学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~   作:富士の生存者

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第15話 『とんでもないスコップ』

 高城沙耶SIDE

 

 

 静香先生の友達の部屋でようやく休める。

 

 さっそく女性陣で入浴をするため男共は、2階に移動させた。

 

 浴槽は女性陣全員で入るには少し狭いが、この際仕方ないだろう。

 

 

 みんなで入浴をしている中で、私はある話題を出した。

 詳しいことが何もわかっていないアイツ(淳也)の事だ。

 

 

「私たちは、得体の知れないアイツをどこまで信用するのか……」

「何処までって?」

「うむ、確かに淳也さんについてはいささか不可解な事もある」

「でも~、私たちのことを鉄砲で助けてくれたじゃない。心配することないんじゃないかな~」

 

 

 バスでは平野とアイツ(淳也)について話をしたが、生粋の軍オタである平野でも彼が何処に所属しているのかはわからないとのことだった。

 軍隊に所属しているのなら少数なら通常2~4人ほどで作戦行動を行う。映画の様に単独での作戦行動は滅多に行われない。

 

 アイツ(淳也)は本当に私たちの味方なのかどうか。

 

 確かにアイツ(淳也)には命を救われたが、所属も目的も分からない完全武装の兵士を信じられるほど簡単な頭の構造はしていない。

 

 宮本は、アイツ(淳也)が私たちに危害を加えないと言い張っているがその根拠がない。

 

 

「ひとまず、信用するが信頼はせずの姿勢を取りましょう。仕方ないけど……」

 

 

 入浴を済ませた私たちはそれぞれに休むことになった。

 制服は血や脳漿などで汚れ、昼間は気づかなかったが匂いも酷かったので洗濯している。そのため着る服がなく、今の服装はとてもラフなものになってしまった。

 

 こんな格好をアイツ(淳也)に見られるのは癪だ。

 とにかく気に入らない。

 

 

 静香先生から渡されたドリンクを飲んでから突然、睡魔が襲ってきた。

 こんな状況だ。精神的疲労はピークに達していた。

 少し休んでから今後の事を考えよう。

 

 

 男子共は見張りをしているから何かあれば知らせてくれるだろう。

 

 私は潔く睡魔に身をゆだねた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ありす父SIDE

 

 

 

 

 必死に娘の手を引き必死に走る。

 

 遅かった。

 それだけが心の中に重くのしかかる。

 

 この惨事が起こる前に既に兆候を掴んでいたのに行動できなかった。

 それがこのざまだ。

 妻とも合流できていない。

 

 

 1カ月前―――中東、アジアで原因不明の伝染病が発生したという情報を掴んだ。

 伝染病に感染したと思われる人間が凶暴化し、周囲の家族や友人に噛みつこうと襲い掛かったそうだ。

 

 この件を調べに、現地入りをした友人からはいつまでたっても連絡がなく。現地の日本大使館にも連絡がつかない。

 この時点で、何らかの尋常でないことが起きていたのだ。

 誰かにこのことを伝えていれば……と思ったが伝えたところでどうしようもないだろう。

 

 新聞記者をしていて感じたことは、言葉を伝えるのは酷く難しいことなのだろうということだ。

 結局のところ伝えたい言葉が偽物なのか本物なのか……その判断は受け取る側に委ねられる。

 

 

 

 橋での混乱からはなんとか巻き込まれずに逃げることができたが、死者たちからは逃げることができない。

 

 娘の体力にも限界がある。

 何処かの家に入れてもらうしかない。

 

 明かりがついた近くの民家に駆け込み、ドアを叩く。

 

 

「開けてください! 子供ずれで逃げられないんですッ」

 

 

 家からの反応はなかった。

 ここで諦められない。

 

 

「お願いです。開けてくださいッ!」

「くるなッ! よそへ行ってくれ!!」

「私はどうでもいいんです。娘をッ! 娘だけでも!」

 

 

 玄関の明かりが消える。

 どうあっても入れる気はないようだ。

 このままでは娘が……。

 

 

「クッ! 開けてくれなかればドアを壊す!! ドアを壊すぞッ!」

 

 

 娘を何としても助けたい。

 私は形振りかまわず、持っている唯一の武器である大型レンチを玄関の扉に振り下ろそうとした。

 

