IS/Zero   作:小説家先輩

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期日までに書き終えた……のか?


第十一話 刺客

夜の生徒会室。普段は誰もいないはずなのだが、今日に限って電気が付いており、切嗣と楯無がデュノア社との交渉を行っていた。

 

『巫山戯るな!そのような条件、飲めるはずないだろう!』

 

「なにか勘違いしてるみたいだから言わせてもらうけど、別に私はあなたたちがどうなってもいいし、むしろ実の娘に性別を偽らせて入学させるような腐った会社なんて潰れてしまったほうが世の中のためにはいいんじゃない?」

 

楯無の容赦無い言葉にデュノア社長の怒りのボルテージが限界を超えたようで、電話越しに猛然と食って掛かる。

 

『貴様!学園の生徒の分際でデュノア社に楯突くとどうなるか分かっているんだろうな!?』

 

「あら?ロシア代表の私に一体どうするつもり?」

 

楯無の発言で、電話越しに相手側が騒がしくなる。

 

『な!?ロシア代表だと!?まさか貴様、あの更識楯無か!』

 

「ご名答♪いくら頭の悪そうな貴方でもそれくらいのことは知ってるみたいね」

 

デュノア社長は気づかされてしまった。自分がどれほど巨大な組織を相手にしているかを。そして、それが一歩間違えば、自国政府にまで多大な被害を生み出すことになるのかを。個人のメンツか、自国政府への甚大な被害か。あとは考えるまでもなかった。

 

『くっ!……分かった。もうシャルロットには一切関わらないと約束する』

 

「いい返事ありがとう。じゃあ約束を確実に履行してもらうために、とりあえずシャルロットちゃんの身柄は私が預かることにするから。貴方は手を出さない旨を書いた誓約書を私宛に郵送してくれるだけでいいわ」

 

『……この女狐め』

 

端末の向こうからデュノア社長の悔しげな感情が伝わってくる。

 

「褒め言葉をどうも♪それじゃあバイバイ」

 

楯無は満面の笑みを浮かべ携帯の通話を切る。切嗣は通話が終わり、ゆっくり背中を伸ばしている楯無の卓越した交渉術に内心、冷や汗を浮かべていた。

 

「……なんと言うか、貴女が一番敵に回してはいけない相手だという事がよく分かりました」

 

「えぇ!?ひどいよ、きりちゃん。か弱いお姉さんにそんなこと言うなんて!」

 

「僕の知ってるか弱い女性に貴女みたいな女性はいませんから、安心してください」

 

「ま、いっか。取り敢えずシャルロットちゃんの件は解決して、きりちゃんも弄ったことだし、今日は帰りますか」

 

「……そうですね、帰りましょう」

 

切嗣と更識は戸締りをして、生徒会室をあとにした。

 

 

翌日、切嗣は自分の部屋から教室に向かっていた。すると寮を出たところでシャルロットが声をかけてくる。

 

「き、切嗣!もしよかったら一緒に学校に登校しない?」

 

「シャルロ…シャルルか」

 

切嗣はなぜシャルロットがあんなことをした自分に平然と声をかけてくるのか、理解できずにいた。

 

「嫌だったら、別にいいけど……」

 

「いや、そんなことはないが」

 

「ならいいじゃない。早く学校に行こ♪」

 

シャルロットは切嗣の左腕に自分の右腕を絡める。

 

「……これは?」

 

「ん?別に?ただの仲良しアピールだから気にしないで」

 

「……そうか」

 

「“そうか”じゃありませんわ!切嗣さん、私という存在がありながら男であるシャル

ルさんと親しくするなんて!ふ、不潔ですわ!」

 

突然後ろから聞こえた声にシャルロットと切嗣が振り返る。するとそこにはいつの間に追いついたのか、セシリアの姿があった。

 

「セシリア。何を勘違いしているのか知らないが、僕とシャルルはそんな関係じゃないぞ?」

 

切嗣がシャルロットの方を向くと、シャルロットは何か名案を閃いたようなイイ笑顔を浮かべる。直感的に切嗣はどうにかしてシャルロットを沈黙させようとしたが、時すでに遅し。

 

「え〜?だって僕と切嗣は一緒に名前を呼び合う仲じゃない?そんなこと言われるなんて思わなかったよ」

 

「な!?いつの間に!?切嗣さん、今の話は事実ですの?」

 

シャルロットの狙い通り(?)セシリアの表情に焦りの感情が浮かび上がる。

 

「あ、あぁ……」

 

「ほう……」

 

すると、いきなりセシリアは切嗣の右腕を両腕で引っ張り、シャルロットと切嗣を引き離した。

 

