魔法少女リリカルなのは~踏み台、(強制的に)任されました~ 作:妖刀終焉
「そらそらそらーー!! ……ハァ、ハァ」
投擲した宝具によって次々に傀儡兵は木っ端微塵になっていく。そして段々息切れしてきた。クソッ、こいつら(フェイト以外)雑魚の殲滅俺にばっかりやらせやがる。そろそろ魔力が切れそうだ。魔力にまでリミッターかけてることがここであだになった。
そして一番奥のでかい扉の前まで到着。まるでRPGで魔王が待ってそうな部屋の扉に見える。しかしこれをどうやってあけるかが問題だ。俺は疲れたので近くの壁にもたれかかって休む。
「神代は少し休んでろ。この扉は俺が開けよう」
折木の手が扉に触れると巨大な扉が分解されて折木の両足に黒い装甲として再構成された。アルター能力の分解と再構成を上手く利用して扉を開けて能力を発動するという一石二鳥な手段を取りやがった。というか傀儡兵とかこの手段で破壊できたじゃねーかよ。
扉の先にいたのはアリシアの入ったガラスケースを眺めるプレシアさん。思ったよりも来るのが早かった俺達を忌々しそうに見つめている。
「フェイト、あなたも来たのね。何をしに来たのかしら?」
「……母さん」
「さっき言わなかったかしら。あなたはアリシアの、私の娘の出来損ないなのよ。あなたに母親と呼ばれる筋合いはないわ」
言い寄ろうとしたフェイトを容赦なく拒絶するプレシア。それでもフェイトは諦めなかった。諦めたらここまで連れてきてくれた皆に申し訳が立たないからだ。
「私は話をしに来ました。貴女の娘……フェイト・テスタロッサとして。……私はアリシア・テスタロッサじゃありません。貴女が作ったただの人形なのかもしれません」
フェイトは現実を受け止めてなお前に進もうとしている。
ふと思ったのだが、フェイトはアリシアの一つの可能性だったのではなかろうか。プレシアさんは「こんなのアリシアじゃない」とか言ってるが、もしかしたらアリシアが少しでも違った成長をしていたらフェイトのようになっていたのかもしれない。遺伝子が同じなのだから可能性はありそうだ。アリシアは魔力を持って生まれてこなかったんだっけ。つまりフェイトは並行世界で魔力を持って生まれたアリシア……って何だか俺でもよくわからなくなってきたぞ。
「だけど私は、フェイト・テスタロッサはあなたに生み出してもらって、育ててもらったあなたの娘です」
俺はそのときプレシアさんの顔が一瞬悲しそうに歪んだのを見逃さなかった。ほんの一瞬だった。そして狂ったように笑い出す。それはフェイトの思いを込めて発した言葉を嘲笑うかのようだ。
「……だから何だというの? 今更あなたの事を娘と思えというの?」
「あなたがそれを望むなら、私は世界中の誰からもどんな出来事からもあなたを守る。私があなたの娘だからじゃない。あなたが私の母さんだからッ!!」
その言葉を聞いてもなおプレシアさんは思いを変えることはなかった。フェイトから目線を外しアリシアへと向く。
「私は娘を……アリシアを取り戻す。その為に、アルハザードに行くのよ! ゴホッゴホッ」
プレシアさんが嫌な音を出して咳き込む。嫌な音も出る筈だ、何せ吐血しているんだから。
俺は何か言おうとしたがちょっと疲れすぎて声にならない。
「……ふざけんなよ」
「何か言ったかしら?」
「ふざけんなって言ったんだよ! あんたは逃げてるだけじゃねーか。娘の死からも! 残った家族からも!」
「十年も生きてないような子どもが知った風な口を!」
「そんなにフェイトが嫌いなら、憎いなら処分すれば良かった。もの言わぬ傀儡兵にでもジュエルシードを集めさせれば良かったんだ! 何でしなかったんだよ!?」
そうだ。その姿を見るだけでも辛いのなら何処かへ捨てるなり処分するなりできた。自分で直接手を下すのが嫌なら適当なこと言って死ぬのが確実な危険なことでもやらせればよかった。俺が思いつくくらいだからプレシアさんだって当然思いついた筈。だがやらなかった。
プレシアさん折木の言葉に明らかな動揺を見せている。
「だって……私にはフェイトの母親を名乗る資格なんてないのだから……」
「何を言っている……?」
「母さん?」
プレシアさんの様子が急変した。先ほどまでの狂気は全く感じられず、とても穏やかな表情をしていた。その眼からは涙が溢れている。
「聞こえてるかしら管理局。フェイトは私の命令で動いてただけ。全ては私の責任よ」
それほど大きな声ではなかったがこの場にいる全員が聞き取れる声だった。
「母さん!?」
「貴女一体何を!?」
リンディさんとフェイトが驚いた声を上げる。俺はこの言葉に嫌なものを感じた。折木も同じ気持ちだったらしく脂汗をかいている。少しだが体力が回復した俺は立ち上がって様子を見ることにする。
「フェイト……さようなら。幸せになりなさい」
彼女の足元に亀裂が走り足場が崩れだす。フェイトが泣きそうな顔でプレシアを助け出そうとするも、急いで駆けつけたアルフがそれが無理だと判断し身体を張って止めた。
