「はぁ、また恥かいた。」
ついでにため息も増えた気がする今日この頃。ひとまずの目的である買い出しに戻る。あの後、さすがに恥ずかしかったのか、反省したのかはわからないが、いまはおとなしくしている。余計なことを喋らないと、おしとやかさが前面に押し出され、それはそれで人の注意を引くのだが、以前よりはましと思い、努めて気にしないようにする。
「醤油はこれでいい?」
「そこまで気にしないから、好きに選んで。」
そこまでこだわりがない自分としては調味料まではさすがに分らない。
「張り合いないなぁ。まあいいや。じゃあ勝手に選んじゃうよ。」
そういって、次々と品定めをしていく。はたから見ればどこぞの主婦のようにも見える。しばらくは時間がかかりそうだと思い、僕もなんとなく商品を見比べる。やはり値段が違うくらいしかわからないのだけど。
―ガサッ
唐突に買い物袋が中身ごと叩きつけられた音がする。自然とそちらに視線が移り、そこには―
「可憐だ…。」
おそらく最後の転生者の一人である。学園一の問題児が、そこにはいた。
―さて、彼がなぜ、学園一の問題児と呼ばれているかについては察しのいい皆々様には、わかる方もいらっしゃるだろう。まぁ、あえて言うなら彼は今まさに、踏み台まっしぐら。というやつだ。だがここで注意してほしいのは、問題となっているのが女性の扱いのみで、それ以外、男性教員や同級生(女子除く)相手には普通に接しているため、扱いに困っているのが現状だそうだ。ちなみに以前入学式に見たのはおそらく天城さんだと思われる。-
話は今に戻る。まあそんな彼がここにいて、目の前にカオスがいる状態。その二つから導き出されるのは。
「カオス、早く買い物を済ますんだ!」
「ゴメン、もう少しかかりそう」
カオスさんんんんんん!?マズイ!奴が狙いを定めた。どうする!?
-ごくごく自然に、足が前に出る。まさか今の自分に、誰かを守るという意志が残っているとは思わなかった。僕が盾になっても結果は見えてるだろうけど、それでも誰かのためになるのなら。それも、いい。
「やぁ、そこのリトルレディ、ご機嫌いかがかな?」
「誰が、小さな女の子だ!!てボクゥゥゥ!?」
すぐ隣にいるカオスには目もくれず、なぜか僕のほうへ一直線にやってくる。だけど、今は好機。すぐさま唖然とするカオスにアイコンタクトを投げかける
―こいつは任せて、任務を達成するんだ―
―わかった―
出会って半日足らずのメンバーが、奇跡的にアイコンタクトのみで意志疎通に成功した瞬間である。
「僕っ娘か、まさかこの目で見られるとは思わなかったよ。それにしても君みたいな子が一人で出かけるなんて危ないじゃないか。」
その間も着々と話が続いていく。アンタと同年代なうえに一人ではなかったしそもそも男だ馬鹿野郎。
「あはは、どうもアリガトウゴザイマス。でも一人で大丈夫です。こんななりでも結構しっかりしてますから。」
もうすでにこの場には。カオスはいない。おそらく今頃レジにて清算を済ませているころだろう。後はここから、脱出するのみ!
「いやいや、やはり心配だ。ここは私がエスコートしてあげよう。」
「だだだだ大丈夫です。それに早く帰らないと、お母さんが心配しますから。」
そういって、その場を後にしようとする。
「なら、道中お供しようじゃないか、君に変な虫がつかないように、ナイトとしては心もとないかもしれないが、腕は立つほうだ。」
だが回り込まれた!最近こういうのばっかり、人外多すぎでしょう。
「そういえば名前を聞いてなかったね。それでは私から、名は、
そういって、こちらにも名前をいうよう勧めてくる。なんかこいついつも以上に気合入ってない!?
