魔法少女リリカルなのは~踏み台、(強制的に)任されました~ 作:妖刀終焉
冬木の虎があんなに清楚なわけがないと思ってたらやっぱりいつものタイガーで安心した。
3/31 あまりに不評だったため改定しました
戦いが始まった瞬間に銃声が2回響く。俺は打ち上げられた剣が地面に突き刺さる直前にホルスターから銃を抜いて腰だめで撃ったのだ。
「あ、ア゛ア゛足……がア」
その2発は見事折木の両足を撃ち抜く。折木は剣を地面に刺して杖のようにして寄りかかったお陰でそのまま膝を付かずに済んだ。泣き叫ばない辺りにやつの精神の強さを感じられるが、これで滅多な高速移動はできない。未来視をしていれば避けられたかもしれないのに、俺を侮ったばかりにやつは足を封じられた。
「『銃は剣よりも強し』ってやつか?」
<ンッン~、名言だなそりゃ>
やつは額に脂汗をかき、足の激痛に顔を歪ませながらも、持ち直そうと俺を見る。その目は俺の銃に向いていた。
「ピストル……? お前の武器は
「ああ、あれ? あれは呼び動作に時間が掛かるしお前に対してだと先手を取られるからな。その点こいつは宝具ほど威力はなくても確実にお前の脚を封じられる。そんな風に、な」
俺はもう一度引き金を引いた。次に狙うのは右肩。今度は利き腕を使えなくしてやる。いきなり脳天ぶち抜いて終わりにしてもつまらないからそれは最後だ。
銃というのは避けるのは難しいとされているが、プロは銃口を見てある程度銃弾の軌跡を予測できるらしい。折木も痛みに耐えながら横へ跳んだ。
だが甘い。コイツの弾丸は俺の思いのままに動かせるのさ。
「な、何!? 軌道が曲がって! し、しまった!!」
コイツだってデバイスなんだぜ~~ッ。俺をナメきってそこんとこ予測できなかったお前の命とりなのさぁーー。
さて、アブドゥルは来てくれないぜ。こいつをどう処理するか見せてもらおうか。
弾丸はそのまま弧を描いて折木の右肩を撃ち抜き、
「ハア!」
訂正、撃ち抜く前に割り込んできた何者かの剣撃によって破壊されてしまった。
「……誰だお前?」
目の前にいるのは茶色の髪を腰まで伸ばしている女剣士。全く見覚えがない。そもそも今ここにいるのは俺と折木だけの筈だが、鷹丸に一杯食わされたか?
「お、お前は一体?」
驚いているのは尻餅をついて立ち上がれない折木も同じのようだ。
「この姿を見せるのは初めてになりますね。この声で分かりませんか?」
「っ!? もしかしてお前ディアか!!」
コイツがあの口の悪いデバイス?
「おい
<……そういう仕様なんじゃね?>
成程、全く納得できん。
「お前は人間化とかできねぇのかよッ」
<マシンガンになれるぜ。コントロールできねぇけどよ>
折木は人間化したデバイスに支えられながら立ち上がった。そしてデバイス人間は俺を睨みつける。
「貴様、卑怯な!」
「卑怯だぁ~? 一対一だってのに二人で来るてめぇらにだけは言われたくねぇな~」
足を潰したとはいえあいつだってチート仕様なんだからそのうち回復しちまう。回復したら本格的に二対一になって俺が不利だ。
「私はマスターのデバイスだ。人間化しようともデバイスであることに変わりはない」
「そういうの屁理屈って言うんじゃないの~? それとも屁理屈言わなきゃ傲慢で全然成長してない魔力馬鹿にも勝てないほどお前のマスターがポンコツってことなのかなぁ~?」
「貴様、私のマスターを侮辱するな!!」
デバイス人間ディアは細身の剣、レイピアかなにかだと思うが、それで突きの構えで猛烈な速度で突進して来た。
突進からの突きの攻撃、その速度は『シルバー・チャリオッツ』(甲冑つけてる方)にも匹敵するだろう。だが俺は位置を少しずらして、ディアの足を引っ掛けた。
「えっ!?」
俺を貫かんと全身の体重を前に乗っけていたことが仇になり転倒。勢いよく地面に顔から突っ込んでそのままガリガリと地面を擦った。ここまで簡単に引っかかるとは思わなかった。見てるだけで凄く痛そう。
「ううっ……」
泣きそうな目でこちらを睨んでいる。その綺麗だった顔は血と土と涙で見ていられないレベルにまで落ちている。
しかし、この神代劉牙、容赦せんッ。
「
