IS/Zero   作:小説家先輩

27 / 47
これは何だ~?参考資料として押収するからな~(簪の制服姿を見ながら)


第二十五話 開戦

学園祭当日。生徒たちのボルテージは最高潮に達していた。

 

「うそ!?一組で衛宮くんの接客が受けられるの!?」

 

「さらに料理は織斑くんの手作り!」

 

「それに開催されているゲームに勝ったら写真を撮ってくれるんだって!イケメンの執事が2人……これは行くしかないわね!!」

 

特に男性操縦者を2人抱える1組の『ご奉仕喫茶』は大盛況のようで、一夏たちは朝から大忙しであった。がしかし、実際のところは切嗣と一夏がメインで動いており、ほかのクラスメイトはそれを楽しそうに眺める構図になっているのだが。

 

「いらっしゃいませ。一名様ですね、どうぞこちらへ」

 

切嗣が微笑を浮かべながらお客を席に案内する。一方で案内された生徒は頬を赤らめながら切嗣のあとに従っていた。クラスメイトの中でも特にこの状況を楽しんでいるのがシャルロットであり、切嗣に衣装を褒められたことが嬉しいらしく、朝からずっと上機嫌である。なお、切嗣が料理を作れないため、一夏とシャルロットが一つの枠をローテーションで回していた。

 

(学園祭か……まさか僕がこんなことを経験する日が来ることになるとはな)

 

切嗣が一人感傷に浸っていると、不意に誰かに肩を叩かれた。セシリアである。

 

「切嗣さん……申し訳ないのですが、外の人たちの応援に向かってくださいませんか?」

 

「分かった」

 

廊下のスタッフは列の整備の他、待ち時間へのクレームにも対応しているため、必然的に消耗が激しくなる。

 

「はい、こちらただいま2時間待ちとなっております」

 

「大丈夫ですよ、学園祭が終わるまで営業しておりますので」

 

「……なにか手伝えることは?」

 

「ああ、ありがと……って衛宮くん!?ダメだよ、こんなところに出てきちゃ!」

 

切嗣は外にいた鷹月に声をかける。が鷹月は切嗣の姿を見たとたん、教室の中に押し込もうとする。すると、近くにいた生徒が切嗣の姿を見つけて騒ぎ出し始めた。

 

「あれ、衛宮くんじゃない!?」

 

「そうよね!?私声かけに行ってこようかな!?」

 

「お、お客様!ほかのお客様のご迷惑になりますので、列を乱すのはやめてください!」

 

「ほら!早く教室の中に戻って!!」

 

切嗣は急いで教室の中に戻っていった。すると、赤いチャイナドレスを着た鈴が切嗣に話しかける。

 

「あ、あの!一夏いる?あいつにテーブル案内して欲しいんだけど」

 

「……少し待っててくれ」

 

切嗣は近くにいたシャルロットに一言声をかける。するとシャルロットは頷いて調理場の中へ入っていった。しばらくすると、シャルロットの代わりに一夏が出てきた。

 

「お待たせいたしました、こちらへどうぞお嬢様……って何やってんだお前?」

 

「う、うるさい!うちは中華喫茶やってんのよ!」

 

「ああ、あれか。たしか飲茶ってやつだろ」

 

「そうよ!大体あんたのせいで私がウエイトレスやってると言うのにほとんどお客が来ないんだからね!」

 

「それはすまん……と言うか、その髪型とかドレスもいつもと違っていいと思うぞ?」

 

「もう!と、とにかく!案内しなさいよ!」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

「お嬢様って……まあ、そんな設定なんだろうし、仕方ないわね。そう、これは仕方がない事なんだから」

 

なぜ2回同じことを言ったのか理解できない一夏は、そのことに疑問を感じながらも鈴を席に案内する。ちなみに内装に関してはセシリアがこだわりを持ったため、調度品が学園祭のレベルを逸脱したものばかりになっており、ほかの生徒たちはそれを壊さないように慎重に料理を運んでいた。

 

「それで、ご注文はなんになさいますかお嬢様?」

 

「そ、そうね……」

 

鈴がどれを注文するかで迷っていると、横からメイド服を着た箒がイイ笑顔をしながら一夏と鈴の間に割って入る。

 

「お客様、他のお客様もいらっしゃいますのでご注文は早めにお願いします」

 

「あら?誰かと思えば……ただのウエイトレスじゃない。このお店はお客に食べるものすらゆっくり選ばせてくれないの?」

 

刹那、二人の間に火花が散る。そして一夏は2人の間で状況を見守っていた。

 

 

━━━同時刻 校舎入口付近

 

美しい金髪の女性とふわりとしたロングヘアーの女性が立っていた。

 