「っざけんな!」
しかし我らがオリ主は諦めていなかったようだ。超スピードでプレシアの元へ駆けつけその手で彼女の手首を掴む。
「天の鎖よ!」
そして俺はアリシアが入ったポットを
「ナイスだ神代!」
「言ってる場合か! さっさと引き上げろ!」
ラディカルグッドスピードだからこそ間に合ったが時間に猶予があるわけじゃないぞ。それにポット持ってるせいで両手が塞がって何もできないし。
「うわあっ!?」
折木の足場も崩れ落下しかけるもプレシアの手首を掴んでいる手とは反対の手で近くの瓦礫を掴んで、一先ず虚数空間に真っ逆さまは避けられたが、ピンチなことに変わりはない。
「早くその手を離して逃げなさい!」
「離してたまるか! あんたが死んだらフェイトが悲しむんだ!」
「意地を張ってる場合じゃないでしょう!? このままだと二人とも……」
「あんた、さっき吐血してたけど病気なのか?」
「今はそんなことどうでも「俺は、プレシア・テスタロッサの病気を治す!」何を言って……」
折木がそう言うとプレシアさんが淡い緑色の光に包まれる。一体何が起こってるのかわからん。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!」
折木は唸りながら渾身の力を込めて自分よりも身体の大きいプレシアさんを投げ飛ばした。それをフェイトとアルフが慌てて受け止める。
「イタタタ」
「ううっ……はっ、和人は!?」
あいつは何処だ?
「嘘……?」
プレシアさんをぶん投げた反動で逆に虚数空間に落ちていく折木を見て俺達は愕然とした。今からじゃもう遅すぎる。もう助からないであろう折木の顔に悲壮はなく、ただただフェイト達を優しい表情で「幸せにな」と呟いていた。カッコつけたつもりかよ。
「和人ォーーーーーーーッ!!」
フェイトの悲痛な叫び声は庭園内に木霊してより虚しさが増してくるような気持ちになる。
あの野郎は自分を犠牲にしてフェイトの笑顔を守ったつもりだろうが、結局のところ別の悲しみを植えつけただけだった。
◆
時の庭園が完全に消え去る前に折木を除いた全員が脱出に成功した。折木が虚数空間に落ちて行方不明になったことをなのはが知るとやはりショックを受けて顔を真っ青にしている。泣かないのはショックが大きすぎて逆に泣けないのか、それとも泣いてしまったらそれを事実だと認めてしまうことになるからだろうか。テスタロッサ親子も勿論折木のことを悲しみ、そして感謝をしていた。
事件の処分についてだが、フェイトはプレシアさんの自白があるから裁判で有利になるだろうとクロノは言っていたが、主犯であるプレシアさんはそうもいかないだろう。せっかく親子の蟠りがなくなったのに現実は非常だった。と思ったらそうでもなかったらしい。
「これを……」
プレシアさんは持っているデバイスをから何かのデータを取り出す。何語で書いてあるかわからないから俺には読めない。
「これは?」
「ヒュードラ事件の全貌よ」
「「なっ!?」」
ヒュードラ事件は確かプレシアさんがアリシアを亡くした事件だったっけ。データは他の研究員がプレシアさんに罪を擦り付けるために削除したような。
「……艦長、これ」
「ええ、当時の安全基準が満たされてないわね。……これが本物だという証拠は?」
「ないわ。別に捏造だと思ってくれても構わない、私が犯した罪くらい自分で償うつもりよ。でもこれでフェイトの罪がなくなる可能性が少しでも上るのなら、私を陥れた奴らが捕まってくれるのなら御の字よ」
どうやらデータをバラバラにしてばれないように何処かへ追いやってたらしい。それでチャンスを見つけては回収して繋げていったとのこと、抜け目のない人だ。
それとこれは本人も驚いていたことだがプレシアさんが患っていた病がいつの間にか完治していたらしい。「身体が軽い。こんな気持ち初めて」的な気分だと思う。
俺はといえば折木とは別に親しい仲ではなかったから特別悲しいという感情は生まれなかった。寧ろあの顔をボコることができなくなって悔しくはあるし、それに超オリ主補正とかいうふざけた補正によって生かされてる可能性を考慮すると余計に悲しいとは思わない。
全てが終わり、なのはと俺は地球へと帰される。なのはは強がってはいるものの、顔には陰りが残ったままで彼女が心に負った傷が大きいことは明白だ。
俺は真っ直ぐ家に帰って両親と智葉に顔見せだ。許可はとってあるものの魔法云々は話してないからなるべく心配させないようにしないと。
「……疲れた。やっぱ家が一番だわ」
<ふぃー。何か久しぶりに喋った気がするぜ>
デバイスとの不仲を演じるために
「ちょっと寝よう」
◆
気がつくと俺は転生前にいた白い空間にいた。そして目の前にいるのは
「……何の用だ?」
「まずは無印を無事終えたことを祝ってやろうかと思っての。ふんふん……踏み台ポイント9130ptか」
すげえ、もうそんなに貯まってたのか。これなら目標達成待ったなしじゃね?
