学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~ 作:富士の生存者
高城沙耶SIDE
リビングのソファで寝ていた私は、誰かに肩を優しく揺さぶられ起こされた。起こしたのは黒い
つまり現在の状況は御別橋での騒ぎが酷くなり、すぐに出れるように荷物をまとめろということだ。
私たちが荷物をまとめている間に
事情を聞いた私はすぐに行動に移した。
まずは、気持ちよさそうに寝ている静香先生を揺さぶり起こした。
その静香先生の第一声が『もう朝ごはん~?』だ。私は寝惚けている静香先生の頬を引っ張って意識を覚醒させる。
今後必要になる食料、水、衣服、医療品など、まとめ終えた物からアパートの門まで運んだ。
門では警棒を手にした宮本と木刀を構える毒島先輩が通りの様子を伺っていた
「宮本、そこは毒島先輩に任せてあんたも手伝って」
宮本に荷物を運び出す手伝いを頼み、静香先生にはひとまず服を着てもらうことにした。
「で、外の状況は!」
「今なら車に乗り込める。アパートの周りの〈奴ら〉は淳也さんが片づけたよ」
「よし! じゃ、手分けして静かに荷物を車に積み込んでいきましょ」
なるべく音を立てないように荷物を車に積んでいく。
〈奴ら〉は
静香先生に車の鍵を開けてもらい、宮本と一緒に3往復ぐらいしてすべての荷物を積み込んだ。
荷物を積み終えたところで小室が近くの事故車から人を助けてくると言い、こちらの制止を振り切りアパートを出て行ってしまった。
確かに誰かを助けることはいいことだ。こんな状況で自分よりも他人を気遣えるのは・・・・・・。それでも相応のリスクがある。
もし、その救助者が1人では行動できない怪我を負っていた場合、手助けをしながらこちらまで戻ってこなければならない。満足に動けない状況で〈奴ら〉に取り囲まれでもすれば終わりだ。
そんな危険を考慮したうえで
あの厳粛な佇まいを思い出すと、言葉の意味を想像し寒気が這い上がってくる。
荷物を全て積み終わりバルコニーにいる平野に懐中電灯の光で合図を送る。
あとは、
(〈奴ら〉の人数が多すぎる!!)
それに平野は、ここまで降りてくるのにどれだけ時間かかってるのよ。
平野を呼びに行こうとアパートの入り口に向かおうとすると突然黒い影が飛び出してきた。
「ひッ!」
〈奴ら〉かと思い悲鳴を上げてしまったが、よく見ると
出発する準備が整って少しすると
女の子を背負っても苦も無く、塀を越えてくる姿は疲労を全く感じさせないものだった。
背中から女の子を降ろしている
こんな時に見送る事しか出来ないことがどうしても辛い。
数十分過ぎると
そうだ、思い出した。彼女は
日本の有数企業中条グループの一人娘であり、身体が弱くその為学園を休むこともよくあると聞いたことがある。
3人が車に乗り込んですぐに静香先生がアクセルを踏み込む。
道に出てくる〈奴ら〉を撥ね飛ばしながら私たちは御別川の上流を目指し、夜の住宅街を駆け抜けた。
辺りが明るくなり始めた頃には、ようやくハンヴィーで御別川上流の渡河できそうな深さの所までこれた。ハンヴィーの車体が御別川に入水。向こう岸を目指す。
ハンヴィーのルーフから上半身を出して周囲を双眼鏡で警戒する。
平野は昨夜、
楽しそうに碌でもない替え歌を教えていたので注意してから車内に視線を向ける。
車内では
その光景を見ると何故か少しイライラする。
イライラを平野で発散しつつ、対岸に到着する。
寝ている人を起こして、車から降り各々が準備を始める。制服は洗濯したが血がこびり付いて落ちなかったので、静香先生の友達の部屋から持ってきた服に着替える。
今後の事をひとまず確認し、一番距離が近い私の家に向かうことになった。
◆
「次を左ッ!」
車が大きく揺れる。
初めのうちは〈奴ら〉を目にすることはなかったが、私の家に近づくにつれてどんどん〈奴ら〉が増えていく一方だ。道を徘徊する〈奴ら〉を目にしながら次々に道を変えているが、どこも〈奴ら〉で溢れかえっている。
比較的広い道路も同様で〈奴ら〉によって埋め尽くされている。しかし、この道を行かなければ家には着けない。
「このまま押しのけて!!」
〈奴ら〉の群れに突入し、さらに車の揺れが酷くなる。
この道を真っ直ぐ行けば私の家まで目と鼻の先だ。
(もう少しでッ!)