「ちっ、やはり衛宮切嗣が張り付いていやがるか」

 

一組の様子を覗き込みながら、ロングヘアーの女性が呟く。すると隣にいた金髪の女性がそれを嗜める。

 

「あら、巻紙さん。そのような下品な言葉を使うのは感心しなくってよ」

 

「……あ~あ、すいませんねぇ。大体、こんなのあたしの性に合ってないんだよ。直接乗り込んでぶっ飛ばせばいい話じゃねえか。そもそも本来ならMが止めを差しておけば、こんなことにならなかったのに……」

 

「まあまあ。織斑一夏はそれでいいとしても、近くにいる衛宮切嗣は良くわからない武器を持っているみたいだし、一筋縄では行かないでしょう。とりあえず、私が衛宮切嗣を引きつけておくから、貴女は織斑一夏をお願いね」

 

「へいへい、了解しましたよっと」

 

ロングヘアーの女性がそうぼやくと、二人はその場から離れた。

 

 

数時間後、ようやく長蛇の列が捌けたため、1組の生徒たちはしばらくの間休憩をとることにした。

 

「織斑君に衛宮くん、お疲れ様。しばらくの間休憩にするから他のお店を回ってきていいよ♪」

 

「一夏!一緒にお店を回りに行くぞ!」

 

「お、おい箒!落ち着けって、そんなに急がなくても!」

 

一夏は箒に連れられて、教室の外に出ていった。

 

「切嗣さん、私たちもほかのお店を回りませんか?」

 

「一緒に回ろうよ、切嗣!」

 

「私と一緒に行くぞ、切嗣!」

 

「……すまない。実はすでに他の人と一緒に回ることになっているんだ」

 

「な!?他の人って誰ですの!?」

 

「…………」

 

切嗣はセシリアの質問に返答せずに教室から出て行く。セシリア達が慌てて後を追うが、廊下に出た時には、既に切嗣の姿をなかった。するとラウラが何やら思いついたように語りだす。

 

「……手分けして探そう。セシリアとシャルロットは向こうの方を、私はこっちを探す」

 

「何を言っていますの?ラウラさんとシャルロットさんがあちらを、私はこちらを探しますわ」

 

セシリアとラウラがどう別れるかで揉め出す。するとシャルロットが唐突に話に割り込む。

 

「二人とも落ち着きなよ。それなら一人ずつ別れて探せばいいじゃない。そうすれば公平になるし」

 

シャルロットの言葉に2人の動きが止まる。

 

「そ、そうですわね!私としたことが……」

 

「そうだな。では先に見つけたものだけが休み時間を一緒に過ごすことにしてはどうだ?」

 

「分かりましたわ!お互い恨みっこなしですわよ!」

 

「それじゃあ、また後で!」

 

シャルロットの合図で3人が別々の方向に走り出す。一方で廊下の掃除道具入れの中に隠れていた切嗣は3人が去るのを見届けると、ロッカーの中から出てきた。

 

「3人には悪いが、一夏の後を追いかけないと━━━」

 

「ロッカーの中から出てくるなんて……やはり男性操縦者は変わった人たちみたいですね?」

 

「!」

 

切嗣はゆっくりと後ろを振り返る。するとそこには金髪のロングヘアーの女性が立っていた。女性は微笑みを浮かべながら切嗣に話しかける。

 

「衛宮切嗣さんですね?少々お時間よろしいかしら?」

 

「……急いでいるので」

 

「まあ、そう言わないで。今なら貴方のISに搭載するビーム兵器のサンプルをご用意できますが」

 

「…………」

 

切嗣は彼女の声を無視して先を急ごうとしたものの、しつこく食い下がる彼女に根負けする形で外に出た。楯無からの依頼もあり、切嗣はわざと彼女の後ろにつくと、彼女の様子をじっくりと観察する。

 

(よそ見をせずに、背筋と手首をしっかり伸ばした状態で歩いている。よく訓練された歩き方だな……これはほぼ“黒”と見ていいのか)

 

すると、不意に前を歩いていた女性が立ち止まる。どうやら近くに座る席を見つけたらしい。

 

「そこに座りましょうか?」

 

「……」

 

切嗣は女性が座ったのを確認し、安全を確認しながらゆっくりと腰を下ろす。女性は切嗣が席に着いたのを確認して、話を再開しようとしたが、その途中で切嗣が話を遮って質問する。

 

「それで、さきほどのビーム兵器の話なんですが━━━」

 

「……いい加減に猿芝居をやめたらどうだい?『亡国機業』?」

 

「━━━何のことでしょうか?」

 

「とぼける気かい?そんな場慣れした歩き方をしておいて……」

 

一瞬、切嗣と女性の間に緊張が走るが、女性はゆっくり手を上げると害意がないことを示す。

 

