IS/Zero   作:小説家先輩

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工事完了です……


第十九話 正義

「嘘っ!こんなのって……ない、馬鹿やってないで早く起きなさいよ一夏!」

 

箒が一夏を抱えて旅館に帰り着いたところで、真っ先に鈴が飛び出してきた。すでに話を聞いていたようで、彼女の目は真っ赤になっており、どんな心境で一夏達の帰りを待っていたかは容易に想像がつく。

 

「すまない、本当にすまない。私のせいで……」

 

箒は壊れたテープレコーダーのように、謝罪の言葉を繰り返す。自分の油断で一夏に命に関わるような怪我を負わせてしまった。その事を深く後悔している箒に、まともな会話をさせようとする事自体、酷なことなのかもしれない。

 

「お前ら……そこをどけ、今の私は最高に機嫌が悪い」

 

激情を押し殺した千冬のドスの利いた声に鈴と箒は思わず飛び退く。千冬は一夏の状態を確認すると、自分の部屋に運ぶように指示を出す。自分の唯一の肉親が怪我をしたのにも関わらず、黙々と作業をこなしている姿をセシリアは呆然と見ている。

 

「一夏さん……そんな」

 

「一夏ぁ……こんなことになるなんて」

 

「……」

 

「専用機組は後ほど私の部屋に来い、今後のことについて話がある」

 

その場にいた専用機組にそう告げると、千冬は足早に、旅館の中へと入っていった。

 

「……じゃあ、僕たちも部屋へ行こうか」

 

シャルロットがそう呼びかけ、専用機組も旅館の中に入っていく。

 

「セシリア」

 

「?どうしたんですの、切嗣さん」

 

「……悪いが、少し気分が悪いのでトイレに行ってくる、と先生に伝えておいてもらえないか?」

 

「……分かりましたわ。では私たちは、先に先生のところに行っておりますので」

 

「……すまない」

 

切嗣はセシリアに返事をすると、誰もいなくなったところを見計らい外に出る。そしてあたりに誰もいないことを確認すると、楯無に電話をかける。数回の呼び出し音のあとに、楯無が通話に出た。

 

「……もしもーし、きりちゃん?どうしたのこんな時間に?ひょっとしてお姉さんの声が聞きたくなったとか?」

 

「……あながち間違ってないです」

 

「きりちゃんが私のボケにツッコミを入れてこない……これはかなり重症だね。一体何が起こったのか話してくれる?」

 

「……分かりました。実は━━━」

 

切嗣は今日の出来事を楯無に全部打ち明ける。楯無はそれを黙って聞いていたが、切嗣が話し終わったところで口を開く。

 

「━━━なるほど。その話を聞く限り、ほぼ確実に篠ノ之博士はクロだね」

 

「ですね。なのでこの事件が終わったら、本格的に彼女への対策を検討する必要があるかと」

 

「……それにしても『銀の福音』はかなり厄介な相手だよね。どうやって倒せばいいのかな……?」

 

受話器越しに楯無の悩んでいる声が聞こえる。

 

「……実は倒す策はある。がしかし、これは一番最後に使うつもりです」

 

「きりちゃんがそういうってことは、本当に最悪の手段なんだね。聞くのが怖くなってきたよ」

 

切嗣の言葉の中に出てきた最終手段。その言葉に、楯無は嫌な予感を感じずにはいられない。

 

「……この策を使えばほぼ確実にあのISの暴走を食い止めることは出来るでしょう。しかし、同時にアメリカ軍やイスラエル軍から付け狙われることにもなりかねません。なので会長に事前に連絡をさせてもらいました」

 

しばらく楯無からの返事はなかった。が電話の向こうで大きく息を吸う音がした後、スピーカーからは堂々とした楯無の声が聞こえた。

 

「……IS学園生徒会長更識楯無が生徒会の名において貴方に特別任務を与えます。どのような手段を講じても構いませんので、『銀の福音』を止めてください。なお、私たちがバックアップに回りますからそのつもりで」

 

「……了解」

 

「安心して。貴方がどんな判断を下そうとも、私が全力で守り抜くから」

 

