デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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変なこだわりとして、きっちり時間順に並べたいと思います。なので割り込み投稿なんてしてるんですけどね(笑)


番外編 3話

(美紀恵…帰ってこなかったな…)

 

会場が消灯し、皆の視線がステージに集中してる中、蓮の視線は一つ空席の椅子を見ていた。

美紀恵と虎太朗の間に何があったかは知らないが、実の親子の間にこのような深い溝があるのがとても切なく思えてくる。親の存在が必ずしも子の幸福とも限らないが、蓮のような本当の親を知りもしない人間にはそれが勿体無く思ってしまう。

 

ステージではスポットライトに照らされた最後のアシュクロフト『アリス』を見せながら虎太朗が性能を説明している、そのデモンストレーションに移ろうとした瞬間。

スポットライトの電気が消え、会場が完全な暗闇に包まれ会場がさわめく。どうやら会社の演出という訳でもなさそうだ。

 

(相手が手を打ってきたか…)

 

行動を起こそうにもこの暗闇中ではどう動いたら良いかが判断出来ない。

すると、ステージの方から大きな音を立てた後、電気が復旧する。そこには『アリス』を確保し、アシュクロフトを纏ったレオノーラ、写真で見たアシュリー、そして見た事のない茶髪の女がいた。

 

アシュクロフトを身につけていた所から考えると彼女が強奪犯の最後の一人、セシル・オブライエンだと蓮は推測した。

 

「『アリス』は貰っていくぜ!ちょろいもんだなASTも!」

 

会場がパニックになり、他の人間が我先にと出口に向かう中、アシュリーは勝利の雄叫びとばかりに笑い声を響かせる。

だが、彼女達が勝利を確信するのはまだ早かったようだ。

 

動いていたのは彼女達だけではない。真那、折紙、燎子は素早く対応し、三人を『アリス』から引き離す。

 

「美紀恵!あんたも早く来なさい!蓮!あんたは岡峰さんを安全な所に!」

 

「は、はい!!!」

 

「了解!!」

 

燎子はようやくトイレから帰ってきた美紀恵に戦列に参加するように言い、蓮には虎太朗を避難させるように言ってくる。

美紀恵は『チェシャー・キャット』を装備して、燎子達の所に向かい、蓮も虎太朗のいるステージに向かう。

 

「岡峰さん、ここは危険です。()と共に安全な場所に避難を…」

 

「『アリス』はDEMから預かった大切な機体だ。責任者の私が簡単にここを離れるわけにはいかん」

 

「…分かりました。では被害が及ばぬように離れていて下さい。蓮!岡峰さんの護衛をお願い」

 

意外にも虎太朗は危険を承知でここに残ると言い、燎子の警告を聞かない。美紀恵と同じで言っても聞かない性格なのだろう。本意では無いが蓮もそれに従い、虎太朗を守るように背中に隠す。

 

「…やはり君だったか。何故君ほどの人間がASTなんかにいるのだ?」

 

燎子達が戦闘を始める中、近くにいる蓮にしか聞こえないほどの声の大きさで話しかけてくる。その言葉に後ろをちらりと振り向き少し驚いたような顔をする。

 

「私の事を覚えていたんですか(・・・・・・・・・)?会った時の反応を見て、まさかと思いましたが…」

 

「忘れられないさ。周りが大人だらけの中、君のような子供がいればな」

 

「そうですか…ここにいる理由は些細な事です。長い休暇のためですかね」

 

「君ほどの人間なら、ASTなんて無駄な組織よりも行くべき場所があったのではないか?」

 

さっきは虎太朗から『ASTは役立たず』という言葉を受けた蓮だったが心の底からそう認めたわけではない。燎子達は本当に頑張っている事は整備士である蓮がよく知っている。そんな事言うのは結果報告の書類に書かれた文字しか見ていない人間だけだ。

 

「無駄なんかではありませんよ。美紀恵も頑張っています。今は満足いく結果は出ていませんがそのうち…」

 

「いや、無駄だ。あれを見てみるといい」

 

