IS/Zero   作:小説家先輩

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ぬわぁぁぁん疲れたぁぁぁもう


第十三話 関心

「……ここは?」

 

気がつくと、ラウラは何もない白い空間の中にいた。ふと辺りを見回すと、輪郭はぼやけているものの黒いコートを着た切嗣が立っている。

 

「衛宮……切嗣……!」

 

「……」

 

ラウラは切嗣を睨みつけるが、切嗣はそれに反応することなくラウラに背を向けて歩き出す。

 

「貴様……待て!」

 

ラウラは走って切嗣を追いかけ肩を掴もうとしたその瞬間、周りの景色は一変し、いつの間にかラウラと切嗣は海の上に浮かんだボートの上にいた。そして彼らの少し先には飛行機が飛んでいる。

 

「……!……。」

 

「私を無視するとはいい度胸だな?」

 

ラウラは切嗣を後ろから殴りつけようとするが、ラウラの拳は切嗣の体をすり抜けてしまう。

 

「!?これは、もしや……奴の記憶……なのか?」

 

ラウラの言葉に切嗣が反応することなく、状況は進む。切嗣はスティンガーミサイルの照準を飛行機に合わせると、インカムで誰かと会話を続ける。

 

「……ああ、僕も……を……と思っている」

 

そう呟いたあと、なんの感情も篭っていないガラス玉の様な瞳で照準を定めた切嗣はスティンガーミサイルの発射装置の引き金を引きミサイルを放つ。放たれたミサイルは飛行機に吸い込まれるように飛んでいく。ミサイルが着弾し、エンジン部が大爆発を起こした飛行機はバランスを崩してそのまま海上へと落下していった。

 

「!!お前、なんという事を……」

 

ラウラはそれ以上言葉を続けることが出来なかった。なぜなら目の前の切嗣がミサイルの発射装置を落とし、床に膝をついて涙を流していたのだから。

 

「見ていてくれたかいシャーレイ……今度もまた殺したよ。父さんと同じように殺したよ。キミの時みたいなヘマはしなかった。僕は大勢の人を救ったよ……」

 

切嗣の慟哭はまだ続く。まるで自分の中にある後悔に似た”何か”を必死に振り払うように

 

「ふざけるな!ふざけるな!馬鹿野郎!!」

 

切嗣が叫び終えるのと同時に周りの景色が暗転し始める

 

「待て、衛宮切嗣!私はお前に━━━」

 

 

「!?あれは……夢……?」

 

ラウラが再び目を覚ますと、そこには見慣れた白い天井が広がっていた。

 

「ここは……保健室か」

 

「……目を覚ましたようだな、ラウラ。お前は織斑・デュノアと戦い、暴走したところを衛宮に止められた。そして保健室に運び込まれ、私がお前に付き添っていた。今の説明に関して何か質問は?」

 

近くから聞こえた懐かしい声にラウラが視線を移すと、千冬がベッドの横に腰掛けていた。

 

「教官……。いえ、何も」

 

「そうか。お前のISについてだが、コア内部にVTsystemが搭載されていた。この名前に聞き覚えは?」

 

「ありません」

 

聞き覚えのない言葉にラウラは首を横に振る。すると千冬は大きくため息をつき、説明を始めた。

 

「━━━だろうな。このシステムは簡単に言うと、操縦者の技量に関係なく、過去のモンドクロッソ優勝者の動きをそのまま再現することのできるシステムだ」

 

「……それが今回の自分の暴走と関係があるのですか?」

 

ラウラの反応に千冬の眉がピクリと反応する。そして千冬の表情には明らかな嫌悪の表情が浮かんでいた。

 

「それが操縦者にどのような影響を及ぼすか、身をもって体験したお前に分からないはずはないだろう」

 

「!!」

 

異常な量の情報による脳への負担、及び、人体の限界に近い動きをすることによる身体への過剰な負荷。代表候補生であり、同時に軍人でもある自分ですら意識を手放してしまうほどの身体への影響を普通のIS操縦者が行使してしまった場合……それを想像したラウラは思わず息を呑む。がしかし、

