はちまんとめがねと大衆についての考察 作:とくめいせってい
―ふと我に返った。寝ていたのかゲームに没頭していたのか頭がボーっとしている。
隣を見ると、明らかにきわどい恰好をした、大学生活充実してますよーっていう感じの人が満面の笑みをうかべている。ぜってービッチだろって感じの女がいる。
俺の頭は、すぐさまフル回転しだした。
なんでこの部屋に、家族以外の者が・・・っていうか誰?このビッチ感、ガハマさんすら目じゃないぜ…
「あーっビッチとか女の人に使っちゃいけないんだよー!いぃーけないんだーいけないんだぁー」子供特有の節回しで歌いながら俺を指さしてくる。見た目大学生なのにね。まじでアラサ―行き遅れ教師かよ・・
「誰ですか何しに来たんですかどうやって入ったんですかその服装なんですかっていうかほんと誰ですかなんで心読めるんですかチートですか」
一色顔負けの早口でまくしたてたおれは、何とかして自分を落ち着かせようと心の中で徒然草の暗唱に入った。
「何言ってるのご主人様ぁー。昨日は散々かわいがってくれたのにぃー!」
「はぁ!?なんのことだよ!?俺がかわいがるのは小町とカマクラと戸塚だけだ!」
努力のかいなく、あっさりと俺の戦法は打ち破られた。
「私わぁ、ご主人様の眼鏡ですよぉー。」
「俺はこんなビッチを買った覚えはない!!っていうか人身売買に興味はない!!!」
「えー?私これでも妖精なんですけど~。ご主人様のことならなんだってわかっちゃうんですよ~?」
「何言ってんだよ・・大体なんで俺の眼鏡がくそビッチなんだよ。」
「信じないんですかぁ~。あ、ちなみに怖いものとかありますぅ~?」
「はぁ?ねーよ。ってか何でも分かるんだろ?嘘だったのか?」
「舐めてますねぇ~じゃあ・・」
彼女の表情が急に引き締まった。ほのかな月明りが彼女の造形美を控えめに、しかしたしかに浮かび上がらせている。彼女は少し息を吐き、そしては形の良い唇で息を吸った。
「本物が欲「わかった!認める!すまん!すまん!」」
彼女の言っていることは本当だ。認めよう。
「すまなかった。名前を聞こう。」
「名前ですか~?特にないですぅ~なんなら彩加でも良「許さん。二度と姿を見せるな」」
「ごめんなさいごめんなさい」
そこに先ほどまでの艶めかしい蠱惑的な姿はない。
「じゃあ、眼鏡でいいな。」
「えぇー。まあいいですけどねぇー。命令には逆らわないのが従順なメイドですからねぇー。ところではちまんー」
「なんだ?っていうかご主人様やめたのか?まあ別にいいけど。」
「小町ちゃんと喋ってるとき、思ったことが、おもわず声にでちゃってたでしょ。」
「おいまさかあれ、お前の仕業だったのか?」
「だってぇ~、小町ちゃんめっちゃてれてたしぃ~?面白そうだったから~?」
「・・・それで何が言いたい?まさか自慢したいだけじゃないだろう?」
―こいつの見た目はまるでバカだ。人か妖精かのちがいはあるが、由比ヶ浜のようなものだろう。しかし中身は違う。こいつは分厚い皮をかぶっている。純粋に見せかけ、無垢を演じ、それでいて腹の中には途方もない大きさの毒を抱えている。
そうした者が人か否かに関わりなく存在するのだろう。つまりこいつは妖精界の陽乃さんといったところだ。
そしてそういうやつは、意味のない行動などしない。
すべての行動に意味があり、常に計算し尽くされているはずだ。
「お前が俺に対して何でもできるのは理解した。それで、お前は俺に何を求めている?」
「話が早いですね~。まぁとにかく、このまま、黙って生活してくだされば結構です。」
「そうか。でもさっきみたいなのはごめんだぞ。」
「あー・・・それは無理ですね。いたずらをしない暮らしなんかありえないし~ぃ・・あ、じゃあそのかわり、なんでも好きな時に願いを一つだけ叶えてあげますよ❤」
「はぁ・・じゃあくれぐれも小町に迷惑をかけるなよ」
「はいはーい」
----------------------------------------------------------------------------------------------------
チュンチュン
「夢、だったのか?」
俺はさながらドラマの主人公のようなセリフをはきながら朝チュンという完璧な起床を迎えたが、気分はすこぶる悪かった。
「お兄ちゃ~ん起きないとベッドシーンのさつえ・・あれ?起きてたの?」
やっぱりこの子怖い。今ほとんど言ってたよ?そんな写真親に見られたら俺出家させられて天涯孤独になるよ?
