試合後、一夏は凰の龍砲を背後から受けた事による全身打撲で学園内の病院に入院する事になった。やることのない一夏が窓の外を眺めていると、病室のドアが開き箒と鈴が入って来た。
「一夏、お見舞いに来てやったぞ。体調はどうだ?」
「おお、箒か。わざわざありがとな」
「ちょっと!私がいることも忘れないでよ」
「悪い悪い。凰も来てくれて嬉しいよ」
「べ、別にあんたが心配で来た訳じゃないんだから!」
相変わらずの鈴の調子に一夏の表情に自然と笑顔がこぼれる。
「鈴さんこんなこと言ってますけど、学校では一夏のことを心配していて私たちも大変だったのですから」
すると再び病室の扉が開き、今度はセシリアと切嗣が一夏の病室に入ってきた。
「ちょ!?それは言わない約束でしょ!?」
「具合はどうだ、一夏?」
「まあ、なんとか。とりあえず医者の話では全身打撲らしい」
「それで大丈夫ですの?」
「全身打撲と言っても3~4日ほど安静にしていれば大丈夫らしいから、そんなに心配する事ないさ。それより切嗣━━━」
「自分に攻撃をしようとしていたISがいきなり機能停止したことについてはどう思う?」
「「!?」」
その声がした方を見ると、いつのまにか千冬と真耶が入口に立っていた。
「ダメですよ、いきなり会話に入り込んで生徒を驚かすなんて」
「いや、一夏の反応があまりに分かりやすかったものでな。ついイタズラをしてしまった」
「いたずらって……まあ、いいや。ところで切嗣はどう思う?」
「すまないが、僕もそんなにISのことについて詳しくないからなんとも。セシリアはどうだ?」
「私もなんとも言えませんわ。攻撃態勢に入っていたISが急に停止するなんて普通では考えられませんもの」
「どうせ、エネルギー切れか何かでしょ。そんなにこだわることでもないと思うけど」
「そんなことより、今日の数学の時間にさ……」
その後、学校の様子などの話をして時間を過ごした。
「……とりあえず、一夏くんが元気そうで何よりです。では私たちも帰ることにしましょう、織斑先生」
「っと、もうそんな時間か。お前たちも織斑の休養を邪魔しないように早めに切り上げて帰るんだぞ」
「さて、僕たちもそろそろ帰るとしようか、セシリア」
「そうですわね。それでは一夏さん、お大事に」
そうして切嗣たちは病室をあとにした。
IS学園には有事の場合に備え、地図には記載されていない隠しスペースが学園内のあらゆる場所に存在する。その一部である地下室に千冬と真耶はいた。
「今回のISにについてですが、操縦者は確認されませんでした」
「……やはりそうか。それでその無人ISの状態はどうなっている?」
「片方のISですが、我々が駆けつけたときにはすでに機能停止状態で、外装部分が完全に吹き飛んでおりかなりの衝撃が加わったことが
容易に想定できます。次に、織斑君たちが戦った無人機についてですが……」
真耶がなにか言いづらそうにしている。がしかし、黙っていても何も解決しないので千冬は真耶に話をするように促す。
「ですが、なんだ?」
「……左手の回路に深刻なダメージがあり、修復不可能なレベルになっていました。あと、度合いは全然違うのですが、同じような症状がISコアの回路部にも見受けられました」
「……深刻なダメージだと?」
「はい。回路の部分が完全にショートしており、まともに機能しない状態になっています。それと、現場にこのような物が落ちていました」
そう言って、真耶はポケットから袋に詰められた一発の銃弾を取り出した。
「これは……。なるほど、そういうことか」
「どういうことですか?」
「いや、別に大したことはない。それより、コアについて何かわかったことはあったか?」
「はい。やはり使われていたコアはどの国家にも登録されていない無登録のコアでした」
「……」
真耶の声に千冬は反応しない。
「?どうしたんですか、織斑先生。何か思い当たることがあったんですか?」
「いや、ない。今はまだ━━な」
不意に視線を感じ千冬はおもむろに後ろを振り返るが、そこには消化器が置いてあるだけだった。
「今度はいきなり後ろを振り返ったりして、何かあるんですか織斑先生?」
「いや、私の勘違いだったみたいだ。気にするな」
「?分かりました」
2人は再び視線を元に戻す。その様子を消火器に搭載された小型のカメラはしっかり捉えていた。
試合の3日後、一夏は学校に復帰した。
「全身打撲って聞いてたけど、大丈夫?」
「無理しないで体調悪かったら保健室に行きなよ」
「あぁ……。私の財産が……。かくなる上は織斑君を」
一夏は早速クラスの女子に囲まれてるが━━━
