魔法少女リリカルなのは~踏み台、(強制的に)任されました~   作:妖刀終焉

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※注意 今回リョナシーンありです。


第7話

(何がどうなってる……?)

 

 劉牙が真っ先に抱いた感情が疑惑。

 

 朝登校して三人に話しかけようとすればそこにアリサ・バニングスの姿だけが無い。遅刻かと思ってそのまま何もせずに席についたがチャイムが鳴っても彼女が来る気配が無く。そのままホームルームが始まってしまう。今まで彼女が風邪をひいて休んだ記憶が無いし、無断欠席したことも無い。なのはもすずかも折木も他のクラスメイトもそのことに不振を抱いていた。

 

 ホームルームで教員から彼女が昨日の塾の帰りに交通事故にあったことがクラス全員に説明される。彼女が乗っていた車が横転してしまったらしい。幸運なことに運転手もアリサも軽症で済み、現在は念のためにと検査のため一時的に入院をしているとされる。異常が無ければ近いうちに学校に復帰できることだろう。

 

 その二日後、今度は月村すずかが同じく交通事故に遭った。今回は教員から詳しく話されなかった。ということはあまり好ましくない状況だということが一部の利口な子どもには想像できよう。

 

 劉牙が独自に調べたところ自宅でかかりつけの医者に観てもらっているようだ。吸血鬼故の回復力のおかげで想像していたよりは元気なようだ。人間ならこうはいかないかもしれない。

 

(さっぱりわからん)

 

 勿論彼も飽きるほどとまではいかなくとも魔法少女リリカルなのはというアニメには目を通したし、二次創作も何作品か読んでいた。自分がいることによるバタフライエフェクトのことも当然覚悟している。していても何一つ原因がわからない。考えられるとしたらジュエルシードによるトラブルだが、今のところ情報が少なすぎる。

 

 それに二人があの状態ではなのはとフェイトが出会う筈のお茶会はやらないだろう。

 

(二人が事故に遭った理由は何だ? まさか二人続けて事故に遭うなんて偶然はそうそう起こらないだろうし、誰かが意図的に事故を起こしたとしてもその理由は? 二人の共通点といえば富豪だということ。お金が欲しいのなら普通は誘拐を選ぶ。だとしたら二人に恨みを持っている? 彼女らの両親なら逆恨みされる要素が多すぎて少し調べただけじゃわからない)

 

 劉牙は一先ず考えるのをやめ、これからのことを考える。お茶会が無くなったとしても月村宅にあるジュエルシードが同じタイミングで発動する可能性が高い。それに情報が少ない状態であれこれ考えても埒があかない。彼は本来情報を集めて綿密に策を弄するタイプの人間だ。

 

 そして本来であればなのは、アリサ、すずかがお茶会をやる筈であった週末に、高町なのはは高町恭也の引率でユーノを肩に乗せてすずかのお見舞いのために月村宅を訪れていた。世界からの修正作用というやつだろうか。図らずとも彼女はこの日にこの場所へ来たのだ。

 

 ちなみにユーノは「病人の部屋に動物を入れるのは不味いだろう」という理由で恭也が預かっている。

 

「良かった。思ったより元気そうだね」

 

「お医者さんの腕がいいから、それに……」

 

「えっと、あのことなら気にしなくていいんだよ」

 

 なのはが言っているのは以前誘拐された際に主犯格の男が言っていた『月村は吸血鬼の一族』ということ。なのは、アリサ、折木は他人に喋らない。そして一生友達でいるという約束の下、記憶を消さずにいた。すずかは友達から認められてもやはり自分が人間と違うという体験をするとブルーな気分になってしまう。

 

「うん、ありがとう。そういえばアリサちゃんは元気?」

 

「元気元気。さっさと退院したいってぼやいてたよ」

 

「あはは、アリサちゃんらしいね」

 

 友人二人の他愛ない会話は続く。

 

 しかしずっと続くと思われた楽しい時間も唐突に終わりを迎えた。なのはがジュエルシードが発動したことを察知したのだ。

 

