学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~   作:富士の生存者

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短めですがトマトジュースはこのお話で終わりです。
なかなかストーリーが進まなくてすみません。


第9話 『とんでもないトマトジュース』

 宮本麗SIDE

 

 

 

 篠崎さんが倒れてから物陰から一人の男が出てきた。

 手には拳銃を持って、銃口がこちらに向けられている。

 

 

「はははッ、1発でくたばったか! ラッキーだぜ!」

 

 

 そうか、こいつが篠崎さんを撃ったんだ。

 自分の中に敵意、殺意、害意、あらゆる黒い情念が精神の溶鉱炉に投げ込まれる。

 

 

「おっと、動くなよ。動くと撃っちゃうかもしれないよ。ひゃはははぁ!」

 

 

 篠崎さんの傷の具合を確かめようとすると男が銃で邪魔をする。

 視線だけを動かして確認すると篠崎さんの下の地面が赤く染まっている。

 

 男の様子はどう見ても異常である。

 荒い呼吸、焦点の定まらない視線。  

 

  

「武器を置いてゆっくり、こっちに来な!」

「お断りだわ。そっちに行くぐらいなら撃たれて死んだ方がまし!」

「なんだとてめぇ! 本当に撃つぞ!」

 

 

 男の指が引き金を引く瞬間、給油機の陰から作業着を着た〈奴ら〉と化した者が男に掴みかかった。

 

 

「くそッ! この化け物が!!」

「おおぁぁぁ!」

 

 

 男は、〈奴ら〉と化した作業員にともつれる様に倒れる。

 倒れる際に男の指が銃の引き金を引いたが、弾丸はガソリンスタンドの照明に当たった。

 

 男が〈奴ら〉を相手にしているうちに篠崎さんを事務所まで運ぼうとするが、私の方にも〈奴ら〉が既に間近に迫っていた。

 音を響かせ過ぎたのだ。

 

 私は近づいてくる奴らに向け篠崎さんから渡された拳銃を構える。

 

 アイソセレス・スタンスと呼ばれる構え方は、両腕をまっすぐ伸ばし、丁度上から見た腕の形が二等辺三角形(アイソセレス)に見えることからこの名がついたと言っていた。

 

 最もポピュラーで、汎用性の高い撃ち方。

 左右への移動が楽で、目標を瞬時に切り替える必要のある戦闘時に向いている。

 

 

「今度は私がこの人を守らなきゃッ!」

 

 

 〈奴ら〉の頭に向けて撃つ。

 初めの弾は狙った〈奴ら〉の後方に逸れてしまった。

 

『撃つ前には深呼吸をして落ち着いて狙うんだ、引き金を引いた時は目を閉じないで標的を見続けろ』

 

 脳裏に篠崎さんの言葉を思い出す。

 深呼吸をして再び〈奴ら〉の頭部を狙う。

 

 引き金を引く。

 

 今度は目を閉じずにしっかりと〈奴ら〉を見る。 

 

 2発目の弾丸は見事、〈奴ら〉の頭部を貫いた。

 続けて隣に照準して撃つ。

 

 あっという間に5発撃ちきってしまう。すぐさまポケットの予備の弾を入れようとするが焦ってポケットから落として地面にばら撒いてしまう。

 

 ここで終わるの……。

 

 ならせめてこの人と一緒に。

 

 

「ごめんなさい、篠崎さんッ」

 

 

 篠崎さんを庇うように上に覆いかぶさり目を閉じる。

 

 直後、耳を突き刺さってきた炸裂音にひるんだだけじゃない。目を開けると視線の先には、うつ伏せの状態で拳銃を構えた彼がいた。

 

 3発ほど発砲する。

 炸裂音と共にスライドが動き、金色の排莢(はいきょう)を拳銃が吐き出す。

 

 〈奴ら〉に視線を向けていないのに対してよどみない銃撃は、〈奴ら〉の頭部に1発たりとも外れることなく当たっていた。

 

 

「すまない、意識を取り戻すのに手間取った」

 

 