 

「……そう、ですか。ですが私にはもう関係のないことです」

 

千冬に帰ってきたのは意外な返答だった。

 

「なぜだ?」

 

「……私は教官の強い姿に憧れ、いつか教官のようになろうと自分なりに努力を重ねてきました。しかし、結果として私は彼らに負けてしまった。ISにそのようなものが積まれていたとは言え、負けは負け。負けてしまった私に価値などない。なので体が動くようになったら、本国に帰還するつもりです」

 

千冬は黙ってラウラの言葉を聞いていたが、ラウラがしゃべり終えるのと同時に口を開いく。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「!」

 

「お前にとっての強さとはなんだ?」

 

「それは……どんな敵をも打ち倒す力だと思います」

 

千冬の問いにラウラは迷いなく答える。

 

「力……か。私はお前に自分の考えを押し付けるつもりはないが、お前が力=強さという考

えである限り、織斑やシャルル、そして衛宮たちに勝つことは難しいだろうな」

 

「つまり教官は力だけが全てではないと?」

 

ラウラの問いに千冬は不敵な笑みを浮かべながら、答えを返す。

 

「……さあな、それは自分で考えろ。とにかくこの学園でお前にとっての強さを見つけることができない限り、本国に帰っても結果は変わらないことは理解しておけ。それでは私は教室に行かねばならんのでな、これで失礼する」

 

「はい。付き添っていただきありがとうございました」

 

千冬はラウラの返事に頷くと、保健室を出ていった。

 

「……衛宮……切嗣……奴は一体……?」

 

一人残されたラウラは保健室で先ほどの出来事について考えていた。

 

 

「答えろ!ラウラのISを破壊したお前のあの銃弾は一体なんなんだ!?」

 

「……」

 

翌日、切嗣は千冬に呼び出され指導室に来ていた。沈黙を貫く切嗣に、千冬の言動もだんだんエスカレートしてゆく。

 

「……だんまりか。いい度胸だな?」

 

「答える必要はありません」

 

「ほう?お前が喋らないのならば直接その体に聞いてもいいんだぞ?」

 

「“体に聞く”とはあまり穏やかな交渉の仕方ではないと思いますが……」

 

「だったら早く私の質問に答えるんだな。私も生徒相手に体罰を使いたくはない」

 

千冬の発言に、切嗣は相変わらずだんまりを続ける。そして業を煮やした千冬が立ち上がったその時、勢いよくドアが開き楯無が入ってきた。

 

「かつて“ブリュンヒルデ”と呼ばれた織斑先生ともあろうお方が生徒に体罰をしようとするとは……」

 

「更識か。誤解の無い様に言っておくが、私は別に自分のクラスの生徒に適切な指導をしようとしていただけだ」

 

「ええ、“適切な指導”なら私もいちいち口を挟んだりはしません。しかし、先生は体罰を行使してまで生徒の個人情報を無理やり聞き出そうとしていた。これは生徒の代表である生徒会長として見逃すわけにはいきません。先生には申し訳ないですが、これから彼には事情を聞かねばならないので彼を生徒会室に連れて行きます。いいですね?」

 

「……いいだろう。好きにするといい」

 

「ご協力感謝します」

 

切嗣を連れて指導室を出ようとする楯無に千冬が言葉を投げかける。

 

「しかし、衛宮が他の生徒に害悪をなそうとするのなら私は容赦するつもりはないからそのつもりでいるように」

 

「安心してください。その時は私が責任を取りますから」

 

千冬の険しい表情を交えた警告に楯無は笑顔で返すと、切嗣を連れて指導室を出て行った。

 

 

生徒会室に入ると、楯無は入口の鍵を閉める。

 

「……単刀直入に言うよ。きりちゃん、お姉さんにまだ隠してることがあるでしょ?」

 

「……虫のいい話に聞こえるかもしれないが、もう少し話すのは待ってもらえませんか?」

 

