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「クソ!逃げられた。リンディさんすぐに追いようぜ!」
「待ちなさい、先に被害状況の確認が先よ。」
先を急ごうとする天城を母さんがとめる。今回の脱出劇でそこかしこに被害が出ており、何よりもまず機内設備の完全復旧とメンテナンスに尽力しなければならないだろう。仮にも軍用艦が突然の機能不全に、ましてや一人の少女にハッキングを受けたなんてありえてはならないことだ。
できれば前者であってほしいと思う。あんなのがいるなんて、世界が広いなんてもんじゃない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分だ。すべての機器が壊れなかったわけではなく不調を訴えているだけなのが救いだな。…後でエイミィにねぎらいの言葉でも送ろう。
「だけどよ!、みんなやめちまったのもあの化け物のせいだろ!?首根っこ捕まえてでも―」
「天城君、彼のせいではないわ、確かに彼がいなければこの事態にはならなかったでしょうけど。」
確かに彼がいなければこんなことにはならなかっただろう。それでも彼ばかりを責めることはできない。何がいけなかったのは定かではないが、きっと誰も悪くはないのだろう、もしくは彼を含む全員が悪かったのか。ふと周りを見渡すと湊が深刻な顔をしてうつむいている姿をとらえた。心配になり声をかける。
「どうした、湊。何処か怪我をしたのか?」
「クロノか…いや、さっきの問いかけのこと思い出してな。」
先程の問いかけ、というのは『正義とは何か』だったか、難解なものだけど、おそらくは意味などなかったのだろう。
「そこまで考え込むことないだろう、ただの時間稼ぎさ。」
「それでも、確かにおれは巻き込まれたときから関わった人すべてを救おうと、救えると思ってた。事実危ないときはあったけど実現してきた。今でもその思いは変わらない」
「ならそれで」
「でも、今回のことで改めて考えさせられたんだ。ただの独りよがりなんじゃないかって、君原を犠牲にしてでもなのはを助けたいって思ってしまったんだ。…矛盾しているよな。」
そういって彼は力なくわらった。今まで彼を彼たらしめた信念が揺らいでしまったのだと悟る。しかしある意味タイミングが良かったといえた。このまま進んでしまえば彼はいつか壊れてしまうと考えていたからだ。彼の先輩として、助言をしておくとしよう。
「なぁ。グレアム先生のことを覚えているか。」
「?ああ。覚えているけど、それがどうした。」
突然、脈絡のない人の名前が出てきため怪訝な顔をして聞いてきた。
―ギル・グレアム、元時空管理局顧問官で、僕の師だった人だ。そして『闇の書事件』の重要参考人でもある。いまでは管理局を引退し故郷に戻って静かに余生を過ごしていることだろう。
「彼は、自らの過去の清算と復讐のためはやてを利用して、最後には彼女もろとも永久凍土に閉じ込め封印しようとした。そうだよな?」
「ああ、正直今でも彼のやろうとしたことは、赦すことはできない。関係のないはやてを巻き込もうとしたことももちろん、自らの私怨のために利用したこともな。…なんだ。俺も彼とそんなに変わらないじゃないか。」
「確かに赦されないことだし今の君と状況が似ている。けど、言いたいのはそういうことじゃない。」
これは相当滅入っているな、なのはが堕ちてからずっと自分のせいだと自虐していたのだ。仕方ないだろう。
「彼には、それが唯一の信念で正義だったんだ。そしてそれが、彼のできる唯一のことだった。」
そういって一呼吸おく。
「あの救出劇も、正直五分五分で下手すればそのまま町がなくなっていてもおかしくはない状況まで追い込まれていたんだ。あの時は不思議と失敗するきがしなかったがな。あの人はそんな状況にしたくはなかった、個を犠牲にしてでも群を守ると、そう決意したからあの作戦を立てた」
「それはわかってる。けど」
「僕たちは僕たちの正義のために闘い、彼も彼の正義のために闘った。ただそれだけなんだ、今も昔も。」
ここから先は、自分で考えろと、言葉にせずともわかってくれると信じてその場を立ち去り、母さんたちと合流する。ちょうどあちらも諌め終わったようで天城が不服そうに部屋から出ていくところだった。フェイトもはやても、クルーの救出作業にいそしんでいるようだ。
唯一シオンだけは装置をただただ見つめてなにかを、呟いてる。
「クロノも頼まれてくれないかしら。人員不足に拍車かかってる分もね。エイミィのところからいってもいいわよ」
「…ん、ああ、わかった母さん。でも、フェレットの手も借りたい今の状況で私情ははさめないよ。無事は確認できてるし、最後に回して後でねぎらったりするさ。」
「そう、本当に苦労を掛けるわね。…まだ今回の件はよかったほうだわ。」
「なんだって?」
「クルーたちからは今すぐだ捕すべきだって陳情が来たあげく、上からは捕獲命令、保護ではなくてね。再三の請願を無視されたせいで、ああするしかなかったけど、正直いい気分ではなかったし。」
「それこそ仕方ないよ、あの事件のせいで信頼する同僚が根こそぎやめてしまったのは事実、…天城の奴も仲の良かった子が辞めたんだ。ああなるのも無理はない。」
「そうね、彼は直情的なところはあるけど心のどこかでわかっているでしょうけど、」
そこまで言って、この場に影が差す。
「まぁ。それもあるけど、その上からの指令だけど、実は出所が分からないのよ。」
「え?」
「私も上官からの命令だったのだけど、その上官もまた同じように指示を受けたって、だからきな臭い感じがしてね、彼の能力の調査も詳しくは聞かされてないから余計ね」
「それは…気を付けていく必要がありそうだね。」
「ええ、今、信頼できる人に調査を頼んでいるけど…」
そこまでで話を切り、また彼女のいた場所を見る。しかしそこにはもう誰もいなかった。もう作業に移ったんだろうか、
こちらも、自分の持ち場に戻ろうと部屋を出られる。ただ母さんが最後に残した言葉に胸中には何とも言えない悪寒が残されたままに…。
今アースラに乗艦しているのは、ユーノを除く全員ということになってます。
…ユーノは、いまも、図書館の中で悪戦苦闘していることでしょう…。
機内設備の不調について:
わかる人もいると思いますが、カオスが原因です。主人公の居場所を掴むためハッキング、通話をジャックして特定した、そんな感じになります。
本人は壊れてもいいぐらいにクラッキングをしたものの、謎のエネルギー、いわゆる魔力の存在が邪魔をして壊しきれなかったというのが真相になります。
以上、どうでもいいプチ裏設定でした。