魔法少女リリカルなのは~踏み台、(強制的に)任されました~   作:妖刀終焉

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うちの踏み台は無害そうに見えて結構性格悪い


第6話

 なのはが魔砲……じゃなかった魔法少女になった次の日。俺はいつものように教室に入り、三人娘の会話に無理やり参入するという恒例行事を行う。

 

「何の話をしてたんだ? 俺も混ぜてくれよ」

 

「じゃ、じゃあまたあとでね」

 

「うん」

 

「また来た」

 

 俺が来た途端に楽しいおしゃべりは無くなり蜘蛛の子散らすかのごとく皆席についた。俺はあとどれくらいこの作業を続けていかなければならないのか、考えると頭が痛くなり気がおもくなる。

 

 今日は八束神社で犬にジュエルシードがとりついて暴れまわるんだっけか。

 

 授業中は気分転換にノートに新しい魔法のアイディアでも書き連ねたりしてみる。ちなみに使うのは宝具のペン。書いた人物が許可した相手にしか見ることが出来ない魔法のインクのお陰で傍から見たら必死にノートを書いてるようにしか見えないだろう。

 

 魔法には魔力を炎や雷に変えて放つことが出来る魔力変換なんてものがある。資質のある者(フェイトやシグナムなんかが当てはまる)は魔法抜きで使用可能な使い勝手のいい魔法だ。しかし資質が無くても訓練すれば俺にも出来ないことは無い。

 

 魔法を使ってみて知ったのは集中力も大切だけど一番重要なのはイメージ。エミヤも言ってたな『思い描くのは常に最強の自分自身』だって。

 

 宝具の中には炎や雷を起こせる武器なんて数え切れないほどあるし。水……いやシャボン玉なんてどうかな。シーザーみたく石鹸水を服に仕込み、波紋じゃなくて魔力を通して自由自在に操ることが出来るシャボン玉。まさか敵もシャボン玉で攻撃してくるなんて思わないだろう。相手の視界を遮ったりシャボン玉に閉じ込めて捕獲なんていうのも面白そう。

 他には、そうだな。飛行靴無しで飛ぶ方法とかも考えてみよう。なのは達のような飛行資質は無くてもツナみたいに炎なんかでジェット噴射で空中を移動したり、月歩で空を蹴ったりとか。

 

 やばいな。考えたら止まらなくなってきた。授業中も寝てる暇なんて無いぞ。でも漫画だけじゃなくて自分のオリジナルも考えてみようか。

 

 最終的に三人娘への嫌がらせ以外は一日中魔法のアイディアをノートに書き連ねて終わった。ノリノリで書いていたらノートが半分近く埋まっていることに放課後になって気がつく。

 

 ……ふと思ったんだけどこれって、黒歴史ノートじゃね? 『エターナルフォースブリザード! 相手は死ぬッ!』みたいな。

 

「お兄ちゃん、何見てるの?」

 

「見るなああーーッ!!」

 

「きゃあ!?」

 

 慌ててノートに覆いかぶさるようにして隠す。そして冷静に考えてみると俺以外にはこのノートは白紙にしか見えないことをを思い出してしまったと後悔した。

 

「どうしたの? 何があったの?」

 

 声でわかっていたが、後ろにいたのはやっぱり智葉だった。ノートを見ていたらいつの間にやら後ろに回り込んでいたようだ。

 

「あ、ああ。ノートの字が汚くてな。見られたくなかったんだよ」

 

「そうなの……(あやしい)」

 

 不振な行動をとったせいで逆に智葉の猜疑心を煽ってしまったようだ。

 

「……ちょっと見せて」

 

「うん」

 

 智葉は一瞬意外そうな顔をした後、俺のノートをパラパラめくって内容を確かめている。

 

「……白紙?」

 

「あーすまん。ノートをとってないことがバレるのがちょっと恥ずかしくてさ。さっきのは智葉に驚いて適当なこと言って悪かった」

 

「……そう(やっぱりどこからめくっても何も書いてない。お兄ちゃんは神経質なとこがあるし、流石に今回はきのせいかな……)」

 

 どうも最近の俺は少し周りを警戒しすぎて逆に不自然になってる節があるな。まだ序盤だチャンスはいくらでもある。自然に、かつ確実にポイントを稼いでいけばいいのだ。

 

 

 

 

 どのタイミングでジュエルシードが発動するかよく覚えていないので、放課後は家に帰ったあとすぐに八束神社の近くに身を潜めて時が来るのを待つ。

 

