IS/Zero   作:小説家先輩

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第十二話 開幕

金曜日、ついにトーナメント戦の対戦相手が発表される。ラウラとの対戦を心待ちにしていた一夏の一回戦の対戦相手はなんとラウラ&箒ペアであった。一夏の中には箒がラウラと組んだことに関する驚きとそれ以上に一回戦でラウラと当たる事が出来る事への喜びが湧き上がる。

 

「これは……千冬姉に感謝しなきゃな。一回戦でこの前の借りを返してやるぜ!」

 

「ふん、こちらこそ貴様らを私の手でつぶせると思うと力が湧いてくるわ」

 

一夏とラウラが見えない火花を散らせる一方で、シャルロットはもうひとりの対戦相手に困惑していた。

 

「にしても箒がボーデヴィッヒさんと組むとはね……」

 

「何を勘違いしている?コイツの力を借りずとも、お前らは私一人でひねり潰してやるから覚悟しておけ」

 

「そういうことだ、シャルル。悪いがこちらも全力で行かせてもらう」

 

ラウラの次にすかさず箒が言葉を続ける。トーナメントの開始が刻一刻と近づいていた。

 

 

土曜日、本来なら学校は早く終わり後は寮に帰るだけだが、多くの生徒たちは学内に残って試合の準備をしており、一夏たちも次の試合に向けてアリーナで訓練をしていた。

 

「よし、次だ!シャルル、もう一度俺に攻撃を仕掛けてくれ!」

 

「何言ってんのさ、明日は試合なんだから軽めに調整しておかないと、十分に動けないよ?」

 

「いや、相手はドイツ代表候補生に箒だからな。これくらいはやっておかないと……」

 

「一夏、それ以上はやめておいたほうがいい」

 

一夏たちが声のした方へ振り向くと、いつの間にか切嗣がアリーナへ降りていた。不満そうな表情を浮かべる一夏を嗜めるように切嗣は言葉を続ける。

 

「切嗣。いや、しかし……」

 

「もし君に勝ちたいと思う気持ちがあるのなら、今日はゆっくり休んでおくべきだ」

 

「……分かったよ。と言うか切嗣?」

 

「ん?」

 

「お前のトーナメントのパートナーは誰になったんだ?」

 

「僕は抽選で同じクラスの鷹月さんと組むことになった」

 

「そーいうことだからよろしくね、織斑くん」

 

切嗣の後ろからクラスメイトの鷹月静寐がひょっこり顔を出す。一瞬驚きの表情を浮かべる切嗣と一夏に静寐はしてやったりの表情を浮かべる。

 

「鷹月さん……いきなり後ろから声をかけるのはやめてくれと、あれほど」

 

「あはは、ごめんごめん。でも衛宮くんもこれくらいのノリについていけないとクラスに馴染めないよ?」

 

「努力する」

 

「また、その他人行儀な態度……まあいいか。それじゃあ、私と衛宮くんは明日の試合の準備が残っているからこの辺で失礼するね、バイバイ」

 

鷹月は切嗣の袖を掴むと、そのままアリーナの出口の方へと歩いて行ってしまった。後には不思議そうな表情を浮かべる一夏と少し不満げな表情で入口の方を見つめるシャルロットの姿があった。

 

「なんだったんだ、あれ?」

 

「…………」

 

「と、とにかく。もうそろそろ僕たちも上がろうか」

 

「おう。そうだな」

 

一夏の言葉に頷き、シャルロット達は搬入口の方へ戻って行った。

 

 

そして試合当日、開幕戦の一夏・シャルルVSラウラ・箒のため一夏とシャルルはピット搬入口で準備運動をしていた。

 

「よし、やってやるぞ!」

 

「そうだね!あいつをボコボコにして見返してやろうよ一夏!」

 

一夏はともかくとして、いつもよりテンションが高めなシャルロットに切嗣は一抹の不安を覚える。

 

「二人とも、そんなにテンションが高くて大丈夫なのか?」

 

「なんだよ切嗣!試合前なんだし、盛り上がって当然だろ?」

 

「そうだよ!友達をあんな目に遭わせたやつをただで済ますほど僕たちも穏やかじゃないよ?」

 

「…………」

 