 振り下ろす直前、玄関が勢いよく開き長い棒が突き出される。

 胸に焼けるような痛みが走り、視線を向けて自分が刺されたことを理解する。

 

 体に力が入らずよろよろと後ろに倒れる。

 

 娘のありすが駆け寄ってくる。

 

 

「パパッ!」

 

 

 母親に似て優しい子に育った愛おしい私の娘。

 この子を残して私は死ぬのか。

 

 路上から多くの獣のうめき声が聞こえてくる。

 このままでは、アイツらが来てしまう。

 

 この子を1人残して死ねない。

 

 四肢に力を入れるが、自分の体が動くことはない。

 体が痺れ、突き上げてくる恐怖。

 

 自分の命が尽きるからではない。

 この地獄のような世界に娘を1人残していくことにだ。

 せめて最後に伝えなければ。

  

 

「ありす、よく聞きなさい。どんなに困難な状況にあっても・・・・・・周りの人間がすべて諦めて絶望してもそれでも立ちあがれる人になりなさい。隠れなさい、誰にも見つからないところに」

「嫌だよッ! パパ一緒にいる!!」

 

 

 酷い父親だ。

 これほど残酷な事しか最後に言えないなんて。

 アイツらがすぐそこまで迫っている。

 このままではッ!

 

 突然アイツらが宙に舞った。

 頭部は潰れ再び起き上がることはなかった。

 

 それを行った人物が姿を現す。

 

 自衛隊とは違う迷彩服の男性。

 覆面をしており顔はわからないが、彼が助けに来てくれたことはなんとなくわかった。

 

  

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 主人公SIDE

 

 

 

 

 

 ぎりぎりセーフ。

 誤射してしまったお父さん、まだ息してるよ。

 

 誤射した時点で俺の殺人未遂は確実だ。

 セクシャルハラスメントの他にも罪を重ねてしまうなんて。

 

 刑務所暮らし確定だぜ。

 

 刑務所が機能していればだけど。

 

 路上にいたゾンビ共をスコップで無双し、駆けつけたが間に合ってよかった。

 ひとまず一時的に安全を確保し、お父さんの傷の具合を確かめる。

 

 胸部に刃物によると思われる刺し傷……。

 

 あれ?

 銃創じゃないだとォォォ。

 

 よかったぁぁぁぁぁ。

 

 いや、不謹慎だな。

 瀕死の重傷の人の前で、『よかったぁぁぁぁぁ。』なんて言ってたら関係者にボコボコにされる。

 

 確かにセクハラに続き、殺人罪を重ねなくて済んだことは喜ばしいが。

 現状、喜んでいられない。

 

 

「いやだよッ! ありす、パパと一緒にいるぅぅぅ!」

「すまない、ありす」

 

 

 なんでこんなシリアス空間に来てしまったんだぁぁぁぁぁ。

 

 お父さんしっかりして!!

 お願いだから!

 俺と娘さんを2人にしないで、気まずすぎる!

 

 傷口を圧迫するが出血が止まらない。

 重要な血管が損傷している可能性がある。

 

 

「見ず知らずの…あなたに、お願いが…あります。どうか娘をお願い…します」

 

 

 お父さんは、俺の事は既に見えていないのだろう。その瞳は俺を捉えていなかった。

 だが、手は俺の腕をしっかりとつかんでいる。

 

 ここは、日本人的にNOとはいえない。

 まあ、誰であろうとここでNOなんて言える人は正真正銘の外道だ。

 

 そんな外道は俺がスコップで接待してやる。

 

 スライスか…クラッシュか。

 

 どちらがお好みかな。

 

 安心してくれ。

 墓もスコップでちゃんと掘ってやる。

 

 お父さんの手を握り返し。

 俺は誓った。

 

 

「わかりました。安心してください」

 

 

 俺の声が聞こえていたのかわからないが、お父さんは微笑み息を引き取った。

 

 

「パパぁぁッ!!」

 

 

 娘さんは父親の亡骸にすがり涙を流す。

 そうしている間にもゾンビ共はお構いなしに群がってくる。

 

 血だらけのスコップを肩に担ぎ直し路上に出る。

 お前たちに鉛玉は必要ない。

 

 親子の別れを邪魔するゾンビは、俺のスコップの錆びにしてくる。

 

 

 

 

 




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