 しばらくするとなのはがユーノを肩に乗せて階段をかけて行くのが見えたので、なのはより少し遅い位のタイミングで俺も階段を駆け上がる。駆け上がった先にいたのはジュエルシードによって凶暴化した犬。そしてその飼い主と思しき女性が気絶している。犬は全身が黒く、鋭い牙を持っていて目が4つある。これはもう犬じゃなくて別の何かだ。

 

 なのはが「レイジングハートの起動の言葉って何だっけ?」とピンチだったから俺が颯爽と一人と一匹の前に出て宝具を一艇犬にぶち込んだ。

 

「ギャイン!?」

 

 適当に射出したのでわからなかったが、どうやら爆発するタイプの宝具だったらしく、犬に衝突して破裂した。ものすごく痛そうに呻いている。非殺傷にはしてるけど爆発とかは大丈夫なんだろうか。

 

「ハッハーッ! 畳み掛けるぜ!」

 

 俺は追撃の手を緩めずに犬に宝具の雨を降らす。元が普通の犬なだけに俺の中の良心がめちゃくちゃ痛んだが、心を鬼にして攻撃を続ける。もう後戻りはできない。俺はもうこの道を進むしかないのだから。

 

 後ろをチラっと見たら俺の容赦の無さになのはがドン引きしていたのが見えた。そしていつの間にやらバリアジャケットに着替えている。

 

 俺が少し葛藤していた間になのはは起動パスワード無しでレイジングハートの起動に成功して、ジュエルシードシリアルⅩⅥの封印に成功した。

 

「ねえ劉牙、さっきの力任せな戦い方はよくないよ。せっかくすごいレアスキルを持ってるのに。それにバリアジャケットにも着替えないで戦うなんて危険すぎるよ」

 

「うっせえなぁ。勝ったんだからいいじゃねえかよ」

 

 ユーノの言うことが100%正しいのだが自分がやること成すこと全て正しいと信じて疑わないのが踏み台クオリティ……だと思う。しかし王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の最も効率のいい戦い方が宝具の射出だというのもまた事実。難しいところだ。バリアジャケットの件はただ単に忘れてただけ。

 

 ユーノからの忠告も無視して唯我独尊を貫く俺を見てまたなのはの好感度は下がっただろう。ヒロインズに嫌われるのにはもう慣れたよ。俺は呼吸をするように原作キャラに嫌われるのだ。

 

 そしてやはり折木は来なかった。あいつをどうやって舞台に立たせるかが問題だ。今のところ考えても全くアイディアが思い浮かばない。あいつが運よくジュエルシードを拾ってフェイトに「それを渡してください」みたに脅されて、フェイトがまともに食事していないせいで顔色が悪い事を折木に気づかれて折木の家に食事することになって。フェイトがうっかり警戒を解いてジュエルシードのことを話してしまい、お人好しにもフェイトのジュエルシード集めを手伝う、なんて上手い方法があればいいんだけどな~。三人娘が誘拐された時に救出に行ってたしお人好しである事に間違いないだろうと推測できる。

 

 そういえばフェイトってもう海鳴に来てるんだろうか?

 

 なのはと分かれて帰路についた俺は遊んでいる子ども達がまばらになってきた公園で皇帝(エンペラー)に聞いてみる。

 

<あるぜぇ~。旦那となのはの嬢ちゃんを除くとなのはの嬢ちゃん並の反応が二つだ>

 

 待て、それだと計算が合わないんだが。仮にフェイトとアルフが来てたとすると。

 

「オリ主は?」

 

<最近になって反応しなくなったな。多分リミッターでもつけてるんだと思うぜ>

 

 全く、人が必死になって頑張っているの……に……ん?

 

 何かおかしくないか? 今まで自分のことばかりで失念したが、何故あいつは原作に介入しないんだ?

 

 俺は呪いがあるから原作介入せざるをえない状態だ。

 

 じゃああいつは?