顔を前に向けると燎子達四人は床に膝をついていた。負けたのではない。セシルの纏ったアシュクロフト、『ジャバウォック』の能力により随意領域(テリトリー)の展開を阻害されているからだ。

魔術師(ウィザード)随意領域(テリトリー)を展開出来なくなるとまともに動く事すらままならない。

 

四人を制圧したセシルは『アリス』へと歩みを進める。それを見て虎太朗は呆れたようにため息をついた。

 

「やはり、ASTは能無しだったか…」

 

「いいえ、まだ…まだ終わってませんよ。ここには私がいますから(・・・・・・・)

 

蓮はそう言うと虎太朗から離れ、『アリス』へ近づいていく。その途中、上着とネクタイを脱ぎ捨て身軽に動けるようになる。

 

「何をするつもりだ?愚かな事は止めろ」

 

「大丈夫ですよ。ああいう人間を相手にするのは初めてじゃありませんから」

 

恐れなど微塵も抱いてない様子で蓮は『アリス』を守るようにセシルの前に立ち塞がった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…そこをどいてくれるかしら?」

 

立ち塞がった蓮にセシルはニコニコと笑みを浮かべながらそう言う。相手はCRーユニットを装備してはいない。警戒する要素は皆無だった。しかし、蓮は腰に手をあて、微動だにしない。

 

「悪いがこれも仕事なんでな。『はい、分かりました』って道を譲るわけにはいかない」

 

「蓮!何しているの!?早く岡峰さんを連れて退避しなさい!」

 

自分の事にすら余裕がないというのに、燎子はこちらの事に気を回してくれるという所はさすが隊長というべきだろうか。しかし、そんなに狼狽してしまっては隊長としての敬意をなくなってしまいそうだ。

 

呑気にもそんなに事を考えているとセシルが蓮の目の前まで歩いてきて顔の頬に触れる。やはり蓮を脅威にすら思っていない様子だ。

 

「セシル!待って!彼は普通じゃない…」

 

レオノーラは蓮の本当の正体は知らないが、普通ではない事は知っているため、セシルにそう警告する。しかし、セシルはどう受け取ったのか余裕そうな態度を崩さない。

 

「大丈夫よ、レオ。ふふ…前に出てきた行動は普通なら出来ない事ね。顔も結構私のタイプだから、心が痛むんだけど…邪魔をしてくるなら仕方ないわね…」

 

頬から手を離した瞬間、セシルは素早く左脚を動かして蹴りを放つ。セシルの目的は殺害ではないので当然手加減はしているが、一般人が受ければ膝をつき、動けなくなるほどの威力はある。が…

 

「心が…なんだって?」

 

蓮はしれっとした表情で右脚を使い蹴りを受け止める。これを見た瞬間、さすがのセシルも笑みを崩す。

随意領域(テリトリー)で身体能力を強化した蹴りは普通なら反応する事すら困難なのに、目の前の人間は反応し防いだからだ。

 

「生憎、こっちはこれよりもっと早くて重い蹴りを見ているからな。これぐらいなんとかなるんだよ」

 

焦ったセシルはすぐに左脚を戻すと右脚で攻撃を繰り出す。今度は手加減無しの全力で顔を狙っていくが頭を下げ避けられる。

 

(彼…反射神経が普通じゃない…)

 

隙間開けずに攻撃するが全て避けられ、掠ることすらしない。セシル自身も高い動体視力をもつゆえどのように避けているかが全て見えていた。

 

(なんでこんなに正確に避けられるの…?本当に人間なの…?)

