IS/Zero   作:小説家先輩

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亀並の更新速度の遅さ、たまげたなぁ……。


第二十二話 輪舞曲

9月3日、二学期最初の一夏たちの実戦練習は1組単独での演習で始まった。がしかし、千冬に選ばれた一夏と切嗣の間には非常に険悪な雰囲気が流れている。

 

「衛宮、俺は絶対にお前には負けない!」

 

「…………」

 

激しい憤りを隠そうともしない一夏に対し、切嗣は無言で胸のホルスターからコンテンダーを取り出してISを起動させ、装着した状態で対峙する。

 

「二人とも、準備はいいな?それでは━━━始め!」

 

千冬の合図で一夏が切嗣に向かって斬りかかる。

 

(どうしてこんなことに……)

 

セシリア達は二人が戦う姿を心配そうな目で見つめていた。

 

 

時間は数時間前に遡る。臨海学校での一件以来、切嗣と一夏の中は最悪な状態にあった。二人とも表立って争うことはないのだが、冷戦状態になってそのせいでクラス内は重苦しい雰囲気に包まれていた。そして福音の事件は当事者のみが知る事実であり、口外することを許されていないためにクラスメイト達もうかつに切嗣と一夏の間に踏み込むことが出来ずにいる。

 

4時間目が終わり、切嗣が昼ごはんの準備をしていると、前の席の一夏が切嗣に話しかけてきた。

 

「衛宮……5時間目の授業はたしか実戦演習だっただろ?そこで俺と戦え!」

 

「一夏……お前!」

 

唐突な一夏の切嗣への挑戦に対し、箒が横から口を挟む。いくらこの重苦しい雰囲気を打破するとは言え、一歩間違えればさらなる関係の悪化が避けられない状態になってしまう。そんな箒の心配を知ってか知らずか、一夏はさらに語気を荒げる。

 

「止めないでくれ、箒!俺はこいつを倒さなきゃいけないんだ!」

 

「……分かった」

 

切嗣は、一夏に承諾の旨を伝えると、席を立ち少し離れたところにいたセシリアに声をかける。

 

「……セシリア、待たせてしまってすまない。この時間は急がないと席がなくなってしまうから、急ぐとしよう」

 

「……え、えぇ」

 

切嗣は困惑するセシリアの手を取り、背後から殺気に近い視線を浴びながら食堂へと歩いて行った。

 

「あの野郎……!絶対許さねぇ……!」

 

そして一夏も次の時間に向けて闘志を燃やしていた。

 

 

結局、切嗣とセシリアは席が空いていなかったため、屋上で食事を取っていた。ただ、鈴や箒と言ったいつもいるはずの面子がいないため、雰囲気が若干暗くなっている。

 

「……ところで切嗣さん。織斑さんとの関係はどうしようもないのですか?」

 

「残念ながら、それに関しては僕にもどうする事も出来ない。僕自身あの判断は間違っていなかったと思うし、その結果一夏と対立してしまうのなら、それもしょうがない」

 

「だからって、それでは━━━」

 

「すまないが、今回ばかりはな」

 

そう言いながら、切嗣は購買で買ったハンバーガーとコーラを口の中に流し込む。いつもなら、一夏が切嗣にもっと健康に気を使え、と小言を並べるタイミングである。がしかし、そこに一夏のツッコミが入ることはない。

 

「また……一学期みたいにみんなで笑い合いながらご飯を食べることはできないのでしょうか?」

 

「さぁ、どうだろう……」

 

セシリアは購買で買ったサンドイッチを食べながら寂しそうに話を聞いていた。

 

 

そして時間は一夏と切嗣による一対一の演習に戻る。

 

「うおぉぉぉ!」

 

一夏は一刀のもとに切り伏せるべく、切嗣に切りかかる。切嗣はナイフ型ブレードと見えないように装備していたスタングレネードを取り出すと、栓を外し、ギリギリまで引き寄せたところで一夏の目の前に投擲した。

 

「っ!!」

 

一夏は慌ててそれに気づき避けようとしたが、目の前でスタングレネードが爆発し、視覚と聴覚をやられてしまう。

 

「くそぉ!」

 

一夏は視界が塞がれたため、闇雲に刀を振り回す。切嗣は冷静に一夏の後ろに回り込むと、IS仕様に口径などを改良されたKORD重機関銃を構えて、一夏に向けフルオートで引き金を引く。

 

「っち!」

 

闇雲に突進したせいで少々痛い目にあったが、そこで我を失う一夏ではない。数発喰らったところで、スラスターを吹かせて距離を開ける。

 

