学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~   作:富士の生存者

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暑い日が続いています。皆さんもお体に気をつけてお過ごしください。


第7話 『とんでもない運転』

 主人公SIDE

 

 

 

 バスが大きく揺れる。

 

 初めて、人が潰れる姿をまじかで見たが。豆腐メンタルの自分にとってトラウマ物である。

 いや、豆腐メンタルでなくてもトラウマ物だろう。

 

 フロントガラスには、べっとりと血が付着している。

 俺は、助手席から運転席のワイパーレバーを操作しフロントガラスを綺麗にする。

 

 コンビニの前のゾンビを容赦の文字すら吹き飛ばす勢いで轢き殺したのは鞠川先生である。

 俺はもっと安全運転だ。小心者だからな。

 

 藤美学園を脱出し、街を目指しているがどこにでもゾンビがいる。

 

 

「なんで俺たちまで小室達に付き合わなきゃならないんだ? お前ら勝手に町に戻るって決めただけじゃねえか。寮とか学校で安全なところを探せばよかったんじゃねえか!?」

 

 

 見るからにヤンキーの男子生徒が具体的な解決策も示さないまま不平を喚き散らしている。

 こういう奴をなんて言ったっけかな…そうだ!

 

 DQNだ!

 

 DQNのおかげでバスの中の空気が悪くなる一方である。

 窓を開けても入ってくるのは火事になった家の焦げ臭いにおい。一向に良くなることはない。

 

 さらに低空で飛行しているテレビ局のヘリから人が落下するところまで見えてしまった。

 豆腐メンタルの俺にはつくづく合わない世界である。

 

 誰もいないところで静かにコーヒーを飲みたい。 

 

 

「もういい加減にしてよ! こんなんじゃ運転なんてできない!!」

 

 

 ついに鞠川先生がキレてバスを路肩に停車した。

 あの、のほほんとしている鞠川先生がキレたのだ。

 

 

「んだよォッ! 何見てんだやろうってのか!」

 

 

 え?

 俺のことか?

 いや、見てないよ。後ろの景色を見てたんだよ。

 

 

「ならば君はどうしたいのだ?」

「うっ……」

 

 

 『うるせぇ!』と言おうとしたのだろうが睨みを効かせる毒島さんの迫力で、DQNは言い淀んでしまう。

 確かにビビるよね。

 俺も知らず知らずのうちに銃の安全装置を外しそうになってるし。

 

 

「気に入らねぇんだよ。こいつが気に入らねぇんだ! なんだよ偉そうにしやがってッ」

 

 

 おい、せめてこっちを見て指を指してくれ。

 俺か小室君かわからない微妙な位置を指さすな。

 

 それに、そんなに俺は偉そうにしてないよ。事の成り行きを助手席から見守っているだけだけど。

 あっ、これが世間では偉そうにしてるっていうのかな?

 

 

「なにがだよ? 俺がお前に何か言ったよ?」

「てめっ!」

 

 

 ここは、部外者の俺が止めるべきだろう。

 穏便にすませよう。

 

 言葉は人類が生み出した最大の武器なのだから。 

 

 そういえば俺、喋るの苦手だった……。

 

 助手席を立ちあがりDQNを止めるため後ろに向かおうとすると段差に足を取られた。

 バランスを崩した俺は勢いよく小室君に近づいてきた男子生徒の腹部に踏み込みが入った、いいパンチをお見舞いしてしまった。

 

 やばっ!

 DQNがくの字になってセクハラ(紫藤)先生もろとも1番後ろの座席まで飛んでいく。

 

 どうしよう。

 直後に俺は猛烈な後悔に襲われた。バスの中の空気が音を立てて凍り付いたのが見えるようだ。

 足をもつれてDQNにパンチを入れてしまうなんて俺はなんてことをッ……。

 

 

「落ち着け」

 

 

 そう自分に言い聞かせることで精一杯の俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 毒島冴子SIDE

 

 

 木刀に付いた血を篠崎さんから頂いた布でふき取る。

 恐らく彼は、私が彼の何かに恐れを抱いていることに気付いている。

 

 

 確かに篠崎さんの動きは、寡黙な機械の様に力強く、基本からぶれないスタイルでとても研ぎ澄まされたものだ。

 表情は目だし帽(バラクラバ)でうかがい知れない。

 