俺は朝食を食べ、学校に向かった。
普段通り戸塚を眺めながら一日を過ごし、放課後、奉仕部へと向かった。
「うーっす」
俺が挨拶をしながら入ると、二人はケータイで何かを見ていた。
「おい、何見てんだ?」
そういって近づき、携帯を覗き込もうとすると、二人は俺に今気づいたようで、あわてながらけいたいをしまった。
「あら比企谷くん。気づかなかったわ。ごめんなさい。現実から目をそらすのはよくないわよね。」
「なに?俺は信じがたい現実なわけ?悲劇のヒロインのセリフ使って人の存在の否定しないでくれる?」
「あ、ヒ、ヒッキー・・き、来てたんだ・・」
「おう、きてたぞ。まあ俺のステルス性はリア充に対して効果抜群だからな。もう出欠確認で俺の名前呼ばれるたび「比企谷・・・?」「え・・?」ってざわざわするレベル。ところで何見てたんだ?」
「比企谷君の妹の「な、なんでもないよー!」」
「小町についてか?ちょっと見せろ。」
俺は由比ヶ浜から携帯を奪い取り、さっき二人が見ていたであろう写真を見た。
「こ、これは?」
それは、昨日眼鏡を買いに行ったときの写真だった。俺の発言を戸惑いと取ったのか、由比ヶ浜が説明をする。
「昨日川崎さんから送られてきたんだけど・・この人って、小町ちゃんの彼氏さんかな・・・」
あそこでもバイトしてたのか・・・おそるべし川、川、川島さん?でも、由比ヶ浜は俺だってことに気付いてないようだ。・・・なんでだろう?
「あれ・・・?ヒッキー意外とあんまり怒らないんだね。ヒッキーがめちゃくちゃ怒ると思って隠したんだけど・・・」
「ま、まぁ、こ、小町が選んだヤツだからな・・し、信じるぜ・・・」
とりあえずばらさないほうがいいだろう。小町が女子に写真見せるなっていってたし・・・
「背格好はあなたによく似ているのだけれど、どこかの誰かさんのような人生をあきらめた顔ではないからね・・・」
そうか・・眼鏡をかけたら別人のような顔になるのか・・・これは、眼鏡してこなくて正解だったな。もしかけてきてたら、俺の忍者のの血が最大限に発揮されて不審者扱いされるとこだったぜ・・・
そのあとは特に変わりもなく、部活を終えた。帰り間際由比ヶ浜が、何やらもじもじしながら話しかけてきた。
「・・・ねぇヒッキー・・・明日、家に遊びに行っていい?」
「はぁ?無理に決まってんだろ。俺の絶対国防圏に侵攻してくるとかマジで鬼なの?連合軍なの?」
「私も行こうかしら。あなたの家のかまくらさんにも会いたいし。」
「なんでおれが許可した前提なんだよ。無理だ無理」
なんやかんやで俺は一日を乗り切った。
------------------------------ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー----------------------------------------------
今日は土曜日だ。一日中ごろごろしてすごせる日だ。
「ピーンポーン」
インターフォンが鳴った。たまたま玄関のそばにいた俺は、適当に返事しながらドアを開けた。しかし開けた先にいた二人組を見て、俺は硬直した。
そこにいたのは、雪ノ下と由比ヶ浜。
はぁ、なんできたんだよと言いかけると、由比ヶ浜が、興奮気味に話しかけてきた。
「あ!あなたって、小町ちゃんの彼氏さんですよね!!」
いくら俺が小町を好きでもさすがにそれは無理だと思ったが、その直後、俺は自分の失態に気づいた。
・・・眼鏡、かけたままだ・・・
