魔法少女リリカルなのは~踏み台、(強制的に)任されました~ 作:妖刀終焉
第12話
気分は最悪。持ち直すまでにしばらくの時間をかけてあれから一ヶ月が経過。ヴォルケンリッターも闇の書から出てきたことだろう。
正直
怪奇現象と言ってみたもののだいたい原因は想像つく。
つい最近八神はやてを見かけたがまだ車椅子生活を送っている。折木のお人好しを考慮すれば能力で治してそうなものだが意図的にそうできないように俺と同じく何らかの精神操作はされているとみた。仮に治さなくても闇の書を夜天の書に戻せば治るのだからデメリットにすらならない。
万策尽きた。
何もしなければ皆から俺の存在が消されて、仮にポイントを集めたとしても解放されるとは限らない。そしてちょっとした意趣返しさえも許されない。
「やめだやめ!」
俺はこれ以上考えてもどツボに嵌るだけだと一先ず『考えるのを止めた』。とにかく俺はまだ弱い、弱すぎる。リミッターをかけてあることを差し引いてもだ。もし強くなって、そしてクソッたれの神様を一発でも殴ることができるのなら御の字だ。それにあいつは俺がどんな反応を示すのか楽しんでいる。いじめというのは大抵苛めた対象がどんな反応をするかを見て楽しむためにやるものだ。俺が嘆き、苦悩すればそれはやつに娯楽を提供していることと同意。
これからあってはならないのは……『精神力』の消耗だ……くだらないストレス! それに伴う『体力』へのダメージ…!!
くだらない消耗があってはならないッ! いや……逆にもっと強くなってやるッ!
まずは修行だ。とは言っても魔力を鍛えても仕方が無いし
修行一日目
まずは魔法で肺などの呼吸器官を強化。強制的に波紋の呼吸ができるようにする。そして波紋の呼吸を自分の身体にじょじょに慣らす事から始めた。
「コォォォォォ……」
確かこんなカンジだった気がする。一気に息を吐くのではなく少しづつ吸い込み少しづつ吐くのだ。
「クゥォォオオオ……ゲホッゲホッ」
何十回かやったあたりで咽た。頭が痛い。脳にいく酸素の量がおかしくなったせいかも、ちょっと休憩。
休憩ついでに自分のデバイスに気になっていたことを聞くことにした。
「なあ
<ずいぶんと今更な質問だなぁ~おい>
「しかしあの
<そりゃあいつに創られたわけじゃねぇからさ。それに旦那のことはかなーり気に入ってんだぜ>
「その言葉がおべんちゃらでねぇことを祈るよ」
<ひっでえなぁおい>
修行一ヶ月目
7月になるころ、身体から薄らとだが鮮やかな山吹色の光を発した。一ヶ月経って何も変わらないようなら諦めようかと思った矢先にやっと成果が出た。この呼吸のリズムを忘れないよう反芻して身体に刻み付ける。独学にしてはものすごい成長速度だと自負している。
八神家を見張らせている瑠璃丸とは別の虫、鬼灯丸を通して知ったことだが折木のやつもシグナムに弟子入りして剣術の稽古をしているようだ。俺って師匠とかいないよな、心の師匠はジョナサンとシーザーとジャイロだけど。
「はい、ボカリ。ちょっとは休んだら?」
「サンキュ」
智葉に水筒を渡されて、俺は修行を中断して水分補給をすることにした。呼吸をする際に一緒に体の中の水分も放出しているから喉が渇く。
修行は皆に内緒で行っている筈だったのだけれどいつの間にやら智葉に嗅ぎつけられて、時々こうやって飲み物を持ってきてくれる。
「前から思ってたけど、その変な呼吸何なの?」
「えー……これはあれだ。アンチエイジングってやつだよ」
