ダンジョンに竜の騎士が現れるのは間違っているだろうか?   作:ダイ大好き

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ベル君修行編 といってもアバン流刀殺法を習ってるわけじゃないですが。


第7話 修行

早朝、日がようやく昇り始め、朝焼けが眩しく迷宮都市(オラリオ)の町並みを照らしていた。

まだほとんどの住民が夢の中で微睡んでいる時間帯に、路地裏を走る少年達の姿があった。

ベルとダイである。

昨晩、ベルに戦い方を教えて欲しいと頼まれたダイは、その希望通りさっそく朝からベルに特訓をつけているのだ。

かつて自分がアバンに教えを請うた時の内容を思い出し、最速で勇者になれる為の特別(スペシャル)ハードな特訓を…!

 

「ぜぇ…はぁ…ひぃ……」

「…大丈夫かい?」

「だ…だいじょう…ぶ……です」

 

ベルは今ひたすら走っていた、それも体にロープを巻き、瓦礫を括りつけた重りを繋げた状態でだ。

ダイが『準備運動』と称した、この地獄のランニングはすでに始まってから30分が経過していた。

 

最初こそ気合を入れて走っていたベルだが、すでに息も切れ切れ、満身創痍の有り様だった。

ちなみに一人だけやらせるのもなんだか悪い、と考えたダイも同じ条件で走っているのだが、息一つ切らしていない為、ベルにとってはひたすらプレッシャーとなっていた。

 

隣で平然と走り続けられては、限界だと訴えて休みたいとも言い出せない。

結果としてさらに10分走り続けた結果。

 

 

 

 

ベルはぶっ倒れた。

 

 

 

 

それはもう盛大に、石畳に顔面を強打する勢いで崩れ落ちた。

ベルが倒れたことで慌てたダイは、ベルを背中に背負い、ホームである廃教会へと運び込んだ。

 

ベッドの中で熟睡していたヘスティアは、ドタドタと慌ただしく駆け込んでくる足音で目を覚まし、何事かと文句を言おうとしたところ、青くなったダイに背負われ、ぐったりとしたベルを見て悲鳴を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

ベルの体を拭き、水を呑ませてベッドに寝かせた後、ダイは床に正座させられ、ヘスティアに説教を食らっていた。

 

「何をやってるんだ君は!恩恵を受けたとはいえ、ベル君はまだステイタスもロクに上がっていない駆け出しなんだぞ!そんな子に重石を括りつけて何十分も走らせたら倒れるに決まってるだろう!」

 

ツインテールを逆立てて説教するヘスティアは、いつものロリ神っぷりはどこへやら、鬼神の如きであった。

対して、説教されてタバコの箱のように小さくなったダイは小さく言い訳を口にする。

 

「ごめん、でもオレもアバン先生に修行つけてもらった時は同じことを…」

「そのアバンとやらが誰かは知らないけれど、その人は君の能力を把握した上で、限界ギリギリを見極めてやっていたんだろう、それと同じことをやったら、並の人間は倒れてしまうということさ」

「そっか……」

 

かつての修行を思い出す、今考えてもとにかくめちゃくちゃハードだった内容だが、あれでもダイに対して最適化された訓練内容だったのだろう。

つまり、人に修行をつけるには、まずはその人の能力を正確に把握して最適な内容の訓練を考えなければいけないということか。

やはりアバン先生はすごい…と、そこまで考えたダイは、気付いてしまった。

『あれ、それってオレには無理じゃないかな…?』と。

 

アバンの修行と数多の実践経験、そしてバランから受け継いだ《戦いの遺伝子》のおかげで、自らの戦闘技術は他の追随を許さない。

しかしそれを他人に教えるのはまるで違う話なのだ。

勉強が嫌いなダイにとって、『人に教える』という行為はかなりハードルが高いといえた。

 

(うーん、教えるのは難しいとなると、あとは実践形式での特訓しかないのかな)

 

やはり実戦経験は何よりも勝る経験値となる。

そう考えたダイはヘスティアに薬草のような回復用のアイテムなどが売っている店はないかと質問した。

 

「回復薬?ポーション系のアイテムなら神友(しんゆう)のミアハって奴のファミリアで売っているよ」

「買いたいものがあるんだ、そこに連れて行って欲しいんだけど」

「いいよ、ベル君にも紹介しておきたいから、起きたら一緒に行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじゃまするよー、ミアハー、いるかい?」

