学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~   作:富士の生存者

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お待たせしてしまいすみません。
皆様、メリークリスマス。リアルでいろいろとやる事と諸々のハプニングがあり更新が遅くなりました。
今回は宮本麗さんSIDEでお送りさせていただきます。
改めて考えてみると、ハンヴィーから麗さんが投げ出されて打撲だけで済んだのは奇跡ですね。
皆さんも車の上には乗らずにしっかり車内に入りシートベルトをしましょう。


第24話 『とんでもない飛び方』

 

宮本麗SIDE

 

 

 白い清潔なベットの上で目が覚める。

 昨日は、これまでの疲労と鎮痛剤によりすぐに眠りに付く事が出来た。

 

 ここは高城さんの家の部屋。私たちはやっと目的地にたどり着く事が出来たのだ。

 高城さんの両親はどちらも無事で、状況が悪くなる前にすぐに部下の人達をまとめて問題に対応し、被害を最小限にとどめる事が出来たようだ。

 

 軽い朝食をとりうつ伏せでベットに横になっている際に昨日の事が頭をよぎる。

 

 

 ……結局、私はあの人の足を引っ張ってしまう。

 

 

 一瞬の浮遊感、視界が反転した後にくる背中の激痛で顔が歪む。衝撃で肺から空気が強制的に吐き出される。立ち上がろうと手や足に力を入れようとするが上手く力が入らない。だが、視線だけは動かせる。

 ハンヴィーのドアを開けて勢いよく飛び出す人影。

 

 『パシュンッ!』空気を叩いたかのような音と共にアスファルトに金属の空薬莢が澄んだ音を立てて跳ねる。

 それに続いて『ドンッ!』と重い音とそれよりも軽い『バンッ!』という音。

 ようやくその音が銃声だと認識する。

 

 みんなが戦ってる。

 私も戦わなきゃ……。

 

 

「くッ!?」

 

 

 ようやく体を動かすが、態勢を少し変えただけで激しい痛みで視界が点滅する。身体は酔ったように熱く、自分の身体が自分の物ではないみたいだ。変な汗が私の額を流れる。

 

 目の前に広がるのは死者の波。それが着実に私たちを呑み込もうと迫っている。

 耳元で、銃声と空薬莢が路面で跳ねる硬い音が鳴り続ける。その中で自分の身体が引っ張られているのに気が付く。

 孝が必死にワイヤーの方に私を引きずっていく。

 

 追い詰められているのに私の体は、油の切れた機械の様に軋んで満足に動こうとはしてくれない。強く打ちつけた尾底骨から激痛が走る。けれど息が詰まったままなのは、痛みの所為なんかじゃない。

 

 こんな世界になって幾度も経験した死という現実。

 死者の波が、運命が定まったのだと嘲笑いもせず黙示しているかのようだ。

 

 淳也さんは、自動小銃から拳銃に持ち替える。

 右手で拳銃を撃ち、左のナイフを〈奴ら〉の目に突き刺す。それでも次々に押し寄せる死者の波は途切れることはない。

 目と鼻の先まで〈奴ら〉が迫ってくる。

 

 

 どうにもならないのだ。もう絶対に――――絶望にすべての感情を食い荒らされながら、心と体はただ『その時』を待つだけの諦めへと停止していく。

 

―――死ぬ。こんな所で、こんな不様に尻餅を付いた格好で。けれど、そんな最悪の状況だと言うのに……。

 恐怖よりも悔しさがこみ上げてくるのは、どうしてなの?

 

―――もう何をしても無駄なの?

 

 納得がいかない。

 ガソリンスタンドで味わったような自分の無力を矮小さを、もう一度噛み締めなければいけないことが。

 

 私は、最後まで足掻きたい!

 

 そう固く決意し、萎えた腕に力を込めてベルトで前に吊っているライフルを持ち上げようとするが構える事すらできない。

 

 諦めるもんですか!