俺は、家ではずっと慣れるために一日中眼鏡をかけていた。そしてようやく慣れてきたのだが、俺はそのせいで眼鏡をはずすのを忘れていたのだった。さらに追い打ちをかけるように、小町がこちらに歩きながら声をかけてきた。
「おにいちゃーん誰か来たのー?」
やばい。とっさにそう判断した俺は、小町に駆け寄り、小声で話した。
「小町。眼鏡かけたまま雪ノ下と由比ヶ浜に会った。俺が彼氏ってことになってるから合わせてくれ。」
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「彼氏ってことになってるから合わせてくれ」
本気で動揺したのはいつ以来だろうか。人を見る目もそれなりにあるし、大変な事態になる前に巧妙に避けてきた。だから、こんなに動揺するのは久しぶりだと思う。よくわからないが、彼女のふりをしないといけないらしい。私が考えているうちにも、ことが進んでいく。
「小町ちゃーん。この人が、小町ちゃんの彼氏さん?」
「は、はいー。この人がこ、小町の彼氏ですー」
「よく比企谷くんが許したわね」
「あー、ひ、比企谷先輩と僕がし、知り合いだったので、それで許してもらいましたっ!」
焦るお兄ちゃんもなかなかいいと思う私おかしいでしょうか?小町ポイント爆発するよ?
「ところで、ヒッキーいる?」
「比企谷先輩はその・・・そろそろ来ると思うので、リビングで待っててください!」
「えーっ?お兄ちゃん帰ってくるまで結構かかるよー?」
お兄ちゃんが、何を言い出すんだとでも言いたげな顔でこちらをみる。
「そこでぇー、みんなでクッキーを作りましょう!」
「はぁ!?」
突拍子のない提案に、三者三様の叫びが上がる。
「だ、だって私料理下手だし・・・」
「大丈夫ですってぇ~。お兄ちゃんあれで案外優しいところあるし、食べてくれますよ~。しかもけなげに頑張る由比ヶ浜さんって多分お兄ちゃん的にポイント高いですよ~」
「そ、そうかな・・・あ、別にヒッキーに気に入られたいとかいうわけじゃないけど・・ゆきのんどう?」
「別に今日はかまくらさんに会いに来ただけであって、それ以外のことをする気はないわ。大体あの男にクッキーをわたす義理なんて私には、微塵も、スズメの涙、猫の額ほどもないわ。」
お兄ちゃん改め、小町の彼氏の頭がくらっと揺れる。ああお兄ちゃん、「こうかはばつぐんだ!」だね・・
それでも世界の妹・小町ちゃんはねばります。
「えー?お兄ちゃん、結構頑張ってると思うんだけどな~。あ、雪ノ下さんも料理苦手なんですか?」
雪ノ下山の料理の腕が、何色パティシエールだよっ!?ってほど凄いのはお兄ちゃんは聞いてたけど、雪ノ下さんプライド高そうだからな~。
「そこまで言うならやってあげましょう。」
あー、すごい効果でしたね~。お兄ちゃん頭抱えてるし・・・
「由比ヶ浜さん。すぐ調理に取り掛かるわよ。最高のクッキーを作るわ。」
おー。やるからには全力でするんですね。さすがです。
「隠し味には青酸カリをおすすめするわ。」
「セイサンカリ?それこの家にあるの?ね~え、小町ちゃーん凄惨かりあるー?」
・・・あー、やるからには全力でヤるんですね。さすがです・・・っていうか由比ヶ浜さん間違え方が怖いです。
こうして、夢の惨噴(さんふん)クッキングは幕を開けた。
投げ出さず、最後まで読んでくださった方々、まことにありがとうございました。
次の話が最終話になると思われます。
ここまで読み進めてきてくださった方々の中でお時間のある方是非最後まで付き合ってくださいませ。どの話よりも長くなることを保証いたします。(おもしろさを保証するまでにはいたっておりません・・・)