学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~   作:富士の生存者

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皆様、お待たせしてすみません。
今回は主人公SIDEに比べ主要キャラSIDEが短めになっています。



第6話 『とんでもないセンコウ』

 

 

 主人公SIDE

 

 

 

 

 

 右のアサルトブーツの(かかと)がアスファルトを捉えた。

 その衝撃は骨を伝って、一気に脳天へ突き抜け足の裏がべったりと地面に張り付き足首と連動して体を前へと前進させていく。

 

 地面を蹴った左の膝を曲げ、右足を追い越しつつ、すぐに前へ蹴りだす。

 

 道を遮るゾンビを的確に仕留めていく。

 

 俺を含めた全員が同じ状況だ。

 全力で駐車場に止めてあるマイクロバスに走る。

 

 ゾンビは、走る食事に(俺たち)かぶりつこうとする。

 俺を食っても美味しくないよお嬢さん。

 

 女子生徒であったモノの頭を再装填した5.56mm弾で吹き飛ばす。

 

 まあ、わかってたけどね。

 何もなくたどり着くのは無理だって。

 

 

 

 思い起こせば数分前――――

 

 

 

 

 職員室で今後の計画を立て、息を整えた俺たちは途中、いまだに生き残っていた生徒を拾い正面玄関に辿り着いた。

 下駄箱の陰から正面玄関を伺うとそこには、かつて生徒だった存在がわんさかいた。

 

 

 結論…正面玄関からの脱出無理じゃね。

 

 

「奴ら見えてないから隠れることないのに」

 

 

 高城さんはそういうが、最近のゾンビ映画は視覚も残っている物が多い。もし見えてたらたまったものではない。念には念をだよ。

 

 

「校舎の中を進み続けて、襲われた時身動きがとれない」

「玄関を突き抜けるしかないのね」

「誰かが確かめるしかあるまい」

 

 

 毒島さんの言う通り誰かが生贄にならなければいけない。

 誰か……?

 

 あれ、この場合格好からして俺じゃね?

 あまり行きたくないな。

 

 誰だって行きたいとは思わないけど。

 ここは、小室君に助けを求めよう。俺はバックアップに徹しよう。

 バックアップは任せろ。

 

 

「よし、ここは僕が行こう」

 

 

 待ってたぞ、その言葉を!

 これで、俺行かなくていいでしょ。決まりでしょ?

 

 

「孝が行くより、私が…」

「私が先に出た方がいいな」

 

 

 え?

 何この流れ。

 みんなそんなに生贄になりたいのか。

 

 それじゃ年上の俺が行くよなんて言わなくちゃいけなくなるじゃん。

 死亡フラグは回避できないのか……。

 

 

「俺が行こう」

 

 

 結局こうなるのか。

 装備をチェックしレッグホルスターから拳銃を抜く。

 

『MK23』――45口径の弾薬を使用する拳銃である。装弾数は、薬室に1発入れた状態で

13発。装弾数は少ないがこの銃のいいところは消音器(サイレンサー)との相性がいいのと威力があるところである。

 

 銃身の突起(ラグ)消音器(サイレンサー)を取り付ける。

 もし、死体の視覚が残っていた場合、至近距離では自動小銃の大きさでは小回りが利かないため拳銃を選択した。

 

 

 目の前をゾンビが通過する。

 その距離20cm。

 

 ヤバい。怖くて漏れそうだ。

 

 心臓に悪いよ本当に。

 

 どうやら高城さんの説は正しいらしい。

 正しくなかったら貪り食われるところだ。

 

 床に落ちていたシューズを拾い、入り口とは反対の方に投げる。

 ほら、取っておいで。そして、戻ってくるなよ。

 

 壁に当たったシューズは、無事に玄関のゾンビを誘導することに成功した。

 これで問題なく通れるだろう。

 

 この時点までは順調だった。そう順調だったんだ。

 

 小室君を先頭に続々と入り口をくぐっていく。そして最後の1人がくぐった瞬間。

 

『カーン!!』と音が響いた。

 

 最後の男子生徒の持っていたサツマタが入り口の枠にぶつかった音だ。

 やってくれたなぁぁぁぁ!

 俺の勇気を一瞬で水の泡にした瞬間である。

 

 

 

 それで、冒頭にさかのぼる。

 

 

 

 マイクロバスの周りのゾンビは自動小銃ですぐさま掃除した。

 いち早くマイクロバスに乗り込みたいが、鍵は鞠川先生が持っているのだ。

 

 

「鞠川先生、鍵を」

 

 

 どんどんとゾンビが群がってくる。

 これは、長くは持たない。

 

 既に途中で助けた生徒が何人か食われた。

 正面のゾンビだけでも掃討しなければ。

 

 

「篠崎さん、全員乗りこみました!」

 

 

 ちょッ! 俺、最後かよ!