 〈奴ら〉を刃物で仕留めるのを見ていたが、流れるように眼球に刃物を突き入れ無力化していた

 

 恐れていても彼の事を目で追ってしまう。

 

 

 バスの中ではまだこの世界を理解しようとしない者達が喚き散らしている。

 具体的な案があるなら聞く耳を持つが、その生徒が言っているのはどれも不平ばかりである。

 

 

「ならば君はどうしたいのだ?」

 

 

 やはり、これといったことをその生徒の口から聞けることはなった。

 

 八つ当たりである。

 

 今までの平和な日常が突然、地獄へと変わってしまったことを誰かにぶつけたいのだ。

 

 誰もがストレスを感じてる中でその行為は、場の空気を悪くする他ならない。

 小室君がその生徒の言葉に食いついてしまった。

 

 このままでは殴り合いになるだろう。しかし、それを彼が見逃すはずはない。

 

 彼は、助手席から立ち上がり小室君に殴りかかろうとした生徒を後部座席まで吹き飛ばした。

 見た目は派手に見えるがそれほどの威力ではないことは、武道をたしなんでいる身としては理解できる。

 

 拳を入れた際に拳を踏み込みと共にそのまま突き出していくのではなく、拳を戻したことで威力を落とした。

 彼ほどの腕ならば骨や臓器にも大きなダメージを与えることができるだろう。

 

 

「落ち着け」

 

 

 彼の言葉でそれまで場を支配していた空気が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 鞠川静香SIDE

 

 

 

 拍手をしながら先ほど後部座席まで飛んで行った紫藤先生が先頭まで戻ってくる。

 大丈夫かしら。

 

 顔は笑っているけど体の動きがカクカクしてるわ。

 

 初めて人が殴られて飛ぶのは見たけど思ったほどダメージはないみたい。普通なら人が飛ぶような衝撃があればどこかの骨の損傷や臓器からの出血などがあるけど、見たところ篠崎さんに飛ばされた生徒は嘔吐しかしていない。

 あんな冷たい声をしてたのにしっかり手加減はしてるのね。

 

 

「こうして争いが起きるのは、私の意見の証明にもなってますね。我々にはリーダーが必要なのです!!」

 

 

 リーダー?

 それなら篠崎さんなんじゃないの。学校から脱出できたのも篠崎さんの助けがあったからだし。

 紫藤先生って何かしたかしら?

 

 

「それで、候補者は1人きりってわけ?」

「私は、教師ですよ高木さん。それだけでも資格の有無はハッキリしています」

 

 

 確かに有事の際に生徒を引率するのは先生の役目だけど、私も一応先生なのよね?

 でも、私にリーダーなんて絶対無理ッ。

 

 紫藤先生がリーダーになるのもなんか嫌なのよね。

 やっぱりここは鉄砲を持ってる篠崎さんになってもらうのがいいんじゃないかしら。

 

 

「…という訳で、多数決で私がリーダーになるということで決まりました」

 

 

 意見をいい出す前にいつの間にか多数決が取られていた。

 私も先生なのに……。 

 

 

「先生、ドアを開けてください! 私、降りる! 降ります!!」

 

 

 宮本さんが血相を変えて私に言ってきた。

 突然の事でどうしたらいいのか私にはわからなくて、そうしているうちに宮本さんは助手席のドアから外に飛び出した。

 

 

「行動をともにできないというのであれば仕方ありません」

 

 

 はやっ!

 紫藤先生は生徒を止めることもしないなんてッ。

 

 私が宮本さんを連れ戻そうとすると肩に誰かの手が添えられる。

 振り返ると篠崎さんが軽く頷き宮本さんを追ってバスの戸惑いなく外に出ていった。

 

 その時の私は宮本さんの事が少し羨ましかった。

 自分の考えがハッキリ言えて行動することもだけど、やっぱり知り合って間もないのに何の戸惑いもなく後を追いかけてくれる人がいることに。

 

 

 

 

 




SIDEのお話が短くて申し訳ありません。
静香先生のSIDEはなかなか難しくどうしても短いものになってしまいました。出来るだけSIDEのお話が長くなるように精進していきます。
ご意見やご感想があればよろしくお願いします。

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