「あわ、あわわわわわわわ」
「緊張してるのかい。ふふ。可愛いね。ゆっくりでいいんだ。さぁ言ってごらん。」
マズイ、これ以上は本当に
「わ、わたし、は」
―目の前の風景が変わる。遅れて、風を切り裂く音が耳に届く。
「大丈夫?香取。」
今日、何度も聞いている声が頭上から聞こえる。
「…カオス?」
「正解!無事でよかったよ。あ、いま下は見ないほうがいいよ。」
反射的に下を見るが、途端に後悔した。
「――――――――!!??」
何故か、街に点在する建物やら木々やら人やらがやけに小さく見える。正気を保っていたならネタの一つでも言えるだろうが、今まで緊張状態だったのに合わせて、いきなりこんな景色を見せられたら保てるはずもない。
「早く、おろして!」
「今ちょうどいい。着地点探してるから、落ち着いて!」
その後、間もなくして地面に足を付けることができ、ひとまず安心する。
「初めてのフライトはどうだった?」
「そのまま昇天しそうだった。」
率直な意見を述べる。ばつが悪そうな顔しているけど、まぁ緊急措置だし、あのままだったら大事なもの失くしてたかもしれないし、素直にお礼は言った。
「それよりも、お前、それ…」
カオスの背中には翼、というには、攻撃的で機械的ななフォルムの何かが備わっていた。まるでロボット物の漫画に出てくる翼のようだ。
「えへへ、驚いた?実はシスターじゃなくて天使なのでした、なんてね。」
そういって軽くターンして決めポーズをする彼女。それはとても様になっていて、今なら何でも信じられそうな錯覚に陥る。思わず見とれていたのだが、彼女は少し不満があるようだ。
「そこまで驚いてないみたいだね。」
「-今まで、散々驚かされたし、人間じゃないって言われたほうがいろいろと説明つくからね。量子変換器然り、不可視化然り。」
それに―
「それに割とこの街じゃ日常茶飯事みたいだしね。魔法とか、神様とか、妖怪とか。」
そういうと彼女は目を輝かせて興味深げにこちら見つめた。想定しないリアクションに少し驚く。
「え、この町、魔法使いがいるの!?」
「い、いるんじゃないかな、というかお前もその最たる例の一つだろ?」
「全然違うよ!魔法使いは夜な夜な変身して、悪者たちをバッタバッタと倒してくんだもん!」
おそらく、それはやってることの違いだけだと思うのだが、おそらくテレビアニメの影響だろう。夢は見させておいたほうがいいと思いこれ以上は言及しなかった。
「まぁいいや。ともかく、その翼はいつもは隠しといてね。空を飛ぶのも禁止。」
「わかってる。けどたまには自由に飛びたいな。」
「その気持ちはわからなくもないけど…いや待て」
そういって、いったん話を切る。ここまで飛んできたのは仕方ないにしても、もし誰かに見られてたら…
「さっきまで…不可視化してた…?」
「え…あ。」
その返答の意味に気づき、ドサッと地面に崩れ落ちる。
「うわぁぁぁぁぁあああ、おしまいだぁぁああぁ!」
「だ、大丈夫だよ!ものすごい速さで飛んだから、誰も見てないって!そ、そんなことより早く元の姿に戻って家に帰ろう、ね!」
今までで、一番の疲労と悲嘆を感じながらも、不可視化を使い無事家へと到着するも、これからの前途多難ぶりに不定の狂気に陥りそうになるのだった。
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「いったいどこに行ってしまったんだマイフェアレディ…。」
そういいながら自宅で優雅にコーヒーをいただく影が一つ。菅野武その人である。彼はとある神様によって転生させられたものの一人ではあるが、他のモノとは決定的に違うことが一つある。それを語る日が来るかは、神にもあずかり知らぬことではあるが。
「フフ、まさか私がここまで本気になるとはね、君はいつか、絶対に捕まえて見せるさ…この手でね。」
感極まったのか微笑から高笑いへと変化し、その声は世界中へと響かんばかりであったという。
「…!?何、今凄い悪寒が…!?」
一人の幸薄な少年があまりの寒気に飛び起きたとかそうでないとか…。
ちょっとした暴走回