 

機械のように一寸のミスもなく、次はどこを攻撃するかが分かっているように無駄のない行動はもはや芸術と言っていいほどの鮮やかさがある。

 

「セシル!何やってんだ!ただの人間だぞ!さっさと倒しちまえよ!」

 

顕現装置(リアライザ)を装備していない一般人相手に手こずっているセシルにアシュリーは喝を飛ばす。しかしその言葉がセシルを焦らせてしまう。そして、焦りは行動を雑にする要因の一つだ。

 

そんな僅かな隙を蓮は見逃すほど甘くなかった。決定的なタイミングを見つけ、前に乗り出してセシルの両目の直前に人差し指と中指を突きつける。あと一cmも前に進めれば目を潰してしまう、そんなギリギリな距離だ。

 

「戦闘ではどんな時も冷静にしていろよ。こういう場ではミス=死だからな」

 

自分の知らない未知の人間に対する驚きと恐怖でセシルは数歩後ずさる。その時、アシュリーの声が会場に響き渡った。

 

「おい!お前!これを見ろよ!」

 

視線を向けると、倒れている美紀恵の首筋にアシュクロフト『ユニコーン』の装備のランスが突きつけられていた。

 

「あんまりこういう事は好きじゃねえけどよ、お前はイレギュラーすぎるからな。これぐらいの事はさせてもらうぜ」

 

これは脅しではないだろう。多くの人間と出会ってきたから分かる。この状況をひっくり返すには『バスター』か『レッドクイーン』などを使うしかないが、あれは人に見られてはならないものだ。

 

(ちぃ…、面倒な事をしてくれるな…)

 

仲間がピンチだというのに我が身の可愛さのせいで何も出来ない事が悔しく、奥歯を静かに噛みしめる。

 

こんな場面で感情的になってしまったら美紀恵が危険だ。仕方なしに両手を上げて降伏するという意思を見せる。セシルは警戒しながらその横を通り、『アリス』へと向かう。

 

『アシュクロフトⅠ『アリス』認証を開始します。パスワードを入力してください』

 

「はあ!?パスワードだって!?」

 

セシルが『アリス』の認証箇所に手をおくと機械音声でパスワードが求められる。アシュリーのこの反応を見る限り、三人はパスワードの答えどころか、存在すら知らなかった様子だ。

 

「『アリス』はパスワードを入力しない限り認証は受け付けん。諦めて大人しく帰るのだな」

 

認証をしなければ『アリス』は動かせない。セシル達にとってこれは"詰み"の状況なのだが、セシルはまだ諦めたわけではないようだ。

 

「そのパスワードを知っているのはあなただけらしいわね。教えなければ痛い目にあう…なんて脅しが通用する相手じゃなさそうだけど…これならどうかしら?アシュリー!」

 

美紀恵を押さえつけていたアシュリーが彼女の足に向けて踵落としを落とす。苦痛により美紀恵の顔が歪む、それを見て彼女達の目的が何かすぐに理解した。

 

「パスワードを話さなきゃ、あなたの娘が痛い目に合う。っていうのはどうかしら?」

 

「…何をしても話すつもりはない。そんな事で私の口は割れん」

 

それを聞いたアシュリーは美紀恵を蹴り飛ばしたりして傷つけていく。

なんとかできるだけの力があるのに見てるしかできない。それがとても歯痒い。

 

(チェシャー・キャットには回復処理能力があるが、それは随意領域(テリトリー)を使った能力であるため、それが妨害されたこの状況では使えない…なんて無力な…)

 

「まだ話す気になれないかしら?なら、次は腕の一本でもへし折ってみようかしら」

 

美紀恵は彼女達にとって人質ではない。今は腕の一本と言っているが、最悪殺してしまう結果になってもセシル達にはなんのデメリットもない状態だ。

 

アシュリーが美紀恵の右腕を後ろに回して徐々に力を入れる。その度に美紀恵の顔が苦痛の表情に染まっていく。

 

「やめろ、パスワードは教えてやる。娘を離せ」

 

会場に響き渡る声。感情的でない言葉だったが、虎太朗のとって苦渋の決断だったことがわかった。それを聞き、セシルは得意顔になる。

 

「その言葉を待ってたわ。彼女を離す前にパスワードを教えてもらいましょうか…」

 

「待ってください!!」

 

声を上げたのはボロボロで満身創痍の身体である美紀恵だ。これだけ絶望的なはずなのにまだ彼女は諦めていないようだ。

 

「もういい…この状況はどうにもならん。ASTも私も無能だったということだ」

 

