ただキリトを弄りたかっただけ オチ無し
「さて、湿っぽい話はこれくらいにしておこうか」
店主であるエギルが一台のノートパソコンの画面をこちらに向かって見せる。
GGOファンクラブ、そう名称されたページが開かれており、そしてそこには。
『第三回バレット・オブ・バレッツ優勝は戦場に咲いた二輪の花』
そんなタイトルと同時に一枚のピクチャーが貼り付けられていた。
「あは、は、はははは」
思わず冷や汗と共に乾いた笑い声が出る。
それはキリトとシノンが熱い抱擁をしているピクチャーだった。
実際は慌ててグレネードを捨てようとしているところをさせまいとシノンに無理やり抱きしめられているだけなのだが。
「うっわーこれ知らなければどう見ても女同士が抱き合ってるとしか見えないわねぇ」
後ろから里香が覗きこみ、ニヤニヤと笑顔を浮かべている。
「実際に女同士だと思ってるんじゃない?ほら二輪の花って書いてあるし」
明日奈が指さしたのはタイトルだ。その顔には笑顔があるのになぜか笑っているようには見えない。
「第三者から見るとこんなかんじなんだ・・・」
ようやく落ち着いたのか詩乃が冷静に見てる、とおもいきや若干頬が赤い。
エギルの喫茶店は湿っぽい雰囲気から一転、微妙な緊張感が漂う空間になってしまったのだった。
「へー朝田さんって人気あるんだね」
感心したようにリズが頷いている。
ページをスクロールしていくとこれまでのシノンのGGOでの活躍がこと細かく記載されていた。
正直ここまで有名人であることに驚いた。SAOでいえばアスナに匹敵するくらいのレベルではないだろうか。
元々GGOでは女性プレイヤーの数は少なく、またシノンクラスのアバターは早々出るようなものではないらしい。
またサーバーにわずか十丁程しかないアンチ・マテリアルライフル、ヘカートⅡを所持しており、それを巧みに操ることからトッププレイヤーの1人であるといっても遜色はない。
先日、非公式ながら集団戦闘では無敵とまで噂されていたベヒモス氏の撃破をやってのけた、とのことだ。ベヒモス氏と言われても知らないけど。
「うーん、スナイパーライフルを構える姿も格好いいなぁ。私もちょこっとやってみようかな」
「えと、いきなりスナイパーはちょこっと難しいかな。最初は簡単なやつから試していかないと」
「ねね、朝田さん。向こういったら案内してくれる?」
「う、うん。ほとぼりが冷めてからでいいなら色々と教えてあげる」
「あ、なら私も私も。武器作成ってあるんだよね?詳しく教えて欲しいなぁ」
女性陣で盛り上がっているため、蚊帳の外に置かれてしまい、手持ち無沙汰だったためジンジャエールでも飲もうとするとすでにカラになっていたことに気がついた。
「ほれキリト」
「さんきゅ、エギル・・・ってこれ水じゃねぇか」
「あっはっは、喫茶店で無料で出てくる飲み物ってのは水って相場が決まってるんだぜ」
「ちっ、ならジンジャエールもう一杯。ツケで」
「飲み屋じゃあるまいしツケなんか効くか」
といいつつジンジャエールを用意してくれるエギルは相変わらずいいやつである。
こういうやりとりはエギルとかクラインとかくらいしかできないからなかなか楽しかったりする。
女性陣では苦笑いされるかきょとんとされるのがオチだ。
「で、キリト君。朝田さんの案内は楽しかった?」
「ああ、シノンって控え室に入るまでずっと俺のこと女だと思ってたんだ・・・」
「へぇ、控え室?」
急にリズに声をかけられ返事をしたところものすごい墓穴をほった。
女だと、というところまで言った時ようやく自分のミスに気づく。
ニッコリと笑ったアスナから恐怖を感じ思わず顔を逸らした先、PCのモニターを見るといつの間に撮られたのかとあるピクチャーが目に入ってきた。
そう、赤いバギーに二人乗りしている写真だ。シノンがしっかりと腰に手を回し、後ろから抱きつくように俺にしがみついている。
「うっわーコレいつ撮られたんだろ。乗ってたのって5分もなかったはずなのに・・・」
シノンはやや恥ずかしげにまじまじと写真を見ている。
「すっごい楽しそうだよね。後ろから抱きしめられちゃって、どう見てもデートだよね?」
「いやいやいや、シノンはこの時俺のことを女だと思ってたんだって!でなけりゃこんなに密着して来なかった、だよなシノン」
「え、あ、まぁそう・・・ね?」
「なぜ疑問符!?」
露見したあとぶち殺す発言してましたよね?