「……お前たち、さっさと席に付かんか」
「「はい!」」
千冬の一言によりみな急いで席に着いた。
「はい、それでは早速新しいクラスメイトを紹介します。2人とも入ってきてください!」
真耶がそう呼びかけると、2人の生徒が教室に入ってきた。
「シャルル・デュノアです。3人目の男性IS操縦者ですがよろしくお願いします」
「「……キ、」」
「き…?」
「きゃあぁぁぁ!!なんてかわいらしい!?イケメン二人組の次は美少年だなんて♪」
「なんという……眼福♪」
ちなみにシャルルは照れた表情をする。その一方で銀髪の女性は沈黙を貫いていた。
「きちんと自己紹介をしろ、ラウラ」
「了解しました、教官」
「私はもうお前の教官ではない。ここでは先生と呼べ」
「ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「……そ、それで終わりですか」
「以上だ」
「それでは、デュノアさんとボーデヴィッヒさんは織斑くんの近くの席にお願いします」
「━━━織斑、一夏」
ラウラはまっすぐ一夏のところまで歩いていくと、一夏の頬を思い切りひっぱたいた。
「いきなり何するんだよ!」
「ふん!貴様さえいなければ教官はモンド・グロッソで2連覇を達成していたはずだ!」
「そこまでだ、ラウラ。これ以上クラス内での暴力沙汰を見過ごすわけにはいかん」
「教官に救われたな、織斑一夏」
そう言うと、ラウラは指定された席へと座る。
「……で、ではHRを続けますね━━━」
こうしてHRの時間は過ぎていった。
HRが終わり一夏と切嗣が一時間目の用意をしていると、シャルルが話しかけてきた。
「織斑くんに衛宮くんだったよね、僕の名前はシャルル・デュノア。同じ男子だしこれから宜し━━━」
「悪いけど、早くしないと一時間目が始まっちまう。切嗣、デュノア、更衣室に急ぐぞ!」
「了解」
「う、うん」
3人は急いで教室を出て、更衣室に向かった。
更衣室に着くと切嗣と一夏はさっさと着替え始める。その様子をシャルルは頬を赤くしながら見る。
「そ、そんな。いきなり脱ぐの!?」
「何言ってんだよ、別に男同士だし気にしないだろ?」
「…そう、だね。それで着替えるから向こうを向いてもらえるかな?」
「変な奴だな。まあ、いいけど」
「……」
「ちょっと衛宮くん、返事は?」
「切嗣ならさっさと着替えてグラウンドまで行ってしまったぞ」
「えぇ!?衛宮くん、もう着替えたの?」
このあと、一夏は着替えるのに手間取り授業に遅れたためシャルルと一緒に千冬から出席簿による一撃を受けていた。
「では今回はISを使っての実戦訓練を行ってもらう。凰、オルコット、前に出て来い」
「「はい!」」
(大体、専用機持ちとはいえ、なぜ私が前に出なければならないのでしょう)
(面倒くさいわね)
凰とセシリアがそんなことを考えていると、千冬が二人に小声で話しかける。すると凰とセシリアは切嗣と一夏を見て急にやる気を出し始めた。
「なお、今回凰とオルコットの相手は……」
「ちょっとどいてくださぁぁぁぁぁい!」
アリーナ中に響くような轟音を立てて、ISを装着した真耶が着地する。その様子を生徒たちは温かい目で見守っていた。
「山田先生に行ってもらう」
「そんなぁ、所詮私なんて代表候補生止まりですよ」
「あの、二人対一人で戦って大丈夫なのですか?」
「何、心配するな。お前らでは山田先生には勝てない」
「!言いましたわね!手加減なしで行きますわよ、凰さん!」
「もちろん!」
そうして鈴&セシリアVS山田先生の戦いが始まった。
「デュノア。山田先生が乗っている機体について解説してみろ」
「はい。山田先生が乗る機体は正式名称『ラファール・リヴァイブ』デュノア社が制作した第2世代ISで、量産ISとしては最も遅くに開発されたISですが、操縦者を選ばない操作性と汎用性に優れています」
「おぉ、流石はデュノア社の御曹司」
「……デュノア社の御曹司か」
シャルルの発言に切嗣と一夏は関心を寄せていた。
「ではデュノア。それを踏まえたうえでこの戦いどうなるか予想してみろ」
「オルコットさんも凰さんも専用機持ちですが、連携がうまくいっていないようです。
凰さんが接近戦を仕掛けようとすると、オルコットさんの射撃が当たりそうになり思い切って仕掛けることができていません。逆にオルコットさんのビット兵器による攻撃の最中に凰さんの龍砲を撃つ事で、オルコットさんの攻撃がほとんど通らないようになってしまっています。このままでは……」
「「きゃあぁぁぁぁぁ!!」」