「しかしのぉ……正統オリ主が犠牲になってしまったなぁ……これはイカンよなぁ」
「やはりオリ主を守りきれなかったことにペナルティを課さないとイカンよなぁ」
「なっ!?」
こいつは今何ていった?
折木を守れなかったことに対するペナルティだと?
「ふざけるな! んなもん自己責任だろ!」
「何がいいかのォ~~?」
「やはり減点か。せっかく集めたポイントじゃがこればっかりは仕方ないの」
「てめえッ!!」
俺は正直我慢の限界だった。血反吐を吐く思いで集めてきたポイントがこんな勝手な思いつきで減らされるなんて。しかし俺の思いに反して俺の腕は上がらない。いや、腕どころか身体全体が鉛のように重いのだ。
「3000ptマイナスで6130……いやキリよく6000ptでいいか」
「ふっざけんじゃ<ただの建前だろ>」
俺の負け犬の遠吠えにも等しい罵声を
「?」
<ただの建前だろ? あのオリ主を守れなかったとかよ。ただ単に旦那がこんなに早くポイントを貯めにくるとは思わなかった。それでこじつけでそれを減らしにきたって話だ、違うか?>
「そうじゃよ」
あっけらかんと言い放つ。
「それとついでじゃ。やはりTSの呪いだとあまりにも軽すぎて緊張感にかけるのでな、呪いは変更じゃ。目標達成できなければ『この世界全ての者の記憶からお前の存在が消え去る』にしておこう」
「クソ野郎ぶち殺す!」
「安心せい、すぐになくなるわけじゃないわい。関係が薄いものから徐々に忘れ去られていくんじゃ。どうじゃ? 優しいじゃろ?」
優しい? んなわけあるか。どんどんみんなの記憶から忘れ去られていく恐怖を徐々に味わうのだ。生殺しだ。よく、『人が死ぬのは全ての者から忘れ去られた時』と言われる。もし俺がそれを体験するはめになるとしたら……考えただけでぞっとする。
「てめえは……てめえは人を何だと思ってやがる!!」
「玩具……かの?」
「てめえッ!!」
「ふむ、貴様は踏んだ蟻の死を悲しむのか? 肉屋に並ぶ肉を見て牛や豚が死んだことを嘆くのか? それと同じことじゃよ」
殴りたい、殴りたいのに身体が動かない。悔しい、こんな悔しいことがあってたまるか。俺が何をした。何故俺だけあいつとここまで扱いが違う。
「それと最後にいいことを教えておいてやろう。オリ主、折木和人は生きておるぞ。あいつにやった特典の一つ「神の奇跡×3」の内一回を使って虚数空間から抜け出して八神家に転移したようじゃ。よかったの? 全く、アリシア蘇生に使う筈の一回をこんなことに使いおって……まあよいか、わしリインフォース派じゃし」
神が何かをぐちぐち言っているが俺にとっては内容なんてどうでもいい。
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!
「おおおおおおおおっ!!」
理由はわからないが立ち上がるだけならできた。歩くのも鈍いが多分できそう。もしかしたら殴れるかもしれないと考え腕を振りかぶる。
「何じゃ? ……って立ちあがっとるし!? もう用事も終わったし帰れ」
しかし殴ることは叶わず
「ぐあっ!?」
神の掌から発射された衝撃波で吹き飛ばされて、俺は意識を失う。
目が覚めたらさっきまでいた俺の部屋のベッドの上。酷く汗をかいていたらしく掛け布団が湿っている。
俺はその後家族で夕飯を食べて部屋に戻りベッドで寝転がりながら先程のことを現実だと受け止めて……泣いた。
空白期とか書いても仕方ないので修行しながらのA's 編になります。