ダンジョンに竜の騎士が現れるのは間違っているだろうか? 作:ダイ大好き
今回はもっと先まで進めるつもりだったんですが、思ったより長くなってしまったので途中で切りました。
あと、神様転生タグを外しました。
イレギュラーで異世界に飛ぶのは全部神様転生だと思ってたんですが、違ったようなので…
「ふんだ!ベル君は一人で豪華な食事をしてくればいいじゃないか!」
バタンッと大きな音を立てて地下室のドアが開く。
ベルのステイタスを更新する間、ドアの外で待機していたダイは、突然のヘスティアの登場に驚き、1歩後退した。
ダイは明らかに不機嫌そうなヘスティアの表情を見て首を傾げる。
「どうしたのヘスティア様?」
不思議そうに問いかけられたヘスティアは、ガシッとダイの腕を掴むと、そのまま引っ張って地下室の階段を昇り始めた。
そして隠し扉を出て、廃墟となっている教会まで来たところで貯めこんだモノを吐き出すように叫びだした。
「ダイくぅ~ん、ベル君がボクというものがありながら他の女に浮気するんだよぉ~」
「えっ、浮気…?」
ヘスティアはダイに抱き着いて号泣する。
その姿は、神の威厳もへったくれもないが、ダイもヘスティアもまったく気にしていなかった。
それよりもダイが考えていたのは浮気についてだ。
浮気とは確か、すでに結婚しているのに、他の人と結婚しようとすることだっただろうか。
昔ポップから聞いたことがあるようなないような、歴代の竜の騎士から受け継いだ《戦いの遺伝子》も、さすがに色恋沙汰の知識はもっていなかった。
「浮気ってことは、ヘスティア様とベルはオレの知らない間に結婚してたってこと?」
ダイの発言に「えっ!?」と声をだし、顔を上げるヘスティア。
なぜそこまで話が飛ぶのかと疑問に思ったが、ダイの年齢を思い出して納得する。
普段大人びた部分があるため忘れがちだが、よく考えればダイはまだベルよりも小さな子供なのだ、元の世界の話も聞いた限りでは、恋愛などしたこともないのだろう。
そんなことを考え、しばらく何かを苦悩するように目を左右に泳がせた後、ヘスティアは頭を振ってあきらめたように呟いた。
「い、いや…ボクとベル君はまだそういった関係ではないよ…」
「それじゃ浮気っていうのは?」
「うぅ…そうだよ、言ってみたかっただけさ!いいじゃないか、いつか必ず振り向かせてやるんだ!」
ダイの無自覚な糾弾に、ダバーと涙を流しながらイジケルヘスティア。
一連の流れがまったく理解できなかったダイは、頭に『?』を浮かべながら困惑していた。
しばらくの間ダイに慰められていたヘスティアだったが、やがて立ち直ったのか、ダイに「ちょっと出かけてくるよ」と言って立ち上がった。
「どこへいくの?」
「ちょっとバイトの打ち上げに行ってくるってベル君に言っちゃったからね、どこかで適当に晩御飯食べてくるよ、ダイ君はベル君と一緒に晩御飯を食べておくれ」
「うん?…わかった」
若干ばつの悪そうな顔をして出ていくヘスティアの背中を見送り、ダイは隠し扉を潜って地下室へ降りていく。
扉を開けるとベルが捨てられた子犬のような顔をしてソファーに座っていた。
「あ、ダイさん…神様はまだ怒ってましたか?」
どうやらヘスティアが不機嫌になった理由がわからず困惑していたようだ。
ダイも原因はよくわからないが、とりあえず「もう怒ってなかったよ」と言っておく。
それを聞いて安心したのか、ベルは不安気だった表情をパァーっと明るくし、立ち上がる。
「そうですか、よかった!なんだかステイタスがものすごく上がってたんですけど、それを見た神様の機嫌が悪くなったんです、確かにちょっと不自然なほどの上がり方だったんですが、なぜなんでしょう」
「浮気がどうのと言ってたけど、心当たりはないの?」
ダイの言葉にきょとんとした顔をするベル、しかし徐々に顔を赤くしていき、すごい勢いで首をぶんぶんと左右に振り始めた。
「う、う、浮気もなにも、僕はまだ誰ともお付き合いしていませんよ!」
「そうだよね、じゃやっぱりあれは冗談だったのか」
うーん、と考え込むダイの横で、「いや、でもいつかヴァレンシュタインさんと…」とベルが顔を真っ赤にしながら気合を入れていた。
「あ、そうだダイさん、これから一緒の晩御飯を食べに行きませんか?」
しばらく妄想の世界に入っていたベルが、現実に帰還したあと、開口一番にそう言ってきた。
「どこかのお店で食べるのかい?珍しいね」