「…………」

 

切嗣はさらに、視力が回復していない一夏に向かい、銃弾の嵐を浴びせる。がしかし、一夏もなんとかジグザグに動くことで被弾を最小限にとどめた。

 

「正面から勝負しようとせずにコソコソと背後に回りやがって!この卑怯者!」

 

「……そう言っている間は、君は誰も守れない」

 

「なんだと!?ふざけやがって!」

 

切嗣の煽りに激昂した一夏に反応するように、白式が第二形態移行を始める。一夏は左手の多機能武器腕「雪羅」を構えると、切嗣に向かって荷電粒子砲を撃つ。

 

「ちょこまかと逃げんじゃねえ!」

 

切嗣はなんとか避けていたが、一夏の放った内の一発が切嗣の足の部分を直撃し、足が止まってしまう。

 

「くっ!」

 

「くらえ!」

 

一夏は瞬間加速を使い、一気に間合いを詰める。

 

「うおぉぉぉ!」

 

切嗣は装備していた機関銃を解除すると、近接戦用のナイフ型ブレードを取り出す。そして、もうひとつの手に持っていたグレネード(?)を再び一夏に投擲した。

 

「二度も同じ手を喰らうかよ!」

 

一夏は目を閉じながら、剣でグレネードを切り裂く。そして来るであろう視覚・聴覚への妨害に備えるがなかなかそれは来ない。切嗣はその間に一夏の武器を手刀で叩き落とすと、背負投げの要領で一夏を地面に投げ飛ばす。そして仰向けに倒れている一夏の首筋にナイフを突きつけた。

 

「ぐはっ!」

 

「……これで僕の勝ちだ」

 

「そこまで!」

 

二人の戦いは、一夏の僅かな隙をついた切嗣の勝利に終わった。

 

 

「くそっ!」

 

「織斑、先ほどの授業態度について個人的に話があるから、授業が終わったあと職員室まで来るように。あと衛宮も山田先生に話をしてもらうから、そのつもりで」

 

「了解」

 

「……はい」

 

千冬にそう伝えられたあと、切嗣と一夏はそれぞれ別のパートナーと組んで演習の続きを行なっていた。

 

放課後。職員室の真耶の机のところで切嗣と真耶は5時間目の演習の件について話をしていた。

 

「それでは衛宮くん、詳しく事情を話してください」

 

「……織斑と喧嘩になりました」

 

「私が聞いているのはなぜそうなったかと言う事です」

 

「……それは答えられません」

 

「それが先生のお願いでもですか?」

 

真耶の問いに切嗣は黙って頷く。対する真耶は右手を額に当てて頭を左右に振っている

 

「……分かりました。それでは衛宮くんには明後日までに反省文の提出を求めます。いいですね?」

 

ため息をつきながら処分の内容を伝える真耶に、切嗣は一礼すると職員室を後にした。

 

 

「失礼しました」

 

「なんか暗い雰囲気漂わせてるね。どうしたの、衛宮君?」

 

切嗣は職員室を出たところで、後ろから声をかけられた。

 

「……楯無先輩ですか。別になにもないですよ」

 

切嗣は振り返らずに答える。すると、楯無は背後から切嗣にタックル気味に抱きついた。切嗣は不意を突かれ、少し前のめりになる。

 

「……なんですか、一体」

 

「いや、こうすれば元気が出るかなと思ってさ」

 

「そう言う会長はいつにも増してテンションが高いですね」

 

切嗣が若干の皮肉を込める。がしかし、楯無は何事もなかったかのようにそれを無視した。

 

「そりゃあもう、明日重大発表があるからね」

 

「明日は、確か全校集会……」

 

「大正~解~♪そこで面白いことを発表するから楽しみに待っててね」

 

笑顔の楯無を見て切嗣に嫌な予感が走る。がしかし、楯無は切嗣からパッと離れると、あっという間にその場から立ち去っていた。

 

 

翌日、SHRと一時間目の半分の時間を使い、学園祭の準備についての全校集会が行われた。

 

「それでは、生徒会長から説明させていただきます」

 

生徒会役員が会長を呼ぶ。すると楯無が席を立ち、壇上に登った。

 

「どうも、はじめまして。いろいろなことがあって挨拶が遅れてしまいました。この中の何人かは名前を知っていると思うけど、私の名前は更識楯無。君たちの生徒の長よ。それでは今月の一大イベントである学園祭のことについて説明するわね。例年、出し物に関しては各部活動ごとの催しごとを出して、それに対して投票を行い、上位組には部費に特別助成金が出る仕組みでした。ですがそれでは面白くないので、今年は━━━」

 

一旦話を切って、楯無は一夏と切嗣の方を見る。彼女の表情を見た瞬間、切嗣の脳裏に電流が走る。

 

(まずい、楯無先輩をどうにかせねば……!)

