終業の鐘がなり、ついに放課後になった。この後は、適当に友達を捕まえて帰るも良し、遊ぶも良し、家に直帰してゴローと戯れるのも良いだろう。いつも通りであれば、だが。
「あぁ~、胃がいたい。」
「なんで呼ばれた側が緊張してるんだよ。」
「…こちらにも色々とあるのだよ…。駿河くん。」
まるで珍種の動物でも見ているかのような目でこちらを見る友人にかろうじて言葉を返す。今、頭を悩ますものは他でもない放課後の呼び出しの件だ。
「時々変なことするよな、お前。まあいいや、きっと長くなるだろうし、邪魔者は素直に去るとするぜ。今日はお前ん家行かないから後は…て、聞こえてねぇな。仕方ねぇ、一人寂しく帰るとするかね。」
何かしゃべっている気がするが正直それどころじゃない、想定できうる限りの対策は取らねば…。
今回の呼び出しはもしかしなくても、これからの人生を決める重要イベントなのである。愛の告白だろうが別の何かだろうが、だ。
ただ、後者の場合、呼ばれた原因が皆目検討もつかないのが怖い。生まれてこの方魔力の魔の字も見たことないうえ、運動神経も鈍い。唯一の心当たりは信頼する恩人と、その友人以外には、家族にだって話せていないのだ。なのに一体何故…。
「君原くん。」
思考の海から引き上げられるように、掛けられた声に、顔を上げる。
「あれ?月村さん。どうしてこんなところに?」
そこには学園の有名人、月村さんが心配そうな顔でこちらを見ていた。因みに主要な方々は大体オリ主=サンと同じクラスで、僕とは別のクラスだ。
「どうしてって、誰もいない教室に、難しい顔して頭を抱えながら座ってたら誰だって心配すると思うよ?」
「だれも、いない?」
そう言われ、改めて周りを見る。なるほど確かに誰もいない。そのまま流れるように教室の前方に設置してある時計を見て
…うん。
「遅刻だァァァァァァァ!!」
拙い、これは非常にマズイ。放課後としか聞かされてなく正確な時間を明言してなかったとしても、終業から少なく見積もってもすでに三十分以上は過ぎてる。もしこのまま気づかずに約束をすっぽかしてたら全方面から袋叩きに合うのは目に見えてる。いや彼女を待たせたことが知れ渡るだけで駿河やTSS(テスタロッサ姉妹を幸せにし隊)に手痛いお仕置きを食らうのは確実。鞄に荷物を乱暴に詰め込み、早急に帰り支度を済ませる。
「声かけてくれてありがとう、月村さん!この恩はいつか返すから、それじゃ!」
急いでいたとしてもお礼を忘れてはいけない。礼は大事、古事記にもそう書いてある。って、そんなネタに走ってる場合じゃない!早く、校舎裏へ、いざ行かむ!
------------------------‐‐
「わ、すごい速い。もう見えなくなっちゃった。」
軽くお辞儀をしたあと件の彼は、まるで陸上選手の如き速さで、走り去っていく。普段の運動神経の無さがまるで嘘のようだ。余程急ぎの用事があったのだろう。
そういえば今日のお昼休みに彼の話題が出ていたことを思い出す。その時のフェイトちゃん、やけに思いつめた顔してたけど…まさかね。
「あれ?何だろうこれ。」
彼の机のそばに見慣れない紙切れが無造作に置かれていた。おそらくだが、机から零れ落ちたのだろう。子供の落書きのような模様が描かれていた。なんとなく手に取っていじってみたけど、やはりというか、ただの紙切れにしか思えなかった。
「なにやってんのよ、すずか。」
あまり時間をかけすぎたせいか、探しに来てくれたみたいだ。待たせてしまったことに罪悪感を感じてしまう。
「ゴメン。アリサちゃんちょっと寄り道しちゃった。もうこれといった用事もないし帰ろっか。」
「まったく、それはこっちのセリフよ。ほら早くしなさい。置いてくわよ!」
そういってアリサちゃんは先に行ってしまう。私もそれにおいてかれないように、小走りで追いかけるのだった。…つかんでいた紙をとっさにポケットに入れて。
------------------------‐‐
