IS/Zero   作:小説家先輩

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今回は、編集の都合上かなり短めになってしまいましたorz


第十四話 平穏

ある日の放課後、切嗣はラウラと二人でアリーナでの演習を行っていた。切嗣は近接戦闘をしながらラウラの実力を測っていたが、何か思うことがあったらしく、おもむろに武器を収納するとラウラに話しかける。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。君はどうもISの性能に頼りすぎているところがある」

 

「……どう言う意味だ?」

 

切嗣の言葉にラウラは顔をしかめる。どうやら切嗣の発言が彼女の琴線に触れたらしい。

 

「君の大まかな過去の話は織斑先生から聞いた。君は幼い頃から戦闘訓練を受けていたのだろう?それなのにそれを戦闘に生かしきれていないのは勿体無いと思ってね」

 

「……お前に私の何が分かる」

 

「何?」

 

ラウラから発せられる殺気混じりの視線を切嗣は真顔で受け止める。

 

「お前に私の何が分かると言ったのだ!大体、私は努力してここまでのし上がって来たんだ。それを何も知らないお前にどうこう言われる覚えはない!!」

 

切嗣はラウラの独白を黙って聞いていたが、ラウラが話し終えたあとに口を開いた。

 

「……確かに僕が軽々しく踏み込んでいい領域ではないかもしれない。ただ、君に知っておいて欲しいのはどんな努力を積んで強くなったとしても死んでしまえばそれで終わりだということだ。実際、戦いなんてものはその場の状況だけでなく、その前の準備も重要になる。もし、僕が君と本気で殺し合いをするなら、もっと卑怯な手段で実力を発揮できないようにするが」

 

「卑怯な手段……?」

 

「例えば、君の部下や知り合いを人質にしたり、君が潜んでいる場所をその場にいた人ごと纏めて吹き飛ばしたり、な」

 

「なっ!?」

 

切嗣の意味深な発言にラウラは思わず息を呑む。「家族や知り合いを人質にする」少なくともそのような発想を普通の男子高校生が思いつくことはありえない。

 

「そんなことをして、ただで済むと思っているのか……?」

 

「……確実に目標を仕留めきれるなら、そうするだろうさ。それが他人から下衆・外道と罵られるような手段でもね」

 

「…………」

 

最近届けられた報告の中に、自分のISに搭載されていたVTsystemを開発していた研究所が謎の大爆発を起こし、研究員もろとも吹き飛ぶ、と言う事件があったことをラウラは思い出した。

 

「あの事件の犯人は……もしかしてお前なのか?」

 

それは不意に口から出た言葉。あるいは冗談の類。少なくともそのような、大それたことを事をIS学園の一生徒でしかないはずの衛宮切嗣に出来るはずはない、と言うある意味で確信めいた思いがその言葉には篭っている。

 

「さて……なんの事かな」

 

「そうか……何でもない。忘れてくれ」

 

その言葉にラウラは安堵する。がしかし、その一方でラウラは切嗣の表情がごく僅かに曇っているのに気づくことはなかった。

 

 

「ところで、話は変わるがお前は一体『切嗣さん!もう演習は終わりましたの?』!?」

 

ラウラの発言を遮るように、セシリアがアリーナの搬入口のところからプライベートチャンネルで通信回線を開く。

 

『……セシリアか。一応一通りの戦闘訓練は済んだところだ』

 

『そうですか。でしたら今から私の部屋に来ませんか?この前美味しい茶葉が手に入ったところなのですが……』

 

『紅茶か……分かった。今から着替えてくるから入口で待っててくれ』

 

『はい!分かりましたわ!』

 

セシリアは通信を切ると、上機嫌な様子で入口へと走っていく。

 

「さて、そういうわけだから僕はこれで帰らせてもらおう」

 

「……あぁ」

 

「ではまた明日」

 

そう言うと、切嗣はISを解除し搬入口の方へと歩いて行った。

 

セシリアとのお茶会を終えた切嗣が部屋に戻り、ドアを開けると、何故か部屋の電気が消えていた。

 

「シャルル、いないのか?」

 

「……切嗣、ドアを閉めて部屋の中に入ってきてくれないかな?」

 

「……わかった」

 

切嗣はドアを閉め、自分の椅子に腰掛ける。

 

「明日、みんなに本当の自分の事を話そうと思うんだ」

 