 

切嗣は目で会長を制止しようとするが、時すでに遅し。

 

「催しごとを文化部門・運動部門の二つに分け、それぞれの一位のところに衛宮くんと織斑くんを入部させることにしました」

 

「「な、なんだってー!!」」

 

そうして学園全体での男性操縦者を賞品とする争奪戦がここに勃発した。

 

 

その日の放課後の特別HR。クラスではどの出し物にするかで議論が紛糾していた。というのも━━━

 

「織斑一夏のホストクラブ!」

 

「織斑一夏とツイスター!」

 

「衛宮切嗣とポッキーゲーム!」

 

上がってくる意見は全て一夏か切嗣関連の事柄であるため、なかなか話が進まない。無論、やられている本人からすると溜まったものではない。切嗣とクラス代表である一夏は当然の如く反発した。

 

「却下」

 

「無理だ」

 

しかし多勢に無勢。二人の反抗に対し、たちまちクラス全体からアウェーのスタジアムかと勘違いしてしまいそうなレベルでのブーイングが上がる。

 

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

「訳が分からない。こんな事をしても誰も得しないだろうに……」

 

切嗣の発言にすかさずクラスメイトの女子生徒数名がツッコミを入れる。

 

「私得ではあるわね!」

 

「そうだそうだ!女子を喜ばせる義務を全うしろ!」

 

「助けると思って!」

 

切嗣と一夏は千冬に視線を送るが、すでに千冬は教室をあとにしていた。流石はブリュンヒルデ、危機回避能力も並外れたものである。

 

「山田先生!こんなおかしな企画はだめですよね!?」

 

「えぇ!?そこで私に振るんですか!?そうですね……私、ツイスターはアリだと思いますよ?」

 

「やったー!山田先生のお墨付きが出た!!」

 

真耶の提案を認める発言により、流れは一気に決定の方向に傾き始める。この流れに、切嗣と一夏は少し焦りを感じていたが、そこに流れを変える救世主が登場する。

 

「メイド喫茶はどうだ」

 

ラウラの一言にクラスの全員が固まる。いつもと同じ口調であったものの、普段とのギャップに全員が驚く。

 

「客受けはいいだろう?それに、飲食店は経費の回収が行える。確か、招待券制で外部からも入れるはずだから、休憩場としても需要も見込めるはずだ」

 

「み、みんなはどう思う?」

 

「いいんじゃないかな?料理のできる一夏には厨房を担当してもらって、それが無理な切嗣にはフロアを担当してもらえば」

 

シャルロットも賛成の意見を出す。どうやらほぼメイド喫茶で確定したようだ。

 

「メイド服はどうしよう?私、演劇部の衣装係だからどうにか出来るけど……」

 

「それなら心配ない」

 

またもやラウラの発言にクラスの注目が集まる。

 

「メイド服ならツテがある。衛宮と織斑の執事服も含めて貸してもらえるか聞いてみよう━━━頼んだぞ、シャルロット」

 

「う、うん。一応聞いてみるけど、無理でも怒らないでね」

 

シャルロットの発言にクラス中から『怒りませんとも』と声が上げる。こうして『メイド喫茶』改め『ご奉仕喫茶』が開かれることになった。

 

 

会議終了後、一夏は千冬にクラス会議の報告をしていた。

 

「と言う訳で、一組の出し物は喫茶店になりました」

 

「また無難なものを━━━と言いたいところだが、どうせ何か企んでいるのだろう」

 

「いや、その……コスプレ喫茶、みたいなものです」

 

「立案は……どうせ田島やリアーデとかその辺りの騒ぎたい連中だろう?」

 

「実は……意外なことにラウラが提案したんですよ」

 

「ラウラが……?」

 

千冬は一瞬きょとんとした顔をしたあと、二度ほど瞬きをして、それから盛大に吹き出した。

 

「ぷっ……ははは!ボーデヴィッヒがか!それは意外だ!あいつがコスプレ喫茶を提案するとはな」

 

「やはり意外ですか?」

 

「それはそうだ。私はあいつの過去を知っている分、おかしくて仕方ないぞ。あいつがコスプレ喫茶……ははっ!」

 

その瞬間、一夏の雰囲気が少し変わる。それに気づいた千冬も笑うのをやめて真剣に話を聞く姿勢をとった。

 