 

皇帝(エンペラー)、あいつが原作介入しないことによるペナルティみたいなのはないのか?」

 

<……俺は旦那の情報しか与えられてねえからなぁ。向こうのデバイスも同じだろうな>

 

 考えられるとしたらと俺はいくつか仮説を提示する。

1、俺と逆に原作介入するとペナルティが発生する

2、あいつは自分にかけられた呪いについて知らされていない

3、あいつは俺と違って呪いはかけられていない。現実は非情である

 

 1はおそらくない。あの(糞爺)の目的は原作の改変だった筈だから原作介入は寧ろ推奨している。

 

 2も可能性としては低い。あの(薄らハゲ爺)がいくら適当だろうとあいつにもデバイスが送られてきたのだから説明くらいしているだろう。

 

 すると消去法で考えて3が残る。これが事実だとすればと思うとふつふつの怒りが煮えたぎってきた。俺が苦悩して恥をかいて踏み台なんて損以外の何者でもないことをやっている中であいつは何事も無く平和に暮らしている。こいつはめちゃ許せんよなぁ~~~~。

 

 

 

 

 それから数日経って日曜日、今まで変わったことといえば知らない間になのはが新たなジュエルシードを二つ手に入れたこと。これの経過に関しては全くわからん。原作知識も要所要所しか覚えてないし。

 

 俺は現在、とある人物に会って交渉をしている。

 

「君は……普通の石とは違う珍しい石を持っているそうだね?」

 

「な、何でそのことを!?」

 

「ひとつ……それを私に譲ってくれると嬉しいのだが」

 

「そんなこと言われても……」

 

 交渉相手というのが翠屋JFCでゴールキーパーをやっている少年。こっちとは全く面識もないが彼がジュエルシードをマネージャーの子にプレゼントした際に暴走してたいへんなことになるから先に回収してしまおうと接触したのだ。

 

「……なるほど、誰かにプレゼントする予定だったのかな? 例えば女の子」

 

「っ!?」

 

「図星か。ならその石の代わりになるものと交換でどうだろう?」

 

 俺はポケットから赤い宝石をあしらったペンダントを取り出す。これも王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の中にあったものだ。これ一個で海鳴という俺ん家の危機を防ぐことが出来るのなら安いものだ。

 

「ただの石を渡すよりブローチやペンダントのようなアクセサリーを渡したほうが女の子は喜ぶんじゃないかな?」

 

「うっ。でも何でこれとそんな綺麗なペンダントを交換してくれるんだ? これ、拾ったものだよ?」

 

「ふむ、訳あってその形をした石を探してるんだ。流石に訳までは話せないけどね。悪い提案じゃないと思うよ?」

 

「で、でも……」

 

 ええい仕方ない。最終手段だ。

 

「俺の目をよーく見るんだ」

 

「え、目を……?」

 

「そう目だ」

 

「あ~……あ……」

 

 軽い催眠術だ。数秒間ほど意識が朦朧とするだけで特に後遺症も無い。その間にポケットの中にあったジュエルシードとペンダントをすり替えて、ついでに記憶も改竄しておこう。最初からこの方法でやったほうが早かったな。

 

「はっ!? 僕は一体……?」

 

「そろそろ試合の時間じゃないのかな?」

 

「そうだった! ありがとう! えーっと……」

 

「名乗るほどのものじゃないよ。そんなことより早く行かないと」

 

「うん!」

 

 キーパーの子は駆け足でサッカー場へ走っていった。記憶の改竄には成功していたようでほっとした。

 

皇帝(エンペラー)、ジュエルシードを封印するぞ」

 

<あいよ! ジュエルシード封印!>

 

 結構あっさりだった。ともかくこれで危機は回避できた。これをなのはに届けて……いやこいつを利用すればオリ主を舞台に上げることが出来るかもしれない。

 

 そして今、折木はなのは達とは一緒にいない。何たる偶然、天は今俺に味方している。

 

「よしっ」

 

 俺は頬を叩いて気合を入れなおした。

 

 ここでサッカー場へ行ってポイントを稼ぐのもいいが、細かいポイントはあとでも獲得できる。今回はどでかく狙う兼憂さ晴らしといこうじゃないか。

 

 俺が行ったのは折木が買い物や散歩によく通る道。そして何と都合のいいことか、双眼鏡で見たところあいつは今買い物帰りの様子。折木の家もフェイトのマンションもはやての家も下調べをしておいて良かった。ここにきて双眼鏡による観察が生きたな。

 

 気配も魔力も感づかれないよう遮断している俺に死角なし。

 

皇帝(エンペラー)フェイトのマンションのほうにこのジュエルシードの反応をとばすんだ」

 

<なんだよ、せっかく手に入れたジュエルシードを渡しちまうのか?>

 

「俺は元からジュエルシードなんぞに興味は無い。おそらくこいつを使っても呪いは解けないだろうしな。俺にとって『呪いを解く』ことこそ至高。あとは人死にさえでなければどうでも良いのだぁ」

 