それに初めに気が付いたのは
アイツはいきなり静香先生が握っているハンドルを後部座性から乗り出して強引にきる。それにより車体は横滑りしながら
(ワイヤーッ!?)
ぶつかってようやく気が付いた物は、道を遮るように張られたワイヤーだった。気づかずにあのまま進んでいたら車体が宙を舞っていたことだろう。
車がぶつかってもワイヤーは一本も切れていないことから相当強固に作られている。
車体を横にしたが勢いは止まらず滑り続ける。
「なんで止まらないの!?」
「血油よッ!」
「静香先生、タイヤがロックしてます! ブレーキ離して、少しだけアクセル軽く踏んで」
「ええッ!?」
突然の急停車。ルーフに乗っていた宮本が前方にボンネットに背中を強打し飛ばされる。
小室も車から飛び降り宮本と〈奴ら〉の間に立ち鉄砲を撃つ。
平野もルーフから身を乗り出し加勢する。しかし、〈奴ら〉の数が多すぎる。倒しても、倒しても終わりが見えない。
毒島先輩も木刀で近づいてくる〈奴ら〉の頭を叩き割る。その毒島先輩をフォローするように
静香先生はエンジンをかけようと必死にキーを回すがエンジンがかかることはない。
その時、小室が手放した鉄砲が目についた。
(私だってっ!)
ドアを開けて車外に飛び出る。
「使い方わかりますか!?」
「当り前じゃない、私は天才なんだから!!」
散弾銃を手に取ってスライドを引き、道路に散らばっている弾を込めていく。
弾を込めるのに集中しすぎて〈奴ら〉が目の前に来ているのに気づくのが遅れた。
「フッ!」
鋭く振りかぶられた木刀が私に迫っていた〈奴ら〉の頭部を破壊。脳しょうや肉片が私に降りかかる。
せっかく着替えしたのにッ!
「アタシは臆病者じゃない。アタシは臆病者じゃない!!」
自分に強く言い聞かせながら鉄砲を構えてトリガーを引く。強い反動が叩き付けてくる。
それでも再び鉄砲を構えて撃つ。
「死ぬもんですか! 誰も死なせるもんですか!!」
スライドを引いて最後の弾を撃つ。
「・・・・・・私の家はすぐそこなのよ!!」
道にはもう予備の弾はない。すべて撃ち尽くしたのだ。
緊張と動揺と焦燥と―――そして紛れもない恐怖が胃の底に沈む。もう逃げられないのだと、絶望と言うなの麻薬が流れ込んでくる。
そんな私の〈奴ら〉の間に立ちふさがる背中がある。
「……篠崎」
初めて名前を呼んだ。
今も鉄砲を撃って、諦めていない。私たちをなんとしても守ろうとしてくれる人の名を……。
篠崎は、ライフルから拳銃に持ち替えてさらに撃つ。
撃つ。
撃つ。
撃つ。
ライフル弾の薬莢が多く転がっている地面に拳銃弾の小さな薬莢が加わる。拳銃のスライドが後退して弾が無いことを報せている。
敵の前進に対応して退がる足は、恐れでも怯えでもない。再び拳銃を再装填。戦闘を継続する不断の意志の証明だ。両手で拳銃を保持して押し寄せる圧力に対し、決して逃避はしないと決めた抵抗の意志。
例え一歩ずつ後退を強いられようとも、奴らに背中は見せはしないのだという抵抗。
少しずつ近づいてくる〈奴ら〉に 篠崎以外が死を覚悟した。
その時、タイプライターを連打するような高速の炸裂音が鳴り渡る。粉々に砕けるコンクリート片と〈奴ら〉残骸で、視界が灰色と赤い霧によって視界が遮られる。
立て続けの炸裂音が鼓膜を突き痺れさせる。〈奴ら〉に降りそそぐ死の弾雨。あたり一面で跳弾の粉塵が舞い上がった。炸裂音が
死を覚悟した〈奴ら〉の群体は、統制された無敵の銃口を前に完全に撃破されていた。僅かに蠢く残骸も、ロープを使っての
正体不明の者たちは、焼け付く寸前の銃身から激しく蒸気を立ち昇らせていた。
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