間違ってはいない。間違ってはいないよ。
「アンチエイジング!? まだ九歳なのに?」
「若いからって油断しちゃいけねぇぞ? こういうのは若いうちから始めることに意味があるんだよ」
適当な事言っているけれど、この世界にジョジョは無いし波紋だの仙道だの言ったところで分かる筈も無い。
「ふ~ん、私も運動くらい始めようかな……」
「いいんじゃない?」
修行二ヶ月目
やっと魔法の補助無しで波紋が練れるようになった。波紋を流しながらの壁登りは無駄ではなかったようだ。夏休みの宿題は日記と自由研究以外初日で全て片付けて波紋の修行に専念していた甲斐があるというもの。流石に油柱なんてないから姿を消しながらマンションの壁を登っての訓練だった。
水の入ったコップを逆さにしても水が落ちないし水の上に立つこともできる。
「長かった……つっても二ヶ月程度だけど」
<俺はなーんもしてねぇからすっげえ暇だったぜ>
射撃の腕を上げよう。俺は
久しぶりに
俺は攻撃を避けながら腰溜め撃ちで傀儡兵3体の頭を撃ち抜く。頭部を失った傀儡兵は機能を停止しそのまま落下した。残りは後5体。
近くにいた敵を踏み台にして空中へ跳躍。上空から残り5体の頭上を撃ち抜いて8体とも機能を停止した。
「……なるほど、少人数相手ならかなり有効だな」
<だろ!? だろ!? だろぉ~?>
魔力の消費量が少ないのもいい。使い道としてはやっぱりシャボンとの併用が一番だ。
今度はシャボンランチャーの特訓に取り掛かろう。
修行三ヵ月目
「シャボンカッター!」
シャボンを高速回転を加えて円盤状に変化させ放つシャボンカッター。波紋を帯びているから割れる必要が無く、魔力を流して起爆効果も付加してある。シャボンカッターは傀儡兵の胴を真っ二つに切り裂いた。
「
大型の傀儡兵は流石にスパッと真っ二つにはできなかったから起爆効果を使って粉砕。技名は単にカッコつけてみただけ。シャボンの維持に波紋を使っているお陰で魔力を起爆効果のみに集中できるから爆発力も強くなっていた。
そしてスクラップになった傀儡兵の部品を使ってちょっとしたものをつくってみた。正面に角の骸骨がついた丸い形の戦車にしてその中身に相手を追尾するタイプの宝具と着弾すると爆炎を放つ宝具を組み込む。相手を追尾して着弾と同時に爆炎を放つ兵器が完成した。
夏休みも終わったてもう9月か。学校もあるし修行は少し減らそう。
修行五ヶ月目
波紋の成長が伸び悩み始めた。正直これ以上何をやっていいか思いつかない、独学ではこれが限界なのか。それとも俺にはやはり実戦が足りないのだろうか。戦いの最中に成長するのなんて王道バトルものの主人公だけだぜ。
その代わりプロトギルが使ってた金色の双剣が見つかったけど使い道もないし物騒だから元に戻す。ある意味エアより危険だよなあれ。つーかエアが危険だからって理由で入れない癖になんでこれが入ってるんだろうって思う。
修行六ヶ月目
黄金長方形の回転があったやんとシャボンカッターに『黄金の回転』を加えて放つ試みを開始。
LESSON1『妙な期待をするな』
LESSON2『筋肉には悟られるな』
LESSON3『回転を信じろッ! 回転は無限の力だ。それを信じろ』
LESSON4『敬意を払え』
この四つを意識しろ。1:1.618の黄金比の長方形を自然界の中から探し出せ。
正直もっと早く気がつくべきだった。
一ヶ月で黄金長方形の回転を極める?
できるわけがないッ!