『ユーノ君!』

 

『ジュエルシードだ! すぐに合流するから先に行って!』

 

 そういえばとなのははユーノを兄に預けていたことを思い出す。あの兄から逃げ出すのは至難の業かもしれないけれどユーノの業を信じて先に行くことにした。遅れてからでは遅いのだ。

 

 

 

 

 なのははユーノと合流し、ユーノが封鎖領域の結界を張る。その直後になのはの身の丈の五倍はあろうかという猫を見つけた。確かに月村宅では猫を放し飼いにしている。しかしデカ過ぎる。確実に原因はジュエルシードだろう。最近は劉牙が突然現れてやることを掻っ攫ってしまうからなのはは劉牙無しの自分の力で片をつけたいと思っている。

 

「アレは……」

 

「た、多分、あの子猫が願った『大きくなりたい』と言う願いが叶ったのかな……と」

 

 ただデカイというだけでも被害になりやすいとなのははセットアップしようとする。その次の瞬間、金色の閃光の雨が猫を直撃し猫が悲鳴をあげる。

 

 現れたのは金髪にツインテールで全体的に露出度高めな黒いバリアジャケットを着た少女フェイト・テスタロッサ。猫にとりついたジュエルシードを封印するためにもう一度攻撃を仕掛ける。なのははそれを見逃さず、障壁を張って猫を守った。

 

 そこまでは何も変わらない。

 

 そしてなのはとフェイトの一騎打ちが始まる。

 

 これも本来あるべき姿。

 

「うふふふふふふふ。そろそろ私も出ようかな」

 

 コツ、コツという足音にこの場の三人が注目を集める。十代後半と思われる銀色の長い髪をして黒い修道服を着た美しい女性。その紅い目は不気味なほどに綺麗だった。そしてその目はなのはの方を向いている。

 

『なのは! あの女の人からもジュエルシードの反応がある!』

 

『ええっ!?』

 

 彼女が発する禍々しい気配はジュエルシードによるものだったか。フェイトと新たに現れた女性を交互に見る。フェイトは止まってくれなさそうだ。

 

(ど、どうしよう?)

 

 あまり使いたくない手段ではあるが、劉牙に救援を求めようか。

 

「やっぱり……いつ見ても憎たらしい顔」

 

「へっ?」

 

 銀髪の女性はなのはの頭上まで跳躍するとなのはの顔を殴り飛ばして地面に叩き落す。

 

「あがっ!?」

 

「なのはっ!?」

 

「!?」 

 

 なのはは杖で身体を支えて立ち上がる。地面に落ちる寸前にレイジングハートが衝撃を和らげてくれたお陰でいくらかダメージは回避することはできた。

 

「芋虫は地べたに這いずり回ってるのがお似合いよ」

 

「な、何でこんなことを……?」

 

 なのはは息も絶え絶えに銀髪の女性に問う。和らげてなおこのダメージ。まともにくらったら終わりだ。

 

「うふふふふふふ、やっぱり直接殴ったほうがスカッとしますね。あの二人も交通事故なんて回りくどいことしないほうが良かったかも。くすくすくすくす」

 

 あの二人、交通事故。

 

 なのはの頭の中でその言葉が反芻する。ごく最近事故にあった二人の友人。

 

「まさかっ!? アリサちゃんとすずかちゃん……?」

 

「そういえばそんな名前でしたねぇ。嫌いな人間の名前とかいちいち覚えてるわけじゃないから自信ありませんけど」

 

 銀髪の女性はまるで一昨日の夕飯でも思い出すような態度だ。それがなのはの怒りに油を注ぐ。

 

「何で……何でそんな酷いことが出来るのッ!?」

 

「『何でそんな酷いことが出来るの?』」

 

 しかし油をそそいだのはなのはも同じことだッた。

 

 銀髪の女性は地面を蹴って目にも留まらぬスピードでなのはの目の前まで近づき、腹部へボディブローによる一撃を受ける。なのはは後方に吹き飛び木に衝突した。

 