 

 

「道は作ったが長くは持たない」

 

 

 せっかく正面のゾンビを掃討したが、再び群がってくる。

 

 

「ま、待ってくれッ!」

 

 

 小室君がマイクロバスのドアを閉めようとすると校舎のほうから複数の生徒と教師らしき眼鏡をかけた男性が走ってくる。どうやら、まだ生存者がいたようだ。

 毒島さんは、男性教師を知っているらしい。

 

 

「3年E組の紫藤だな」 

「紫藤…!」

 

 

 毒島さんと宮本さんあの先生を呼び捨てにしたよ。男性教師なんてそんなもんか。だけど、宮本さんの顔がヤバい。

 まさに、阿修羅――――憤激と憎悪を糧とする闘争の悪鬼だ。

 眉間の皺から剥き出した白い糸切り歯に至るまで、強烈な鬼の形相が浮かび上がっていた。

 

 おいおいあの教師、宮本さんに何したんだよ。

 この顔は相当だぞ。

 セクハラか?

 セクシャルハラスメントか?

 

 阿修羅の表情のままの宮本さんが小室君と言い争っている。

 小室君よく話せるな。

 

 俺は回れ右してゾンビの集団に特攻したほうがましだ。 

 

 

「あんな奴、助けることなんてない! あんな奴、死んじゃえばいいのよ!!」

「どうしたんだ、麗!」

 

 

 再び、セクハラ(紫藤)先生一向に視線を向けると集団最後尾の眼鏡をかけた男子生徒が盛大にこけた。足を痛めたのか立ち上がることができない。セクハラ(紫藤)先生に助けを求めているようだ。

 

 それをセクハラ(紫藤)先生は、笑顔で眼鏡をかけた男子生徒の顔面をヤクザキックしやがった。

 少年は、顔の激痛から声を上げてしまい奴らの餌食になる。その間、紫藤先生は悠々とバスに乗り込んだ。

 

 とんでもないセンコウもいたもんだ。

 こいつなら宮本さんにセクハラとか本当にしてそうだ。

 

 いくら可愛いからって生徒に手を出しちゃいけないでしょ。

 警戒しておいたほうがいいな。

 

 こうして俺たちは、マイクロバスでゾンビが溢れる校舎を後にした。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 平野コータSIDE

 

 

 

 

 

 

 僕は、前の世界ではずっと我慢してきた。

 どれだけ馬鹿にされても愛想笑いを浮かべて耐えてきた。でも、もうそんなモノは何の意味もない。

 

 くぎ打ち機で生徒であったモノの頭に釘を撃ちこむ。

 そうだ、この世界が俺の世界なんだ。

 

 ここなら俺の居場所がある。

 そう思っていた。

 

 

 消音器(サイレンサー)で抑制された銃声が鳴り、目の前に出てきた〈奴ら〉が倒れていく。

 

 篠崎さん…彼は、僕の理想そのものだ。 

 重火器を自由自在に使いこなし、〈奴ら〉を倒していく。

 

 海外の民間軍事会社『ブラックウォーター』で銃の撃ち方の訓練を受けたけど篠崎さんの銃の扱いはとことん無駄を省いたものだ。 

 

 最小限の抑えた息継ぎだけを行い、身体の動きそのものには一切の乱れを生じさせない。

 不必要な激しさも、過剰な心情の発露なども感じられない。

 

 あくまでも機械的な美しさすら感じられる動作だった。

 

 

「リロード!」

 

 

 それでいて自身のリロードを報せる基本を省いたりしない。

 

 

「カバー!」

 

 

 すぐさま、篠崎さんが再装填を終えるまで僕が行き先に進み出てくる〈奴ら〉を撃つ。

 こんなすごい人に頼りにされるという嬉しさがこみ上げてくる。

 

 そうだ、僕が守るんだ。

 みんなを…高城さんを!

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 小室孝SIDE

 

 

 篠崎さんが銃で〈奴ら〉を倒しているから僕たちが相手にする数はそれほど多くはない。しかし、足を止めてしまえば囲まれ引き裂かれる。

 

 

「先生、キーを!」

 

 

 正門に繋がる道の〈奴ら〉は篠崎さんが撃ち倒している。かなりの距離があるのに1発撃つごとに1体倒れる。

 すごい、この距離で的確に頭に当てている。

 

 篠崎さん以外の全員がバスに乗り込んでから声をかける。

 いざ、バスの扉を閉めようとすると校舎の方から声が聞こえた。

 

 まだ、生き残っていた人がいたんだ!

 

 すぐさま助けようと外に出ようとすると麗に止められた。

 

 

「あんな奴、助けることなんてない! あんな奴、死んじゃえばいいのよ!!」

「どうしたんだ、麗!」

 

 

 いったい麗はどうしたのだろう。

 ここまで言うのは麗らしくない。

 

 僕たちが口論している内に紫藤がバスに乗り込んでくる。

 

 

「後悔するわ! 絶対に後悔する!!」

 

 

 僕にはどうしてここまで麗が言うのかわからなかった。

 永なら何か言葉をかけていただろう。だけど、僕にはなんて言っていいのかわからない。

 それを正しい言葉で示すことが、今の僕にはまだ出来そうにない。そして、正しくない言葉でこの気持ちを語りたくない。

 

 そうだ。

 好きな子の事なのに僕はわからないことだらけだ。

 

 わかる時が来るのだろうか、この世界で……。

 

 

 

 

 




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