真耶の誘導に引っかかった2人にグレネードが直撃し、2人は地面に墜落した。
「ちょっと、鈴さん!貴方、私がブルーティアーズで相手の動きを牽制してる途中に龍砲を撃つのはやめて頂けませんこと?」
「なによ!あんたの下手な射撃のせいで私が接近戦を仕掛けることができなかったじゃない!!」
「なんですって?」
「なによ!やる気!?」
臨戦態勢になる二人の頭に必殺の出席簿チョップが振り下ろされる。
「お前たち、喧嘩をするなら後にしろ。他の奴らも教員の強さを十分に理解しただろう?これからは教員に対し、敬意を持って接するように」
あとは、ISをしゃがませた状態で設置し忘れた生徒を一夏が箒と凰の目の前でお姫様だっこして載せると言う暴挙に出たため、袋叩きに会った事を除き授業は滞りなく進んだ。
昼休み、一夏と切嗣たちはシャルルを誘い食堂でご飯を食べていた。一応ここに来るまでに壮絶なシャルル争奪戦が繰り広げられていたのだが、切嗣の機転(一夏を生贄にする)によりシャルルと切嗣、オルコットは無事に食堂にたどり着いた模様。
「へぇー、デュノアくんってあのデュノア社の御曹司だったんだ」
「ま、まあそうなるかな。そんなことより僕は衛宮くんの話とか聞いてみたいな」
「そうね。実は私も衛宮自身の話とか聞いたことないから聞いてみたいかも」
「僕の話なんて何も面白いことはないんだが━━━」
「お前たち、ここにいたのか」
「織斑先生、どうしたんですか?」
「実は、お前と一夏の部屋のどちらかにデュノアを入れなければならなくなったのでな。取り敢えず今この場でどちらの部屋を開けるのか決めろ」
その言葉に反応するように一夏と切嗣が手を挙げた。
「とりあえずこれ以上箒に迷惑をかけないためにも、俺が……痛っ!なにするんだよ箒!!」
「いや、ここは僕のほうが……」
「よし、それじゃあジャンケンで勝負しよう。勝っても負けても恨みっこなしだぜ」
「あぁ、そうしよう。……それではじゃんけん━━━ポン!」
「なん……だと……!?」
「……ふぅ。やれやれだな」
「……一夏。先ほどのお前の発言と行動についていくつか聞きたいことがある。放課後に剣道場まで来い」
「今回ばかりは私も貴女に同情するわ」
「ではデュノアは衛宮と同室とする。デュノアは放課後私のところまで鍵を取りに来るように」
そう言って千冬は食堂の入口へと歩いて行った。
「…はい、分かりました」
「これからルームメイトとしてよろしく頼む」
「う、うん。よろしくね、衛宮くん」
そして2人は握手を交わす。しかし、その時切嗣の表情がかすかに曇ったことに気がついた人間は誰もいなかった。
深夜、シャルルは切嗣が寝ているのを確認し部屋のドアを開けて外に出る。切嗣はその様子を見届けると、携帯に登録してある『生徒会長』の欄を押した。数回のコール音の後、電話の相手が出た。
「やぁ、きりちゃん。どうしたの、こんな時間に?ひょっとしてお姉さんの声が聞きたくなったのかな?」
「楯無先輩、貴女に頼みたいことがあるのですが」
切嗣は不審に思っている人物の名前を挙げた。
「……あぁ、デュノア社の“ご子息さん”でしょ。お姉さんもあの企業に関して、あまりいい噂を聞かないんだよね。いいよ、調べておいてあげる。そのかわり」
「そのかわり、何です?」
「君がISに発砲した銃弾のことについて詳しく教えて欲しいのだけど」
「……それはまだ出来ない。それをあなたが知ろうとするなら、僕はあなたを殺さなければならなくなる」
「へぇ。えらく物騒なことを言うんだね、きりちゃんは」
しばらく電話越しに緊張が走る。しかし、先に折れたのは切嗣の方だった。
「……分かりました。では何か僕についての情報でどうです?」
「さっすがきりちゃん♪きりちゃんなら何かいい案を用意してくれるとお姉さん信じてたよ♪それじゃあ、結果を楽しみに待っていてね♪」
「ええ、それでは」
そう言って切嗣は通話を切る。
「シャルル・デュノア……」
そう呟く切嗣の瞳は暗い夜の闇を映し出していた。
なぜ、切嗣の銃弾一発でISのコアに損傷が出来たかについてですが、少し補足説明をさせていただくと、切嗣の起源弾のこの世界における有効判定としてIS装着状態時に起源弾を受けた場合、ISが強制解除状態になります。なお、この状態では絶対防御は発動しますが、その戦いが終わるまでの間、再びISを装着することは出来なくなくなります。そして絶対防御が発動した状態で起源弾を受けた場合、絶対防御が解除され、絶対防御を突破した起源弾に撃ち抜かれることになります。色々突っ込みどころがあると思いますが、出来るだけ見逃していただけると助かります(汗)