デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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8話

「自己紹介しますわ。わたくしの名前は時崎 狂三… ASTからは〈ナイトメア〉と呼ばれていますわ」

 

この言葉を聞いた途端、蓮は雨に濡れるのにも構わず、傘を放り投げ、後ろに大きくジャンプしながら、

右手に〈バスター〉 左手に〈レッドクイーン〉と、すぐに戦える状態になった。

 

(な、なぜ〈ナイトメア〉がここに…)

 

蓮は精霊にそこまで詳しく無いが、時崎 狂三…〈ナイトメア〉の事は知っていた。

彼女は『最悪の精霊』と呼ばれていて、空間震だけでなく自身の手によって人を殺している。

それがここまで警戒する理由である。

 

(一人はマズイ…ここは逃げるしか…」

 

蓮は一人で精霊を倒せると自惚れている訳ではない。〈ナイトメア〉が相手となればなおさらだ。

ここを離れようと思い、足を動かそうと思ったが…

 

「なに!?」

 

足が全く動かなかった。自分の足を見てみると、地面から白い手が大量に出てきて蓮の足をつかんでいた。

 

その腕(・・・)…フフフ…、逃げないでくださいまし。ようやく(・・・・)見つけたんですから…」

 

「くそっ!!」

 

焦る蓮とは逆に狂三は口に手を当てて、上品に笑っている。

 

(こうなったら〈レッドクイーン〉で…)

 

〈レッドクイーン〉を使い、足をつかむ手を切ろうと思った時…

 

「それでは風邪をひいてしまいますわよ」

 

狂三は蓮が投げ捨てた傘を拾い、蓮の頭上に持ってきた。

 

「フフ…少しは落ち着きましたか?」

 

「…お前は何がしたいんだ?」

 

蓮は自分の傘を右手で受け取り、質問した。

こんな事、これから殺す相手にする行動とは思えない。すると、狂三は自分の左手を蓮の右手に重ねてきた。

 

ずっと(・・・)会いたかった…わたくしの事は覚えてませんか?」

 

「悪いが小さい頃に一緒に遊んだ、とかだったら記憶が無いから分かんねえぞ」

 

蓮は軽い冗談のつもりで言ったが、聞いた狂三は悲しそうな顔をした。

 

「そうですか。記憶がございませんの…わたくしは…」

 

そこまで狂三が言いかけた時、近くからミリィが蓮を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「邪魔が入りましたわね。また、お会いしましょう」

 

足をつかむ手を消すと、公園の出口へ歩いていく狂三を見て蓮も慌てて〈レッドクイーン〉と〈バスター〉を消す。

その時、ちょうど狂三と入れ替わりになるタイミングで傘をさしたミリィが公園に入ってきた。

 

「蓮〜、部隊が帰還するそうなので呼びに来ましたよ。あれ?なんでそんなに濡れているんですか?」

 

「え? あ、いや、気にしないでくれ」

 

「まあ、とにかく、基地に帰りましょう。そのままだと風邪を引きますよ。」

 

蓮の手をひいてミリィは走り出した。

 

(あいつは…俺のことを知っているのか…」

 

蓮は狂三と会った記憶はない。本来ならば、蓮は狂三に殺されてもおかしくなかった。

しかし、記憶が無いと言った時の悲しそうな顔が気になってしまう。

 

(だめだ…自分がやるべきことに集中しなくては…)

 

そう、自分に言い聞かせて気持ちを切り替えた。

 

 

蓮は戦闘後のCRーユニットの整備をするため、格納庫に来た。

中を覗くと、戦闘が終わって、CRーユニットの随意領域(テリトリー)を使った反動で動けない隊員が見られる。

その中で気になる物を見つけた。

 

「鳶一、それ(・・)はなんだ?」

 

なぜか折紙が手に人形らしき物を持っていた。

 

「現場で見つけて、気に入ったから持ってきた」

 

「気に入ったって…それのどこが気に入ったんだ?」

 

白い生地で兎という事は分かるが、なぜか右目が黒いボタンらしき物で隠れていて、まるで眼帯をしているようになっている。

これが蓮にはよく分からない。

 

「この良さが分からないなんて、貴方の感性はとても残念」

 

「イマイチよく分からん。おい、ミリィ!」

 

「はーい。何ですか?蓮」

 

「この人形、可愛いと思うか?」

 

すると、人形を見た瞬間、ミリィの目が輝いた。

 

「何ですか!この可愛い人形は! ミリィは気に入りました!!」

 

「えっ!? マジかよ」

 

「はい! この可愛い目に、小さな手がたまりません!」

 

ミリィはテンションMAXで蓮に語りかける。

 

「彼女もこう言っている」

 

「あ、ああ…そうだな…」

 

それだけ言って、CRーユニットに向かって行った。

 

(確か、今回は精霊はデパートに出現したんだっけ? だったらあれはデパートの商品か… 最近のデパートは変わった人形を売っているんだな…)

 

少し、お爺ちゃん思考になってしまった蓮なのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「十香が部屋から、出てこない?」

 