「ASTは…ASTは無能ではありません!!私も…お父様も…。まだ…まだ、終わってませんから…」

 

「その子の言う通り。何があっても私たちは勝つ」

 

そう答えて飛び出したのは折紙だ。

その姿はワイヤリングスーツを解除して、ドレス姿になっている。『ジャバウォック』が阻害できるのは随意領域(テリトリー)だけであり、人体の動きを妨げる効果はない。

 

だが、CRーユニットを前にしてその行動は無謀すぎることだ。

 

「てめー正気か!?生身であたしの攻撃を受けたら、死体すらまともに残んねぇぞ!!」

 

あまりに大胆過ぎる行動にアシュリーが驚きの声とともに、手に持ったランスを折紙に向けようとするが、真那がアシュリーに向かって装備の〈ムラクモ〉の射撃を当て、注意を引き寄せる。折紙はその隙に近くにいた美紀恵を回収し、『アリス』に向かった。

 

しかし、まだ、『アリス』の近くにはセシルがいる。

 

「その勇気をすごいけど、ここから先はっ!?」

 

蓮もその僅かな隙を逃すわけなく、相手が後ろを向いた瞬間、鋭い回し蹴りを無防備な脇腹にいれ、横に吹き飛ばして折紙のための道を開く。

どんなにすごい動体視力を持っていようと見えない場所からの攻撃には対応出来ないのだ。

 

折紙は美紀恵を抱えたまま、蓮の作った道を突破し『アリス』のそばまで到着した。

 

「まったく…無茶するな、お前は…」

 

「あなたほどではない」

 

そんな皮肉を聞き流して、傷だらけの美紀恵の容体を見る。ボロボロだが、重体には至っていない。右腕も骨折まではいってない、これも虎太朗の決断が早かったからと言える。

 

「折紙さん…流石です…蓮さんも…すみません。私が足を引っ張ってしまい…」

 

「俺の事なんか気にしなくていいさ。お前のほうが頑張ったよ。こんなになるまで…」

 

美紀恵の危機を救うことには成功したが、戦いに勝利したわけではない。ワイヤリングスーツを解除した折紙と蓮以外は随意領域(テリトリー)の展開すらままならず床に手をついて動けない。

 

「どうするんだ?美紀恵は助けたが、絶体絶命の状況には変わりないぜ」

 

「…方法ならある、『アリス』を使えばこの危機を脱することができる」

 

「へえ、『アリス』ねぇ…」

 

予想通りとばかりの様子で、箱型の待機状態となっている『アリス』に目を向ける。

 

最後のアシュクロフトである『アリス』は外部からの干渉を遮る防御特化の機体。その能力があればセシルの『ジャバウォック』の妨害を受けずに戦うことが可能だ。

そして、その認証パスワードを知る人物は…

 

「パスワードを教えて」

 

折紙は平坦な声でパスワードを虎太郎に聞く。それを聞いた虎太郎はなんとも言えない様子だ。

 

「…出来るのか?お前達に…」

 

「残念ながらそれは無理ね。この一撃で終わるのだから!」

 

折紙と迷う虎太郎の会話、セシルも黙ってそれを見ていたわけではない。『アリス』を起動させられる前に折紙を倒すべく飛び出し、得意の蹴り技を繰り出す。

だが、その蹴りは蓮が繰り出した蹴りによって軌道がずらされて折紙に当たらない。

 

「いいところなんだから水を差すなよっ!」

 

それから派生した回し蹴りでセシルを牽制し、折紙のための時間を稼ぐ。

 

「…言葉だけでは人は動かない…だが、証明するための機会を与えてやる必要もあるな。…教えてやる…パスワードは…」

 

パスワードを聞いた折紙は『アリス』の近くに行き認証処理を開始し、パスワードを言った。

 

「…MIKIE」

 

小さな声だったが、不思議なことにそれは美紀恵にも蓮にもしっかり聞こえていた。

パスワードの照合が終了し、折紙は蒼い鎧を身に纏い、前に歩き出す。

 

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