仕返し?!あの時すぐに男だと申告しなかった仕返し?!ちょっと前にきちんと誤解を解いてくれるって約束してたよな?!
「ほら、こっちには一緒にお店回ってる姿とか・・・やだキリトマジで女にしか見えないんだけど」
「そういえばあの時のキリトって今みたいに粗暴じゃなくて、しおらしい?感じだったような」
「嘘、キリト君ネカマしてたってこと・・・?」
三人の見る目が、なんというか、ドン引きしている・・・
確かにミスリードさせるために多少演技もしていたことは否定しない。
しかしそれは女性を演じていたのではなく、あくまで誤解させるような言い回しをしていたに過ぎない。
中性的な男性、で一応通るはずだ。
「その結論待った!アバターのせい!アバターがあんなんだから錯覚を起こしてるだけ!」
「でもこの笑ってる顔なんかどう見ても女の子だよね」
「カーディナル・システム上で動作するVRMMOってSAOと同じく感情表現が精巧に作られてるんじゃなかったっけ?」
「それ差し引いてもこりゃ騙されるよ。朝田さんは完全に被害者だね」
このままではどう考えても不利だ。
ここは無理矢理にでも流れを変えないと待っているのは魔女裁判である。
「そ、それよりアスナたちもいつまでも他人行儀に朝田さんっていうのは変じゃないか?せっかく友達になったんだし」
「そうだね、なら私のことはアスナって呼んでくれる?朝田さんのことは・・・詩乃さん?のほうがいいかな?」
「うーん、私は里香でもリズでも好きな方でいいよ」
「えっとじゃあアスナさんにリズさんで」
「エギルはエギルでいいよな?」
「おいおい、キリト勝手に決めるな。お嬢さん、エギルでもアンドリュー・ギルバート・ミルズでもお好きな方で呼んで頂いて結構です」
相変わらずこういう時には紳士ぶるエギルである。それがまた似合っていて格好いいのが羨ましい。
こういうことを俺がしてもだいたい失笑されるのがオチである。
シノンは多少驚きながらも「エギルさんで」といっていた。やはりエギルの本名は言いづらいし長いからなー。
「あ、今度はキリト君の特集だね」
アスナがスクロールさせると今度は俺の特集が組まれていた。
大会にて光剣で敵を切り捨てる姿や、銃弾を防ぐ姿が載せられている。
自分で自分のそういう姿を見るのはやはり気恥ずかしい。
「うわ、格好いい・・・ていうか美しい?」
「だね。光剣の軌跡と銃弾の軌跡、あとキリト君の黒くて艶のある長い髪がより映えるね」
「これ、ガタイのいいマッチョマンじゃなくて、細くて繊細でか弱そうなキリトがやるから余計美しく見えるんだよねー」
こちらでも特集でも大絶賛である。
しかしぶっちゃけその感想は納得行かないものであるのだが。
「俺だって本当はゴツくて、ムキムキで、いるだけで威圧感を感じさせるようなアバターが良かったんだけど」
「エギルさんみたいな?」
「そうそう、迫力あるよなって痛い、痛いから!」
いつの間にか背後にいたエギルに頭を掴まれる。
助けを求めるために3人を見ると、リズは笑いを我慢し、シノンは苦笑、アスナは微笑んでいた。
助ける気配がまるでない、アスナにいたってはなんかむしろ嬉しそうなんですが。
「わーるかったな威圧的で。ママに産んでもらってここまですくすくと成長できたんだ、侮辱するのは許さねぇ」
「ごめん、悪かったって。というかむしろエギルみたいなアバターが良かったって言ったのに、褒めたのになんで俺がやられてるの?!」
「お嬢様方に手をだすわけには行かないだろうが。責任者は責任を取るのは仕事だろう」
「男女差別反対!」
涙目になったところでようやく開放された。
SAOから開放されてまだそんなに経っていないっていうのにここまでパワーがついていることにエギルの努力が凄まじいことを物語っている。