仕事が終わり、家に帰った直後〈フラクシナス〉から通信があり、士道の家に来いと言われた。

結果を聞いたところ、士道は精霊の力を封印出来ず、ちょっとしたハプニングの場を見てしまった十香が部屋に立て篭もる事態が発生したらしい。

 

「そのハプニングっていうのは今はあえて聞かないでおくよ。で? どのくらい立て籠もってるんだ?」

 

「そろそろ5時間になる。そろそろ出て来て欲しいところなんだが…」

 

令音は時計を見ながら言った後、次は蓮の顔を見る。

 

「その事を聞いた時から、まさかとおもってたが…」

 

「ああ、君に十香が出て来るように…いや、シンの誤解を解くのに協力してほしい」

 

予想していた内容に思わず呆れてしまった。

 

「なんで俺なんだ? 士道が原因なら、士道がやらなきゃダメだろ」

 

「こういう場合は、本人を出さない方が良いんだよ…」

 

蓮はあまりこのようなケースを体験したことが無いが、その方が良いらしい。

とりあえず、今は令音を信じる事しか蓮には出来ない。

 

「まずは十香の部屋に行って、話を聞いてやって欲しい。シンと同じくらいの信用を得ている君になら、十香は心を開いてくれるだろう」ぬ

 

「まったく…十香の事を考えないからこうなるんだよ」

 

ため息混じりに言った後、下手くそな字で『十香』と書かれた部屋の前に来て、三回ノックした。

 

「ふ、ふん! だ、誰だ! 私の事は放っておいて…「俺だよ。蓮だ」なに!? レンだと!?」

 

その直後、部屋のドアが爆発したかのように勢いよく開いた。

 

「レン! なぜ学校に来なかったのだ! 寂しかったぞ!」

 

「よしよし、事情があってな。悪かったよ」

 

抱きついて来た十香を受け止めて、頭を撫でる。

 

「話は聞いたぞ。大変だったな」

 

「なっ! レ、レンには関係無いぞ!」

 

「まあ、とりあえず部屋に入ろうか」

 

 

「ふむふむ、なるほど…要するに士道は十香の事を放っておいて、別の女の子とキスしてたのか」

 

十香の部屋に入った蓮は十香の話を聞いて、この件の元凶(士道)について聞いていた。

 

「それは完全に士道が悪いな」

 

「そうなのだ! 士道が他の女とイチャコラしているのが…ううぅぅぅ〜!!」

 

話している途中にも関わらずに十香は涙を出し始めた。

 

「我慢しなくて良いんだ。存分に泣け」

 

蓮がそう言うと十香は蓮の胸に飛び込んで来て、大泣きし始めた。そのせいで蓮の服が十香の涙と鼻水で濡れてくる。

 

「グスン…くそっ…シドーめ!」

 

どうやら十香は自分のこの気持ちがなんなのか、気付いてないようだ。

十香は蓮に抱きついて、士道の悪口や不満をずっと蓮に愚痴ってくる。

きっと酒に酔った者の相手をするのもおそらくこんな感じなのだろうと蓮は感じた。

 

とはいえ、このままではダメなのでひとまず十香を落ち着かせるのが先決だ。

「でも、まあ、少し十香は落ち着いた方が良い。時間をかけてな」

 

「グスッ…そうか…」

 

「ああ、それじゃあな。十香は泣くより、笑ってる方が可愛いぞ」

 

そう言って部屋から出ようとすると…

 

「レン…レンはどこにも行かぬ…よな…?」

 

十香は怯えながら聞いてくる。 さっき話した例え話が頭から離れないようだ。

 

「俺はどこにも行かないよ。それに士道もどこにも行ってないぞ」

 

そう答えて部屋を出た。

廊下には令音が腕を組んで立っていた。

 

「どうだったかね。 上手くいったかい?」

 

「とりあえず、出来ることはしたって所かな。でもまだ出て来そうに無いな」

 

蓮は今回、十香の気持ちを落ち着かせることが目的だった。

それは上手くいったと蓮は思う。あとは十香次第だ。

 

「とりあえず、十香の気分転換をしてやるといい。出来れば十香と同じ、女性が良いかな」

 

「そうかね…じゃあ私が明日、買い物にでも誘ってみよう。それにしても、よく十香の事を分かっているね」

 

「ただの推測だよ。まったく、人のメンタルを見るのはあまり得意じゃ無いんだがな」

 

戦う事は出来るのに、一人の少女の心すら癒せないというのも変な話だ。しかし、このような事態を経験したことが無いので仕方ない。

 

「はあ…士道に言っておいてくれ。『頼むから、これ以上面倒なことを引き起こすな』ってな」

 

それだけ言って、蓮は一階の玄関に行き、五河家を出て行った。

 

「あ〜、疲れた。 普通、仕事から帰って来た奴に、今すぐ家に来い。なんて言うか?」

 

しかし呼び出しには疲れていたのにも関わらずにしっかりと従った。

なんやかんや言いながらも、最終的には従う蓮であった。

 

 

 

(結局、あの事、言えなかったな…)

 