◆
もう12月か、結局黄金長方形の方はからっきしだった。一応腕につけている時計は黄金比率の長方形の形をしている。諦めて何もしないよりはマシだし、そもそも今は極めても使えない。
「なのはが襲撃されるのって12月の頭だったっけ?」
俺の虫が色々監視しているから知識のズレはカバーできる。
<旦那! なのはの嬢ちゃんが襲われてるようだぜ!>
「ああ」
俺は家を出て飛行靴を履き空を飛ぶ。
空ではすでにフェイト達がなのはの救援に来ていてユーノはなのはの怪我を治している。そして赤いゴシック調のドレスを着ている少女、ヴィータは黄色のバインドに捕らえられて動きを封じられていた。
二対一でフェイト達が優勢かと思いきやピンク色の長髪をポニーテールにした女騎士、シグナムと銀髪で犬耳が生えた筋骨隆々の偉丈夫、ザフィーラが駆けつけ人数的には五分五分となった。
いやー、鬼強いッスねシグナムさん。カートリッジが無いとはいえフェイトが手も足も出ない。
「どうしたヴィータ、油断でもしたか?」
「うるせえよ、こっから逆転する所だったんだ!」
「そうか、それは邪魔したな、すまなかった」
シグナムは目を閉じてヴィータの動きを封じているバインドを解いた。
「だがあんまり無茶はするな、お前が怪我でもしたら主達が心配する」
「わぁってるよ! もぅ………」
「それから、落し物だ」
拗ねているヴィータの頭にウサギの顔がついた赤い帽子を置き、子どもをあやすかのように頭を軽く叩く。
STSだとあれ被らなくなったよな。子どもっぽいからか?
「破損は直しておいたぞ」
「ありがと、シグナム」
そろそろスタンバッとくかと思い宝具を展開する。
「状況は実質3対3、1対1なら……」
「おっと残念、これで4対3だ!」
「「な!?」」
二人へ向けて宝具の雨を降らす。非殺傷だしせいぜいDランクの宝具だしと思って容赦なく放った。やっこさんは突然のことで一瞬反応が遅れてしまったようだ。
煙が晴れたがそこに二人の姿は無い。
俺はハッと新しい気配がした方向に体を向ける。
そこにいたのは二人を抱えている折木の姿だった。ラディカル・グッド・スピードの速さであればこれくらいは当然か。
「折木ィ! 何でテメェがここにいやがるんだよ!!」
知ってるけど正直あいつがどう答える気か興味あるのであえて激昂した口調で問いかけた。
「テメェは虚数空間に落ちて死んだ筈だろうが!」
「なっ、どういうことだ和人!」
シグナムとヴィータはそのことについては聞かされていなかったようで動揺している。
それに対して折木は酷く冷静だった。
「……答える必要は無い」
はい死刑♪
けれど今ではない。
「ぶち殺す!」
「やってみろ」
やっべえ、今すぐこいつをミンチにしたい。
後ろから適当な剣を選んで折木に叩きつける。
折木はそれを難なく受け止めた。
「そこのお嬢さん方、大方こいつに何か吹き込まれたんだろ? 今俺が解放してあげるからね」
鍔迫り合いの最中にシグナムとヴィータの方を向いてニッコリと笑いながら歯の浮きそうな台詞を吐く。
「……シグナム、知り合いか?」
「いや、心当たりはないな」
二人はそんな俺を見て微妙な顔をしていた。
ドン引きしてくれた方がまだマシだった。
「どこを見ている!」
「ぐっ」
折木は俺が余所見をしている隙に俺が持っていた剣を弾き落とす。俺は少し距離をとった。
二人はもう自分達の戦いへと赴いたようでもうここにはいない。
そして今頃なのははSLBのためのチャージを始めていることだろう。
「すまない、こっちは急いでるんだ。早々に片をつけさせてもらう」
「生意気言うんじゃねえぞモブか!!」
二本の剣を取り出してめちゃくちゃに振り回す。
「精度が低い、あれから特に成長してないのか……」
一振りで俺の二本の剣を破壊した。生意気なことを言っているだけに能力のパワーアップはしているらしい。
ラディカル・グッド・スピードの足で上空に高く跳ぶ。
「壊滅のォ……――セカンド・ブリットォオオオ!!」
上空から高速回転しながら俺に向かって一直線に降下してくる。
「ア゛……ガァアアアア!!」
バリアを展開するもあっさり破られて俺に直撃。その直前に俺は思いっきり仰け反って自分から吹き飛び威力を軽減する。相手が手応えを感じつつ自分はその衝撃をできるだけ外に逃がして戦う戦法にはもう慣れた。
そしてSLBが結界を壊す。
気がついたら折木が消えていた。どうやら結界が壊れた瞬間逃げ出したようだ。
こうして俺の最後の戦い(になるかもしれない)が幕をあける。