「お前たち、前のやつらの試合が終わった。カタパルトに足を装着して射出する準備をするように」

 

試合終了を知らせるブザーが鳴り、切嗣たちの会話を遮るように千冬が前の試合が終了したことを伝えて来た。

 

「まあ、セシリアたちの分は僕たちが仇をとってくるから、切嗣はそこでゆっくり観戦しといてよ」

 

「安心しろって!お前らと戦う分の体力は残しとくからさ!」

 

「……頑張ってくれ」

 

「「おぉ!」」

 

そう言い終えると、一夏とシャルルはカタパルトからアリーナへと飛び立っていった。

 

 

会場への入場が終わり、一夏とシャルルはアリーナでラウラ達と対峙していた。

 

「やっとお前と対決することが出来るぜ、ラウラ=ボーデヴィッヒ!」

 

「対決だと?それではまるで私と貴様らが対等な立場のようではないか!ハッ!笑わせるな、織斑一夏!貴様らごとき一瞬でひねり潰して、教官が最強だということを証明してやる!!」

 

「調子に乗っているところに申し訳ないけど、僕たちは君を全力で潰しに行くから、覚悟しておいてね」

 

「……一応私がいることも忘れないで欲しいのだが」

 

残念なことに、箒の言葉が3人に届くことはなかった。

 

「両方共準備は出来たな?それでは━━始め!」

 

「「叩きのめす!!」」

 

千冬の合図と同時に、一夏とラウラが飛び出す。一夏は雪片弐型を構え、ラウラへの距離を詰める。

 

「馬鹿の一つ覚えのようにまっすぐしか突っ込んでこないとはな!」

 

「うるせえ!黙ってろ!!」

 

ラウラはAICで一夏を拘束すると、プラズマ手刀で一夏を切り裂こうとするが、すかさずシャルロットが援護射撃を行う。

 

「させないよ!」

 

「……っち、また貴様か!フランスのアンティークめ!」

 

「シャルル、今は箒の相手をしてくれ!こっちの援護はそのあとでいい!!」

 

「うん!わかったよ、一夏!」

 

シャルルは箒の方に向き直ると、一気に斬りかかる。箒は慌てて防御するが、少しシー

ルドを削られてしまう。

 

「くっ、接近戦しかない私にあえて接近戦を挑むとは……!」

 

「僕が近接近戦が苦手だと思った?悪いけど、僕はどの距離でもそれなりに戦うことはできるよ!」

 

シャルロットは一旦距離を開け、武装を切り替える。

 

「何をしようとしているが知らないが、その前に距離を潰せばいいだけだ!」

 

「……かかったね?」

 

その瞬間、シャルロットが不敵な笑みを浮かべる。一気に距離を詰めようと接近した箒に待ち受けていたのは、連装ショットガンによる銃弾の洗礼だった。

 

「ちっ!」

 

「悪いけど、これで終わらせてもらうよ!」

 

箒は一旦距離を開けようとするが、シャルロットは近接ブレードを一瞬で展開し間を詰める。

 

「!そんな!!」

 

「驚くのはまだ早いよ!」

 

シャルロットはスラスターの出力を一気に上げ、箒に肉迫する。

 

「な!?瞬間加速だと!?」

 

「一夏たちが訓練しているのを真似てみただけだけど……。うまくいったみたい!」

 

そしてシャルロットのブレードが箒を一閃した。

 

「シールドエネルギーがゼロになったので、篠ノ之さんは敗退となります」

 

「……くっ!」

 

場内のアナウンスに従い箒はアリーナ搬入口に移動すると、試合の行方を見守っていた。

 

 

一方その頃、ラウラは一夏をAICの結界内に捉えており決着がつこうとしていた。

 

「ちょこまかと逃げ回っていたみたいだが、これで終わりにしてやる!」

 

「くそっ!このままでは……!」

 

ラウラは右手に展開したプラズマ手刀で一夏のシールドを貫こうとしたが、それを遮るように銃弾の雨が降り注ぐ。

 

「待たせたね、一夏!」

 

「よしっ!シャルロットの方も片付いたみたいだし、これで2対1だな!」

 

「ちっ!どこまでも使えないやつめ……!」

 

「一夏、零落白夜を発動できるくらいのエネルギーは残ってる?」

 

