魔法少女リリカルなのは~踏み台、(強制的に)任されました~ 作:妖刀終焉
簒奪について修正を加えました
闇の書が暴走する当日、俺は智葉に自分が魔法使いであることをばらした。俺が踏み台やってて俺以外で最も被害を受けたのは彼女。だからその原因の一端位知る権利はあるだろうと思っていたが、凶までなかなか決心はつかなかった。しかし思い切って話した。その証拠にと本日の夜に空の散歩に連れてってやると約束をして。
「わあ! すごいすごーい!」
「ふふっ、そうか……」
ヴィマーナに乗って夜の空を飛んでいる。智葉が乗っている関係で速度を落としての飛行だ。リンカーコアがダメになったせいで
「お兄ちゃん、人がゴミのようだよ!」
「せめて蟻と言いなさい」
ちなみに巻き込まれたくないんで病院からは離れている。こちらは双眼鏡で視認できるし、瑠璃丸を飛ばしているから声も聞こえる。
この辺でしばらく様子を見るか。ここへ来たのは正しい結末を迎えるかどうかを見届けるという理由もあった。
向こうの方ではなのは達と守護騎士達がバインドで動きを封じられている。リーゼ姉妹の仕業だろう。仮面の男の片方が闇の書を使って守護騎士達から蒐集を始める。魔力生命体である守護騎士にとって魔力がなくなるということは自分の姿を保てなくなるということ。抵抗も虚しく全員が魔力を奪われ消えていった。まだ蒐集されていないフェイトや折木を残しておくのは闇の書が覚醒した時にそれの足止めをするために残したのだと推測する。
「何見てんの?」
「今は見ないほうがいい」
人が消滅するシーンなんてショックがでかくて見せられるか。
そして仮面の男はなのはとフェイトに化けてはやてを屋上に転移させる。はやてに守護騎士達が消滅する幻覚を見せて彼女は絶望と怒りで闇の書を起動させてしまった。
はやての姿が銀髪で黒い翼のある長身の女性へと変わった。
『また、すべてが終わってしまった。いったい幾度、こんな悲しみを繰り返せばいい』
「ねえ、何見てんの?」
智葉に双眼鏡を奪われてしまった。
彼女が前を向いている隙に
「ウスノロと転校生とカスと……知らない女の人? 何であんなところにいるの? というか何であの人泣いてるの?」
「カスって折木のことか?」
「もしくは女タラシでも可」
どうやら智葉も折木のことを好かないようだ。
『主の願い、そのままに―――――――デアボリック・エミッション』
はやての技の中で唯一神話関係ない技キターーーーッ。双眼鏡を使わなくても邪悪なエネルギーの固まりが広がっていくのが分かる。
『持つかな、あの二人』
『暴走開始の瞬間まで持って欲しいな』
―――コッチヲミロォオオ
『ん? 何か言っ――』
仮面の男が二の句を告げ終わる前に邪悪なエネルギーの固まりから離れたところで大爆発が発生。俺がさっき投擲した改造宝具、その名も『
君達は裁かれなくてはならないんだ。俺に手を出したのが間違いだったんだ。無事では済まさないよ。
「汚い花火だな」
「できそこないね」
気分がいい。俺は前もって出しておいた黄金の杯に持ってきたシャンメリーを注ぐ。
酒ッ! 未成年だから飲めないッ!
「飲む?」
「飲む飲む!」
シャンメリーって要は色つきのソーダなのに何故か普通のソーダよりも美味い気がする。俺の分も注いでちびちび飲み始めた。
「今どうなってる?」
「銀髪の女の人が三人を圧倒してる」
双眼鏡なしだとピンクやら黄色やら黒やら光がシュンシュン動いているだけでよく分からん。声を聞き取るのにも限界がある。
智葉から双眼鏡を奪って戦況を見ることにした。
『咎人達に、滅びの光よ』
銀髪の人がピンク色の魔方陣を展開し、周囲に散らばった魔力を収束させている。なのはの十八番、スターライト・ブレイカーだ。周囲から魔力をかき集めるから自分の魔力消費が少なく大技を放てるとかマジ鬼畜。
『――――スターライト……ブレイカー』
収束された魔力がピンク色の極太レーザービームとなって町を飲み込む。なのは達はシールドを展開して何とか耐えようとしていた。普通はもっと遠くに逃げることを選択するものだが、アリサとすずかが結界内に取り残されていたせいでそれはできなかった様子。
俺は喉が渇いてグイっとシャンメリーを飲み干す。
気がつけばなのは達が触手に絡めとられて動きを封じられている。魔法少女と触手って聞くとR18的な展開しか思いつかん。
「チョイナー!」
「いだっ!?」
智葉が俺の足を踏んできた。何故だ。
「何すんだよ!?」
「……邪念を感じたから」
何故分かった。しかしガキに欲情などせんがな。
『私は道具だ。悲しみなど……ない』
『そんな言葉を……そんな悲しい顔で言ったって。誰が信じるもんか!』
『あなたにも心があるんだよ! 悲しいって言っていいんだよ!』