「……そうか」

 

シャルロットは何も言わない切嗣の態度に疑問を覚える。

 

「切嗣は何も言わないんだね」

 

「……君自身が後悔のない選択をすればそれでいいと思う」

 

「そうだね。もし明日みんなに本当の自分を知ってもらって、それでみんなに受け入れてもらえなかったらその時は━━━」

 

「別に今そんなことを考える必要はないんじゃないか?」

 

「どちらにせよ、今日が一緒の部屋で居られる最後の日なんだよ」

 

「……そうだな」

 

そう言うと、切嗣はおもむろに立ち上がり部屋の電気を付け、戸棚にしまってあるポットと二つのカップを取り出してお茶を作り始める。数分後、二つのカップには琥珀色の紅茶が注がれていた。

 

「……ありがとう、美味しい。」

 

「ちょうどセシリアに貰っていた茶葉があったのでね。賞味期限が近かったし、僕だけじゃ飲みきれそうになかったから、君にも飲んでもらおうと思ったのだが。口に合ったようで何よりだ」

 

「ふふっ、そういう事にしておこう」

 

「…………」

 

シャルロットの言葉に切嗣は気まずそうに黙り込んでしまう。そんな切嗣を見てシャルロットの顔に笑みがこぼれる。切嗣の一見そっけない態度の裏側にある、彼なりの心遣いにシャルロットは少なからず心を動かされていた。

 

「もしよかったら、一緒に食事でもどうかな?」

 

「……悪いが、このあと予定が━━━」

 

「またまた。そんな態度とってばっかりだと、ろくなことにならないよ?」

 

「……分かった。準備をするから少しだけ待っていてくれ」

 

切嗣はシャルロットの言葉に観念したようで、トランクから着替えを取り出すと、準備を始めた。

 

 

シャルロットとの食事を終えた後、周囲に誰もいないことを確認して切嗣は楯無と電話でやり取りをしていた。

 

「━━━それで、あの事件と篠ノ之博士の関係について何かわかったんですか?」

 

「……いいえ。初めに起こった無人機事件以降、関係者を色々調査して回ったけど証拠らしいものは出てこなかったわ。証拠らしいものは、ね」

 

更識の意味深な発言に切嗣は違和感を覚える。

 

「それはつまり?」

 

「……どうやらきりちゃんの推測通りみたいだよ。あの無人機に使われていたコアは未登録のもので、世界でコアを作れるのは篠ノ之博士一人。ここから導き出される結論は━━━」

 

「━━━篠ノ之博士こそが黒幕、と言う事か」

 

二人の間に緊張が走る。が、先に口を開いたのは楯無だった。

 

「まあ、そうであったとしても今のところ私たちにどうこうできる力はないんだけどね」

 

「……ええ。今のところは、ですね」

 

そんな話をしながら、時間は過ぎていった。

 

翌日、また新しい転入生が入ってくるとのことで、切嗣たちの1組はちょっとした騒ぎになっている。

 

「この時期にまた転入生が来るらしいよ!」

 

「……そう言えば、デュノアくんはどうしたのかな?」

 

「また男性の適応者だったりして」

 

そんな中、真耶が教室に入ってくる。

 

「皆さん、静かにしてください。今日は皆さんに新しい転入生を紹介したいと思います」

 

「…………」

 

山田先生の声に教室が静まり返る。

 

「━━━静かになりましたね。それでは、入ってきてください」

 

「はい!」

 

元気のいい声と共に教室のドアが開く。皆ドアの方を見ていたが、自分が見ている光景が信じられないようで誰も声を発することはなかった。そして、その転入生(?)は教壇の上に立つと挨拶をはじめる。

 

「フランス代表候補生、シャルロット・デュノアです!これからよろしくね♪」

 

「「えぇぇぇぇ!?」」

 

「……はい。シャルルさんはなんと女性でした!なのでこれでまた部屋割りの変更をしないといけないです……」

 

真耶は深い溜息を着くと、出席簿を開く。がしかし、それを遮るように生徒から手が上がる。

 

「先生ぇ~」

 

「?どうしましたか、布仏さん」

 

「シャルロットさんが女性ということは~、えみやんはシャルロットさんと同棲していたことになるんじゃないですか~」

 

「「!!」」

 

そして、切嗣の審判の日は始まる。




なんだこのシチュエーション!?(驚愕)

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