「……いつから気がついていたの?」

 

「答える必要はない」

 

切嗣は周囲から目に入らないように銃を取り出すと、女性の方に向ける。がしかし、女性は銃を向けられても平然としていた。

 

「別に私を撃つのは構わないけど……貴方、織斑一夏くんのことを見ていなくて大丈夫なの?」

 

次の瞬間、近くで破裂音が鳴り響く。相手から目をそらしてはいないものの、動揺を隠せていない切嗣の携帯に着信が入る。切嗣は相手に銃を向けたまま、通話ボタンを押した。

 

「もしもし、きりちゃん?理由は後で説明するから3階の会議室に急いで!」

 

「……了解」

 

切嗣は電源ボタンを押して通話を切る。すると先ほどの女性は既にISを部分展開していた。

 

「……そこをどくんだ」

 

「そういうわけにも行かないのよ……と言いたいところだけど、今回の相手は貴方じゃないの!」

 

そう言い終わるやいなや、女性はその場から後ろに跳ぶ。すると銃を連射するような音が響き、先程まで女性が立っていた場所には大量の銃痕が残っていた。

 

「きりちゃん!ここは私に任せて、早く行って!」

 

「…………」

 

切嗣は聞こえてきた声に頷くと、ISを装着し、会議室へと急ぐ。一方先ほどの女性は切嗣の方には見向きもせずに、楯無と対峙を続ける。

 

「追わなくていいの?」

 

「えぇ。私たちの目的はあくまで織斑一夏又は衛宮切嗣の所持するISを強奪すること。そのため私が厄介な相手である衛宮切嗣を押さえておき、その間に仲間が織斑一夏からISを強奪。その後は逃げるだけよ」

 

「……この状況で逃げられるとでも?」

 

「さあ……どうかしら」

 

学園最強VS亡国機業。長い戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

 

 

遡ること20分ほど前。一夏と箒、そして鈴は約一時間ほど休暇の時間をもらったため、学園内のほかのクラスの出し物を見て回っていた。

 

「しっかし、こうして見ると学園祭とは行ってもほかの学校とは規模が違いすぎるわね」

 

「その点に関しては同感だ。正直、我々自身、持て余しているところがあるからな」

 

「……確かに。俺たちが通ってた普通の学校とかじゃ、考えられないイベントとかあるし」

 

そこで一夏は一旦喋るのをやめ、鈴と箒をジト目で見つめる。

 

「何よ?私たちがあんたに何かしたって言うの?」

 

「……別に。ただ、男女の比率が違うってだけで、こんなに大変になるものなのか。と思っただけさ」

 

「「…………」」

 

一夏の発言に何か思い当たることがあったらしく、鈴と箒はすぐに反論することが出来なかった。それも当然だろう。実際、一夏も男性操縦者と言うところを除けば、ごくごく自然な男子学生なのだ。それが突然、女性ばかりのところに放り込まれ、周りからは奇異の視線を浴びせられる。そして、その視線に耐えながらの学園生活。普通の神経では、まず務まる事はない。

 

「……すまない、一夏。私たちは自分たちでは気づかないところで、お前にストレスを与えてしまっていたのかもしれない」

 

「私も。好き勝手な事ばかり言って、ごめんね」

 

(やっちまった……。よりによって鈴や箒の前でこんなことを言ってしまうなんて!)

 

一夏は沈んでしまった空気を何とかするべく、思考を巡らせる。すると、ビーズのアクセサリー販売の看板が目に入った。

 

「!わりい、ちょっと買いたいものがあるから、先に歩いててくれないか?」

 

「……そ、そうだな。私たちは、先に行っておくぞ」

 

「必ず追いついてきなさいよね!ほったらかしにしたら、絶対に許さないんだから!」

 

一夏の言葉になんとなく違和感を感じながらも、鈴と箒は先に歩いて行った。一夏は二人の姿が見えなくなったところで、二人に買うつもりでいるアクセサリーを見に行こうとするが、不意に誰かに肩を叩かれて後ろを振り返る。するとそこには、黒髪をセミロングの長さまで伸ばしたキャリアウーマン風の女性が立っていた。

 

「あの……織斑一夏さんですか?」

 

「はい……そうですが、貴女は?」

 

「お忙しいところ、すみません。私、こういうものなのですが」

 

一夏は差し出された名刺に目を通す。名刺にはIS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当 巻紙礼子と書かれていた。

 

「それで、巻紙さんは俺に一体何の用ですか?」

 

「実は私達『みつるぎ』は今回、新たにビーム兵器の開発に成功いたしましたので、是非とも最初の男性操縦者である貴方に見てもらいたいのですが」

 