 

 

お昼前、目を覚ましたベルを連れて、ミアハファミリアのホームである古ぼけた道具屋(アイテムショップ)にヘスティア達はやってきていた。

ホームの扉を開けて店内に入ると、瞼が下りた半目の眠そうに見える犬人(シアンスローブ)の少女がカウンターに座っていた。

 

「あら…ヘスティア様、いらっしゃいませ~…」

 

抑揚のない、間延びした声で出迎える少女は、面識のあるヘスティア以外に、2人の少年がいるのを見て、半分閉じていた目を見開いた。

商売人としての勘が、『この2人は客だ』と告げたのかもしれない。

 

「こんにちはナァーザ君、突然ですまないけど、ミアハはいるかい?」

「ミアハ様は奥にいます…呼んできますね…」

 

目は開いても、間延びした声はそのままで、大きな尻尾を揺らしながら奥の部屋へと入っていくナァーザ。

大して待つこともなく、奥から一人男性を連れて戻ってきた。

 

「どうしたヘスティア、店にやってくるとは珍しいではないか」

 

長身でしなやかな体格、男性としては長い群青色の髪、貴公子然とした印象の男性が、このファミリアの主神、ミアハだ。

ミアハはヘスティアの後ろに佇む2人の少年を見て、何かを察したようにヘスティアへと向き直る。

 

「おぉ、ヘスティアよ、もしやついに己の眷属が出来たのか!?」

「そうなんだミアハ、それも2人もいっぺんに出来たんだぜ」

「おめでとう、新たなファミリアの門出、心より祝福するぞ」

 

ミアハはヘスティアにそういうと、ベルとダイの方へと向き直った。

 

「まずは自己紹介させて頂こう、私はミアハ、こちらは我がファミリア唯一の構成員ナァーザ、うちのファミリアはポーション等の冒険に役立つ道具を中心に取り扱っている、どうぞご贔屓に、末永くよろしくお願いする」

「ナァーザ・エリスイスです……ポーションの調合等やってます、よろしく…」

 

神と眷属が頭を下げて挨拶してきたことに慌てたベルは、自らも勢い良く頭を下げて自己紹介をする。

 

「僕はベル・クラネルです、田舎から出てきたばかりでわからないことばかりですが、よろしくお願い致します!」

「オレはダイ、ちょっと事情があって迷宮都市(オラリオ)に来たんだ、よろしく」

 

ダイもベルに続いて頭を下げる、異世界云々はあまりいい回らない方がいいだろうとヘスティアから言われているため、曖昧な言い方でお茶を濁す。

ミアハとナァーザも、他人の事情に深く干渉する気はないのか、突っ込んではこなかった。

 

「さて、お互いの自己紹介も済んだところで、ちょっとダイ君が買いたいものがあるらしいんだ」

「ほう、さっそく買い物をしていってくれるのか、ありがたいことだ」

 

古ぼけたお店の様子などを見ても、普段からよほど売れ行きが悪いのだろう。

ヘスティアの言葉に、喜ぶミアハ。

ナァーザも表情こそ変わらなかったが、尻尾がゆらゆらと左右に揺れていた。

 

「傷を治すポーションっていうのが欲しいんだけど、いくらくらいするのかな?」

「ポーションと言っても…いくつか種類があるよ……説明しようか?」

「うん」

 

ポーションを買おうとするダイに対して、ナァーザがポーションの説明を始める。

ポーションといってもその種類、ランクによって値段は様々なのだ。

 

具体的にはただのポーションが、体力の回復はできるが小さな傷の治療しか出来ない、最も安価なもの、500~2000ヴァリス程度。

高等回復薬(ハイポーション)が、体力と共に大きな傷も塞いでくれる、中層以下にいくのであれば必須と言っていい、3万ヴァリス前後。

万能薬(エリクサー)が、致命的な傷をも瞬時に塞ぐ最上級の治療薬、50万ヴァリス前後。

 

他にも魔法を使うための精神力(マインド)を回復させるための精神治療薬(マジックポーション)もある

 

そういった説明を受けたダイは、おもむろに取り出した布袋をドンッとカウンターに置いた。

 

「それじゃ普通のポーションを20個と、後念のためにハイポーションを2つください」

「んなっ!?」「え…?」

 

