「お前、結局何しに来たんだ…。」
「なにって、そりゃあ、別嬪さんに会うために。」
「それはもういい!」
「あはは、面白い人だね。」
駄目だ、真面目に話を聞いてない。二人が談笑する間、頭を抱えてため息を吐く、別にこの雰囲気が嫌いなわけではないけど、駿河よ、何か用事があったのではないか…?
「とまぁ、香取いじりはこのくらいにして、別嬪さんに会いにってーのは、間違いじゃねぇよ。別の子だけどな!」
ようやく本題に入ったようだが、主語が抜けてるため推察しなくてはならないけど、大体はわかった。そもそも僕と駿河で共通の知り合いの女性、そして美少女とつくのは一人しかいないわけで…。
「これからどこか遊びに行くの?」
「うん、まあちょっと遠出になるかな。カオス、お前は-」
「わたしも行く!」
―一緒に来るか。言い切る前に身を乗り出し、自分も連れて行ってほしいと主張してくる。というか、近い、近いって!おいこら駿河、何そこでにやけてんだ。そこは嫉妬するところだろう!
「わかった。もとから連れてくつもりだし、別にかまわないから、まずは離れてくれ!」
「でもそうなるとその服は拙いんじゃないか?」
何とか離れることに成功するが、その時駿河が素朴な疑問を投げかけてくる。…それは一理あるな。アイツのことだから気にしないだろうけど、念には念を入れたほうがいいか。カオスはわけがわからないようで頭に疑問符をつけている。
「カオス。すまないけど、他に服を持ってないか、そのなんちゃってシスター服だとこれから行くところで問題になるかもしれないんだ。」
「うん?別にいいよ。ちょっと待っててね。」
そういってその場から立つ。自室に戻って着替えるのだろう。-と思った矢先にカオスが光に包まれる!
「ちょ、おま」
止めようと思ったが、光り始めた時点でいろいろと台無しである。やがて光は消え、残されたのはどこか別の学校の制服に身を包んだカオスと頭を抱えて後悔する僕、そして口を半開きにしてぽかんとしている駿河だった。
「ジャーン!どうかな。似合う?」
「お前はなんでそうあけっぴろげなんだ。駿河、これはだな…。」
何とか言い繕うとするも、言葉続かない。こんな決定的瞬間を言いくるめられるほどの語彙力は僕にはないようだ。それでも、いまなお震える駿河に何とか言葉を紡ごうとするのだが。
「スゲエー!リアル魔法少女だこれ!?」
その言葉を聞いた瞬間、思いっきりこけてしまった。
いや、この反応も予想してなかったわけではないのだが、それでも、テンションの上がり方がまるで芸能人を生で見た時と何ら差はなく、純粋に驚きと憧れのみのようだった。
「実は、わたしは天使だったのだ!」
「なんだってぇ!?」
「またさらっと…、黙秘ということを知らんのか…。僕だけ可笑しいのか?」
二人のテンションボルテージは最高潮に達している、僕を除いて。誰もこちらを気にしてる様子もなく、ただただ自らの
「…よし、行こうか。そろそろ急がないと帰るまでには日が暮れそうだ。」
他の二人をせかしながら戸締りを確認する。荷物としては財布、携帯ぐらいかな。カオスはまだしも駿河はいつも徒歩で来る関係上、自転車が使えないので電車を使うのだが。今回もいつも通り電車で行くことになる。出費が嵩んで軽くなる財布を見て郷愁を覚えながらも先を急ぐ 一行であった。
それから家を出て電車に揺られること数分、この距離なら自転車で、時間に余裕があれば徒歩でも行ける距離にある。隣町の神社に無事到着する。前回にも行ったことのあるあの神社だ。この神社の巫女さんとは駿河含めて3人ぐるみの付き合いなのだ。
「あら、いらっしゃい。よく来てくださいましたね。」
巫女さん改め
「トキちゃん久しぶり-。また来たよー。」
「よくいらっしゃいましたね、駿河さん。お待ちしておりました。」
「わぁ、巫女さんだ。キレーイ。」
「ふふ、ありがとうございます。」
単に猫を被ってるだけですね分かります。初対面の人相手には基本丁寧語で接するのだけど、今はカオスがいるからだろうか。
「それで今日はどのような御用でこちらへ、香取さん?」
僕の時だけとげのある言い方なのは一昨日来たばかりだからだろう。こちらとしても来る予定はなかったのだけど、横目で駿河を見る。
「いやー、どうせならみんなで来たほうが楽しいいだろ?ま、一人増えたんだけどさ。」
「わたし、お邪魔だったかな…。」
「いやいやそんなことないって!なぁ、香取!」