「……ご助力感謝します。それでは」

 

「気をつけてね」

 

切嗣は通話ボタンを押して、携帯を閉じると旅館の中に入っていった。

 

 

「失礼します」

 

切嗣が部屋の中に入ると、当然のことながら部屋の中の雰囲気はかなり沈んでいた。

 

「すみません、トイレに行っていたので遅れました」

 

「トイレにしては随分と長かった気もするが……?まあいい。今後の予定についてだが━━━山田先生、説明を頼む。私は少し席を外す」

 

千冬は真耶に説明を任せると、部屋を出る。その際、ハンカチを持っていたのを切嗣は見逃さなかった。

 

「はい。『銀の福音』は篠ノ之さんたちを退けた後、さらに日本へのコースを通過しております。なので貴女たちはこれ以上の追撃を停止し、待機しておいてください」

 

真耶の言葉にシャルロットや鈴は衝撃を受ける。要は何もせずに作戦終了宣言を出されたのだ。専用機持ちとして、これほどの屈辱はそうないだろう。

 

「そんな!?なんでですか!?私たちだって待機している間に高機動用パッケージに換装してあるんです!納得がいきません!」

 

シャルロットの言葉にほかの専用機持ちも頷く。真耶はその様子を見ると悔しそうな表情を浮かべる。どうやら彼女自身も

 

「……『銀の福音』の最高速度は通常ISの最高速度の4倍であり、先ほどの戦闘が福音に接近できる唯一の機会でした。その機会が失われた今、我々にはどうしようもありません」

 

「なら、福音はどうなるんです!?まさかこのまま放置するということにはならないですよね?」

 

「……その件に関しては私から説明しよう」

 

「「織斑先生!?」」

 

頃合いを見計らったかのように、千冬が部屋の中に入ってきた。因みにその目は泣き腫らしたかのように、真っ赤に腫れていたがそれを指摘する者は誰もいなかった。

 

「先ほど米軍司令部から通達が入った。それによると、アメリカ軍側には軍事ISを一撃で破壊する秘密兵器があるらしい。だからそれを使ってあのISを破壊することにしたようだ」

 

「!そんな!それじゃあそのパイロットは……」

 

「当然、死ぬ」

 

千冬の口から語られる言葉に、セシリア達は沈黙を余儀なくされる。

 

「そんなのって、ない……」

 

「これはすでに決まったことだ。お前たちはきちんと自室で待機しておくように」

 

「「……」」

 

「……分かったのか?」

 

「「はい」」

 

「……ではな。私たちはまだ事後処理があるから、お前たちは早く自分の部屋に戻るように」

 

千冬は専用機組を教員用の部屋から追い出すと、部屋のドアを閉めた。

 

 

「そう言えば専用機持ちはどうしてます?」

 

「多分部屋にいると思いますが……どうかしたんですか。織斑先生?」

 

「山田先生は専用機組を監視しておいてください。あいつら、いつ飛び出して行くかわかったもんじゃないですから」

 

「そうですね、分かりました」

 

 

その頃、当然のように箒の部屋には切嗣を除く専用機持ちが集まっていた。

 

「ここで私たちが行かなくてどうすんのよ!?」

 

「そうは言っても……もう私たちが出撃しても間に合わないんだろう?行くだけ無駄だ」

 

その瞬間、沈黙を破るように鈴が箒の頬をひっぱたいた。叩かれた箒は一瞬呆然とするが、自分が何をされたかを理解したところで、鈴に猛然と食ってかかる。

 

「何をするんd「あんた何言ってんの!?私たちが一夏の仇を取らないで誰が取るのよ!まさか、第四世代を持つ自分が無理なのにお前たちにできるわけがない、なんて考えてないでしょうね!?大体、あんた私たちの事なめすぎじゃない?そんな半端な気持ちしか持っていないのなら、あんたに一夏を想う権利はないわ!……もっとも、お姉さんの陰に隠れてばかりのビビリちゃんにそんな勇気があると思えないけど……」……ない」

 

「え?」

 

