魔法少女リリカルなのは~踏み台、(強制的に)任されました~ 作:妖刀終焉
※2013 1/28
身体能力のリミッターについて書き加えました。
第5話
『助けて……』
「『きつねうどん』、『きつねそば』ってのはわかる……。スゲーよくわかる。きつねといったら油揚げだしな……。だが『たぬきうどん』、『たぬきそば』ってのははどういう事だああ~~っ!? のっかってるのは天かすじゃねーか! たぬきと天かすに何の関係があるっつーのよーーーッ! ナメやがってあの食いもん超イラつくぜぇ~ッ! 」
現在教室の掃除中にギアッチョと雑談していたところ、何か聞こえたような気がするんだがギアッチョのはた迷惑な咆哮によってかき消されてしまった。
時期的に考えて多分ユーノだと思うんだが。
「ちょっと黙っててくれるか? ちなみに『たぬきうどん』、『たぬきそば』は昔はイカを芯にして扇形に衣を膨らませて作った天ぷらがのっかってたもので天ぷらの大きさに比べて中身のイカが小さくて「化かす」って意味からきてるらしいぞ。他にもうどんより黒っぽい蕎麦が主流で汁も黒っぽいからだとか、単純に天ぷらの種を抜いた揚げ玉「たねぬき」から「たぬき」って呼ばれるようになったって説もある」
揚げ物の話をしてたらカツ丼食いたくなってきたな。大盛りのカツ丼注文してかっこみてぇ。でも残念なことに体がまだ子どもだからあんまりたくさんは食べられないんだよな。あーカツ丼食いてえ、半分くらい食ったら七味とかゴマとか紅しょうがとかで味変えて食いてえ。
『助けて!』
このミズハスボイスは間違いなくユーノだな。三期では一人三役で大変だよね。とゆーか三期はキャラが爆発的に増えるから仕方ない。
「お前物知りだな~」
「俺も気になって調べたことがあるからだよ。それよりさっさと掃除終わらせるぞ」
なのは達に助けられてるだろうし、今から直でユーノのところへいく必要はないな。行くとしたら夜中。ランニングのふりでもすれば家族にも怪しまれることはないでしょう。
問題があるとすればオリ主の方かな。三年ほど観察してなんとなくだがあいつは積極的に介入はしなさそうに見える。
つまりだ。無理やりにでも巻き込まないといけないだろうな。
それにしても掃除当番とか面倒。二人ずつでローテーションだから今日やったらしばらくはまわって来ないだろうけど、それでも面倒。掃除をすると心も綺麗になるなんて誰かが言ってたけど俺の心は荒んだままさ。
「お兄ちゃん、掃除終わったの?」
「智葉?」
掃除を終わらせて教室を出ると廊下で智葉に会う。ギアッチョは所属しているサッカークラブの練習に間に合わなくなりそうだから先に帰らせた。
「先に行ってても良かったのに。友達とは帰らないの?」
軽い疑問をぶつけてみると、智葉は首を横に振る。
「いいの、今日はお兄ちゃんと帰りたい気分だったから」
「そうかそうか。愛いやつめ」
「えへへ」
智葉の頭を優しさをこめて軽く撫でる。下心なんて無い親愛の証を義妹は幸せそうに受け止めてくれた。
「ウェヘヘヘ」
幸せそうというか、段々恍惚とした表情になってきてるんだけど大丈夫かな。そろそろ止めよう。
「あっ……」
何故この世の終わりみたいな顔をする?