「――あぐぅ!! ……ゴホッゴホッ!……うっ」

 

「酷いこと? 盗られたものを取り返すことの何が酷いことなのでしょうか? そもそも私の大切なものを奪ったアナタ達の方が酷いのでは?」

 

 重い一撃を受けたなのはは咳き込むと同時に吐血して苦しむ。内臓にダメージがあるのかもしれない。あまりの痛みに気を失った。

 

 今の一撃を見てフェイトは突如現れた謎の人物への警戒を強める。もしなのはがやられたら次はじぶんかもしれない。いつ攻撃されてもいいようにとデバイスのバルディッシュを構えた。

 

「私に何か用ですか?」

 

「貴女は、私の敵ですか?」

 

「私の目的はこれへの制裁」

 

 そう言ってなのはの髪を掴む。銀髪の女性はとても楽しそうないい顔をしていた。

 

「アナタがそれを邪魔するのなら潰しますよ」

 

「なら、私はあのジュエルシードをもらっていきます」 

 

「ジュエルシード? ……ああ、私に力をくれたあの青い石のことですか。好きにすればいいんじゃないでしょうか」

 

 フェイトも焦っているとはいえバカではない。彼女と自分の戦力差を判断した結果、一人で勝つのは難しいという結果を出した。ここで無理をするよりもジュエルシード一個を確実に手に入れるほうがいい。

 

「なのはを放せ!!」

 

「(イタチが喋った?)……今私に意見できるような立場なんでしょうか?」

 

「それは……それにジュエルシードは危険なものなんだ! 君が使っているジュエルシードだっていつ暴走するか」

 

「暴走? うふふふふふふ……あはははははははは! 暴走!」

 

「何がおかしいんだ!」

 

「私にはこれに耐えられるだけの精神力がある! 想いがある! 信念がある! 暴走なんてするはず無いでしょう……ああそうだ。これもジュエルシードとやらを集めているんでしたね。いい機会です。奪われる辛さを思い知りなさい」

 

 銀髪の女性はジュエルシードを探すため、なのはの服を弄る……が何も出てこない。

 

「魔法の杖さん。レイジングハートとか言ってたかしら。あの青い石はどこ?」

 

<……>

 

「だんまりですか。では……これでどうでしょう?」

 

 にやりと笑ってなのはを木に押し付け、首に手をかける。

 

「首の骨が折れるのが先か。窒息するのが先か……5、4、3、2、1<わ、わかりました!>」

 

 レイジングハートの赤い宝石の部分から5つのジュエルシードが射出される。これにはユーノも反論できなかった。最優先はなのはの命。

 

「あ、そういえばこの石お兄ちゃんが集めてましたね。さっきの金髪を見逃したのは間違いでしたか。でも最終的に手に入れれば許してくれますよねお兄ちゃん」

 

 狂ってるというのがユーノとレイジングハートが持つ銀髪の女性への見解。おそらくジュエルシードによるものが大きいだろう。本人はああ言っていたが自我を完全に保っている訳ではなさそうだ。近いうちに完全に理性をなくして暴走を始めるかもしれない。

 

(この魔力反応は劉牙!?)

 

 ユーノはなのはより少し大きめの魔力反応がこちらに近づいてきていることを察知。まだ力任せな部分も多いが今は彼に頼るしかない。

 

『劉牙聞こえる!』

 

『すまん遅れた! なのはは大丈夫か?』

 

『急いで! 一分一秒でも早く!』

 

 今の自分が出来ることは彼が来るまで時間を稼ぐこと。悔しいけどもし自分が最高の状態だとしても勝てない相手に出来ることはそれくらい。

 

「そのお兄ちゃんって人の命令でジュエルシードを集めてるんですか?」

 

「命令? 違いますよ。言うなれば愛のため。私はお兄ちゃんを愛しているからお兄ちゃんが欲しいと思っているものを集めてプレゼントするんです。そうすればッ!」

 