「さぁ、シャルルさんは一夏さんとのトーナメントに向けた演習で忙しいでしょうから私たちはさっさと教室に行きましょう?」

 

「そういう事なら……。すまない、シャルル」

 

「う……うん」

 

「ほら、さっさと行きますわよ」

 

「じゃあ、また後で」

 

セシリアは切嗣の手を握ってスタスタと歩いて行ってしまった。

 

 

HRの時間、千冬は生徒たちに話をしていた。

 

「お前たちも知っていると思うが、今週の日曜日にはトーナメントが行われることになっている。各自パートナーを作って訓練に励んでおくように。なお、どうしてもパートナーが見つからない場合、明日のくじ引きにて決めることにする。話は以上だ」

 

千冬は手短に連絡を済ませると、スタスタと廊下に出ていってしまった。一方で切嗣も一時間目の用意のため、参考書とノートを準備しようとしたところで、一夏に声をかけられる。

 

「おい切嗣、お前セシリアがトーナメントに出れないらしいけどパートナーは一体誰にするんだ?」

 

「別に、誰と一緒にしようとか決めてないな」

 

「お前なぁ……誰でも良いってのかよ?」

 

イマイチやる気がない切嗣の反応に、一夏は困惑した表情を浮かべる。

 

「そうだね」

 

「ふーん。まあ、お前がそう考えるのならそれでいいんじゃないか?」

 

そんなのんきな話をしながら、時間は過ぎていった。

 

 

昼休み、切嗣は一夏たちと昼飯を食べていた。

 

「そう言えば、切嗣さんは昼食を購買で買っていらっしゃるんですよね?」

 

「まあな。自分で料理を作れるほど手先が器用じゃないからね」

 

「よろしければ、私が切嗣さんのお弁当を作って差し上げましょうか?」

 

「……それはありがたいが、セシリアは料理を作ったことがあるのかい?」

 

「いいえ、ありませんわ。ですが、ルームメイトの方が作ってらっしゃるのを見ていたから大丈夫かと」

 

「そ、そうか。なら今度料理を作ってもらおうかな?」

 

「ええ。明日からは私にまかせてくださいな♪」

 

「ちょっと衛宮!?セシリアなんかに料理を作らせて大丈夫なの!?」

 

「……何か言いたいことがあるようですわね、鈴さん?」

 

鈴の発言が聞こえたようで、セシリアが青筋を浮かべながら鈴の方を軽く睨む。

 

「別に、衛宮に少しだけ同情しただけよ」

 

「と・に・か・く、私が明日から切嗣さんのお弁当を作ってきますから。よろしいですわね?」

 

「あ、あぁ……」

 

セシリアは話をし終えると、購買で買ったパンを食べていた。

 

 

放課後、切嗣が部屋に戻るとシャルロットではなく更識が部屋にいた。

 

「……なんで鍵をかけたはずの部屋の中にいるとかはもう指摘しませんが、シャルロットはどこに行ったんですか?」

 

「ああ、それなら本音ちゃんにシャルロットちゃんと時間を潰してくれるように頼んだの」

 

そう言うと更識は、姿勢を正す。切嗣は更識の変化に気づき同じように姿勢を正した。

 

「何かあったんですね?」

 

「ええ。実は織斑先生と山田先生の身辺を調査していたら、面白い情報を入手しちゃった」

 

「面白い情報?」

 

楯無の発言に切嗣はきな臭い物を感じながらも、続きを促す。

 

「そう。実は前回の無人機による襲撃事件で使われた無人機のコアは未登録のものだったらしいのね」

 

「……それで?」

 

「そして今現在新規のコアを作れる唯一の存在といえば……?」

 

「篠ノ之……束……!だがしかし……!」

 

「そう。彼女程の科学者が、突然IS学園を襲撃するような血迷った真似はしないだろう……でしょ?でもそれが織斑くんのISの性能調査だとしたら?」

 

「しかし、そう仮定するとしても、その根拠は一体?」

 

「これは機密事項なんだけど織斑くんのISの設計には篠ノ之束も大きく関わっているみたいなの」

 

「なるほど……。今現在、ISを自由に作れる存在は篠ノ之束一人と言う事か。非常に危険な状態ですね」

 

「まあ実質世界を一人で動かしているみたいなものだしね。で、きりちゃんはどうするの?」

 

「決まってます。もし彼女がこれ以上暴走するようなら僕の手で抹殺するだけです」

 

「そんなこと出来るとでも?」

 

「一応対抗手段はありますし、いざという時は刺し違えても止めるつもりですので」

 

すると更識は露骨に不機嫌そうな顔になり、切嗣の頬をつまむと横に引っ張り始めた。

 