ふと思ったんだけど『なでポ』ってあるよな。あれは女性の頭を撫でるだけで相手が落ちると思われがちだけど、そもそも頭を撫でるって行為を相手に許すのなんて一定以上の好感度が無いとありえないよな。俺だって仮に同年代でも赤の他人に頭を撫でられるのは遠慮したい。
「帰ろうか」
「うんっ」
夕焼け空の帰り道、二人で他愛の無い話、例えば今日の小テストはどうだったとか、体育の50m走で記録を更新したとか、うちの担任の先生に春が来たとか。教頭のズラがずれてて笑いを堪えるのが大変だったとか。
この踏み台人生においてこうやって義妹とのふれあいは数少ない清涼剤だ。
でもいつか智葉から「お兄ちゃんウザい」とか言われるのだろうか。それだけならまだお兄ちゃんと呼ばれてるだけマシかもしれない。「おい」とか「お前」とかで済まされるようになるかもしれない。
「ねえお兄ちゃん」
「んー?」
「私に隠し事とかしてない?」
「……」
さっきまでの和やかムードが一転シリアスへ。智葉も真剣な表情でこちらを見つめている。夕日をバックにしているこの情景は傍から見ればまるでドラマのワンシーンの様にも写るかもしれない。
「隠し事ねえ……」
あるなぁ、隠し事。というより隠し事の無い人間っているのか?
「急にどうしたんだ?」
「誤魔化さないで。質問に答えて」
なんなんですかこの状況は!?
さっさと帰って夜に備えたいんですけど。
「わかった、白状するよ。…………お前が半分残してたチョコケーキ食ったの俺なんだ」
「………………へ?」
結論、適当な事言ってやり過ごそう。
ケーキ食ったのは事実だけどね。
「あ、あれ食べたのお母さんじゃなかったんだ……(お兄ちゃんと間接キス……私が口つけたものがお兄ちゃんの中に……うへへへ)」
怒られると思ったんだが逆に戸惑っているふうに見えなくも無い。あとなんかにやけてないか。
その後は時々「うへへ」とか呟きながら心ここにあらずの状態で話しかけられることはなくなった。
よくわからんが誤魔化せた……のか?
◆
「
<ジュエルシードの反応はまだないぜぇ。旦那の黄金虫の方はどうだい?>
「いいや、まだ知らせは無い」
俺は部屋のベッドに寝転びながら時が来るのジャージを着て待っている。ユーノが預けられている動物病院には瑠璃丸に見張らせ、ジュエルシードの反応については
「あっ、そうだ」
<どうかしたか?>
「俺の魔力ってリミッターかかってるよな」
<かかってるぜ、旦那のご要望どおりにな。今の旦那はリミッターかけてSくらいはあるんじゃねえか>
魔力についてはAAA~Sくらいあれば今のところは充分過ぎる。けど問題は……。
「身体能力のリミッターもつけられないか?」
<肉体へのリミッター? そりゃまたどうして?>
不足の事態に備えてというのもあり、デバイスがきてからみっちり鍛えすぎたかもしれない。新しい魔法を開発したりや新しい戦法なんかもいろいろ考えてはいるものの
自分で手加減すれば済む話かもしれないけれど戦っている最中に熱くなってうっかり本気になる危険性がある。実際それで智葉泣かしてるし。
「うっかり本気出して勝っちまうわけにはいかんだろ?」
ハァと深い溜息をつく。
「負けるわけにはいかない」だったらカッコいいんだけど「勝つわけにはいかない」……か。自分で言ってて悲しくなってきたよ。
<かーっ、悲しいなぁおい。……出来ないことも無いぜ>
能力くらい選ばせてくれてもいいじゃない。
ちょっと使いづらいし、どうせチートにするんだったらだったら
とりあえず身体能力にもリミッターをつけて本来の45%。わかりやすく言うと、一般の中学生レベルまで身体能力を落とした。
「むっ!?」
<おい旦那ァ!>
「よし行くか!」
家族には眠れないからランニングしてくると言って急いで家を出る。軽く準備運動をしてから全速力で走って動物病院へ走っていった。
「さて」
ずば抜けた運動能力のお陰でそれほど時間もかからずに目的地へと到着。既に何か大きなものにぶつかって壊された形跡があちらこちらにある。