「任せろ!まだまだ大丈夫だぜ!」

 

シャルロットの問いに一夏が親指を立てて、大丈夫なことをアピールする。

 

「それなら僕が援護するから一夏は接近戦を仕掛けて!」

 

「了解!」

 

一夏の思いに答えるかのように白式が第二形態に移行し、白式のメイン武器である雪片弐型も変形、エネルギーの刃を形成する。そして一夏もスラスターの出力を上げ、一気にラウラへと突貫した。

 

「これで決着をつけてやる!」

 

「……馬鹿め、そんな真正面から突っ込んできたところで返り討ちにしてやる!」

 

ラウラは右肩に装着しているレールカノンを構え、一日に照準を合わせようとするが、シャルロットの牽制により狙いを定めることが出来ない。

 

「一夏を撃たせはしない!」

 

「えぇい!邪魔だと━━━」

 

ラウラが気づいたときには一夏が高速でスラスターを吹かせながら目の前で雪片弐型を横凪に振るおうとしていた。

 

「馬鹿な!?早すぎる!」

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

それに気づき、ラウラは慌てて回避するが、避けるのが遅れたために零落白夜により大きくエネルギーを削られてしまう。

 

「貴様、よくもこの私に━━━」

 

「余所見するなんて、随分余裕があるんだね?」

 

「!?」

 

ラウラが一夏にワイヤーブレードを射出しようとした瞬間、いつの間にか武器をチェンジしたシャルロットの重機関銃が火を吹きラウラのレールカノンを破壊した。

 

「ちっ!」

 

「このままいけば勝てる!」

 

「一気に押し込もう、一夏!」

 

一瞬、ラウラの機体が赤黒く光ったが誰もそれを気に止める者はいなかった……

たったひとりを除いて。

 

(このまま私は負けてしまうのか……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!もう一人ぼっちにはなりたくない……!)

 

『Damage Level……D

Mind Condition……Uplift

Certification……Clear

《 Valkyrie Trace System》……boot』

 

通常の脳の処理能力をはるかに超える情報が頭の中に直接流し込まれ、ISのモニターに赤い文字が淡々と表示される。それはまるでラウラの思考を埋め尽くすかのように。

 

「アアァァァァァァァァァァ!」

 

そして、ラウラは意識を手放した。

 

 

その頃、観客席で試合を見守っていた切嗣だが、ラウラの機体が赤黒く光ったのを見たとたんに席から立ち上がっていた。

 

「……嫌な予感がする」

 

「どうしたんですの、切嗣さん?」

 

隣に座っていたセシリアが切嗣の方を向く。

 

「……すまないが、少しトイレに行ってくる」

 

「?どうぞいってらっしゃいまし」

 

切嗣はセシリアに断りを入れると、観客席をあとにしてアリーナ搬入口へと急いだ。

 

 

「織斑一夏!シャルル・デュノア!両名は直ちに試合を中止して退避しろ!なお教員はISを装着し、いつでも鎮圧できるように用意しておくように!」

 

千冬のアナウンスがアリーナに響く中、シャルロットと一夏は戸惑っていた。後一歩のところまでラウラを追い詰めていたが、突然ラウラが叫び声を上げたかと思うと、ISが黒い泥のように変化しラウラを覆ってしまったのだ。そしてソレは形を変えて行き、最終的に刀を持った女性の形になった。そして女性の形をした“黒い何か”はシャルロットの方に斬りかかる。

 

「え……?」

 

シャルロットが反応する前に、持っていた機関銃は両断され、返す刀で壁に叩きつけられてしまう。

 

「おい!?シャルル!しっかりしろ!」

 

「……」

 

一夏はシャルロットに大声で呼びかけるものの、シャルロットの反応はほとんどなく、心なしか顔色が先ほどに比べて、青白くなっていた。

 

「てめぇ、シャルルまでこんな目に遭わせやがって!もう許さねえからな!」

 

「……?」

 

ソレは一夏の言葉に反応するように、一夏の方に向き直る。その佇まいを見た瞬間、一夏の中で何かが弾ける。その姿が憧れであり唯一の肉親でもある“彼女”にそっくりであり、ソレは明らかに彼女の姿を模倣していたことに一夏は激怒した。

