学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~ 作:富士の生存者
今回は主人公SIDEと久々の孝君SIDEです。
主人公SIDE
包丁で野菜を適当な大きさに切っていく。
食材を切りながらどうしても視線が手元から隣の少女へと向けられてしまう。
エプロンは、いいとしてその下が問題だ。
シャツに下着といった軽装備……。
冴子さん、君はもう少し自分が男性に与える影響を考慮したほうがいいよ。
俺の予備のシャツを貸さなければ『伝説の裸エプロン』だったのだが、流石に問題があるので諦めよう。しかし、どうしても視線が行ってしまう。
あぶねッ!
危うく指切りそうになった。
しょうがないじゃん、こんなシュチュエーションなんて遭遇した時なんてないんだから。
「お料理は、よくなさるのですか?」
確かに1人暮らしのためどうしても食事は自分で用意しなければならない。
忙しいときは簡単にトーストとコーヒーなどですませてしまうが、時間があるときはしっかりしたものを作るようにしている。
手の込んだものから簡単なものまで満遍なく挑戦している。
自分の性格である何かに無駄にこだわるところが大きいのだろう
本格的な料理もできるなんて言うのも恥ずかしいしここはそんなにやってないことにしよう。
「それほど料理はしないな」
それにしてもいつまでシャツ、1枚のエプロン装備でいるつもりなのか。
「いつまでそのままでいるつもりだ?」
「ん? これの事ですか?」
そうです。
それのことです。
「…そうだ」
「だめ、でしょうか?」
効果は抜群だぁぁぁ!
冴子さんに上目づかいで、『駄目でしょうか?』なんて言われた。
ダメと言えないでしょ。
しかたない諦めよう。
「淳也さ~ん、こっちに来てくださいよ~」
階段の方から麗さんの声が聞こえてくる。
淳也さんご指名入りましたー!
あ、俺のことか。
どうしよう料理を途中で放り出すのは俺のポリシーに反するし、麗さんに呼ばれた以上はそちらにもいかなければいけないし。
ここでモテ期到来なんて。
こんな世界でなければ素直に喜べたが、現実は残酷である。
「いってあげてください。ここは、私1人でも大丈夫です。女とは時にか弱く振舞いたいものなのです」
なるほど、勉強になる。
あまり女性と関係を持っていなかったため、どう接すればいいのか基本あやふやだ。
教科書とないのかな。
少し高くても買うよ。
「…わかった。ここは、任せる」
冴子さんにキッチンを任せて麗さんの元に向かう。
麗さんも静香先生同様少し酔っているようだ。
隣に腰を下ろす。
麗さんの格好も冴子さんと同様に下着スタイルだ。
この世界では貞操観念、これがデフォルトなのかな。
俺が間違っているのかな。
「……」
「……」
耐え難い沈黙が続く。
何を話せばいいんだよ。
好きな物は何ですか?
みたいなことでいいのか。
ここは、勢いだ!
「…井豪君のことを聞かせてくれないか?」
ミスったぁぁぁぁ!
なんでよりにもよって古傷を抉るような話題を出したぁぁぁ!
麗さんが泣いちまったよ。
いい年した大人が女の子を泣かすとか……。
どうすればいいのかわからなくて、死にたくなる。
これどうすればいいんだ?
死んで償えばいいのか?
いや、まてよ。
それより俺、死ねるのか……。
死ねば元の世界の病院のベッドにいる可能性もある。
普通の学校の屋上でもいいや。
ゾンビがいない世界だったらなおよし。
そうだ、俺もそろそろこの世界から退場しよう。
流石に2階から真っ逆さまに地面めがけてダイブして手榴弾で自爆するか、頭を拳銃でふっ飛ばせばチートボディーでも生命活動を停止するだろう。
これでも無傷だったら……それから考えよう。
早速実行に移すためホルスターから拳銃を抜き、階段を駆け上がる。
まってろよ普通の世界!
◆
小室孝SIDE
改めて思い知らされた。
この世界が既に終わっていることを。
僕らのいるアパートの前まで逃げてきた青年は持っていた銃を〈奴ら〉に目がけて撃つが、瞬く間に囲まれその命を散らす。
「くそッ! 酷過ぎるッ」
僕は散弾銃を持って下に降りようとすると平野に止められる。
「小室ッ、撃ってどうするの?」
「決まってるだろ! 〈奴ら〉を撃って……」
「それは、駄目だ」
「「!?」」
いつの間にか2階には淳也さんと冴子さんが来ていた。
「孝君、アイツらは音に反応する」
「淳也さんの言うとおりだ。そして生者は光と我々の姿を見て群がってくる」
淳也さんが双眼鏡を差し出す。
「これが今の現実だ。俺たちには助けを求めるすべての人を助ける力はない」
「…淳也さんはもう少し違う考えだと思ってました」
「……」
淳也さんから答えは返ってこなかった。
「外見る時はこっそりやってね」
双眼鏡の先では地獄が広がっていた。
生きたまま〈奴ら〉臓物を引き摺り出される男性。
助けを求めてアパートの入り口に向かい扉を開けてもらえずそのまま背中から〈奴ら〉に食われる男性。
これが今の現実。
その中を走る男性。
男性に手を引かれ、走る小さな女の子。
男性の娘さんなのだろう。
父親の男性が民家に助けを求め、必死で玄関の扉を叩いている。しかし、民家の住民は父親と女の子を家に入れる様子はない。この時にも〈奴ら〉が近くに迫ってきている。
痺れをきらした父親は持っていた大型レンチで扉を壊そうと振り上げるが、大型レンチが扉を壊すことはなかった。大型レンチが振り下ろされる瞬間、玄関の扉が開いて棒が突き出される。
父親も何が起こったのか初めは理解できなかったことだろう。
自分に突き出された棒の先端に付けられた刃物が胸に突き刺さっているのを見て、初めて自分が刺されたことを認識し後ろに数歩下がり力なく倒れる。
女の子は倒れた父親に急ぎ駆け寄る。
そこに遂に追いついた〈奴ら〉が民家の門をくぐり抜けて倒れた父親と少女に迫る。
それをただ無力と屈辱を噛み締め、これから親子に起こる残酷な結果を受け止める事しか僕には許されていなかった。
〈奴ら〉の魔の手がとうとう親子に届きそうになった時、民家の敷地に入った〈奴ら〉は頭を吹き飛ばし倒れる。
誰が〈奴ら〉を仕留めたのかはすぐにわかった。
僕の足元に黒く煤けた金属が転がる。
運命という名の暴君に打ち勝つ。
不条理な運命に抗う為の必然の力……僕にとって、
ご意見やご感想があればよろしくお願いします。