グシャグシャになった顔に波紋を込めた膝蹴りを容赦なく見舞う。女に攻撃するのはためらいがちだったが、最近そうでもなくなった。女だろうが男だろうが敵は容赦なく潰す。
「ディアーーーーーー!!」
俺の一撃で人間化が保てなくなったのか、元の剣の姿に戻った。厄介だから使えなくしておこう。コロッセオの一番高い所へ目掛けて放り投げた。剣はコロッセオのてっぺんに突き刺さる。
「ディア!!」
デバイスを回収しようと撃たれた足を引きずりながらノロノロと歩く折木。本人は必死に走っているつもりだろうが、格好の的だ
「喰らってくたばれ! 波紋シャボンカッター」
高速回転させたシャボン玉は刃のように鋭くなり、足を集中して切り刻む。
「があああああああああああ!!」
このシャボンも特別製だ。破壊しようとすればシャボンマインと同じく爆発する。そしてその威力は以前のシャボンマインとは比較にならないほど強化されている。今回は爆発せずに空中に浮いたまま、しかし滞空した状態で下手に刺激を与えればボンッだ。
「くそっ……」
「なあどんな気持ち? 今まで下だと見下してきたやつに地べたを這いずりまわされているってどんな気持ち? 教えてくれよ、なあ?」
足をやられて芋虫のように腹這いになる折木を今までの恨み晴らすかのごとく嘲笑う。
「何で……」
「ん?」
折木の声には怒りが篭っている。
「そんなに力があるのにっ、それだけ強いのに、何で! それだけ強ければもしかしたらもっと上手くプレシアさんを、フェイトの母さんを救えたかもしれないのに! はやてやリインフォースも悲しまずに済んだのかもしれないのに!」
呆れてしまった。一体コイツは何を言ってるんだろうか?
「……で? 何が言いたいんだぁ? 偉そうに意見をたれるならハッキリ言え」
「実力を隠す必要なんかなかった! 皆必死思いで戦ってたのに! お前は今まで手を抜いてたってことじゃないか! お前がしっかりやっていれば「もういい黙れ!」ガッ!?」
怒りのあまり折木を蹴り飛ばす。二転三転して仰向けになった折木を睨みつけた。こいつは何も知らない。しかし知らないからって俺に意見する権利なんてない。
「俺のリンカーコアを潰す手助けをしたお前がそれを言うのか?」
俺の台詞に折木は言葉を詰まらせる。やつは俺を助けずに魔力を奪うことを優先した。もし原作通りフェイトが仮面の男に捕まったら折木は魔力を奪っただろうか。
「仕方ないじゃないか! それに俺は転生させてくれたお爺さんからこの世界の魔法少女達を守ってくれって頼まれたんだ。悪の転生者が狙ってるからそいつらから守ってくれって!」
……成程、そういう仕組みだったのか。俺に対して少々冷たいところがあるなとは思っていたが、これが原因か。別にコイツに嫌われようともどうとも思わないが、つくづくあのクソ神の思惑通りことが進んでたんだと思うと反吐が出る。
「俺はな! そのお爺さんに呪いをかけられてたんだよ! なのは達に嫌われるように、お前に全ての功績を譲るように!」
「何を……言っている……?」
「そう、呪いだ。お前の踏み台を演じなければみんなの記憶から俺が消える呪い。分かるか? 家族や友人から忘れ去られる恐さが。どんなに頑張っても赤の他人の功績になっちまう虚しさが。言ったら呪いが発動するから誰にも言えなかった。だが俺はせっかくの家族を失いたくなんてない、一人ぼっちになんてなりたくない。自己流とデバイスに習いながら魔法を覚えた。波紋みてーな技術も覚えた。何があっても対処できるように色々策も巡らせた。無論てめぇの尻拭いもだ」
「そんな……嘘だ……」
折木の顔が蒼白になっていく、今まで信じていたものが覆されようとしている。
「皆を助けるとほざきながら『神の奇跡』ではやての足を治さなかったのは何故だ?」
「お前ッ、何でそのことを「質問に質問で返すなあーっ! お前は学校で疑問文には疑問文で答えろとでも習っているのかッ!」」
「……やろうとした。だけどその前にお爺さんから止められた。その能力をもっと必要としている人が必ず出てくるって。はやてはちゃんと助かるから大丈夫だって。現にはやては助かった」
そりゃそうだ。きちんと原作通りに進んでいれば、はやての足は治る。こいつは原作を知らないのだからそれは別にいい。
「その能力を最も必要としてたのはリインフォースだった! なのに……使えなくなるなんて」