怒涛のように捲し立てる鈴に対し、箒はしばらく沈黙を保っていた。がしかし、それで終わる箒ではない。

 

「そんなことない!一夏を想う気持ちは決して誰にも負けない!」

 

「……なんだ。あんたもそんな顔出来るんじゃない」

 

鈴の言葉に、箒は自分がうまく煽られたことに気がつくが、不思議と怒る気はしていない。

 

「……目標の場所はここから30キロの地点だ。ちょうど件の兵器の最大射程距離の境界といったところか。私たちでアレを止めるぞ!」

 

「盛り上がってるとこに申し訳ないけど、先生がこっちに来てるみたいだよ?」

 

会話に混ざらず、ラウラたちと一緒に外の様子を伺っていたシャルロットが状況を報告してきた。どうやらゆっくり話している時間はないらしい。

 

「それじゃあ、行きましょうか?」

 

「「おう!」」

 

セシリアたち専用機持ちは急いで準備を整えると、宿舎を出発した。

 

数分後、切嗣はなんとか職員達に見つからないように外に出て、楯無と電話で話し始める。

 

「━━━それでターゲットはその座標にいるんですね?」

 

「えぇ。ラウラちゃん達の服に仕込んでおいた盗聴器で確認したし、実際に衛星を使って確かめたから間違いないわ」

 

衛星を使って確かめる。あまりのスケールの大きさに、切嗣は驚きを隠せない。

 

「……了解。では今からその付近で待機しておきます」

 

「無事に帰ってきてね」

 

「……わかりました。では後ほど」

 

切嗣は通話を切ると、即座にISを展開し目標付近に向かって飛び出した。

 

 

「…………」

 

海上200m。そこで静止していた『銀の福音』は、まるで胎児のような格好でうずくまっている。

 

「━━━?」

 

不意に福音が顔を上げる。次の瞬間、超音速で飛来した砲弾が頭部を直撃、大爆発を起こした。

 

「初弾命中。続けて砲撃を行う!」

 

5キロ離れた場所に浮かんでいるIS『シュバルツェア・レーゲン』とラウラは、福音が反撃に映るよりも早く次弾を発射した。その姿は通常装備と大きく異なり、80口径のレールカノンを二門左右それぞれの肩に装着している。さらに遠距離からの砲撃・狙撃に対する備えとして4枚の物理シールドを展開している。がしかし、福音はラウラの予想よりも早く凄まじいスピードでラウラに接近してくる。

 

「ちぃ!」

 

攻撃力を高める反面、機動力を犠牲にする砲戦使用のラウラに対し、福音は距離300mを切ったところでさらに急加速を行いラウラへと右手を伸ばす。がしかし、ラウラは不意に笑みを浮かべる。

 

「━━━セシリア!!」

 

伸ばした腕が突然上空から降りてきた機体によって弾かれる。ブルーティアーズによるステルスモードからの強襲だった。ビットはすべて収納され、スラスターとして機能しており500kmでの航行を可能にしている。そしてセシリアが手にしている大型BTレーザーライフル『スターダスト・シューター』はその全長が2mもあり、ビットの分の火力を補っている。そしてセシリアは最高速の状態から一気に反転、福音を狙い撃つ。

 

「敵機Bを確認。排除行動へ移る」

 

「遅いよ」

 

セシリアの射撃を避ける福音を、突然現れたシャルロットが襲う。ショットガン2丁による至近射撃を受け、福音は姿勢を崩すが、即座に姿勢を立て直すとシャルロットに向かって「銀の鐘」による反撃を行う。がしかし、その攻撃はシャルロットの前面に展開する実体シールドとエネルギーシールドによって弾かれてしまう。

 

「悪いけど、この『ガーデン・カーテン』は、それじゃ落ちないよ」

 

さらに高機動射撃を行うセシリアと距離を置いての砲撃を行うラウラも加わり福音は消耗し始める。

 

「優先順位を変更。現空域からの離脱を最優先に」

 

福音は全方向にエネルギー弾を放つと、全スラスターを開き強行突破を試みる。

 

「させるかぁ!」

 