賽銭も増えるから別に邪魔になってはないだろうけど、あえて何も言わない。別にいじわるとか、不安そうな表情見て愉悦してたりなんてないデスヨ?とにもかくにも神社に来たからには参拝はさせてもらおうとは思っている。
「ところで香取さん、この方はいったい。」
突然、僕のほうへやって来たかと思うと、真剣な眼差しで問いかけてくる。トキは神職についてるからかはわからないけど、やけに勘が鋭いところがある、特に『異常』といわれるものにはなおさら。おそらくだけどカオスにそういった『何か』を感じ取ったのだろう。彼女も自らの日常を破壊されることを嫌っているため、『異常』には警戒を惜しまず、知り合いの連れとはいえ今もまた他人には分からない程度に警戒しているのだ。
「彼女はちょっと訳ありで、家で預かってるだけだよ。」
敬語のはずなのに、何時もより威圧感ましましで問われるそれに、そこまで気負いはせずに答える。彼女が本当に危ないと思ったら何よりも優先して追い出そうとするからだ。それをしないということは、念のための確認といったところだろう。現に満足したからか、一度考えるそぶりをした後何もなかったかのようにふるまっている姿が見える。だけどその実、まだ心を許したわけではなく、いまだに見定めている最中であるのは仕方ないのかもしれない。
-そんな彼らの喧騒を、そばで見て、時に混じって一緒に笑いあう。ただそれだけのことで、自分は生きているのだと、幸せだとそう思えるのだ。特別じゃなくていい、そんなものは差別の対象にしかならない。どうか、これからもありふれたつまらないたのしい日常が続きますように。
参拝した後、いつものごとくトキの両親である老夫婦に招かれ、家へとお邪魔することになった。未だに警戒をほどかないのか、はたから見ても顔見知りじゃない限り気づかない程度には、気分がすぐれないようだ。いつもなら、会っていくらか話していたとしたら興味が失せるかするはずなのだけど。
「ちょっと、香取さん。こちらへ」
唐突に呼ばれ、ホイホイとついていく。トキについていくと、家の神棚がある部屋へとついた。我が家のモノよりも神々しさが感じられるのは、神職の人が住み管理しているからだろうか。妙に圧迫感を感じる。
「アンタなら、ここに連れてこられた意味が分かってるでしょうけど、あえて言うわ。あの子は、いったい、何者なの?」
「何者って、そんなの居候の女の子としか」
「だまらっしゃい。あの子が普通じゃないとか、アンタがそれを知っているだとか、そんなもんわかってるのよ。」
「本人に聞いてくれ、て言いたいところだけど、ダメかな…?」
そういって、こちらへと詰め寄ってくる彼女を何とか交わそうとするのだが。その威圧感は先程のそれとは段違いで、場所の雰囲気合わさり冷や汗が出てくるほど、まるで見えない何かにまで問い詰められているようだ。逃げ出したくなるような、切羽詰まった雰囲気ではなく、それでいて、神に告発する場のごとく言い逃れをさせない、そんな空気がその場には張りつめていた。それでも、頑なに拒む僕に無言の重圧がのしかかる。しばしの間、互いに見つめ合う時間が続く。
にらめっこが終了したのは、聞かれたくない話をするために遠ざかっていた居間から、突然に喧騒が大きくなったからだった。それだけなら特筆すべきことじゃないのだけど、かすかに聞き取れる声に若干悲鳴にも似た声が混じったのていたのが決定打となり、二人そろって一目散に居間へと戻る。
「みんな!どうした…の」
トキが引き戸を勢いよく開き、現状を確認する。するとそこには…。
「天狗様じゃ…!天狗様がわしらをお迎えに来たんじゃ…!」
「ありがたやありがたや…」
「いやあの、別にお迎えとか、そもそも天狗じゃありませんから…。」
「落ち着けって二人とも!お迎えとかシャレになんねーから!」
翼の生えた困惑しているカオスを拝み倒す老夫婦、そして必死に誤解を解こうとする駿河の姿があった。
さて、何とか場を落ち着かせ、三人の誤解を無事とけ一息ついたところまで話を進める。なぜかというとその後、トキもその場に乱入し、居間は阿鼻叫喚の筆舌しがたい状況になったからだ。老夫婦がカオスに襲われていると勘違いしたのちにトキが言及(物理)したりとか、そんな感じ。落ち着くのに時間を要さなかったのが唯一の救いである。
「悪かったわね。取り乱したりしちゃって。」
「大事にならないだけよかったと思うよ、僕は。」