俺なんかは筋肉とか全然つかないのに、と思わず自分の腕を見てしまう。
たぶんスグにも腕相撲で負けるのではないだろうか。俺が貧弱すぎるのかスグが凄まじいのかは秘密である。
「ムキムキのキリト君って違和感あるから、あんまり鍛えないでね」
「くっくっくっ。女顔のキリトの方がらしいってね。どうキリト、今度GGOのキリトのコスプレでもしてみる?」
案外似合うかもよー?と笑っているリズにはALOでしっかりと仕返ししておこう、と心のなかでメモを取っておく。
「あ、ほらキリト。アンタッチャブルのプレイ動画もあるよ」
話題変更とばかりにシノンがPCの動画を再生させる。
ラストのノーリロードから発射された6発のレーザー、こう見てもインチキである。
「うっわ、あんたよく避けてるわね。相変わらずの変態行動ね」
「おいおい、なんだよそりゃ」
「キリトの非常識な行動のことよ。シリカとかリーファとかからも色々と聞いてるわよ。モンスターに変身して敵を食べたとかオレンジ集団に力の差を見せつけるためにわざと攻撃食らい続けたとか」
「え、キリト君そんな危ないことしてたの・・・?」
「それはその、必要だったから・・・」
「リーファの指にしゃぶりつくことも?」
「き、キリト君!!!」
「す、スグめぇぇぇ!」
聞こえるはずがないであろう、スグに向けて絶叫した。
スグがすっかり皆と仲良くなったことは喜ばしいことだが、これはこれで弊害だ。
さすがに一緒に寝てしまったことを皆に喋ったとは思えないが、念には念を入れ今度釘を差しておこう。
「んで最後はこれか。『シノン氏とキリト氏の禁断の関係』ね。女の子同士なんだし確かに禁断っちゃ禁断か」
「えーと『今までシノン氏が男と近寄らせなかったのはキリト氏に想いを寄せていたためであり、今回のキリト氏のコンバートはシノン氏の為であることが有力な説だ』だってさ。
そこのところはどうなの?お二人さん」
リズがいい加減見飽きてきた感のある含み笑いとともにレポーターのようにエアマイクを俺とシノンに突きつける。
「はぁ、さっき説明しただろ。俺は仕事だって」
「ま、でしょうね。シノンは?」
「想いを寄せていたっていうのはありえない。ま、今回のことで近寄ってくる男たちがいなくなるなら楽かなっていうのはあるかも」
ただでさえ今回の優勝でシノンの名は大きく知れ渡ったのだ。めんどくさいことになるのは目に見えている。
「キリト、なに関係ないって顔してるの?」
「そりゃ実際関係ないしな。ALOにコンバートし直しちゃうし」
「そういえばそうね。いつ戻ってくるの?」
「うーんすぐにって言いたいけど・・・」
事件も無事解決したし、すぐに戻ることに問題はない。
ただコンバートする際に《カゲミツG4》を誰かに預けておきたい。
短い間だったが、GGOでの相棒として申し分ない、いわば戦友だから。
「シノン、お願いがあるんだけど、俺の装備預かってくれない?」
「そうね、いずれ決着をつけるときに装備がない、じゃ締まらないか。いいわよいつにする?」
「できるだけ早く」
「おう、ならうちでやってくか?」
そういってエギルが店の奥を指さす。
そう、ここにはフルダイブのための設備があるのだ。
「えっと、さすがにご迷惑じゃ」
「いえいえ、シノンさんお気になさらず。キリト、金は優勝祝だ。ただにしておいてやる。ただログインしていちゃいちゃするなよ?お嬢様方を待たせるんじゃないからな」
「明らかに態度が違い過ぎないか?」
「俺は紳士だからな」
エギルの好意に甘え、俺とシノンは早速GGOログインした。
バレット・オブ・バレッツ優勝者がどれほど影響があるかも知らずに・・・
後日、先程のページに新たなピクチャーが付け足された。
それは笑顔のシノンをお姫様抱っこして逃げる俺の姿を鮮明に写していた。