不意に海面が膨れあがり、そこから飛び出してきたのは箒が駆る『紅椿』とその背中に乗る鈴の『甲龍』だった。

 

「離脱する前に落とす!」

 

鈴は福音に接近する『紅椿』から降りると、即座に機能増幅パッケージ『崩山』を展開。両肩の衝撃砲に加え、新たに増設された2門の砲口が姿を現す。そして計4門の砲口が一斉に福音に向かって火を吹き、赤い炎を纏った弾幕が福音に降り注ぐ。

 

「やりましたの!?」

 

「まだよ!」

 

鈴の渾身の一撃を受けてなお、福音は機能を停止していない。

 

「“銀の鐘”最大稼働、開始」

 

その瞬間、エネルギー弾の一斉掃射が始まった。

 

「くっ!」

 

「箒!僕の後ろに!」

 

前回の失敗を踏まえ、箒は素早くシャルロットの後ろに隠れる。だが、防御パッケージを搭載したシャルロットにもエネルギー弾の一斉掃射は確実にダメージを蓄積させていく。

 

「それにしても……これはちょっと、やばいかも」

 

そうこうしている間に、物理シールドが一枚破壊される。

 

「ラウラ・セシリア、お願い!」

 

「言われなくても!」

 

「お任せになって!」

 

セシリアとラウラが左右に別れ、福音へと交互射撃を行う。そして足が止まったところに直下から鈴の双天牙月による斬撃、それからの衝撃砲が福音に迫る。鈴はエネルギー弾の弾幕を受けながらも、その斬撃が福音の片翼を奪い取る。

 

「はっ、はっ、どんなもんよ━━━ぐっ!?」

 

福音は片翼を失いながらも、すぐに体勢を立て直すと、鈴の左腕に向かって回し蹴りを放つ。脚部スラスターで増幅された一撃は鈴の左腕の装甲をたやすく破壊し、海へと叩き落とす。

 

「鈴!おのれ━━━!!」

 

箒は両手に刀を持つと、福音に斬りかかる。箒の急加速に一瞬、反応が遅れた福音の肩に刃が食い込んだ。しかし、福音は左右両方の刃を手のひらで握り締め、箒は刃を押し込もうと腕に力を込めるが、そこに福音の翼の砲門が狙いを定める。

 

「箒!武器を捨てて緊急離脱をしろ!」

 

ラウラがすかさず忠告を入れる。箒は武器を放さず、砲門がエネルギー弾を発射した。その瞬間、

 

(ここで引いては、何のための力か!)

 

箒は体を一回転させ。すると、その想いに応えるように爪先部分の展開装甲がエネルギー刃を発生させた。

 

「たぁぁぁぁぁ!」

 

そして踵落としの要領で箒の斬撃が決まる。ついに両翼を失った福音は、崩れるように海面へと堕ちていった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……やったか!?」

 

「これは……お前ら、下を見ろ!」

 

ラウラの言葉に箒たちが福音の落ちた海面に目を向けると、そこには自らを抱くように青い雷を纏った福音が数メートルくらいの高さで静止していた。

 

「キアアアアア!」

 

「まずい……来るぞ!」

 

福音は獣のような雄叫びを上げると、凄まじい速度で箒たちに襲いかかった。

 

 

 

気がつくと一夏は、白い砂浜にいた。辺りを見回すと白いワンピースを着た少女と白い鎧を着た女性騎士が立っている。

 

「ここは……どこだ?」

 

「ここは貴方の夢の中だよ。貴方は敵のISにやられて先程まで生死の境をさまよっていたの」

 

「そんなことはどうでもいい!俺はすぐに起きないといけないんだ!ここから出してくれ!」

 

「……その前にお前に聞いておかなければいけないことがある」

 

すると今まで黙っていた女性騎士が口を開いた。

 

「お前は何のために“力”を欲するんだ?」

 

「……そんなの決まってるだろ。みんなを守るためだよ」

 

「その“みんな”を守ったとしても、貴方にはなんの見返りもないんだよ?」

 

「仲間を助けるのに、見返りなんていらないだろ」

 