あの事とは狂三…〈ナイトメア〉と出会った事だ。空間震も無しに突然、現れたということは恐らく蓮しか知らないだろう。

しかし、この事はASTにも〈ラタトスク〉にもまだ言っていない。

 

(なにを躊躇しているんだ…俺は…)

 

何度も言おうと思っても、狂三の悲しそうな顔が蓮の脳内にフラッシュバックしてくる。

その度に話そうとする意思がなくなってしまう。

 

(落ち着け…焦らなくて良い。 ゆっくり考えていけばいい…)

 

しかし、それが自分自身に対する言い訳であることに気づかない…

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「なんでこうなったんだ…?」

 

次の日、蓮はファミレスに来ていた。

時刻は昼時のため、そこそこ客がいるがここに来たのは昼食を食べるためでは無い。

 

「ん? 来たか…こっちだ…」

 

席に座っていた令音が蓮の姿を確認すると手を振ってきた。

 

席に行ってみると、テーブルにはハンバーグやスパゲッティなどのハイカロリーの料理が大量に置いてあった。

 

「解析官殿。いきなり来いって言われたから、何かと思ったら…これはなんだ?」

 

蓮は昼になり、昼食の準備をしようと思ったら携帯に令音から電話があり、『今すぐファミレスに来てくれ』と言われた。

 

「十香が注文した料理でね。私一人では食べきれないから、君に手伝ってもらおうと思ったんだ」

 

「ふーん。で? その肝心の十香はどこに言ったんだ?」

 

「彼女なら、さっきシンの所に向かったよ」

 

「へえ、じゃあ、仲直り出来そうだな」

 

こんな言い方をしているが、内心ホッとしていた。

やっぱり、十香には笑顔であってほしい。悲しい顔は見たくないものだ。

 

「代金はこちらが出すから心配しなくていい。それに君とは前からじっくり話したかったのでね」

 

「本当にタダなんだな? じゃあ遠慮なく…」

 

普段はあまり外で食べたりはしないが無料なら遠慮する理由はない。席に座り、ハンバーグをフォークとナイフを使い切り分けていく。ナイフをいれると肉汁が溢れ出し、匂いを食欲をそそってくる。

 

「それで、何の用件で俺を呼び出したんだ、仲良くお話しながら美味しい料理を食べよう。なんてのが目的じゃないんだろ?」

 

「君に聞きたいことがあるんだ。君はNERO(ネロ)という人物を知っているかい?」

 

令音の言葉に蓮の手がピタリと止まる。NERO(ネロ)…その名は電子部品を開発する技術者の名前であり常に10年先の製品を作っていると言われているほどの評判である、テレビの電化製品などを見てみると必ずと言っていいほど、トレードマークであるNEのロゴを見る事ができる。

 

「ああ、むしろテレビを見ていて知らない奴はいないんじゃないか。ニュースでも名前を出していたし」

 

「ふむ、その人物はどんな人間か、知っているかな?」

 

そんな事を知っている人間はほとんどいない。理由はNEROは社交場が嫌いでまったく人の前に姿を現さない。様々な国のテレビ局が色々な手段を使ってその姿をカメラや映像に映そうとしたのだが、すべて無駄な努力に終わった。

 

だが、姿は見えなくても評判は悪くなかった。なぜならNEROはその優れた製品をまったく差別することなく、すべての企業に公平に取引しており、それこそ注文があれば大企業から近所の電気屋にまで取引する。

 

「いいや、有名だけどテレビに映ったところなんて、見たことないから分からん」

 

「そうか…、だが、一般人には知られてないがNEROは姿を現さないけどその手足と呼ばれる人物がいてね。出てこないNEROのために社交場に出たりしていて、唯一NEROの顔を知っているとさえ言われていてね、顔写真は手に入らなかったんだが、その人間の名前は"レン"。君と同じ名前なのだが、これは偶然かい?」

 

令音の言葉を蓮は表情を出さないポーカーフェイスで聞いている。この事はニュースなどでは報道されてなく、知っているのは社交場に出てくる大企業の社長などのお偉いさん方だけだろう。その事を何故令音が知っているのかと疑問に思ったが、情報なんてどこから漏れるか分からない。だが、このような情報を知ることが出来る時点で令音の情報収集力は見事だと感じた。

 

「ただの偶然じゃないか?その話自体初耳だし、この世界で『レン』なんて名前を持っている奴なんていくらでもいると思うが…」

 

少し驚きつつ興味のなさそうな顔で答える。令音は表情も変えず、ずっと見つめてくる。隈のある目だがまるで心の中まで見通しそうな雰囲気を出していて、ついつい目を逸らしたくなるがそれをジッと耐える。

 

「…君がそう言うならきっとそうなんだろうね…」

 

それを聞いて内心ホッとして食事を再開する。この後、令音と蓮の間に会話は無かった。

 

 




デアラで狂三は好きなキャラクターの一人なのですが、話し方はこんなに感じでどうでしょうか?
狂三と聞いたら、ドキドキナイトメアという単語が浮かぶのは私だけでしょうか…
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