学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~   作:富士の生存者

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今回はオリジナルキャラSIDEをおおくりします。
お気に入り数が3000件を突破しました。
皆さん応援ありがとうございます。
来年もよろしくお願いします。


第18話 『とんでもないお嬢様』

 中条早苗SIDE

 

 

 

 

 車が追突した衝撃で身体が座席から浮き上がるがそれをベルトが押さえつける。

 空気が一気に抜け、強い衝撃が頭部を襲う。

 

 意識が朦朧とする中で見たのは人が人を噛みちぎっている非違現実的な光景だった。

 悪い夢でも見ているのだろう。

 

 この事故も外の光景もすべては夢の世界の出来事なのだろう。

 きっと目が覚めればいつものようにベットに寝ている。

 そう思い私は瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 生まれつき体が弱かった私は、学校も休みがちだった。

 私のお母様も体が弱く、私を産んでからすぐに亡くなりお父様が私を育ててくれた。

 

 お父様の名前は、中条(なかじょう) 清司(きよし)

 中条グループのトップであり日本の有数企業にまでした人だ。

 

 お父様は、お仕事が忙しく私が住んでいる家には住んでいない。でも、1カ月に1度は帰ってきてくれる。

 そんな生活が5年以上も続けば慣れてしまう。

 

 そんな忙しいお父様に褒めてほしくて、良い子だねと言われたくて我慢した。

 それは高校生になった今も変わらない。

 

 私立藤見学園――――現在、私が通う学校だ。

 

 この学園には、お父様が莫大な寄付をしている。

 そのこともあり私は、職員からは腫れ物を扱うかのようにされ一般生徒には、私と関わろうとする者はいない。

 一般生徒からは、妬みや嫉妬、羨望の感情しか向けられない。

 

 

「ワンッ! ワンッ、ワン!!」 

「うッ!」

 

 

 犬の鳴き声で沈んでいた意識が戻ってくる。

 頭に残る鈍い痛みのおかげで、あの惨劇は夢では無かったことが思い知らされる。

 

 車外は既に日が暮れていることから数時間は気を失っていたことになる。

 周りには人の死体や体の部位やおびただしい量の血痕が残されていたが人影はない。

 いったい世界に何が起こってしまったのだろうか。

 

 目が覚めたら世界が終わっていたなんて笑えない。

 ひとまず車からでなきゃ。

 

 車は事故を起こして運転席、助手席共に潰れ運転手の田中さんは見るも無残な姿になっている。フレームが歪んだのか後部座席の扉すら開けることができない。

 

 田中さんが亡くなってしまったのは悲しいが私が泣き叫んでも田中さんは生き返ることはないのだ。だったらさっさとここから逃げることを優先しよう。

 

 車の運転席や助手席からの脱出は不可能。私の力じゃ後部座席の窓を破る事も難しい。

 

 こんな状態になっている時点で望み薄ではあるが携帯も試してはみた。予想どおり何処にも繋がらない。

 回線がパンク状態なのか既にアンテナの施設が動く死体によって全滅したか。

 仮に連絡がついても人が人を食べている中で車に取り残された自分を助けに来てくれるほど余裕はないだろう。 

 結果、自分でどうにかするしかないのだ。

 

 再度、扉を開けようと試みる。その最中にこちらに近づいてくる人影に気が付いた。

 私は作業を一時中断し、生きている人間なのか確認をするため息をひそめる。

 

 突然、車内が光に照らされる。

 外からのライトによるものだ。

 

 どうやら生きている人間の様だ。

 

 

「お願いです、助けてください!!」

 

 

 この機会を逃すわけにはいかない。

 

 

「中条さん、落ち着いて。今出してあげるから!」

 

 

 私の事をしっている?

 それに聞いたことのある声であることに気が付いた。

 相手を確認すると学生服をきた知っている顔があった。 

 

 

「小室くんッ!?」

 

 

 まさか、彼だとは思わなかった。

 彼とは少しばかり関わりがある。

 

 貧血で倒れた時に助けてられた。

 小室君がいなかったら私は階段から愉快に転げ落ちていったことだろう。

 

 周囲からは不良として扱われていた彼だが今日は学園にいたはずだ。

 学園に居ればこのおかしなことが学園でも起こっていたことだろう。

 

 

 彼はバールを扉の隙間に差し込み梃子の原理を利用し開けようとする。

 少しずつではあるが隙間が広がっていく。これなら扉を開けることができる。

 

 そう思って少し心に余裕が持てた。

 こちらに猛スピードで向かってくる車が見えるまでは…。

 

 私は扉に蹴りをお見舞いする。

 この忌々しい扉が開かなかれば仲良く車ごとオシャカにされる。

 

 人間で一番強い力が発揮できるのは足である。

 常に自身を支えている足は腕力を超える。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 ようやく私が出ることができる分の隙間が出来たのでそこに滑りこむように入り込む。

 小室君に手伝ってもらい急いで車外に抜け出す。 

 

 車が直進してくる道とは別の道に勢いよく躰を投げ出し、飛び込んだ直後に轟音と共に直進していた車と私がいた車がぶつかり宙を舞う。

 ガラスやら金属片が飛び散る。

 直進していた車は横転し見事道路を塞いだ。

 

 信じてはいなかったが、

 どうやらまだ神様は私のことを見捨ててはいないようだ。

 今感じている痛みもまだ自分が生きている証である。

 

 ふと横の路地から人影が現れる。

 その人影はふらふらと近づいてくると街灯に照らされ姿が露わになる。

 片腕がなく顔の半分の皮膚を喪失しながらこちらに歩み寄ってくる。

 

 前言撤回。

 神様を少しでも意識してしまった私は馬鹿だった。

 

 

 

 




短くてすみません。
ご意見やご感想があればよろしくお願いします。
それでは皆様、よいお年を。

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