「カオスさんもごめんなさいね。つっけんどんな態度をとっちゃって、香取がちゃんと教えてくれればこんなことにはならなかったんだけどねぇ…。」
「そうだな。今回は香取のせいだな。つーわけで謝れ。」
僕を非難するように半眼で睨み付けるように見る二人、からかい半分で見てくるそれを全力でスルーする。わざとらしく口笛を吹きながら必死にごまかす。さすがにあんな事態になるとは思わなかったのだからしょうがないッたらしょうがない。
「あはは、わたしは気にしてないよ。トキとも仲良くなれたし、次からは気をつければいいんだし。」
「お前も同罪だからな…すぐにばらしやがって。」
何事もなく無事に済んだからよかったものの、場合によっては一大事になってもおかしくはなかったのだ。主にお迎え的な意味で。少し特殊な例だったけどあの老夫婦のリアクションが一般的なのだ。正直これが海鳴の周知の事実にでもなったらどうなるだろうか。…あまり考えたくはない未来になりそうだった。
「ま、彼女がなんであれ、わたしたちに害になるものじゃなければ、どうでもいいわ。」
トキはようやく肩の荷が下りたという感じで、背伸びをしている。駿河に関しては逆に話のタネができたと楽しそうに笑っていた。三者三様、それぞれ思い思いに先程の出来事を振り返っている。まるで、本当にカオスが何者でも関係ない、そう思っているようだ。
…本当にそれでいいのだろうか。確かに彼女は僕たちを襲うようなことはないだろうし、存在そのものが害悪になるというわけでもない。でも彼女・は人間とは異なる生き物で…
心の中にわずかなしこりが残る。それでも今楽しそうに笑いあう彼らに無粋なことを聞くの憚られたのもあって、その後は何も言わずに今を楽しむことにしたのであった。
「あ、もうこんな時間。そろそろ帰らないと、また遊ぼうねトキ」
「カオス、先に帰って夕飯の支度頼んだ。飛んで行ってもいいから、ばれないようにね。」
元気に返事をしたと思ったらすっと姿が消えて、次の瞬間風が強く凪いだ。トキは突然の突風にスカートを抑え、駿河は空を見上げている。カオスを探しているのだろう、もう海鳴についているころだと思うが…。
「本当に規格外ね、あの子。突然消えたり空飛んだり、…もう少し静かに飛び立ってほしいものだけど。」
「今頃、もうすでに家についてるかもなぁ。これが『事実は小説より奇なり』ってやつか。」
二人とも改めてカオスの規格外さに驚いているようだけど、その表情には恐れや危惧といったものは見受けられない。それがどうしても理解できなかった。今なら彼女に聞かれることもないだろう。聞くなら、いまだ。
「一つ聞いていいかな。」
「「ん?」」
二人のリアクションが見事に重なる。彼らは知り合って半年経つが、息がぴったり合うということはよほど、気が合うようだ。その姿を見て微笑ましくなるのだけど、時間も押しているから、本題に入らなきゃならない。
「自分で言うのもなんだけどさ、カオスのこと怖いとか、…気持ち悪いとか思ったりしないの?」
言った。本当に自分が言うのは可笑しいとは思うのだけど、それでも言ってしまった。今までずっと疑問に思ってきたものを、周りの反応が怖くもあったけど、いつか聞くことになったであろう問いを。
内心、戦々恐々としていたが、質問が唐突すぎたのか二人とも首をかしげている。
「んー。どう思うかつったら、まず可愛いとか、いい子とかそれぐらいだろうよ。怖くはないかねぇ。そういうお前はどうなんだよ。」
「僕は・怖くはないよ。もし襲ってきたとしたら別だけど。」
「だろうな。じゃなかったら、お前ならもう追い出してるだろうし。俺も同じだ。」
とても晴れやかな笑顔で言う。
「別にあの子は誰にも危害は加えないわよ、それこそ必要に迫られない限りね。邪魔にならない限り何者であろうとどうでもいいわ。」
不敵な笑みを作ってトキは言う。二人とも、彼女がなんであれ、受け入れるのだろう。それは二人の寛容さか、それとも彼女の人望か。
「お前がなに悩んでるのかは知らない。知る気もないがな。みんな気にしてないんだからそれでいいじゃないか。」
答えに今なお悩む僕を見かねてか、駿河は投げやりに言い放つ。そう、これはその人の、気持ちの問題。これ以上踏み込んでも意味のない問答。
「…結局さ。私たちがどう思おうと、何が変わるわけでないし、それが周囲の総意でさえないの。それこそ人によっては良くは思わないだろうし」