 

 今度は淳也さんから預かっている拳銃を、腰のホルスターからなんとか取り出す。震える指先でハンマーを上げる。 私に近づいてくる〈奴ら〉の1体になんとか狙いを合わせる。

 

 引鉄を引こうとした瞬間―――〈奴ら〉がまるで透明な鉄槌を叩き込まれたかの如く吹き飛ぶ。

 

 それは、私達がやったものではなかった。

 連続して鳴り渡ったのは、目の前の空間自体が殴り付けてくるような炸裂音。

 

 死者の群れの後方が爆音と共に吹き飛び、爆発の衝撃で〈奴ら〉がドミノのように倒れる。そこに上の方から浴びせられる容赦ない弾丸の嵐。

 〈奴ら〉を倒したのはコンクリートの壁をロープで降りてくる人たちのようだ。

 

 自衛隊の人なのか警察の人なのか見た目では分からないが、これでみんな助かる。緊張の糸が緩み、再び痛みがぶり返して来る。

 ロープを使って降りてきた人たちは、〈奴ら〉の残りを頭を粉々に砕いて完全に無力化していく。その集団の中からこちらに近づいてきた1人の兵士は、体の線からして女性のようだ。 

 

 

「お迎えに上がりました。隊長」

 

 

 淳也さんの事を隊長と呼んだその女性兵士は、淳也さんの前に来て顔を覆い隠していた目出し帽を取る。纏まっていた黄金の髪が舞いその顔が露わになる。その人は、日本人ではなく目鼻立ちのきりっとした綺麗な顔をしていた外国人だった。

 続く彼らの行動に思わず、目を疑った。

 

 私たちに向けられた無数の陽炎が立ち上る黒い銃口。

 

 淳也さんの仲間ならなぜ私たちにその銃口が向くのか、私には分からなかった。周囲の空気が帯電したように張りつめていく、独特の感覚が皮膚を通して伝わってきた。孝と毒島先輩、平野君はとっさに動こうとしたが、その動きを阻害する様に淳也さんの仲間は、強く冷徹に睨み付けている。  

 

 その銃口から紅蓮の銃火が閃めけば私たちは呆気なく、なすすべもなく蹂躙されるだろう。

 だが、その時は訪れなかった。

 

 淳也さんが一言いうと全員が銃口を下げた。

 それから集団の中から1人私に近づいてくる。その人は、自分は衛生兵だと言い私の怪我の具合を確認した。

 

 意識ははっきりしているか、頭は打っていないか、どのような痛みなのかを聞かれ答えていく。

 衛生兵の人の話では最悪、骨が折れているかひびが入っているかもしれないという結果だった。ひとまず今すぐに命の危険はないと言われた。

 

 無線から何か連絡があったのか、淳也さんの仲間の人達が車を盾にするかのように道路に張られたワイヤーの向う側に銃口を向ける。私達は全員、ワイヤーの向こうから見えない位置に移動させられた。自力で動けない私は孝と高城さんに肩を貸してもらいなんとか移動する。 

 

 ワイヤーの向う側に荷台に人を乗せたトラックが停まり、助手席からは消防の服を着た人が降りてこちらに近づいて来るが、淳也さんの仲間の金髪の女性が動かないように警告を発するとその人物は動きを止めた。

 消防服を着た人に淳也さんは私たちを保護する様に交渉を進めていく。当然のことながらその保護する対象には淳也さんは含まれていない。

 

 相手を見る限りしっかりとした組織だった行動をしていることが伺える。そういった集団に保護されれば安全性は増すことだろう。

 

 

「……いいでしょう。民間人は私たちが保護します」

 

 

 淳也さんとその消防服を着た人の交渉は無事に終わった。

 これで、淳也さんとは別れることになる。私たちの事を思ってあの人たちに託そうとするのは頭では理解できるが、感情ではどうしても納得できない。

 綺麗ごとで異を唱えても、ならばと私が出来る事など何もなかった。しかし、運は私たちの味方だった。消防服を着た人は、高城さんのお母さんだったのだ。

 高城さんの説得で私達、全員が高城さんの家に辿り着く事が出来た。

 

 

 自衛の心配のない環境で私たちはこれまでの緊張を緩めていた。

 到着した次の日、お昼を過ぎると私が休んでいる部屋に淳也さんを除いたみんなが集まる。これから私たちがどうするかについて話し合うために集まったのだ。

 

 

「篠崎が私のパパと話し合いをしている間に私たちは選択しなきゃならないわ。……仲間のままでいるか、別れるか」

 

 

 私は―――私たちは、決断しなければならない。

 

 

 

 




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