ソファーでベルの隣に座ってお茶を飲んでいたダイは、突然の誘いに目を丸くする。
ダイの中層での稼ぎのおかげでヘスティア一人の時とは比較にならないほどファミリアの財政は潤っているが、だからと言ってダイにおんぶにだっこの状態で贅沢するのは申し訳ないとベルが言うため、基本的に食事は自炊だし、その他の面でも節制しているのだ。
ダイとしては、この世界に飛ばされたばかりの自分に色々と教えてくれたベルや、異世界から来たという怪しさ満点の自分を受け入れてくれたヘスティアへの恩返しだと思っているので、まったく気にしていないのだが。
そんなベルが自分から外食に誘ってきたのだ、ダイが驚くのは仕方がないだろう。
「いえ、ちょっと今朝色々とあって…僕、朝食を食べずにダンジョンへ向かったじゃないですか、だけどやっぱりお腹すいちゃって…そしたら僕の独り言聞いた酒場の店員さんにお弁当を貰っちゃいまして、その代わりに今晩食べにいくって約束しちゃったんです」
「あぁ…そういえば今朝は稽古のあと、慌ててダンジョンへ向かって行ったね、何があったの?」
今朝、普段よりも早く起きていたベルは、ダイとの剣の稽古を終えたあと、地下に戻ろうとしたところで顔を真っ赤にしてダンジョンへ走って行ってしまったのだ。
何かあったのだろうかと疑問には思ったが、特に追うことはしなかった。
しかしダイの知らないところでいろいろとドラマがあったようだ。
「いえ、今朝はちょっと恐れ多いことをしてしまい、神様の顔をまともに見れなかったというかなんというか…」
「??」
赤くなってごにょごにょと「神アイテムが劇薬アイテムに~」とよくわからない言い訳をするベル。
「とりあえず、そんなわけで今晩はその酒場でご飯を食べなくちゃいけないんですが、一緒に行きませんか?神様は残念ながらバイトの打ち上げがあると言ってたので来れませんが」
ごまかすように無理やり話題を戻すベル。
ダイとしても別に追求するつもりはないので、そのまま話を戻すことにした。
「オレは構わないよ、どんなお店なの?」
「《豊饒の女主人》っていうお店です、店員は女の人ばっかりみたいですが、普通の酒場ですよ」
「へぇ、女の子ばっかりとか、ベルの好きそうなお店だね」
「ちょ、ダイさん!僕が求める出会いっていうのはそういうのじゃなくてっ!」
ダイの冗談に顔を赤くするベル。
そんなこんなで二人は《豊饒の女主人》へと向かうのだった。
――――――――――――――――――――
カランコロンと《豊饒の女主人》のドアが音を立てて開く。
「いらっしゃいませー、あ~、ベルさん来て下さったんですね♪」
ウェイトレスと思われる少女が、ベルの姿を確認すると小走りで駆け寄ってきた。
「こんばんはシルさん、約束通り食べに来ました」
「ありがとうございます、お友達も連れてきて下さったんですね、お客様2名はいりまーす」
シルと呼ばれたヒューマンの少女が、元気な声を上げて店内へ案内してくれる。
薄鈍色の髪を後頭部でお団子にまとめ、そこから尻尾が飛び出ている、ポニーテールの亜種のような髪型をした可愛らしい少女は、ベルの為に空けてあったのだろう、カウンターの席へ案内してくれた。
席に着いたダイは、興味深そうにお店の中を見渡してみる。
店は隅にある一角を除き、すでにほとんどの席が冒険者で埋まっていた。
空いている一角にはファミリアの名前が書いてある札が乗っているところを見ると、大口の予約が入っているのだろう。
あちこちで忙しそうに走り回る店員達は、ヒューマンや
あの一際目立つ美貌をした、耳の長い種族は確かエルフと言っただろうか。
エルフは他種族と関わるのを嫌うと聞いた気がするが、こういうお店で働いているということは、そうでない人もいるということなのだろう。
この慌ただしい状況の中でもクールにウェイトレスの仕事をこなしている。
時折、彼女の体を触ろうとした客が、手を払いのけられ、生ゴミを見るような眼で見られた後「ありがとうございます!」とエルフのウェイトレスにお礼を言っていたのは、どういう意味だったのかいまいち理解できなかったが。
どうやら人気のあるお店らしいとダイは思う、こういった店に来たことがないので比較はできないが、これだけ混雑しているのなら人気があると判断していいのだろう。
それが料理の味によるものなのか、可愛い店員目当てなのかはわからないが。