 そこには先ほどまで自らの血に身を沈めていた彼がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 主人公SIDE

 

 

 

 

 

 

 俺、このまま死ぬのかな。

 コンクリートの地面にうつ伏せに倒れながらそんな事を考えた。

 

 胸に走る衝撃。

 それに続くように銃声がした。

 

 その証拠に真っ赤な液体が俺の胸から地面を汚している。

 汚い花火だぜ……。

 

 

 これまでのことを考えると後悔しかないな。

 

 だけど最後の我儘いいかな。

 また、宮本さんにハグして欲しかったな。

 

 

「今度は私がこの人を守らなきゃッ!」

 

 

 目の前が暗くなり。

 音が聞こえなくなる。しかし、宮本さんの声だけが聞こえる。

 

 それに続いて銃声。

 

 彼女が戦っているのか?

 

 俺を守るために。

 

 それなのに俺は"痛み"もないのにただ寝てるのか。

 

 あれ、ちょっと待て、胸に穴が開いて"痛く"ないだと?

 閉じていた瞼を開き、視線だけを傷に向ける。

 

 

 これさっき間違って買ったトマトジュースだよな。

 それに俺の防弾ベスト(プレートキャリア)は後ろだけでなく前にも鉄板入ってるし。

 

 

 恥ずかしぃィィィィィ!!

 

 

 てっきり撃たれて死ぬのかと思ったよ。

 ネタ要員じゃないか。

 

 トマトジュースを血と間違えるなんて……。

 

 マンホールの蓋開けて飛び込みたい。

 赤いちょび髭のオッサンに会えたら愚痴を聞いてもらうんだ。

 

 緑のオッサンでもいいよ、この際。

 

 豆腐メンタルのやることじゃないよ。

 崩しに来てるね!

 

 俺の豆腐()を箸でなく、フォークでなぁぁぁ!!

 

 

 

「ごめんなさい、篠崎さんッ」  

 

 

 背中を再び襲う衝撃(二つの銃撃)

 この子を死なせるのか……。

 

 

 断じて否!!

 

 

 精密機械のようになめらかな動作はゾンビを視界に入れなくても倒せた確信があった。

 

 3連射。

 

 グローブ越しの手に衝撃が伝わる。

 

 豆腐メンタルがどうした!

 こちとら"下請け企業戦士"として戦ってたんだ。

 

 今更、トマトジュースで動揺してどうするんだ!

 

 

「すまない、(心の痛みで)意識を取り戻すのに手間取った」

 

 

 身体は酔ったように熱く、そして凍えるような悪寒に包まれる。

 

 自分の身体が自分の者ではないみたいだ。

 

 

 拳銃をホルスターに戻し、スリングベルトで吊っている自動小銃(M4カービン)を片膝立ちで構え、一挙動の内に安全装置の解除と連射を敢行(かんこう)

 

 銃が跳ねる。

 

 薬莢が飛ぶ。

 

 周りのゾンビを一掃している隙に宮本さんには、バイクへの給油をお願いする。

 

 残弾僅かとなったタイミングでタクティカルリロード。片手保持で空弾倉を収納嚢(ダンプポーチ)に落とし、予備弾倉を抜き機関部へ叩き込む。 

 

 焼けた銃身から陽炎が立ち上り始めてようやくひと段落ついた。

 

 どうやらこの付近のゾンビは粗方片づけた。

 

 俺を撃ってくれた野郎は、銃声を聞きつけて群がってきたゾンビに食い殺されていた。起き上がりそうだったので1発もらった分、10倍返しで返した。

 おかげで頭部が行方不明中だ。

 

 

 

 給油を終えたバイクに再び跨り、後ろに宮本さんが再びホールドしてくる。

 早くみんなと合流しよう。でないと俺のメンタルが本格的にもたない。

 

 

 こうしてガソリンスタンドを後にした。

 

 

 




暴漢さんは、トマトジュースを撃つという大切なお仕事を果たし2階級特進しました。
ご意見やご感想があればよろしくお願いします。

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