真顔でそう尋ねる楯無に対し、切嗣は話すことを遠まわしに拒否する。すると楯無は寂しげな表情を浮かべながら、言葉を続けた。

 

「……正直厳しいって言いたいところだけど、きりちゃんなりの考えがあってのことだろうからもう少しだけ待ってあげる。その代わり、お姉さんの頼み事を聞いてくれるかな?」

 

「あまり無茶なことは勘弁してもらいたいが……」

 

「うん、そんなに難しい仕事じゃないから安心してくれていいよ。それで内容というのは━━━」

 

 

 

数時間後、切嗣はドイツ上空にいた。

 

「あと10分後に目標上空に到達します」

 

「了解。ハッチに移動する」

 

降下する準備をしながら、切嗣は生徒会室での楯無との会話を思い出していた。

 

「いい?今回の作戦はVTsystemを研究していた研究所を研究員ごと抹殺すること」

 

「抹殺とは穏やかじゃないな……それに、いくら違法な研究を行っていたとは言え、そんなことをして大丈夫なんですか?」

 

楯無の口から出た不穏な言葉に切嗣は怪しむような視線を送る。

 

「VTsystemの研究だけなら抹殺はいらなかったんだけどね。他にも人体実験とか人道に背くような行為をしていたみたいだし、ドイツとしてもこの研究所の存在が明らかになれば、国際社会での地位の低下は免れない。それはドイツ本国にとっても避けたい事態だからね」

 

「……つまり、口封じということか」

 

「ぶっちゃけると、それで正解かな。今回きりちゃんはこの兵器を使うことになるんだけど」

 

すると更識はある一枚の写真を切嗣に見せる。そこには携行タイプのミサイルが移っている。

 

「……これは?」

 

「燃料気化爆弾。揮発性の高い燃料を散布して大爆発を起こして地上の建物などにダメージを与えるミサイルだね。ただしこのタイプは無誘導型だからある程度目標まで接近しないと正確に当てることはできないの。そしてコア登録されているドイツ国内のISやロシア代表の私が動くと事後処理が面倒なことになるから……」

 

「なるほど。そこでどの国家にも所属していない僕の出番というわけですね」

 

「そういうことだね。きりちゃんはドイツ空軍の輸送機で目標上空まで接近、上空からISで降下して既定の高度に達したところで爆弾を射出、あとは離脱してくれればいいから」

 

「了解」

 

 

 

「目標上空です」

 

機内に搭載してあるスピーカーのアナウンスで切嗣は思考を今の状態に戻す。

 

「了解。衛宮切嗣、出撃する」

 

切嗣はハッチを開くと、目標に向かって空から降下を始める。索敵用のレーダーを欺くための高高度からの降下。防寒着と酸素マスクを装備しているとはいえ、パラシュートをつけずにそのままダイブする事で切嗣の体にはかなりのGがかかる。

 

「━━━っぐ!」

 

「既定の高度に到着しました。速やかにISを展開し、爆弾を射出してください」

 

通信回線からの指示を聞き、切嗣はなんとかISを展開すると、背中に搭載したミサイル射出ユニットを構えた。目の前に表示される画面に対象を捕捉完了したことを知らせるメッセージが表示される。

 

「━━━ターゲットの補足完了。爆弾を射出する」

 

射出ユニットの引き金がいつもより心なしか重く感じられる。“あの頃”以来、久しぶりの正義の味方としての活動。切嗣は思考のスイッチを切り替えた後引き金を引く。爆弾は寸分の狂いもなく目標に向かって飛んで行き、建物に着弾、直後に巨大な炎の柱が立ち上り、あたりを焼き尽くした。

 

「……目標の完全破壊を確認」

 

「了解。速やかに帰還してください」

 

切嗣はスラスターの出力を上げると、急いでその場から飛び去った。

 

 

翌日、切嗣は教室で想定外の事態に陥っていた。

 

「衛宮切嗣!放課後私と(演習を)しないか!」

 

「……!?」

 

