神様のギフト(仮)    作:砂糖露草

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ゴーストバスターな中年と死にたがりの不死鳥

 電車に揺られ、何度か乗り換えすること幾星霜。ついに、目的の場所にたどり着く。

 そこは幾分か近代的な街並みではあるけど、人もチェーン店もまばらで、どこかゆったりとした雰囲気が漂っていなくもない、と僕は思う。

 少なくとも前情報では片田舎という一部分があった気もするけど、確かに人が急いでいる感じはしないとても住みやすそうな町だった。

 だけど僕は知っている。こんなのどかな町の裏でも、奇々怪々な事件が暗躍しているのを。すでにその知り合いとも連絡が取れていたので、確定した情報だった。

 相も変わらずあの人は住所不定の廃墟暮らしをしているかと思うと、なんとなしに笑みがこぼれた。わざわざあんな生活する必要もないはずなのに、お人よしすぎた結果だろうか。

 そのせいで、定期連絡という名の不定期の状況確認は、本当に唐突でかつ一方的に来るのはいただけない。仕方ないとは思うのだけど場はまだしも時に関しては配慮してもらいたかった。

 …今となっては詮のないことだね。

 そう独り言ちつつ、件の彼―忍野メメの住処である叡考塾という名であった廃墟を探すことにする。最先端の地図だけでも心もとないので道行く人たちに尋ねることにした。

「すいませーん。そこな三つ編みの、委員長気質なお姉さーん。道を尋ねたいんですけど―」

 

 

 

「ところで、高校見学に来たのになんで廃墟になった塾に来たかったの?」

「いやぁ、この塾はさぞかし名の合った塾だと聞いていたんですが、いやまさかすでに無くなっているとは思わなくて、せめて一目だけみれればなぁって。」

「そう。あ、着いたよ。ここが君が言っていた叡考塾、の跡だね。」

 眼鏡をかけた委員長気質のお姉さんに連れられ今はもう見るに堪えない塾の廃墟へとつく。その際に、やはりこの時期に一人で出かけることに懐疑的に見られたのか、そういった質問は絶えなかった。

 その都度高校見学に来ました、とかこの町はとても住みやすそうですね、とか中身のない賛辞でのらりくらりと躱すのだけど。そこまで深入りしてこようと来なかったのが幸いした。

「それじゃあ、ここまでだね。絶対に中には入っちゃだめだよ。老朽化とかしててすごく危ないんだから。」

 そんな注意事項を右から左へ聞き流しながら、それを気取られないように真面目な声音で返す。

 本当に、本当に申し訳ないけど、今回の目的地がここなんです。なんて言えるはずもなく、乾いた笑みを出さないように必死に顔の筋肉をフル活用する。

 無駄に労力を重ねている気がする。それも最後だと思えば、いや思ったとしても面倒くさいものだと感じた。

 仕方ないので一度そこを離れ様子をうかがい夜にまた廃墟を訪れる。

 人の寝静まった夜、人気のない廃墟、それだけでもう満点を上げるほどのホラースポットだ。さらに中には怪異専門家までいるというおまけつき。まだいないだろうけどそこに吸血鬼も来るとなれば満漢全席フルコースだな。

 そんな益体もないことを考えながら中へと入る。直接会うのは10年ほど前になる古い知り合いを頼るために。

 

 

 

 中は当たり前ではあるけど閑散としていて、とても人が住むような環境じゃなかった。なかっただけで、住もうと思えばできるだけの機能は残っていたけれど、ただそれだけだった。

