳ではないのに不吉な予感を感じずにはいられなかった。
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そして、その予感はアシュクロフト搬入の二日前に起こった。
折紙の家の家が何者かに爆破され、一緒にいた美紀恵が折紙を守るためワイヤリングスーツ無しで
次の日、目覚めた美紀恵は折紙から隊長の燎子も自分と同じように襲撃にあったと聞き、「見舞いの必要はない」と言う折紙を無理矢理引きずりながら燎子のいる第二特別室に向かう。
「あれ?美紀恵、もう身体は大丈夫なのか?」
「え?蓮さん、どうしてこんな所に…」
部屋の前で何故か蓮とバッタリと遭遇した。何故か右手にはトレイを持っており、中にはくまの顔をした可愛らしいクッキーが置いてある。
「隊長さんが襲撃されたって聞いたから祝いとしてクッキーを焼いてきたんだよ」
「そ、そんな…こんな時に不謹慎過ぎますよ!」
同じ仲間が襲われたと言うのに、それを茶化す蓮の行動に美紀恵は非難の言葉を向けるが本人は気にもしない。
「大丈夫だって。こんなんで負ける程度の人がASTで隊長なんてやってないさ」
ほぼ確信とも言えるような言い方をして、ドアを開ける。そこには怪我など無く、ピンピンした燎子、壁に背中を預けている真那、そして、両手を後ろに拘束され椅子し座っている目つきの鋭い女性がいた。
「あれ?隊長さん面会拒絶じゃ…」
「そんな事一言も言ってない」
「だから言っただろ。大丈夫だって」
一人驚く美紀恵に対し、折紙と蓮は先走りした彼女にまったくとばかりに呆れる。
「今入っちゃダメって言ったんだけど…まあ、いいわ。あんたらも入りなさい」
燎子の言葉に従い、三人は部屋の中に入る。蓮は真那に事情と椅子に座っている女性の事を聞こうとする。
「真那、椅子に座っている奴は誰だ?」
「隊長を襲撃してきた犯人らしいですよ。まあ、見事に返り討ちしちまったらしいですけど、ASTの隊長なら当然じゃねーでしょうか」
当然といった様子で言う真那。確かにASTの隊長をしている以上、実力がなければならないが美紀恵ほどではないにしろ、少しは無事だった事を喜んでは良いのではないかと思ってしまうが、それが真那の考え方であり、信頼の形なのだろう。
「さあて…ずっとだんまりもそろそろ飽きてきたんじゃない?」
燎子は尋問を再開して一枚の写真を見せる。そこには蓮と比べて少し年下のような印象の少女が写っている。
「元英国SSS隊員、アシュリー・シンクレア。あんた、この子の仲間よね?」
燎子の聞き慣れない言葉に美紀恵は蓮の側に寄ってきて耳打ちでこっそりと質問してきた。
「蓮さん、SSSって何ですか?」
「
「イギリスの!?なんで同じ
「それを今、隊長さんが聞いているんだよ」
冷静に言うが、蓮にもなぜ襲撃したのかが全く分からない。イギリスのSSSと日本のASTとの仲が悪いという訳ではないし、問題を抱えている事もない。なのになぜこちらに危害を加えるのだろうか。
「私達になんで危害加えるのかな?お願いだからそろそろ喋ってほしいんだけど…?」
言葉と表情は優しいが指をベキベキと鳴らしている事がすべて台無しにしている。これではお願いというより脅しという表現の方が正確だが、これに対しての相手の反応は。
「こ、怖い…助けて…アシュリー…セシル…」
さっきまでの鋭い雰囲気はどこにいったのか、目に涙を浮かべ、ガクガクブルブルと怯える彼女を見て、折紙を除く四人が心の中で『弱っ!』と叫ぶ。
襲撃犯とは思えない弱々しい姿に、蓮の心に『なんだ、こいつは』という疑問が出てくる。
「…そうそう、クッキー焼いてきたんでよかったら食べません?」
とりあえず場を落ち着かせようと思い、手に持ったトレイにあるクッキーを差し出す。最初にそれを摘んだのは真那だった。
「こんな所で何考えてやがるんですかって…あれ?めちゃくちゃうめーじゃねぇですか」
文句を言いながらも食べた真那は意外な美味しさで目を丸くする。ほかの三人も真那の言葉に釣られ、食べるがとても美味しいと感じたらしい。
「さて…よかったらお前も食べる?」
探りを入れるのと相手を落ち着かせる意味を込めて、襲撃犯にもクッキーを勧める。すると、急に目を輝かせた無邪気な様子へと変化した。なんというか、感情の変化がコロコロよく変わるのが少し面白い。
「俺は蓮っていうんだけど…お前の名前は?」
「れ、レオノーラ…レオノーラ・シアーズ…」
「レオノーラっていうのか。それで、これは挨拶の握手の代わりだ」
レオノーラは両手を後ろに回されているため、食べる事が出来ないので蓮がクッキーを摘んで彼女の口に持っていく。レオノーラはクッキーをハムスターのように頬を膨らませながら幸せそうな様子で咀嚼する。
「蓮、そいつは私を襲ってきたのに、なんで食べさせるのよ」
それを見た燎子は意義ありとばかりにそう言ってくる。レオノーラは捕虜であるのでこのように甘やかすのはあまり褒められた行為ではない。なにより、こんな事しては燎子は命を狙われた身としては不満だろう。
「大丈夫ですよ。隊長さんの事ですから、身体が真っ二つにされても別々の個体になって復活しますから」
「人をプラナリアみたいに言わないかしら」
「まあ、それは冗談で。隊長さんの事ですから無事って信じてましたよ」
結局、作ってきたクッキーの三分の一をレオノーラに食べさせた。食べ終わった頃にはすっかり落ち着きを取り戻し、泣き出すなんて事はもうないだろう。
「それじゃあ俺はここらで帰らせてもらいます。尋問に関しては無知で役に立たない思うので…」
そう言って空になったトレイを持ち、部屋を出て行く。一見無駄な行動なだけかとも思えるが、相手の名前を聞き出す事で尋問への糸口を作り出す事が出来た。
「SSSか…、本国で何が…」
彼女たちが、何を目的に海を渡ってきたのかはまだ分からない。ただ考えられるのは母国であるイギリスに何かが起きていたかも知れない推測ぐらいだ。
一人、廊下を歩く蓮には、まだ事件の真実は分からない。