先生に見つかる心配をよそに全力疾走で校舎裏へと急ぐ。なぜだか体が軽く感じられ、まるで翼が生えたようだ。これが限界を超えたその先にあるランナーズハイというやつなのだろうか。今の僕はさながら黒歴史の描かれたノートを奪還しようとするちゃ○みおのごとき姿をしているのだろう。今なら、トランザムだろうと、クロックアップだろうとできてしまいそうな気さえした。だがそんなものよりタイムマシンが欲しい、うそつきの才能でも可。そうこうしているうちにようやくゴールが見えてきた。まだ待っていてくれてるだろうか、藁にも縋り付く思いで神に祈る。そして…
「はぁ、はぁ!ついた…!」
膝に手を付け、息を整える。もうとっくに下校時刻を過ぎているせいか、もともと人気の少ない場所ではあるのだけれど、いつもよりも静かで、呼吸音だけがこの場に響いている。
「だ、大丈夫?君原君。」
どうやらなんとか間に合ったようだ。まだ疲労困憊の体を無理やり動かし、声の聞こえたほうに顔を上げる。
「ぜぇ、大丈…夫だ。問題な…ゴホッ。」
「全然大丈夫じゃないよね!?あそこにベンチがあるから、そこで休もう、ね!」
…雰囲気が台無しになったのはご愛嬌だろう。
「ホントに、ゴメン…。見苦しいもの見せて。」
「あはは、気にしなくてもいいよ。」
あのあと息を整えるのにまた時間がかかり、話を聞けるまで回復したのはさらに30分経過した後だった。…気を取り直して本題に入ることにしよう。
「それで、僕はどうしてここに呼ばれたのかな。心当たりはまるでないんだけど…。」
ここに来るまでの間、ずっと疑問に思っていたことを率直に尋ねる。すると彼女は顔を俯かせる。
「えっとね、こういうの始めてだから、なんて言えばいいのかわからないんだけど。」
たどたどしく、保護欲を誘うような面持で言葉をつなげる彼女に、思わず意識してしまう自分がいる。
「こんなこというと、たぶん驚くと思うんだけど、とても、大事なことなんだ。」
これはもしかすると、もしかするのか。ヤバい、心臓の鼓動がやけに大きく、早く感じる。いや確かにフェイトさんかなり美人だし、いや待てそういや、オリ主サンがいるじゃないか。表立った話は聞いていないけど、ただ高町さんが彼のことを好いているというのは周知の事実だし、なにより彼イケメンだし、八方美人だし、背も高い。いやでも
「うまく伝わらないかもしれない、それでも聞いてほしいんだ。」
そしてついに、言葉が紡がれる。
「わたし…私の友達を、助けてほしい。」
一瞬、今この場にあるすべてが静止したような錯覚を覚える。頭に冷水をぶっかけられたようにクールダウンしていくのを感じる。
「…はい?」
本日二度目の空返事である。放課後、人気のない場所に呼ばれて、助けを求められるなんて思いもしなかったのだ。
「私たち―なのはやはやて、それに湊たちのことなんだけど、世界を守る仕事をしてるんだ。」
それは、知っている。誰に聞いたわけでもない、前世の記憶原作知識として頭には入っている。だからこそ、なおさらワカラナイ。
「その仕事の最中に、なのはが、大けがをして、それで…。」
そういえば最近、なのはさんを見かけないなと思ったら、そういうことか。最近は平和そのものだったため忘れていたけど。確か疲労が限界に達した挙句、ドローンに撃たれたんだっけ。そこら辺はもうあやふやになっている。
「君なら、なのはを助けられるかもしれいんだ。だから」
「ちょ、ちょっと待ってよ。」
あわてて口をはさむ。このまま流されてはいけない、絶対に巻き込まれる。
「今、なのはさんが危ない状態だってのは、わかった。でもそこでどうして僕なのさ。」
その言葉に彼女は一瞬口をつぐむ。そして意を決したように
「君には、不思議な力がある。」
「へ?」
「治癒能力。それも、とても強力な。」
彼女の答えは的を射ていた。と同時にまた別の疑問が生まれる。いつ、どこまで知られているのか。けど今はこの場をどうにかしなければ。
「僕に、そんな力が?いやいや、ありえないでしょ。」
「君が気づいてないだけで、本当の話なんだ。信じてほしい。」
白を切ることはできないみたいだ。僕にその力があることを彼女は信じて疑ってない。どうする、どうすれば。
「お願いだ。なのはを助けてほしい。」
涙目になりながら、懇願する彼女を見て、僕は-