「おや、シルが誘ったのは一人って聞いてたけど、二人来たのかい」
店を見渡していたダイの意識を、店内の賑わいに負けない大きな声が引き戻す。
ダイとベルの正面、カウンターの内側に知らないうちにドワーフらしき、大柄な女性が立っていた。
「はい、どうせなので僕のファミリアの仲間も一緒に食べようと誘ってきました」
「そっちの小さいのも冒険者なのかい?」
「あ、うん、オレはダイって言うんだ、よろしく」
「あたしは、《豊饒の女主人》の女将のミアだ、今後も御贔屓に頼むよ、しかし2人揃って冒険者らしくないかわいい顔して…ん、ダイ?」
ダイの名前を聞いたミアは何かを思い出したのか、ダイの顔をジロジロと無遠慮に眺めた後、驚いたように呟いた。
「もしかしてあんたが噂の《
「《
聞き慣れない呼称と、ファミリアの仲間以外はエイナしか知らないはずの
ベルとヘスティアはもちろん、口止めした本人であるエイナが他人に言いふらすとは思い難いのだが…
「《
説明を聞いたダイはあちゃーと頭を抱えた。
ゴライアスを倒す時、一応周囲を確認はしたが、大量のモンスターに囲まれていた為、他の冒険者が隠れていたのを見落としてしまったのだろう。
しかし《
「へぇ~《
隣でベルがダイの二つ名を羨ましそうに呟いている。
ダイとしては自分が
「さて、色々と聞いてみたいことはあるけど、ステイタスの詮索はマナー違反だし、食事をしに来たアンタ達をいつまでもお預けさせとくわけにもいかない、まずは注文を聞こうじゃないか、なんでもアタシ達が悲鳴を上げるほどの大食漢なんだって?じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってっておくれよ~」
ミアさんの発言にベルがぎょっとした表情でシルの顔を見る。
側に控えていたシルはベルからさっと目を逸らしていた。
「ちょっと!僕いつから大食漢になったんですか、僕自身初耳ですよ!?」
「オレも初耳だよ」
「…えへへ」
「えへへ、じゃねー!?」
可愛らしく舌を出して誤魔化そうとするシルに断固抗議の姿勢のベル。
「その、ミアお母さんに知り合った方をお呼びしたいから、たっくさん振る舞ってあげて、と伝えたら……尾鰭がついてあんな話になってしまって」
「絶対に故意じゃないですか!?」
「私、応援してますからっ!」
「まずは誤解を解いてよ!?」
押しに弱いベルが珍しく食い下がる、なにか思うところがあったのだろうか。
「まぁまぁ、お金はあるんだしいいじゃん、たまには豪華にいってもさ」
見かねたダイが仲裁に入る、ベルも稼ぎ頭のダイにそう言われては引き下がるしかなかった。
「ありがとうございますダイさん、でもちょっと奮発して頂けるだけで結構ですよ、ご注文が決まったら呼んでくださいね~」
そういって他のテーブルの接客をしにいくシル。
ダイはメニュー表をにらめっこするが、見たことがないような名前の料理が並んでいて、どれを選んでいいのかさっぱりわからない。
結局ベルはパスタを、ダイは《女将のオススメ》を注文することにした、何を頼んでいいかわからないので丸投げしたとも言う。
「はいよおまち!」
しばらく待つと、ミアが料理を持ってやってきた。
山盛りのパスタをベルの前に、そしてでかい魚を1匹まるごと使ったのかというほどボリュームのあるムニエルがダイの前にドスンと置かれた。
「ほらこれもいっときな!」
さらに2人の前に大ジョッキに入った
ダイがなんだろう、と思って一口飲んでみると、口の中に広がる苦味に思わずむせ返る。
「なにこれ、苦っ!?」
「なんだい、アンタは酒も飲んだい事ないのかい?恩恵で若く見えるだけかと思ったら、見た目通りの年齢なんだね」
ハッハッハと笑いながら厨房の奥へ引っ込んでいくミア。
ダイは初めて飲んだ酒の味に戦慄し、こんなものを美味しそうに飲んでいたロンベルクさんって凄いと、なにか間違った尊敬を抱いていた。
それからしばらく、ダイとベルは山盛りの料理をなんとか片付けながら、突然伸びたステイタスがどうの、最近5階層でミノタウロスに襲われただの、知り合ったサポーターがどうのといった話をしていた。
カランコロンと扉が開く音がする、新たな客が来たのだろうとチラリと振り返ると、どこかのファミリアと思われる冒険者らしき団体客がやってきていた。
周囲の客は、『おい、ロキファミリアだ』『剣姫もいるぜ』と新たに登場した集団に注目していた。
「ベル?」