ダイの大量注文に驚愕するミアハとナァーザ、まさかと思い布袋を確認すると、中には大小の金貨が大量に詰まっていた。

ダイは昨日の稼ぎのうち、20万ヴァリスを当面のファミリアの生活費としてヘスティアに渡し、残ったお金を自分用として確保していたのだ。

 

「ヘ、ヘスティア?彼らは冒険者になったばかりではないのか?どうやってこんな大金を…」

 

ミアハの疑惑の視線に晒されたヘスティアは、若干バツが悪そうに目をそらした後、諦めたように語りだした。

 

「ベル君は正真正銘僕の眷属なんだけど、ダイ君はちょっと特殊な子でね、自前の恩恵を持った子なんだ、Lvは5」

「「なっ…!?」」

 

ミアハとナァーザの声がハモる、当然だろう、自前の恩恵を持っているという話でも前代未聞だというのに、Lv5だと言うのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、大金をもっていた件については、昨日ダイが一人で中層に潜り、階層主(ゴライアス)を討伐してきたという話をして、一応の納得をしてもらった。

ナァーザに半目で、じ~~~~っと見つめられながらポーションを購入したダイは、7万ヴァリスを支払い、若干軽くなった布袋を持ってミアハファミリアのホームを出る。

 

「それで、ダイ君はそんなに沢山のポーションを買ってどうするんだい?買い置きするにしてもあまり日が経つと質が落ちるよ?」

「大丈夫、たぶん今日中にほとんど使うことになるよ」

「なんだろう…また寒気が……?」

 

ヘスティアは、ダイの真意に気付きはしなかった、今朝お説教をしたばかりで、また無茶苦茶なことはやらないだろうと油断していたのだ。

ベルは一人、謎の悪寒に震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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その後、ヘスティアは午後からのバイトへ向かい、ダイは武器屋で新しい剣を購入した。

今度のは繋ぎとは言え、簡単に壊れても困るので、同じようなブロードソードでも10万ヴァリスもするモノを購入、切れ味、耐久性が支給品とは格段に違う上質のものだ。

 

その後ダンジョン前にてベルと合流し、1階層へと入っていく、どんどんと奥へ進んでいくダイの後をついていくベルは、何をするつもりなんだろうと首を傾げた。

なお、謎の悪寒はどんどん強くなっていっている。

 

2層へ続くルートから正反対の、ほとんど人のこない場所にある行き止まりの広間に到着すると、ダイはベルに「ちょっとここで待っててね」と告げて元の通路へと戻っていった。

何も説明されず、どうしていいのかわからないベルは、とりあえず言う通りに待つことにする。

 

時折、壁から出現するゴブリンやコボルトを撃退しながら待つこと十数分。

ダイの出て行った通路から『ギャギャーー!』『グギギイィー!』といったモンスターの叫び声が聞こえてきた。

しかもその声の数からしてかなり複数のモンスターがいると判断したベルは焦った。

これまで1対1、もしくは1対2での戦闘しか経験していないベルにとって、複数のモンスターを相手にするのは初めてとなる。

多いようなら一度撤退も考えたほうが…と覚悟を決めたところで通路から入ってきたモンスターの群れを見て驚愕する。

 

「なんでダイさんが連れてきてるんですかーーーー!!」

 

そう、ダイがゴブリンやコボルトの集団、総計10匹を引き連れて戻ってきたのだ。

決して群れに追われて逃げてきたというわけではない、そもそもダイなら1階層のモンスター程度、100匹居ようが物の数ではないのだから。

 

「ベル、強くなる近道は実践あるのみだ、まずはこいつら全部片付けてみてよ!」

「んなぁー!?」

 

ダイはそう言うと飛翔呪文(トベルーラ)で飛び上がり、広間の天井近くで待機し始めた。

目標が手の届かない位置に行ってしまったモンスターの群れは、一斉にターゲットを広間にぽつんと残された哀れな兎へと変更する。

 

『グギャギャギャギャ!!』

『キキキィーーー!!』

 

「うわああああああぁぁぁぁ無理だあああああああ!!」

 

ゴブリンとコボルト総計10体の混成部隊に襲われたベルは、慌てて広間を逃げ惑う。

ダイは逃げまわるベルを上空から見下ろしながら、告げる。

 

「逃げまわってたらいつまで経っても強くはなれないよ、大丈夫だよ、怪我したってポーションで治してあげるから」

(ポーションを買い込んだ理由はこれか―――――!!)