「切嗣さん……?これはいったいどういうことですの?」

 

「……違うんだ、セシリア。今のはラウラの言い間違いであって決してそんな意味ではない━━━」

 

右隣にはすごくイイ笑顔を浮かべながら凄まじい威圧感を放つセシリア、そして左隣には額に青筋を浮かべながら、口元だけ無理やり笑みを浮かべるシャルロットに囲まれていた。

 

「何を言っているんだ衛宮は。私が言い間違いなどするはずなかろう」

 

「頼むからボーデヴィッヒは黙っててくれないか?話がややこしくなる」

 

うっかりを超えて、最早意図的にやっているとしか思えないラウラの爆弾発言に切嗣の精神はどんどん削られていく。

 

「おりむーも大概だけど、きりちゃんも隅に置けないね」

 

「布仏さんもいちいち煽るようなことを言わないでくれ。じゃないと僕が大変なことになるんだ」

 

「誰が・どう・大変な目にあうか私に詳しく教えていただけませんか、切嗣さん?」

 

「嫌だなぁ、切嗣。僕たちがそんな乱暴な事をするわけないじゃないか」

 

切嗣が振り返ると、セシリアとシャルロットが額に青筋を浮かべ、握りこぶしを作りながら切嗣の後ろに立っていた。彼女たちの背後に青白いオーラが見えるのは気のせいかもしれない。

 

「さて、きりちゃんをいじるのも程々にしておかないと可愛そうだし、やめておこーっと」

 

本音は切嗣とセシリア達の反応を見て、満足した様子で自分の席へと戻っていった。

 

 

放課後、千冬は地下室で篠ノ之束と連絡を取っていた。

 

「やあやあ、ちーちゃんから私に電話してくるなんて珍しいね」

 

「……私はお前に聞かねばならないことがある。ドイツ代表候補生のISに積まれていたVTsystemを作り上げたのはお前か?」

 

「……ぷっ、くくく!」

 

「何がおかしい!私の生徒が犠牲になりかけたのだぞ!!」

 

通話口から聞こえてきた笑い声に千冬は思わず声を荒げる。

 

「いやー、だって私は完璧を求める天才科学者だよ?あんな欠陥だらけのくだらないシステムなんて作るわけないじゃん!ちーちゃんが私のことそんな風に思ってたなんて心外だなー」

 

「……では、お前はあのシステムに関しては一切関係ないのだな?」

 

「うん、私は何も知らないよ。と言うか、ドイツ国内のあれの研究施設はもうすでに消滅しちゃってるでしょ?」

 

「なんだと!?」

 

「あれ?ちーちゃんでも知らないことってあるんだね。実はその研究施設は数時間ほど前に“謎の大爆発”を起こして研究員ごと消滅したよ。因みに現場周辺の空域で未確認機の反応があったけどね」

 

「未確認機の反応……だと?」

 

“未確認機の反応”と言う言葉に千冬は顔をしかめる。この状況で未確認となると考えられるパターンはごく僅かになる。

 

「そうそう。そのISが現れて数十秒後に研究所が大爆発を起こしたんだよー」

 

「……あの時……衛宮と更識は……しかし……」

 

「そんでさ。ちーちゃんはその事についてなんか心当たりはある?」

 

「…………」

 

「もしもーし。ちーちゃん聞こえてる?」

 

「あ、あぁ。すまん、少し考え事をしていた」

 

「……ひょっとして疲れてる?なんなら私が開発した新型のマッサージ機を━━━」

 

「ものすごく嫌な予感がするからやめておく。では私はまだ仕事が残っているのでそろそろ通話を切るぞ」

 

「はいはい。そんじゃ、まったねー」

 

千冬は束の言葉に脊髄反射で返事を返すと通話を切り、携帯をポケットに直し込む。

 

「衛宮切嗣……一体……何者なんだ」

 

暗がりの中、誰もいない地下室に千冬の声が響いた。




最近、地の文がうまく書けなくなって来ている気が……す……orz

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