<あ~何だ。とにかくこいつの反応をあっちのマンションのほうにとばすぜ>

 

「ついでに俺の身体能力のリミ解(リミッター解除の略)も頼む。80%くらいで」

 

 なのははジュエルシードに気づかずフェイトは今ので気がついただろう。

 

「そして……これでもくらえ! 五光烈華」

 

 俺は投球ホームから身体を最大限に捻ってジュエルシードを折木目掛けて投げた。色んな怨念を込めて放られたジュエルシードはジャイロ回転しながら直進し折木の顔に直撃した。

 

『あだっ!?』

 

「よしっ」

 

 愉快痛快奇奇怪怪。とってもスカッとした。最高の気分だ。人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。

 

『こりゃ一体何だ?』

 

『<マスター、気をつけてください。封印されてはいますがかなりの魔力を秘めています>』

 

 あいつジュエルシードについて知らないのかよ。原作知識なしタイプか。しかし何かが起こってることくらいは気づいていただろうに。

 

『ふ~ん、こんな石っころがねぇ。本当なのかディア?』

 

『<はい、このアルカディアの性能をお疑いですか?>』

 

 皇帝(エンペラー)に不満があるわけじゃないが何であいつのデバイスのAIは女声なんだよ。せめてどっちかに統一してくれよ。

 

<旦那、来るぜ!>

 

「おう」

 

 俺は念のため近くの草むらに身を隠した。

 

 空から黒く露出度の高いバリアジャケットを着た金髪ツインテールの少女と赤い大型犬……じゃなかった狼が折木の前に降りてくる。フェイトとアルフだ。

 

 ……いやあの、いくら人通りが少ないからって魔法の秘匿くらいしなさいよ。

 

『その石をこちらに渡してください』

 

『言うこと聞かないとガブッといくよ』

 

『だ、誰なんだ』

 

『もう一度言います。その石を……』

 

 フェイトがそう言いかけると時間が止まったかのように全員が沈黙しだした。

 

『あ、あの……今のは……』

 

『腹、減ってるのか?』

 

『もう! だからちゃんとご飯食べないとって言ったんだ』

 

 なるほど、腹の虫がなったのか。

 

『わっ、犬が喋った!』

 

『狼だ! というかさっきも喋ってただろう!?』

 

『そうだ。俺の家で何か食っていかないか? ちょうどこれから夕飯作ろうと思ってたところだし』

 

 向こうは向こうでもうシリアスムードはぶち壊されてるしこの調子なら放っておいても俺の思惑通りになりそうだ。帰って英気を養おう。俺も腹減ったし途中でチョコでも買ってくか。

 

 

 

 

 お兄ちゃんが朝早く家を出たのが気になってついてきたけどよくわからない一日だった。

 

 お兄ちゃんはそれほどサッカーは好きじゃないはずなのに真っ先に行ったのが小学生チームの試合があったサッカー場。あの雌豚どもに会いに行くのかと思って腸が煮えくり返ったけど雌豚どもには会わずに選手の男の子に会っていた。

 

 『お兄ちゃんはもしかしてウホッな人なの!?』と心配になった。だって顔近づけてるんだもん。キスとかしてないよね!? そうだと言ってよバーニィ。

 

 会話内容までは聞こえてこなかったけどお兄ちゃんが綺麗な青い石と赤い宝石がついたペンダントを取り替えてた。男にあげるんだったら私にプレゼントしてくれればいいのに。この前の私への誕生日プレゼントはクマの人形だったのに。でもお兄ちゃんがくれたものなので一生大事にします。

 

 そのあとは何かをプロ野球選手みたいな投球ホームでどこかへ投げていた。遠かったから何かまではわからなかったけど、あまりのカッコよさに一瞬気が遠くなってしまった。お兄ちゃんカッコいいよおにいちゃんがジャイ○ンツに入団したらエースで四番間違い無しだよ年棒5億は余裕だよ新人賞とか総なめだよプロ一年目で絶対メジャーにお呼びがかかるよ。

 

 

 そうか。お兄ちゃんはあの石を探してるんだね。

 

 頑張ろう。頑張ってあの青い石をお兄ちゃんにプレゼントしよう。

 

 そうしたらお兄ちゃんも私を見直してくれる筈。あんな雌豚なんかに惑わされたお兄ちゃんの目を覚まさせることが出来るかもしれないんだ。




今回のオリ主

デバイスの名前が判明
名称 アルカディア(通称ディア)

そしてオリ主はお人好しの精神が災いしてフェイトに協力するようです。

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