俺はそこに一つの毒を落とす。
「……そこにお前はいるのか?」
「えっ?」
「お前を転生させた爺さんの言う通りになのはを助けて、フェイトを助けて、はやてを助けて。そこにお前の意思はあるのかって聞いている」
折木は口を閉ざす。強制的にやらさられた俺と違い、こいつは自由があった筈。だが、クソ神の言う通り動いていた。そうさせられてると知らないで。さも自分の意思でやったことだと思い込まされて。
「で、でも。自分自身でも助けたいと思って」
「じゃあ何故神の言葉を鵜呑みにしてはやてを助けなかったんだ? それになのは達は助けておいて何で俺は助けてくれなかったんだ? 目の前で仮面の男に身体ブチ抜かれてたのによ。それともお前の正義とやらは女の子に対して限定なんでしょーか?」
「あ……」
堂々巡りだ。苦しい言い訳。矛盾の連続。こいつはクソ神の言葉を信じすぎた。これはもはや洗脳、精神操作の領域だ。
「お、俺は……」
「正直この戦いは俺がお前にするただの八つ当たりだ。お前が結局のところクソ神の操り人形だったことには同情するが、それとこれとは話が別だ」
折木は目を伏せた。その胸中がどうなっているのかは分からない。ただ、言い訳は止めたようだ。
「……俺は、どうしたらいい?」
「はあ?」
「どうしたらいいか分からない。あのお爺さんからのアドバイスもあれからなくなった。もうどうしたらいいか分からないんだ!」
何かに依存した人間は依存していたものがなくなるとこうなってしまうのか、覚えておこう。
「知るか、それこそお前で決めろ。俺はもうお前の踏み台じゃない。だから俺は今までの踏み台としての人生に終止符を打つ意味合いでお前を倒す」
折木はとてもゆっくりとだが、立ち上がる。俺と話をしている間に足の怪我が多少は癒えたのだろう。それくらい承知の上だ。
「それは……お前が決めたことなのか?」
「だったらどうした?」
折木は近くにあった剣を抜く。その剣は最初に俺が試合開始の合図として撃ち出した剣だ。剣を構えて俺に斬りかかってきたのだ。
スピードはそれ程速くない。身体をずらしてあっさりと剣を避ける。
「うぐっ!?」
やつはブレーキをかけようとして顔を苦痛に歪ませる。それも一瞬のことで、またすぐに剣を振りかざして斬りかかってきた。
「……無駄だ」
身体をずらして、腹に波紋を込めた拳をお見舞いする。避ける事すらできない、
「っ!?」
それでもなお、踏みとどまる。波紋を込めているから気絶してもおかしくないんだが。
「何がしたいんだお前は?」
「俺……は、本気……のお……前と、ハァ、戦って……今度……こそ勝つぅ」
負傷し、消耗した折木は一見して息も絶え絶えで軽く殴ったら一撃で倒せそうだ。
「それがお前自身が決めたことだと言いたいのか?」
折木は大きく頷く。もう声を出す体力すら惜しいのか。
俺は油断はしない。窮鼠猫を噛むという言葉がある。だから俺はやつを全力で倒す。
やつはラディカル・グッド・スピードを使う様子がない。自分の身につけた力だけで俺と戦うつもりなのか。だから俺も自分が身につけた力で迎え撃つ。
波紋の呼吸、波紋エネルギーを全身に巡らせる。それに合わせてやつも剣に螺旋の炎を纏わせる。それはまるでシグナムの紫電一閃に似ている。
「業炎一閃!!」
「
炎の剣と光の拳が交差し、戦いに終止符を打った。
◆
「終わった?」
いつの間にかいた鷹丸。もしかしたら何処かで見ていたのかもしれない。
戦いは俺の勝ちだ。だが、最後の一撃は相当強かったとだけ言っておく。
「終わったよ」
俺は後ろに前のめりになって気絶している折木に剣を向ける。別に止めをさすわけじゃない。
「『俺、神代劉牙のことについて口外すること』を禁じる」
剣の先から淡い光が出て、折木の頭に吸収された。それと同時に折木はこのコロッセオから姿を消した。元の世界に帰ったのだろうか。
「ああ、僕の能力が一つ消えてるかと思えば、その魔剣か」
俺が真っ先に奪ったとても厄介だと思った能力。『転生者を制約で縛る力』は折木に対してとても有効な能力であった。最初から使ったらつまらないからこれも最後までとっておこうと思っていた。
こうして俺のA's編は幕を閉じたのだった。
次回、最終回