「でもね少なくとも私は、違うところがあっても、そんなのただの個性だって思うの。個性的なヒト、ただそれだけ」
「そうそう。意志疎通できて、みんなと笑える。それだけで十分人間らしいぜ。」
二人とも、どうあっても自分の発言を曲げることはないようだ。肝が座っているというか、いい意味でマイペースな彼らにすっかり気をそがれてしまう。それでも聞きたいことは聞けたのだから良しとしよう。
「そう、ならもう聞くことはないや。いやさ、結構心配だったんだよね。紹介したはいいもののカオスが邪険にされたらどうしようか、なんてね。」
そういって、出来るだけ自然に笑顔を作る。二人もこれ以上話を続ける気がないようで、帰り支度をしたり、後片付けをしたりしながら談笑している、僕もそれに混ざりつつ帰りの準備を済ませて、そのまま解散の流れになった。ちなみに今日駿河の奴は泊まっていくらしい。
「あ。そうそう。香取。」
「何?」
「明日気をつけなさいな、運勢最悪だってさ。」
「…帰り際に言うセリフじゃないよね、トキ。」
「用心に越したことはないってこと、じゃあね。次は来週かしら。」
「たぶんね、じゃあまた来週」
そんな挨拶を交わして帰路につく。帰るころにはきっと夕飯の支度も済んでいることだろう。
「お帰りなさい!結構遅かったね」
カオスは元気いっぱいに出迎えてくれる。キッチンのほうからはスパイスの効いた香ばしい香りがこちらにも届いた、今日はカレーか。
「ちょっと野暮用でね。それとカオス、今日こいつ泊まることになったから。」
「おじゃましまーす。おお、いい匂い。」
「夕飯は…大丈夫そうだね。いらっしゃい、駿河さん。こんな遅くまで何やってたの?」
「そうそうひどいんだよこいつ。いくらカオスちゃんが心配だからってさ」
「わーわー!」
駿河が余計なことを言うので、咄嗟に大声を出して妨害する。
「心配してくれたの?ありがとう!」
だがしかしすんでのところで間に合わなかったようだ。完全に他意が含まれてした行為ゆえに、恥ずかしいと気まずいを足して二で割ったような微妙な気持ちになる。冷や汗をかきながら苦笑いをする。それとは対照的にすっかり気分を良くしたカオスは意気揚々と僕らを中へと案内して、常軌を逸した速さで三人分の夕飯の支度をしている。そんなカオスの超人っぷりが垣間見ながら深々と溜息をもらすのだった。
「いやー、おいしかったな。これは永住してでも食べる価値はあるな。」
「さすがにそれやられたら、生活費の消費にブーストかかるからやめれ。そろそろ金とんぞ。」
駿河のあまりにも傲岸不遜な態度に青筋立てながら釘をさす。さすがに冗談だったのか肩をすくめてすぐに謝ってきた。
「そういえば、週末の呼び出しの件、どうなった?」
それとちょっと気まずかったのか同時に話題転換をしてくる。ふと明日の予定も思い出してナーバスになってしまうけど、当たり障りない部分だけ話すことにした。
「あー。あれな、別に告白なんかじゃなかったよ。一緒にボランティアしませんか、みたいな感じだった。」
「ふーん。それどうんすんだ?」
「正直、めんどくさいのもあるし、何より今はこうやって過ごすほうが性に合ってるからね。明日そこら辺踏まえて断ってくるよ。」
「はは、お前らしい。いいじゃないかそれで。まぁ、もし告白だったら一発殴らせてもらうつもりだったがな!」
そう言って握り拳を作ってくる。目には本気と書いてあるように見えた、ウン、集合場所に長らく待たせたことについては黙っておこうそうしよう。
「みんな―。お風呂空いたけどどうする―?」
お風呂も空いたようなので、話を中断して順番にお風呂へと入る。その後は出かけた際の疲れもあって、そのまま布団にもぐり、夢の世界へと旅立つのであった。
こぼれ話
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「そういやさ」
「なんだよ」
「先に、カオスちゃんが風呂に入ったんだよな。」
「そうだけ…いやまてそれ以上言うな何も行動するな」
「いやでも、こう、そそられるジャン?」
「それやったら、人としてアウトだから、変態!」
「察した時点でお前も同類だろうが!」
「お前が何も言わなきゃ気づかんかったわ!」
「テメェはいいだろがいつでも覗き放題でさ!」
「ふざけんなするかばか!」
…なんて口論があったそうな。
(シリアス)「出番マダー?」