「ラウラの過去……ですか?もしよかったら教えてください、織斑先生」

 

一夏は千冬に頭を下げる。がしかし、帰ってきた返答は意外なものだった。

 

「そうか……お前はまだ知らなかったのだな。悪いがこれは個人情報なので、原則としてお前達に教える事はできん。どうしても知りたいのなら、ラウラ本人に聞いてみることだな」

 

ラウラに直接話を聞く。少し前であれば、それも可能であっただろう。がしかし、切嗣と対立している今となっては、その手段を使うことは出来ない。一夏の心に到来するのは失ってしまった物への虚しさ。

 

「……分かりました」

 

「質問はそれ以外にないな?ならこの申請書に必要な機材と使用する食材を書いておけ。一週間前には提出するように、いいな?」

 

「分かりました」

 

「まて、織斑」

 

「何ですか?」

 

千冬は教室を出ようとする一夏に声をかける。その手には1枚のチケットが握られていた。

 

「学園祭には各国軍事関係者やIS関連企業など多くの人が来場する。基本的に一般人は来場不可だが、生徒一人につき渡される一枚のチケットで入場できる。誰に渡すか考えておけよ?」

 

「あ、はい。それでは失礼しました」

 

一夏は千冬に一礼すると職員室をあとにした。

 

職員室を出てすぐのところで、楯無が手をひらひらとさせて壁に寄りかかりながら声をかけてきた。

 

「やあ」

 

「……貴女は確か、生徒会長の」

 

「そう。生徒会長の更識楯無だよ、織斑一夏くん」

 

「そうですけど……俺に何か用ですか?」

 

「部活のことで話があるんだけど……ちょっと生徒会室までいいかな?」

 

あからさまに警戒する一夏に楯無は両手を挙げて何もしないとアピールする。一夏は少し考えていたが、生徒会長が変なことをする訳はない、と判断すると首を縦に振る。

 

「よかった……それじゃあ今から一緒に━━━」

 

「覚悟ぉぉぉぉぉ!」

 

廊下の向こうから粉塵を上げる勢いで女子生徒が竹刀を持って襲いかかってくる。

 

「あ、危な……!」

 

すかさず間に入り込もうとする一夏を楯無は手で静止すると、楯無は前に出る。

 

「迷いない踏み込み……いいわね!」

 

楯無は右手に持っていた扇子で女子生徒の竹刀を受け流し、左手で首筋に手刀を叩き込む。そして相手が崩れ落ちるのと同時に今度は窓ガラスが割れ、矢が飛んできた。

 

「今度は何だ!?」

 

矢は確実に楯無の顔面を狙い打ってくるが、楯無は何でも無いかのごとく避けなる。

 

「ちょっと借りるね」

 

先ほどの女性が落とした竹刀を蹴り上げて空中で掴むと、それを弓を撃って来ている生徒に向かって投擲する。竹刀は弓女の眉間に当たり、彼女を沈黙させた。

 

「もらったぁぁぁぁぁ!」

 

今度は近くにあった廊下の掃除道具入れから3人目の刺客が現れる。その生徒の両手にはボクシンググローブが装着されており、軽快なフットワークとともに体重の乗ったパンチを繰り出してきた。

 

「うん……元気そうだね。ところで織斑一夏くん」

 

「は、はい?」

 

「IS学園の生徒会長という肩書きはね、ある一つの事実を証明しているんだよ」

 

楯無は半分開いた扇子で口元を隠しながら、一夏を話を続ける。無論、その間も女子生徒による拳の嵐は続いているが、楯無は最低限の動きでそれを見切り、躱す。

 

「生徒会長、すなわちすべての生徒の長である存在は━━━」

 

業を煮やした女子生徒が振り抜きの右ストレートを放つ。楯無はそれを円の動きで避け、足で地面を蹴り、身体を宙に浮かせる。

 

「最強であれ」

 

そして、閃光のような蹴り抜き。楯無の一撃で脳を揺らされた女子生徒は登場したロッカーの中に叩き込まれて、沈黙した。

 

「ざっとまあ、こんなものか。そういう訳で私と一緒に生徒会室まで来てくれるかな、織斑一夏君?」

 

「え、あ、はい」

 

一夏は差し出された手を取ると、そのまま導かれるように生徒会室に入っていった。

 




更新が大幅に遅れてしまい、すみませんでしたm(_ _)m
今後も、おそらく月一になってしまうこともあるかもしれませんが、必ず更新していくので、これからもよろしくお願いします。

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