『はやてはお前にそんなこと望んじゃいないんだ!』
言いたいことがあるなら力で示せ。お前らいつだってそうしてきたじゃないか。説得なんてらしくないぞ。
『意識のある内に、主の願いを叶えたい』
『このっ、駄々っ子!!』
『待てフェイト! 迂闊に突っ込むな!』
フェイトが業を煮やすデバイスを構えて銀髪の人に突っ込む。それを止めようと追いかける折木。そうだてめえも一緒に吸収されてしまえ。そして二度と出てくんな。いや、やっぱ苦しんだ後に出て来い。俺がボコせなくなるからな。
フェイトの攻撃は防がれて、そのまま折木と一緒に吸収されてしまった。
『フェイトちゃん!! 和人君!!』
俺は目が疲れたので智葉に双眼鏡を渡して玉座に座り、杯にシャンメリーを注いで飲む。展開変わらないし何か飽きてきた。さっさとメイン始まらないかな。
「智葉、俺軽く寝るわ。戦況が動いたら起こして」
「……飽きたの?」
「膠着状態ほどつまらないものも無い」
「ウスノロ押されてるけどね」
そういや智葉って銀髪だし目も赤いしでリインフォースにちょっと似てるなとか思いながら浅い眠りについた。
◆
「お兄ちゃん起きて……――チュ」
「!?」
唇に何か柔らかいものが触れた感覚に驚いて飛び起きた。また不意打ちでキスされた。俺はよくよく不意打ちキスの餌食になるらしい。智葉大人バージョンだったら言うこと無しだったのだが。あ、黒化は無しでお願いします。
「んっん~」
伸びをした後軽く身体を動かして血の巡りを良くする。
「何か新しい人達が出てきたんだけど……」
智葉に双眼鏡を渡された。それを使って向こう側を見ると守護騎士とはやてがいて、再会を喜んでいる。闇の書から抜け出すことに成功したようだ。その代わりにどす黒い半球体がすぐ近くにある。
俺の今回の第一目標は猫姉妹半殺し、第二目標はあのデカイ的だ。横に立てかけてあった
「智葉、危ないからちょっと退ってな」
闇の書の闇。確かナハトヴァールとかいう名前だった気がする。詳しくは覚えてないが消し飛ばしても特に問題は無いだろう。全力の試し斬りにはもってこいじゃないか。
そしてナハトヴァールが半球体から姿を現す。背中には黒い羽が6枚、鎧を着た獣のような前足、昆虫のような横足、機械のような身体、口だけの顔に、頭の上にはリインフォースそっくりの上半身がついている。
出てきた瞬間に剣を振る。一閃、黒い羽が捥がれてナハトヴァールはのた打ち回る。この空間を越えた攻撃はゲイボルグによる因果逆転に似ている。剣戟が飛んだのではない。『剣で斬った』という結果をつくってから『剣を振る』という原因をつくったのだ。
それにこいつの能力はそれだけじゃない。
「ソフ……
判明しているもう一つの能力、それは『強奪』。色々なものを奪われた俺の意思が剣に影響して発動してしまった能力。相手の能力を知ってさえいればそれを一時的に奪うことが可能なのだ。今回はナハトヴァールの持つ驚異的な再生能力を奪った。もうやつに逃げ場は無い。
「消し飛べ」
魔剣から放たれた光と闇が入り混じってできた灰色の光線。それは光の柱となってナハトヴァールのみを覆い隠し、俺の言葉通り跡形も無く消し去った。
それと同時に俺が奪った再生能力も消えてしまった。奪った相手が消滅したら能力も一緒に消滅してしまうようだ。
「……」
それをあっけにとられた表情で見ていた智葉。石化したかのごとく俺の破壊後を見ている。やり過ぎたか、恐がらせてしまったかもしれない。
「――――い」
「へ?」
「カッコいい! 悟飯とかダイみたいだった!」
とんだ肩透かしだった。俺は思わず苦笑する。
それにしてもヒーローね。俺なんか精々べジータやクロコダインあたりが打倒だと思うが。
さて、気づかれないうちにさっさと帰ろう。こちらの用事は済んだし、残骸もろとも消し飛んだナハトヴァールが再生するとは思いづらい。それにばれると色々やっかいなことになりそうだ。
そんなことを考えていたら上から雪が降ってきた。
「あっ、雪。ロマンチック……」
「ホワイトクリスマスだな。ほら、風邪をひかないうちに帰ろう」
「もっと見てようよ」
「帰りながらでも見えるさ。それと、今日のことは二人だけの秘密な」
「うんっ!」
ヴィマーナをゆっくりと起動させて家路へ向かった。降って来る雪の冷たさと隣にいる智葉の体温が心地よく、今までの荒んだ心が少しだけ癒されていくような、そんな僅かばかりの幸せを味わった。
今日は転生して初めて幸せだと思ったクリスマスイブとなった。
◆
あれからクソカス神からの連絡は無い。リインフォースが消えるまではA's編だとでも言いたいんだろうか。どうせ折木がリインフォースを直してフラグを建てて終わるだけだろうに。そうなったらツヴァイの方はどうなるのやら。存在を消されるだけかもしれんが。
