FUSION!ST   作:SHIPS

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0. Beg!n

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西暦4000年、東京。街中で鳴り続ける人々の声と電子音の喧騒。そして人混みに紛れ込んでいたそいつは、けたたましいエンジン音を立て始めた。運転手のいないその黒い車は投棄されていた裏通りを走りだす。

 

人で溢れかえる交差点に突如飛び出すと、周囲の人々は好奇の視線でそれを見た。スマートフォンを取り出して写真をとったり、映画の撮影かと、カメラや俳優を探し始めたり、リアクションは実に様々だ。だがそうしたリアクションは間もなく叫び声に変わり出す。黒い車は交差点の中心で暴れだし、次々と人をはねていく。やがて気づく。彼らの襲撃がまた始まったのだ、と。

 

「ターゲット、交差点で暴れています。既に何人かはねてしまいました」

「かなり過激なやつだな。仲間に引き入れるのは厳しいか……」

「座標送ります。射撃しますか?」

「交渉の余地はなさそうだが、一応タイヤを狙う。本格的にやばかったらその時は……交差点の中心に設定、後はあいつらに追い込ませる」

「了解しました。座標固定完了」

 

交差点に面したビルの屋上で青年はスマートフォンを片手にチョコレートをかじっていた。彼のスマホの画面上には暴れていると思われる車のアイコンと、交差点の中心に赤いバツ印がついている。青年の脇には全長1メートルを越えるスナイパーライフルが置かれているが、その見た目はダークブルーのネオンライトが光っていたり、スナイパーライフルの癖に照準が簡易な物であったりと奇妙な点がいくつか存在した。青年もまた赤みがかった茶髪に赤いパーカーと狙撃手にしてはあまりに場違いな格好をしている。

 

「ところで南雲、私の能力なら別に狙撃ポイントまで出てくる必要はありませんよ」

「ちゃんと仕留めたかこの目で確認したい」

「……本音は?」

「……気分の問題だ。それに相手にこれみよがしに自分たちの能力見せびらかしたくもない……あの馬鹿みたいにな」

 

そう言って青年がビルを見下ろすと、既に事は始まっていたらしく交差点の中央で車と対峙する2つの影が見られた。

 

「そこまでだ、モルガン!」

 

影の一人が車に向かって叫ぶが、モルガンと呼ばれたその車はブーストランプを数回瞬かせたながらエンジン音を立てて威嚇するのみ。ランプに照らされた影は至って普通の服装をしていた。ただし左手に大きな黒い刀を持っていて、それは使い手の青年の心臓の鼓動を表すかのように、赤く怪しく光る。もう一人の方は黒いライダースーツを着ており、跨っているバイクはボディの至る所が黄色く光り、ナンバープレートがない。フルフェイスのヘルメットを被っているが、その体躯から女であることは想像できる。

 

先程の騒動でスクランブル交差点から人々が逃げ惑う中しばらく睨み合いが続くと、車は二人に向かって突進するようにエンジンをふかした。数メートル先に対峙する標的を轢き殺そうと目論む。しかし、車が突っ込む直前、青年が黒い竹刀を振ると、目の前の空間から電気が走り、突然ディスプレイのような物が現れた。車がそのディスプレイに衝突すると、画面に吸い込まれるように消えてしまった。

 

『旭、座標を交差点の中心に指定した。誘導を頼む』

「了解だ」

「もちろん、逃しはしないよ!」

 

女はバイクのアクセルを踏むと、猛スピードで黒い車の後を追ってディスプレイに入っていった。続いて旭と呼ばれた男が、先程のスナイパーの男との通信を一旦切ると後に続いて画面の中へ吸い込まれていった。

 

そのディスプレイは言わば門のような物であった。二人がくぐり抜けると周りの世界は元の世界と同じであったが、あたりに走るプラズマや光の柱、不規則な数列が質量を持って浮かぶその光景は別世界のような印象を二人に与える。また交差点を囲んでいた群衆の存在が消えていて、ここにいたのは二人の人間と例の黒い車であった。

 

耳につけた無線機を介して、男はビルの屋上で構えているスナイパーに話しかける。

 

「意思の疎通はできないみたいだ。このまま戦闘を開始する」

『わかった。ターゲットをポイントに足止めしてくれ』

「了解!」

 

無線を閉じて、男が自分が入ってきた空間の裂け目に再び刀を振りかざすと、裂け目は再び閉じられ、消えてきまう。すると追い込まれたのか、黒い車は派手なエンジン音とクラクションを響かせ、その姿を絵を描いているかの如く変形させた。4つのタイヤのチューブは伸び切られて一直線の手足になり、フロントガラスが割ると中から馬の頭を模した物体が飛び出る。ボンネットが開いたかと思えば、中から太くて巨大な舌と鋭い牙が飛び出し、隙間から涎を滴らせる。現実離れした怪物の姿に豹変した車にライダースーツの女は一瞬身構えるが、すぐに気を取直してバイクのハンドルを強く握りなおした。

 

「ここは俺に任せてくれ」

 

そう言うと男は刀を剣道の容量で構え、精神集中する。目の前の敵を見つめ、深呼吸する。辺りはその車のエンジン音とビルの隙間を通り抜ける風の音、それからこの空間を支配するプログラムの電子音だけが響く。

 

黒い鋼鉄の化け物は咆哮した。口があっても声帯は持たないらしい。金属を擦り合わせ、バッテリーを放電させ、咆哮とも言えない不快な騒音を立てると、刀を構えていた男にタイヤの脚を這いずりながら突進した。

 

彼はすんでのところで横にそれて突進を交わすと、すれ違いざまに車の側面を斬りつけた。すると切りつけた部分からテクスチャが綻び、2進数の文字列が、さながら傷口から血が溢れるかの如く流れた。

 

斬られたことに驚いた車は、声にならない金属音を上げる。文字列の血を流しながら、この男から逃れようと交差点から離れるように走って逃げ出そうとする。しかしその逃走経路は先回りした一台のバイクによって塞がれる。噛み付こうとするが、女は咄嗟にバイクをウィリーし、前輪を化け物のボンネットに突っ込ませた。不意をつかれ逃げることもできないことを悟ると、再び刀の男と対峙する黒い鋼鉄の化け物。覚悟を決めたのか、あるいは逆上したのか、派手な金属音を上げて再び牙をむきだし突進した。

 

「今だ南雲!」

 

男は叫びながら、宙を跳んでいた。化け物の上を飛び越えていきながら無線機に指示を出す。化け物が突進の勢い余って交差点の中心まで来た時、空間にどこからともなく裂け目が現れ、光の柱が一直線に化け物のフロントガラスを貫いた。ガラスの弾ける派手な音と、プログラムのフリーズする嫌な音を立てて車のテクスチャはついに粒子となって消滅した。

 

完全に消えたのを確認すると、旭の無線に南雲と呼ばれた男の無線が入った。

 

「モルガンの残留プログラムを破壊した。作戦成功だ。帰投するぞ」

「了解!」

 

西暦4000年。あらゆる物がコンピュータとそれらを繋ぐネットワークで管理された時代。人類は理想を導き出すコンピュータに頼り切り、自ら選択することを怠けていた。そんな彼らに文字通り混乱の一石を投じた隕石。人類の存亡をかけた彼らの戦いは、このモルガンと呼ばれる地球外生命体との出会いから始まった。

 

この物語はモルガンとの戦いに巻き込まれた人間たち「フュージョニスト」の記録である。

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