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

一夏は残り少ないエネルギーを使い一撃を加えようとした。が、刃が敵に当たる直前に零落白夜の効果が切れ、普通の雪片弐式に戻ってしまう。ソレは一夏の雪片弐式を叩き落とすと、片手で一夏を持ち上げ、刀を一夏の喉元に突きつける。

 

「くそ、こんな巫山戯たやつに俺は……!」

 

「……」

 

一夏は精一杯の抵抗とばかりに、眼前の敵を睨みつける。突然ソレは後ろを振り返り刀を振った。その行動につられるように一夏もソレが見ている方向を見ると、その先にはISを部分展開した切嗣の姿があった。

 

ソレは標的を切嗣に変え、切嗣に向かって突っ込んでいく。完全に展開した状態の自分たち2人掛かりですら、一瞬で蹴散らした存在。ましてや世界に2人しかいないとは言え、レベル的には学園の一生徒と変わらない切嗣が部分展開しかしていないISでソレに戦いを挑む。どう考えても無謀以外の何者でもない。しかも切嗣はISを待機状態に戻し、コンテンダーをソレに向ける。

 

「おい!なんでISを解除するんだよ!」

 

「…………」

 

一夏はこのあとに起こるであろう惨劇に思わず目をつぶりそうになる。そして、その刃が届く寸前で切嗣は引き金を引いた。

 

「アァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

切嗣の放った起源弾が“黒い何か”に接触した途端に、一夏にとって信じられないことが起こった。ソレは悲鳴を上げて崩れ去り、中からラウラが出て来たのだ。切嗣はその様子をじっと見つめていたが、ラウラが出てきて倒れたを確認するとコンテンダーに実弾を装填して銃口をラウラの頭に向ける。

 

「どういうつもりだ!こいつはもう倒れてるだろ!もう勝負は終わったんだ!」

 

コンテンダーを持った切嗣の腕を慌てて一夏が掴む。

 

「……その手を離すんだ、織斑一夏。こいつはまだ起き上がってくるかもしれない」

 

「起き上がるって……どう見ても起き上がる余力なんてないだろ」

 

「それはどうかな。本来なら念の為に頭に一発撃ち込んで止めを刺しておくべきだが……」

 

「頭にって……冗談だよな?」

 

切嗣の発言に一夏は一瞬、返答に窮してしまう。確かにその発言単体であるならば冗談であると受け流すことができたのかもしれない。がしかし、一夏はその言葉を発した時の切嗣のなんの感情も感じさせない能面のような表情に、気圧されてしまっていた。

 

「さて、そろそろほかのみんなも心配しているようだし戻るとしよう……それと織斑一夏」

 

「な、なんだよ?」

 

入口に歩きだそうとしたところで前を歩いていた切嗣が、振り返らずに一夏に声をかける。

 

「君のその甘さが、いつか君自身を殺すことにならないといいが」

 

「……え?」

 

「…………」

 

切嗣は一夏の返事を待たずに、そのまま搬入口の方へ歩いて行った。

 

 

その夜、ルームメイトが寝たのを確認すると、箒は寮を抜け出してある番号に電話を掛ける。何も出来なかった自分を変えるため、そして“彼”の隣を確保する力を手に入れるために。

 

「もすもすひねもす、みんなのアイドル篠ノ之束さんだよ~♪」

 

「……電話を切っていいか?」

 

「あ~、そんなこといけずを言わないでよぅ、箒ちゃん。それで今回はどうしたの」

 

「……力が欲しい。一夏を守れるような、そして立ちはだかる壁を粉砕することが出来る強大な力が……!」

 

電話越しの箒の発言に束のテンションはどんどん上がってゆく。

 

「……面白そうだね。詳しい話を聞かせてくれるかな?」

 

「実は━━━」

 

力を振るう者と、これから力に溺れるであろう者。両者の長い夜が過ぎて行く。




切嗣のセリフは一夏くんにとっての死亡フラグである可能性が微粒子レベルで存在する……!?そして鷹月さんのチョイ役プリェ……。ぶっちゃけ、このシーンを書くために今まで文章を続けてきたと言ってもいいくらい、書きたかったシーンです。ですが、なにか不手際がありましたらコメントを頂けると嬉しいです。

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