「な、なにを?」

 

「あのね、君みたいな若い子が刺し違えるなんて言葉を使っちゃだめだよ?そんなことを言うきりちゃんはお姉さん好きになれないな」

 

「……分かりました。もっとも、向こうがこちらに接触してこない限り会う機会はほぼないんですがね」

 

「うん、それならよろしい♪ところできりちゃん?」

 

「なんですか?」

 

不意にドアの手前で楯無は切嗣の方へ振り返る。

 

「お姉さん部屋に戻るけど、もしシャルロットちゃんまで美味しく頂いちゃったら、スイッチ入っちゃうから気をつけてね?」

 

「怖いこと言わないでくださいよ。そんなことするつもりもないし、誰にもしてないですから」

 

切嗣の返事を聞いて安心したのか、楯無は部屋を出ていった。

 

 

翌日の昼休み、切嗣たちはセシリアの提案で屋上で食事をしていた。

 

「ふふふ、さあみなさん、私が丹精込めて作ったお弁当をご賞味あれ♪」

 

セシリアがお弁当の蓋を開けると、色とりどりの具が入ったサンドイッチがぎっしり詰まっていた。

 

「サンドイッチか……うん、見た目もかなり美味しそうだし一ついただいてみるとしよう」

 

「そうね、昨日はきつい言葉をかけてしまったけど、どうやら料理もかなりできるみたいじゃない」

 

鈴と切嗣はおもむろにサンドイッチを一つずつ取って、口の中に入れた。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

「「……」」

 

鈴と切嗣は手元にあった自分のジュースのボトルを掴むと、一気に口の中に流し込んだ。

 

「あ、あぁ……なかなか個性的な味だと思うよ」

 

「個性的!?あの毒物が!?あんたさっきので頭やられたんじゃないの!?」

 

「ちょっと鈴さん!その言い方はあまりにも失礼ではなくて!?」

 

「なによ!あれを毒物と言わないでなんて言うのよ!?」

 

「まあまあ、そんなことで喧嘩しないで。僕も食べてみるからさ」

 

シャルロットはセシリアのサンドイッチに手を出そうとするが、切嗣がその手を掴む。

 

「やめるんだ。早まってはいけない」

 

「そ、そんなにやばいの?」

 

「……とりあえず、この弁当は僕が責任をもって処理する」

 

切嗣はサンドイッチを手に取ると、一気に口の中に押し込んだ。

 

「ちょ!?切嗣さん、そんなに一気に掻き込まなくても……」

 

「あぁ……なかなかに個性的な味だ……な……」

 

サンドイッチを飲み込んだあとで切嗣は顔を真っ青にしつつ答えるが、体はゆっくりと地面に崩れて落ちていった。

 

 

切嗣が目を覚ますと、白い天井が目に入った。どうやらあのあと、誰かがここまで運んでくれたらしい。

 

「……僕は一体?」

 

「よかった、気がついたのですね?」

 

「……セシリアか。と言うか授業はもう始まっているだろう?行かなくて大丈夫なのか?」

 

「何を言ってらっしゃるのです?今はもう放課後ですわよ?」

 

「という事は、僕は2時間もここで寝ていたのか!?」

 

「ええ……そういうことになりますわね。それと切嗣さん?」

 

セシリアは姿勢を正すと、頭を深く下げた。

 

「いきなりどうしたんだい、セシリア?」

 

「先程は私の料理のせいで大変な目に合わせてしまい、すみませんでした!」

 

「……そのことなら別にいい。君は僕のことを思って作ってくれたんだから、気にしないでくれ」

 

「しかし、それでは私の気が収まりませんわ!」

 

「そうか……それなら君に頼みたいことが一つある」

 

そう言って、切嗣は姿勢を正す。

 

「はい、私に出来ることならなんでも言ってくださいまし!」

 

「今度またお弁当を作ってくれないか?」

 

一瞬、セシリアは自分が何を言われたのかわからなかった。事故とはいえ、半毒物のような物を食べさせられた相手に、もう一度料理を作ってくれと頼むなど正気の沙汰ではないからだ。

 

「え……?それだけでよろしいんですの??」

 

「ああ。けど、今回よりさらに腕を上げないといけないからそう簡単じゃないぞ?」

 

「……分かりましたわ。このセシリア・オルコット、その役目謹んで引き受けさせていただきますわ!」

 

放課後の保健室にセシリアの声が響く。そしてこれが切嗣の容態を悪化させる要因になろうとは切嗣自身も気づくことはできなかった。




楯無さんとセシリアさんの好感度急上昇中!なおシャルロットさんは(お察しください)

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