 今度はなのはの腹部を怒りを込めて靴の底で何度も踏みつける。

 

「やめろ! ジュエルシードはもう渡したじゃないか!!」

 

「別に『ジュエルシードを渡してくれたらこれにもう危害を加えない』なんて約束をした覚えはありませんけどね」

 

「そんな……卑怯だぞ!」

 

「愛に生きる私が正義! 私の愛する人を略奪した輩を裁く権利が私にはある!」

 

 言っていることがめちゃくちゃだ。もしかしたら本人も感情に任せて適当なことを言っているだけなのかもしれない。ユーノに出来ることは意識をなのはから逸らすこと。レイジングハートに出来るのは少しでもなのはへのダメージを減らすこと。

 

「待たせたな! 無事だったか俺の嫁!」

 

 そして神代劉牙という爆弾を抱えた踏み台ヒーローが現れる。

 

 

 

 

 ふう、朝出かけたっきりで昼食時になっても帰ってこない智葉を捜してたら出遅れてしまった。出遅れてしまったことが凶と出てしまったのかもしれない。身体能力のリミッターを外しても飛ぶのは宝具頼りだからスピードは変わらないんだよね。

 

 目の前にいるのは口から血を流したボロボロのなのは。そして銀髪の美女の手には5つのジュエルシード。しかもあの女からもジュエルシードの反応がある。

 

「あーお兄ちゃんだー♪」

 

「?」

 

 見たところ十代後半から二十代前半と思われる女性。俺と同じ銀髪のロングヘアだけれども俺を兄と呼ぶには年上過ぎやしないか。

 

「あれ……?」

 

 似ている。銀色の髪、紅い目。智葉に似ている。ちょうど智葉が成長したらこうなるかもしれない、そんな容姿だ。

 

「智葉……なのか?」

 

「見て! お兄ちゃんが欲しがってた宝石6つも見つけたよ」

 

 これは、どういうことだ?

 

「劉牙、あの人と知り合いなの?」

 

「俺の妹だ。何で大人になってるのかはわからんが」

 

「多分ジュエルシードの影響じゃないかな。これは君が仕組んだことじゃないんだね?」

 

「ひっでえな、違うよ」

 

 寧ろ出来ることなら遠ざけたかった。最近あんまり構ってやれなかった俺の失態だ。

 

「智葉、集めてくれてありがとう。でもそれは元々俺となのはが集めてなのはに預けてる分なんだ。なのはに返してやってくれないか?」

 

「え、何でこいつと集めてるの? 何で私を頼ってくれないの? 何で私じゃなくてこいつなの? 何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で」

 

 智葉がまるで壊れたレコードのように繰り返す。俺の直感が警報を鳴らす。これはやばい。というより何がいけなかったのか。

 

「ユーノ、なのはを連れて安全な場所まで逃げろ! こいつは俺が何とかする!」

 

「わかった!」

 

 ユーノは人間に戻ってなのはを抱えて俺の後ろの遠くまで飛んでいった。この場にいられると少し戦い辛くなりそうだから退却してもらったほうがありがたい。

 

「逃がさないよ!」

 

「させるか!」

 

 俺は剣と銃を持って智葉の行く手阻む。彼女の美しい顔は怒りによって醜く歪んでいて見てられない。

 

「お兄ちゃんどいて、あいつ殺せない。何であいつを庇うの?」

 

「妹を殺人犯にさせてたまるかっての。お前も正気に戻れ」

 

「私は真剣だよ。真剣にお兄ちゃんを愛してる」

 

 何をふざけてるんだと一蹴しようとしたが、智葉の目は真剣そのものだ。それがジュエルシードによる影響なのか、それとも本当の気持ちなのか。どちらにしろ俺の責任だ。

 

<リミッターは?>

 

「全部解除で。全力であいつを止めるぞ」

 




黒桜ならぬ黒智葉

彼女はジュエルシードで歪んじゃっただけなんです。
本当はちょっと黒くてお兄ちゃん大好きなだけなんです。

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