学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~   作:富士の生存者

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皆様、お待たせしました。
今回は主人公SIDEとコータ君SIDEをお送りします。
短めです・・・・・・。


第14話 『とんでもない誤射』

 主人公SIDE

 

 

 へっくしゅ!!

 あー、くしゃみが止まらないぜ。

 誰か俺の噂でもしているのかな。

 

 ベランダから外を見る。

 流石、川沿いのメゾネットのアパートだけあるね。

 

 見晴らしがいい。

 ゾンビがたむろする道をこちらに向かって走ってくる青年もよく見える。

 

 人が人を食い散らかす地獄絵図は見たくはなかったが。

 

 

 

 

 

 青年がゾンビに向かって所持していた上下二連式の散弾銃を構えて発砲する。

 

 上下二連式散弾銃は、日本において広く普及している猟銃、競技用の散弾銃である。

 銃口が上下に2つ連なっている散弾銃だ。

 

 装弾数は2発。

 

 慣れた者なら再装填に時間を掛けず行うことができるが、あまり慣れておらず焦って装填しようとすると上手くはずはない。青年は、案の定弾薬(シェル)を落としてしまう。

 銃声を轟かせた青年がゾンビに囲まれ引き裂かれるのは必然だった。

 

 

 いざ、この世界からオサラバしようとベランダに来たが、孝君とコータ君がしっかりと見張りをしていたため俺の生まれ変わり計画を実行することができない。更にはアパート周辺にゾンビが溢れかえっている。

 

 酷くなる一方だな。

 

 孝君が生存者を助けに散弾銃を持って出ていこうとするがそれを止める。

 確かに助けに行きたい気持ちはわかるが、助けに行ってこちらが危険な状態になれば本末転倒だ。

 

 

 自動小銃の無倍率の光学照準器(ドット・サイト)をトリジコン社製のコンパクト兼堅牢な作りの望遠照準器(ACOG)に変えて外を警戒する。

 この『ACOG』―――通称『エイコグ』は照準線に放射線発光物質トリチウムを用い、10年以上も電源なしで使用することができる。もの凄い優れものである。

 

 

 孝君に自分の双眼鏡を進んで貸しておいてすぐ返してなんて言いにくいから仕方ない。

 

 望遠照準器(エイコグ)越しには映画のような光景が広がっている。

 

 ここで人を助ければヒーローになるだろう。

 ヒーローは基本面倒な立ち位置だ。

 

 俺のポジションではない。

 

 少し視界をずらすと父親と思われる男性に手を引かれ必死に走る小学生くらいの女の子が視界に入ってくる。

 すぐそこまでゾンビが迫ってきており必死だ。だが、小学生の子供を連れて逃げるには無理がある。

 

 父親もそれを理解しているらしく、ゾンビの集団からある程度離れて身近な明かりがついた民家に駆け込む。

 男性が必死で民家の入り口を叩いて入れてくれるように頼んでいるようだが入り口は開きそうにない。

 

 誰かを助けようとする余裕なんてありはしないのだから。

 

 ゾンビはそうしている間に着実に近づいてきている。

 仕方ない、ひとまず民家にゾンビが入らないように援護だけするか。

 

 民家の門に近づいてきたゾンビに照準を合わせ引鉄(トリガー)を絞ろうとする瞬間。

 

 

 へっくしゅ!!

 

 

 くしゃみで照準が大きくずれ、くぐもった音と共に薬莢が転がる。

 タイミング悪すぎだろう。

 

 改めて望遠照準器(エイコグ)をのぞき込むと、民家に助けを求めていた父親が胸を押さえながら倒れた。

 

 えっ!!   

 もしかして俺のか?

 俺の誤射なのか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 平野コータSIDE

 

 

 

 

 僕の役目は親子に近づく〈奴ら〉の排除だ。

 淳也さんが物凄い勢いで走って向かっていく。

 

 親子がいる民家までは100メートルも離れてはいないが、民家までの道には多くの〈奴ら〉がいる。

 辿り着くのは容易ではないだろう。

 

 

 淳也さんは僕たちのいるアパートの前の〈奴ら〉を瞬く間に排除した。

 銃も刃物も使わず―――シャベルを使って。

 

 シャベルは戦場において、特に第1次世界大戦では塹壕を掘る道具だけでなく白兵戦闘の際の打突武器としても使用された。

 重心が安定しているシャベルは、その重量と淳也さんの力で強力な武器に早変わりだ。

 

 

 それにしても淳也さんはどうしてあの親子を助けたのだろうか。

 小室には助けを求める生存者は冷酷に切り捨てると言っていたが、彼も心のどこかでは助けたいと思っていたのかもしれない。

 

 淳也さんの装備からして何処かに所属しているようだけどまったくわからない。

 

 何らかの任務を受けているのは確実だ。

 生存者の救出任務だった場合は、警察機関と協力するなどの対処ができるはずだがそれをしていない。協力できない理由がある可能性がある。

 単独で学校にいたのもその任務に関係しているのではないだろうか。

 

 考えれば考えるほど淳也さんについてはわからなくなる。

 

 でも淳也さんは僕たちを助けてくれた。

 

 立ち去り際、肩にかけた自動小銃(M4 カービン)のスリングベルトを外し、予備弾倉と一緒に僕へ手渡してきた。淳也さんから託された自動小銃(M4 カービン)に機関部に弾倉を叩き込み、ボルトを引き初弾を装填。薬室を確認してからセレクターを安全位置から切り替えた。望遠照準器(エイコグ)を覗き込み親子に近づく〈奴ら〉を射撃する。消音器(サイレンサー)を装着し、出来る限り銃声を押さえているが無音でない。それでも銃声を響かせるよりは静かだ。

 

 立射姿勢を固め照準、射撃―――消音器(サイレンサー)で抑制された炸裂音が空気越しに鼓膜と皮膚を震わし、〈奴ら〉を撃ち抜いていく。

 

 何発か継続して撃つ。

 

 残弾僅かとなったタイミングでタクティカルリロード。片手保持で空弾倉を収納嚢に落とし、予備弾倉を抜き機関部へ叩き込む。

 

 

 どんな事情があろうと彼にとって僕たちを見捨てた方が無駄にリスクを負わなくて済んだはずだ。そして、淳也さんは気づいているはずだ。

 

 僕たちは、信用はしているが本当は信頼していないことを……。  

 

  

 

 




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