「グオオオオオオオオオオッ!!」
「うわっ!」
俺は咆哮に驚いて思わず近くの柱に身を隠した。咆哮の主は黒くて大きな化け物。もしかしたら見えないだけで何処かになのはが隠れてるのかもしれない。
「
<……二人、だな>
やっぱりか、あーくそっ。予想していたことではあるが、実際にこうなると腹が立つ。この場に折木はいないということはだ……あいつ、この状況を放置するつもりだな。
「セットアップだ。それと今からじゃ遅いかもしれんが結界も頼む」
<あいよっ>
俺はバリアジャケットをに換装し、
「えっ、神代くん!?」
「おおっ、無事だったか俺の嫁!」
化け物の衝突は金色の盾によって防がれて、弾き飛ばされた。なにせあのカラドボルグの一撃を受けても凹みもしなかった盾だ。そう簡単には破られまい。そして踏み台らしくなのはへの嫁呼ばわりも忘れない。
「あの、誰かは存じませんが時間を稼いでくれませんか!? ちょっとだけでいいんです!」
「いいぜ! ちょっとと言わず一日だって耐えて見せらァ!」
弾かれてもめげずに向かってくる化け物に適当な宝具を2、3本射出して黙らせる。
「レイシングハート!セットアップ!」
そう言うと後ろが光って、なのはがセットアップしていた。小学校の制服を基調にした白いバリアジャケットだ。
どうでもいいけど宝具の爆発音で見逃したーーーーー!!
おっと化け物が体勢を立て直して今度は触手を伸ばして襲ってくる。いや、男に触手とか誰得なんだろうか。
「ふははは! さあ、開幕といこう!」
ギルガメッシュの台詞とともに
<スタンバイレディ>
「リリカルマジカルジュエルシードシリアルXXI、封印!」
残った3分の1はレイジングハートから射出された光に飲み込まれ、後にはジュエルシードのみが残った。
なのははバリアジャケットを解除した後に俺もバリアジャケットを解除する。この場にいると面倒なことになりそうなので場所を公園へと移した。
「おいフェレット。あれは何なんだ?」
俺の質問に対してユーノはこれまでの経緯を話してくれた。本当は知ってるけど知ってたらおかしいし知らない振りだ。
あの宝石、ジュエルシードのことだが、それを護送している途中に謎の襲撃にあい、そのはずみにジュエルシードがこの地球に落ちてきたらしいとのこと。
「ごめんなさい。僕のせいで……」
「そんな、ユーノ君のせいじゃないよ」
その後、何やかんやでなのははユーノの手伝いをすることに決めたようだ。「俺も手伝うぜっ」って言ったら「ああ……そう」とものすごく微妙な顔をされて返された。絶対にお呼びでない状態だよ。
これくらいでは泣かないぞ。
「ふう、これからどうしよう」
なのはと別れる前にユーノにいろいろ質問されたが、俺はなのはと同じく偶然素質があって、偶然デバイスを手に入れたってことにしておいた。なのはだってそうだったしまず疑われることはない。
<ひどいぜ旦那ァ。俺の出番ねぇじゃねぇの>
家への帰路の途中に
「仕方ないじゃん。お前の能力は明らかに隠密向きだ」
「そういやお前から見てなのははどうだった?」
<ンー……一言で言えばダイヤの原石ってやつか? あれだけのポテンシャルを秘めてるんならきちんと訓練を受ければどれだけのものになるか、って思っちまうな>
やっぱ主人公ってすごいね。基本皆才能の塊だよ。天然チートってやつ?
まずは帰ってからこれからについて考えよう。
いいぜ折木。テメェが何もかも無視して平穏な日常を送ろうっていうのなら――――。
――――まずは、その平穏をぶち壊す!!
今回の宝具『オハン』
四本の黄金の角、四つの黄金の覆いがついた目もあやなる魔法盾。持ち主に危険がせまれば叫んで知らせてくれる。強度もかなり高く、満身の力をこめて三度、フェルグスはカラドボルグでクルフーアの上に剣を振り下ろしたが、へこみひとつつかなかったと言われている。
クーフーリンは離れた場所で、オハンの叫び声のお陰で3度王に危機があったことを知ったとか。