「一気に畳み掛ける!」
黒いコートを纏い、ヴィーナスを追い詰める俺。
でも、だんだん、おかしくなってきた。
頭がふわふわする。
狂気が徐々に手足を侵食していく。
斬、斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬‼︎
そんな頭とは裏腹に動きは洗練されていく。
ステップで突進を躱し、斬る。
地面から突如出現する雷撃をジャンプで避けて、斬る。
雷を纏った旋風からダッシュで逃げ切り、反撃に斬撃。
斬って斬って斬っ、て斬って、斬、って斬って斬っ、て…?
ヴィーナスの人型の右腕を切り落としたところで疑問が出た。
あれ? 俺、
その考えが頭をよぎった瞬間ーー激痛。
全身から黒い霧が噴き出た。
「あ? があああああぁァァァ‼︎⁉︎」
霧が身体から出て行く度に、無理な駆動をしていた全身の筋肉や骨がバキバキと悲鳴をあげる。
先程までの力は一種のドーピングだったのだ。
強力な力にはそれなりの代償が必要不可欠なのは当たり前である。
「がっ⁉︎ ゲホッ! いた、い。くる、し……」
特に身体の内側がヤバい。絶対臓器の一個二個は持ってかれてる。
そしてもう一つ。全身を斬り刻まれたヴィーナスがゆっくりとこちらに向かってきている。
明らかに怒りを示している。
激痛に呻き、転げ回る俺にトドメを刺すために。
身体が動かない。逃げられない。
嫌だ、死にたくない。
ヴィーナスが迫る。そして。
「させない‼︎
もう、仲間を失うわけにはいかない‼︎」
鈍く光る白い神機。
覚悟とともに現れたのは一人の少女。
ブラッドの隊長にして、俺の教官。
「綾、佳さん……?」
「よかった。ギリギリ生きてる」
倒れ伏す俺を見て一息つくと、ヴィーナスを睨む。
「リンドウさん、アリサさん、コウタさん。ここは私一人で十分です。
斬騎君を治療して下さい」
「……はぁ。やっと追い付いたと思ったら結局、目的は
後で配給のビールを優先的に回すようにサカキ博士に言っといくってのが無けりゃ絶対来なかったぜ」
「まぁまぁ、リンドウさん。綾佳だって焦ってたんだよ」
「そうですよ。取り敢えず今は綾佳さんを刺激しないように斬騎さんを治療しましょう?」
「……そうだな。今の綾佳は正直、関わりたくない」
神機を暴走寸前まで強化、いや狂化させた綾佳さん。
その瞳に浮かぶのは激情。
「《バリアスライド》レベルⅣ」
この前見た時よりも遥かに鮮烈な紫光を放つブラッドアーツ。
一撃でヴィーナスの人型部分が消し飛んだ。
「…………おい。綾佳の奴、一撃があり得ない威力になってるぞ」
「あー。たしかマルドゥーグと戦う前もあんな感じでピリピリしてた時期あったなぁ」
「そうですね。リンドウさんが来る前だから知らないと思いますがあの頃の綾佳さん、あんな感じでマルドゥーグを一方的に叩きのめしたんですよ」
「……怒らせないようにしよう」
怒ったら綾佳さんは怖い。
この日思い知った。
そして数秒でバラバラに解体されたヴィーナスを眺めながら、俺は長い戦いに決着がついたことに安堵の息を漏らすのだった。
次回、二十四話 戦果の代償