ふと、隣にいる仲間の方を見ると、ポカーンとした顔をして、先ほどの集団を見つめていた。
何を考えているのか、顔が赤くなり、しまいには湯気が立ち上り始めている。
視線の先を追ってみると、やはり先程の一団を見ているようだった。
具体的にはその中の1人、金色の美しい髪をした少女をみているらしい。
「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!」
そうこうしているうちに、例の一団は宴会ムード一色に染まっていた。
他の客も思い出したように自分達の酒をあおり始める、しかしベルだけは料理が冷めるのも構わず、ずっと金髪の少女を見つめたままだった。
「ロキ・ファミリアさんはうちのお得意さんなんです、彼らの主神であるロキ様に、私達のお店がいたく気に入られてしまって」
ベルがあの一団をずっと見つめていたことに気付いたのだろう、シルが隣に来てこっそりと教えてくれた。
それを聞いたベルはクワッと目を開いて仕切りに頷いている。
ここまで来たらさすがのダイも察することができた、要するにベルはあの少女に惚れてしまっているのだろう。
経緯はわからない、もしかしたら今見た瞬間の一目惚れなのかもしれないが。
「そうだアイズ!お前あの話を聞かせてやれよ!」
「あの話……?」
ロキ・ファミリアの中にいた
(あの人は確か…昨日12階層でミノタウロスを倒した時に出会った人…リリは確か《
今は武装もしておらず、酒に酔っている為、あの時に感じた強さは感じられないが、あの特徴的な風貌は覚えている。
「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス!最後の1匹、お前が5階層で始末しただろ!?そんで、ほら、あん時いたトマト野郎の!」
あの時のミノタウロスは他にも居たのか、だからあんなに慌てて上層へ登っていったんだな、とダイは理解する。
しかしその瞬間、隣の席でダイと同じように聞き耳を立てていた少年の体がビクッと震えたことに、ダイは気付かなかった。
「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ!可哀想なくらい震え上がっちまって、顔を引き攣らせてやんの!」
その後に続いた青年の話を聞いたダイは、この時の少年の話が、先ほどベルから聞いたミノタウロスに襲われた時の内容と合致することに気がついた。
慌てて隣の席を見ると、完全に顔色を失ったベルが俯いたまま体を小刻みに体を震えさせていた。
「あの…ベル?一度外に出て風に当たって来たほうがいいよ」
ダイが恐る恐ると言った風に、ベルに声をかける、だがその言葉はまるで耳に入っていないかのように、ベルは反応しなかった。
その後も、青年の罵倒は続く、ベルの手は爪が食い込み、皮膚が裂けるのではないかと言うほど強く握りしめられていた。
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」
その言葉がトドメだった、ベルはガタッと椅子を倒して立ち上がると、一目散に店の外へと駈け出していったのだ。
何事かと他の客達が一斉に入り口に視線を向ける。
その中で、いち早く動いたのはアイズだった。
店を飛び出すベルの姿を見たアイズは、ベートが蔑んだ張本人が店にいたことに衝撃を受け、思わず追っていったのだ。
ダイも追おうかと思った、だが今のベルに掛ける言葉が見つからない。
惚れた少女の前でボロクソに貶されたのだ、生半可な言葉では慰めにもならないだろう。
どうするかしばし迷ったダイは、さらに罵倒を続ける
「雑魚は雑魚らしく身の程を…」
「やめろ!!それ以上オレの仲間を侮辱するのは許さないぞ!」
「あん?あんだテメェ!?」
話の腰を折られたベートが眦を吊り上げてダイを睨みつける。
並みの冒険者ならそれだけで萎縮するであろう、威圧感を受けながし、ダイは怒りを込めた声で青年へ言い放つ。
「お前がさっきから罵倒してるのはオレの仲間だ!これ以上は見過ごせない!」
「テメェ、昨日のガキじゃねぇか…見過ごせなきゃどうするってんだ?昨日はちったぁマシかと思ったが、中層にいる程度の雑魚が調子乗ってんじゃねーぞ!」
「力が強い人は偉いのか?弱い人は価値がないのか?そんなことはない、人の価値は力の大小だけで測れるようなものじゃない、それに力に固執すれば、必ずより強い力で打ちのめされるぞ」