そして俺は今、リインフォースが消える高台から少し離れた樹の上で座ってリインフォースを眺めている。どうやらなのはやフェイトよりも早く来ていたらしい。少しでもこの町を目に焼き付けておきたいのか。彼女は今から消滅しようとするにしてはとても穏やかな目をしている。幾ら恩人のためとはいえ何故ああも落ち着いていられるのか。
『私など見てて楽しいか?』
「!?」
突然心に直接響いてきた声に驚いて樹から落ちそうになった。この声は彼女のものだ。彼女は俺が視ていることに気がついている。仕方ないので観念して話すことにした。
『……いつから気づいてた?』
『あんなにじっと視られていたら嫌でも気がつく』
実に簡単な理由だった。
『……すまなかった。闇の書を通して君の事も視ていた。私は取り返しのつかないことを、なんて謝罪の言葉を言ったらいいか分からない』
沈んだ声で俺の心に語りかけてくる。
『俺のリンカーコアを砕きやがったのは仮面の男で魔力を奪ったのは折木の野郎だぜ? アンタに全く非がないとは言わないが、そこまで気にしなくてもいいと思うが。それに治ったし』
『!?』
別にリインフォースを恨んではいないし。寧ろ俺と同じく運命に翻弄された被害者として同情さえしている位だ。後ナイスおっぱい。
それにナハトヴァールの再生能力を奪ったことで砕かれたリンカーコアが治った。普段使わないし表向きは砕けたままにしておきたいから封印して分からないようにはしている。
しかし俺が彼女を許しても彼女自身は自分を許せないらしい。
『なら最後に聞かせて欲しい』
『……私が消えることまで知っているのか。何故……いや、聞くのはよそう』
そうしてくれると助かるよ。
『何故アンタは自分が消えるのにそこまで冷静にいられるのか教えて欲しい』
リインフォースはしばらく黙ったが、やがて、小さな声で呟き始めた。
『私は主に、八神はやてに救われた。呪われた魔導書として縛られていた私を解放してくれた。その彼女が今、また私のせいで危険に晒されるのかもしれないのであれば、消えることに苦はない』
なんと尊い決断だろうか。人、この場合はプログラムであっても人と呼ばせてもらう。人とは本当に大切なモノができるとこうも強くあることができるのか。
『皆が来た。少しだけだったが君と話せて良かった』
『……
これを最後の言葉とリインフォースからの念話が途絶える。
<助けなくていいのか?>
「何だろうな、なんとなくだが無粋にも思えるんだよ。覚悟をしているやつの覚悟を揺るがしてしまうような行為にはさ」
そしてそれをいともたやすくと行おうとする折木。はやての車椅子を押してやってきた。原作でははやてが自力で着てたけどどんな腕力してるんだ?
『リインフォース! お前は望まないのかよ、皆が笑って終われるハッピーエンドってやつを!』
折木が上条さんのような台詞を吐いた。
『無理だ! 私の身体はもう!』
『俺がリインフォースを直す、だから消えるな!』
折木が手をかざしている。最後の神の奇跡ってやつを使うつもりだろう。
『俺はリインフォースを直す』
プレシアさんの病を治したときのように高らかに宣言する。
「?」
しかし、あの時のようなエメラルドのような美しい光が発生しない。
『な、直れ! 直れ直れ直れ!』
再度手をかざすもリインフォースは何も変わらない。
『もういい、私や主に気を使わなくていいんだ』
『違う! そんなバカな!? 後一回分残ってる筈なのに!』
俺にも分からない。何故やつの能力が発動しないのか。
神がやつの特典を使用不能にした?
ありえない、そんなことするくらいなら最初から能力なんて与えていない。そもそもあいつは自覚がないだけでクソ神の操り人形だ。
だとしたらクソ神に何かあったのか?
考えても仕方ない。あいつの株が下がったところで好感度がド底辺にいる俺の知るところではない。
俺にできることは覚悟をした彼女の最後を見届けることだけ。
『主はやて、守護騎士達、そして小さな勇者達。ありがとう……そしてさようなら』
リインフォースは光になった――俺が無意識のうちにとっていたのは『敬礼』の姿であった――涙は流さなかったが、本人同士にしか分からない、奇妙な友情があった――
因果逆転の斬撃
ゲイボルグの斬撃バージョンと思えばOK
強奪
斬った相手の能力を知っていれば、一つだけ奪うことが可能。
その代わり奪った相手が死んだ場合、もしくは一定時間が過ぎた場合能力は消える。
指定した相手を消し飛ばす灰色の閃光。
魔力をそれほど込めなくても魔剣が魔力を増幅させてジルの巨大海魔を消し飛ばした騎士王の一撃と同等の破壊力のある光線を放つことができる。