 

ダイの優しさ(鬼畜さ)に号泣する、しばらく逃げまわったが、ダイは助ける気がないと察したベルは、覚悟を決めてモンスターの群れへと振り返る。

 

「ちくしょうやってやるー!」

 

ベルは半ばやけくそ気味に、ナイフを構えてモンスターの群れへと突っ込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

10分後、なんとかモンスターを全て撃破したベルはボロボロになって倒れていた。

ダイは床に降りると、買い込んだポーションを数本、口を開くのも億劫そうなベルに飲ませる。

なんとか復活したベルは開口一番、ダイに食って掛かる。

 

「なんてことするんですか、死ぬかと思いましたよダイさん!」

「危なそうなら割り込もうとは思っていたけど、予想通りベル一人でなんとか出来たじゃないか」

 

まったく悪びれていないダイは、ポーションを数本、ベルに手渡して立ち上がる。

 

「それじゃ、もう1回連れてくるから、それまでここで休んでてね」

「えぇぇぇ!?まだやるんですか!」

「もちろん、ポーションがなくなるまでやるつもりだよ」

「――――――――」

 

絶句したベルを置いて広間の外へモンスターを集めに行くダイ。

結局、自分で訓練をお願いしたという事実と、自腹でベルの為のポーションを買い込んでくれたダイの好意を無碍にすることが出来ず、ベルはそのまま広間で待機し続けた。

 

 

 

 

 

結局、その後5回の怪物進呈(パス・パレード)を処理したベルは、最後の1回を終え、肩で息をしつつも両の足で立っていた。

 

「お疲れ様、これが最後のポーションだよ」

「あり…がとう……ございます」

 

ダイから受け取った最後のポーション3本を飲み干し、ふぅ~と息を吐き出す。

ポーションのお陰で傷もほとんど治り、体力もある程度回復する。

 

「こんな特訓、無茶苦茶ですよダイさん、生命がいくつあっても足りませんって」

 

ベルの非難の声に、若干申し訳無さそうな顔をしつつも、ダイはとある指摘をする。

 

「それでも効果はあったよ、最後の1回、モンスターの数を2匹増やしてたんだけど、ベルはきっちり処理した上に、終わった後も立っていられた、それはつまり最初の頃より効率よく攻撃を避け、攻撃して手早く敵を処理出来るようになってきてるってことさ」

「…!?」

 

ベルはハッとして、ナイフを握った自分の手を見つめる。

言われてみればその通り、無意識とは言え何度も相手をしているうちに、動きが洗練されていったのだろうか。

 

「ありがとうございます、ダイさん!」

 

なんだか嬉しくなってきたベルは、ダイの頭を下げてお礼を告げる。

 

「朝は無茶させてごめんよ、オレはどうも人に教えるってことが苦手だから、結局こんな方法になっちゃったけども」

「いえ、僕が言い出したことですから、これからもよろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベル・クラネル レベル1

力=I7→I22 耐久=I2→I35 器用さ=I9→I19 敏捷=I11→I53 魔力=I0

魔法

【】

スキル

【】

 

 

 

「……」

 

ベルのステイタスを更新したヘスティアは怪訝な顔で、ベルの背中に刻まれた神聖文字(ヒエログリフ)を見つめていた。

 

(おかしい…耐久の伸びが凄い…敏捷の伸び方からいってもベル君は回避重視のはずなのになぜだ…)

 

これほどの攻撃を受けていたのなら、ベルの体に傷が残っていなければおかしい。

だが、改めて見てみても、ベルに目立った怪我は見当たらなかった。

 

(まさか今日買ったポーションは…)

 

嫌な予感がしたヘスティアは、ベルに尋ねる。

 

「ねぇベル君?今日はもしかしてダイ君と一緒にダンジョンいってたのかい?」

「はいそうですよ、ちょっとダイさんにダンジョンで特訓してもらってたんです」

 

やはり!とヘスティアは自分の予感が的中したのを感じた。

 

「へぇ~、だからステイタスがこんなに上がってるのか」

「え、やっぱりすごく上がってますか!?」

「うん、特に耐久と敏捷が凄いね、一体何をやってたのかな~?」

「えっとですね!」

 

 

 

その後、ベルから特訓の内容を聞いたヘスティアはまたしても鬼神と化した。

正座させられたダイは長々とお説教をされたあと、今後特別(スペシャル)ハードコースの特訓を禁止されることになったのだった。


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