恐ろしい強さを持ち、力こそが正義だと言い放った大魔王バーンとて、人間達の勇気と絆、そして最後にはより強い力に敗れたのだ。
どんなに強い者でも、力だけに固執すればいずれ必ず滅ぶ、ダイはそれを目の前で見てきたのだ。
「は!面白れぇじゃねーか、だったらより強い力とやらで俺を打ちのめしてみろよ!」
「……」
一触即発、ダイとベートの視線が火花を散らす。
ベートと同席していた他の冒険者達も、突然の展開に口を挟めなかった。
ただ1名を除いて。
「やめぇベート!今回はお前が……いや、止めなかったうちらも含めてこっちが悪い」
ロキ・ファミリアの主神・ロキだけがこの場に口を挟める唯一の存在だった。
ロキは飲んでいた酒をテーブルに置くと、ダイの元に歩いて行き、呆気にとられるダイへ謝罪をした。
「ごめんな、このアホにはうちらがキツくお仕置きしとくから、今回は矛を収めてくれんかなぁ?」
「邪魔するなロキ!この身の程知らずは俺が…!」
「身の程知らずはお前やアホ!」
主神に対しても遠慮をしない青年に、ロキのキツイ叱責が飛ぶ。
珍しいロキの怒った姿に、他の団員達も唖然としていた。
「遠征に出てたみんなは知らんやろうけど、この少年は今
「噂…?」
「この子が?」
ロキの言葉に、アマゾネスの姉妹と思われる冒険者2名がダイを興味深げに見つめる。
「そうや、数日前に突如発表されたLv5の冒険者、そして
「――――――――」
ロキの言葉に、息を呑むファミリアの一同。
第1級冒険者である彼らには、素手でゴライアスを撃破したということが、どれほどのことか十分に理解できているのだろう。
「ベート、お前に同じことが出来るか?」
「――――っ…」
ロキの挑発的な言葉に、反論出来ず黙りこむベート。
ここに、勝敗は決していた。
「よーし、それじゃお仕置きや!みんなベートを簀巻きにして軒先に吊るしたれ!」
「ちょ、ロキてめぇ!うおおおぉぉおぉぉぉやめろお前ら!!!」
先ほどの雰囲気から一転して、ふざけた口調になったロキの指示で、周りに居た冒険者達が一斉にベートへ襲いかかる、さすがのベートも自分と同格、あるいはそれ以上の第1級冒険者複数に襲われては、ロクに抵抗もできずあっという間に簀巻きにされてしまった。
そんな光景を見たダイは、ベートを窘めてくれたファミリアの主神に、頭を下げた。
「あ、その…ありがとう」
「えぇって、悪いのはこっちや、あいつにはこの後、ミアかーちゃんの料理を匂いだけひたすら嗅がせるお仕置きしとくから、勘弁してや」
地味ながら空腹の時には辛そうなお仕置きに汗を流すダイ。
「あのアホが罵倒した少年にも、謝っといてや、ベートに行かせるのが筋なんやけど、素直に行くとは思えんし」
「わかった、ベルにはオレが伝えておくよ」
「あとお詫びといっちゃなんやけど、ここの支払いはウチらが持つ、好きに食べてってや」
「ありがとう、でもオレも帰るよ、ベルも落ち込んでるだろうし」
そう言って店を出て駆け出していくダイを、ロキはしばらく見つめ、ポツリと呟いた。
「まったく、えぇ子やな~、ドチビのとこにはもったいないわ」
―――――――――――――――――
「ただいまー」
「おかえりダイ君」
ホームである廃教会の地下室へ戻ったベルをヘスティアが出迎える、どうやら外食を先に終えて戻っていたらしい。
「あれ、ベル君は一緒じゃないのかい?」
「えっ、ベルは戻ってないんですか?」
「うん、ボクはちょっと前に戻ってきてるけど、その時は誰も居なかったし、その後も戻ってきてないよ」
ヘスティアの言葉に、慌てるダイ。
ここに戻ってきていないということは、他に行きそうなところと言えばダンジョンしかない。
まさかあのまま、ろくな装備も持たずに、自暴自棄になってダンジョンへ突入したのだろうか。
「オレ、ちょっとベルを探してくる!」
「えっ、ちょっと何があったんだい!?」
ヘスティアの言葉に返事をする暇もなく、ダイは地下室を飛び出した。
そのまま全速力で人気の少なくなったメインストリートを駆け抜ける。
すぐに見えてきたバベルの1階、ダンジョンへの入り口にダイはそのままの勢いで飛び込んだ。
別にベートは嫌いじゃないですが、1巻のベートは完全にただのチンピラなのでこうなってしまいました。
二つ名に関しては、普通すぎたかなーとも思いますが、他にいいのが思い浮かばなかったです。