しばらく一夏たちの間に沈黙が流れる。が女騎士は急に笑顔になると、一夏に返事をした。

 

「……いいだろう、お前には新たな“力”を授けよう。だが急ぐことだ、さもないとお前の仲間を守りぬくことができなくなるだろうからな」

 

「今度はこんなところで出会わないように気をつけてね♪」

 

「あぁ!俺、これからも頑張っていくから!」

 

 

「はっ!?」

 

一夏が目を覚ますと、布団の中だった。

 

「こんなことをしていられない!急がないと!」

 

一夏は窓から飛び降りると、空中でISを装着して空へと飛び立っていった。

 

「全く、あの馬鹿者共が。……山田先生?」

 

誰もいなくなった部屋を見ながら、千冬はため息をついた。

 

「はい?」

 

「米軍側にもう少し件の兵器を使用するのを待って欲しいと伝えてくれ」

 

「えぇ!?そ、そんなの無茶ですよ!?」

 

「頼む、この通りだ……!」

 

千冬は真耶に深々と頭を下げる。

 

「わ、分かりましたから頭を上げてください、織斑先生!なんとか交渉してみますから……!」

 

「すまない、よろしく頼む」

 

頭を上げる千冬の顔には、してやってりの笑みが浮かんでいるように真耶には思えた。どうやら彼女の受難はこれから始まるらしい。

 

 

その頃、セシリア達を取り巻く戦況は絶望的なものになっていた。第二形態移行を完了した福音は圧倒的なパワーとスピードを誇り、まず機動力が劣るラウラが狙われ全身から生えたエネルギー翼からの猛烈な弾幕を受け海上に叩き落とされた。

シャルロットはラウラを救出しようとするも、エネルギー弾に攻撃を弾かれ、逆に弾き飛ばされてしまう。

セシリアも凄まじい速度で接近されたあと、近距離での一斉掃射を食らい撃墜。そして仲間を撃墜され、正常な判断を失った箒はエネルギー刃を展開し接近戦を挑むも直前でエネルギーが切れ、あえなく捕まってしまった。しかし、そこに白い装甲のISがものすごい速さで近づいてくる。第2形態『雪羅』へと移行完了した織斑一夏であった。

 

「やらせるかよぉぉぉ!!」

 

(一夏が駆けつけてくれたんだ!!)

 

近づいてくる一夏の声を聞き、箒は安堵して目を閉じる。

 

 

ドスッ!

 

不意に何かを突き刺すような不快な音が聞こえた後、ギギギッと鈍い音を立てて箒を掴んでいた手が離れる。目をつぶっていた箒が目を開けると、そこには手をだらりと下げ、胸から刃を生やした福音の姿があった。

 

「な、何が起こったの……?」

 

「分からん……。だが何か嫌な予感がする」

 

鈴の問いにラウラが答えるが、いつの間にかその表情は険しいものになっている。

 

「あれ?これって絶対防御が発動するんだよね?」

 

「いや、これは織斑が使っているのと同種の武器で刺されたのだろう。おそらくもう手遅れだ」

 

「ゴフッ」

 

ラウラの言葉を裏付けるように、パイロットの口から大量の血が吐き出される。出血量と傷口の大きさから、助かる可能性が無いことが容易に伺える。先程まで、自分たちを殺そうとしていた敵。それが、あっけなくやられてしまった事にセシリア達は衝撃を隠せない。

 

「そ、そんな!?じゃあ、あのパイロットは……?」

 

「………」

 

ラウラは首を横に振る。一夏を含め、ほかの専用機持ちは目の前で起こっている事態に理解が追いつけないでいた。そして、パイロットに刺さっていた刃が引き抜かれると、支えを失った身体はISを装着したまま海の中へと吸い込まれるように落ちていく。

が、誰も福音の方に見向きもしない。そのような事が瑣末な事に思えるくらい衝撃的な光景が目の前に広がっていたのだ。何しろ福音のパイロットを殺害した犯人が

 

「衛宮……切嗣……!」

 

「……」

 

彼らのよく知るもう一人の男性適合者だったのだから。




ちかれた……(小声)

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