 彼と廃墟は切っても切れない縁か何かがあるのだろうか。

「やぁ、結構遅かったね。君原君。」

 とても気安げに、挨拶をするように話しかけられる。

「とても常識的なお姉さんに捕まっちゃいまして、目を盗むためにちょっとした工夫を」

 そこまで言うと忍野は怪訝な、どこかむず痒い顔をする。

「その、変にかしこまった口調はよさないか?聞いてて気持ち悪い。」

「んん!OK、さっきまで歯が浮くような真面目子供口調だったからつい」

 咳払いをしてまでわざわざ整えもとに戻す。

「転生、というのもなかなかに厄介だねぇ。年相応に見せないとすぐにはじかれる。ま、それは置いといてだ。何か用があるんだろう?」

 そう言って雰囲気を改める。場には、何とも形容しがたい空気が漂っている。

「契約を、果たしに来た。」

 そこまで言うと、一瞬彼はまたも顔をしかめ、しかし納得したように首を縦に振った。

「ていうことは、君の秘密が公になったんだね。」

「正確に言うと、まだ猶予はあるんだけどそう遠くはない未来だと思う。」

 彼は一言、ただ「そうかい」と返し、そのまま一呼吸置いた。

「しかし、本当に来るとは思わなんだ。ほら君って生き汚いし。」

 もちろん無視することも考えた、考えたのだ。でも今まで仲良くしてきた人に知られるのが怖かった。それでどんな反応をするのか考えたくもなかった。

 きっと彼らのことだ。そんなの関係ないといつも通りに接するだろう。努力もするだろう、それでも以前とは違った接し方をするかもしれない、それがたまらなく怖かった、いやだったのだ。今までの自分が否定された気がするのが耐えられなかった。

「ちょっと厄介事に巻き込まれてね、煩わしくなったんだ。いろいろと」

 今言ってることも真意の一つだ。本当にいろいろと考えた末に決めたこと、未練はあれども、この先はどうしても平穏な暮らしはできないだろう。

 

 

「君は何というか、変なところ不器用だよね、もっと賢く生きれただろうに。」

「はは、器用に生きるなんて人に、まして人もどきにできるわけないじゃない。それでも他より不器用に見えるなら前世の影響だよきっと。」

「君の前世とやらには少なからぬ興味はあるんだけど、まぁ君は話してくれないだろうね。一番聞かれたくないことみたいだし。」

「人に言えないことしてたわけじゃないけど、そこまでしたい話でもなし、それよりも話を進めてほしいんだけど」

 そこまで言ってようやく話を脱線させられたことに気づき、目を鋭くしながら本題に戻らせる。彼は悪びれた感じも見せずにこちらを見ていた。

「だってさ、わざわざ助けた命を自分で刈り取るのって誰だってやりたくないだろう。そういうのは、他を訪ねてくれ」

「今対応できそうなのはあなたしかいないし、あなた以外のつてを僕は持ってない」

「何なら僕から紹介しようか?」

「貝木さんはうやむやにしたあげくお金を取られそう。影縫いさんや臥煙さんは本能的に無理。何事にも中立な貴方がいい、ただそれだけのわがままだよ。」

 そこまで言うと、彼はあきらめたように息を吐く。

「はぁ、出来ればいらない気苦労はしたくないんだけどねぇ。分かった、今から準備するから少し待っててくれ。…その間に考え直してもいいよ?」

 考える間もなく消え去りたかったのだけど、弱っていない限り正規の手順を踏む必要があるらしく、せわしなく準備に勤しんでいる。最後の光景が廃墟におっさんと二人きりとはなかなかクレイジーな状況だけど、前世よりかはマシだと思い込む。最後だというのにとても落ち着いた気分でタイムリミットまで過ごすことができそうた。

 

 

 

 

 

 

「こっちは準備終わったけど、覚悟は決まったかい?」

 おそらく彼なりの最後通達のつもりなのだろう、こちらに問いかけてくる。

「そんなの、決まってるだろ?」

 そんなもの、とっくに決まってるわけない。誰が好き好んで自分で死にたがるのだ。僕は勇者願望なんて持ち合わせちゃいないし、まだ生きていたいとも思う。だから、これはいわゆる現実逃避の自殺願望。

 見たくないものに蓋をするだけの行為、それには次起きるときには前世の自分に戻っているかもしれない。

 そんなことも考えていた。

「はいはい、ホントに自分勝手すぎるだろう、君は」

 言外に人を巻き込むな、そんなことを言われている気もする。

 彼には申し訳ないとは思うけど、反省はしていない。

 それなりの付き合いの中でそれはもう利用されまくったのだ。

 最後くらいこちらの都合を押し付けても罰は当たらないだろう。

 これ以上は何を言っても無駄だと思ったのか、一息ついて詠唱を始める。

 以前も思ったことだけど、これには一生慣れることはなさそうだ。この、腹の奥底から這い上がってくるような不快感、これが幾重に重なって生存本能を刺激する。逃げ出したくなる衝動に駆られても、なぜか一歩も動けないのだ。さすが一流といったところか。

 …このまま身を任せるだけで、この具体的な悪夢にもおさらば出来る。

 なんとなく空を仰いでみる。

 そこには丸い、丸い月がいつもの悠然さで佇んていた。

 

 

 

 

 

 

 End?






もうちょっとだけ続きます。
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