(またこの手のセールスか……)

 

一夏は内心毒づく。実際、一夏のところにはISの武装関連の商談が山のように来ており、このようなセールスは学園祭中も、幾度となく経験していた。

 

「━━━急いでいるので、失礼します」

 

いつものように断ってから、そのまま立ち去ろうとしたところで━━━

 

「衛宮切嗣に勝ちたいとは思いませんか?」

 

「!?」

 

後ろからかけられた言葉に思わず振り返る。

 

「……どういう意味ですか?」

 

「少なくとも、今現在の貴方では彼に勝つことは出来ないでしょう。しかし私達の開発した武器を見ていただけたなら━━━」

 

切嗣との確執。自分より強大なライバルを倒せるかもしれない手段。通常なら笑って聞き流す言葉なのだが、今の一夏を振り向かせるには十分な言葉だった。

 

「……詳しい話を聞かせてください」

 

「ここでは話しづらいので、どこか人に聞かれない場所に案内してくださいませんか?」

 

礼子の言葉に一夏は首を縦に振ると、人気のない校舎の会議室の方へと歩き出した。

 

 

会議室に着いた一夏は、話を聞かれないように扉を閉め、礼子の方に向き直る。

 

「それで、その武器とは一体どんな武器なんですか?」

 

「……てめえの持ってる白式を寄越しな、糞ガキ」

 

「……え?」

 

お淑やかな口調からの突然の変化に、一夏は戸惑いを隠せない。

 

「な、何を言っているんですか?」

 

「あ~……まだ気づかねぇのか」

 

唐突に礼子と名乗った女性が一夏のお腹に、挨拶がわりの蹴りを叩き込む。

 

「ゲホッ、ゲホッ……あ、貴女は一体」

 

「てめえのISを頂きに来た謎の美女です、よ!」

 

そう言い終えると、女は倒れている一夏にもう一度蹴りを叩き込む。蹴られたことによる激しい痛みで、ようやく一夏は自分が「敵」に狙われていることに気づいた。

 

「くっ……『白式』!」

 

一夏はとっさに緊急展開でISスーツごと呼び出し、制服を粒子分解、ISに再構成する。そのためエネルギー使用量が通常より増加するが、それを気にしている余裕はない。

 

「そう来るのを待ってたぜ!」

 

礼子……もとい謎の女は蛇を連想させ切れ長の目を歪ませた。

 

「ようやくこいつを使うことが出来るからなぁ!」

 

「!?」

 

スーツを引き裂き、女の背後から出た黒と黄色の蜘蛛の足の様な爪が飛び出した。

 

「くらいなっ!!」

 

すると、鋭利な爪の先が開き、中から銃口が姿を見せる。

 

「くそっ!」

 

一夏はとっさに足のスラスターを開き、天井に向かって緊急回避を行う。そして天井にぶつかったところで『雪羅』をクロウモードで起動し、女に斬りかかる。

 

「はっ!やるじゃねーか!」

 

女は一夏の斬撃を後ろ飛びでかわしながら言葉を続ける。

 

「なんなんだよ、あんた!?」

 

「あ?知らねえのか、悪の組織の一人だよ!」

 

「ふざけるのも大概に━━━「ふざけてねえよ!ガキが!秘密結社『亡国機業』の一人、オータム様だ!!」」

 

オータムは完全展開状態になると、PICを使った細かい動きで一夏の攻撃を避けながら、装甲脚に取り付けられた銃口から実弾で反撃する。八門から繰り出される銃撃を真上に飛んで交わした一夏は、天井で逆さまの状態から相手の懐に飛び込む。そして同時進行で構成した雪片弐型を握り、斬りかかろうとするが━━━

 

「甘ぇんだよ!」

 

八本の装甲脚が斬撃を受け止めてしまう。完全に刀身を挟み込まれているため、身動きが取れない一夏に、オータムは即座に構成したマシンガンの弾幕を浴びせた。

 

「ぐぅ!」

 

何発かシールドバリアを貫通した銃弾が、一夏の体に衝撃を与える。肉体は絶対防御で守られているものの、その痛みを消すことはできない。

 

(このままでは……まずい!)

 

そう考えた一夏は、一旦武器を離す。そして左足で相手の銃口を蹴り飛ばし、そのままの勢いで装甲脚から雪片弐型を取り返す。

 

「ハハハ!やるじゃねえか、糞ガキ!」

 

「うるせえ!!」

 

室内での戦闘と言う事もあり、障害物が多くなっているものの、一夏は楯無との訓練で身につけたマニュアル操作を駆使して、回避と接近を同時に行う。

 

「うおぉぉぉ!」

 

「おっと!危ない危ない」

 

がしかし、その攻撃も尽くオータムに躱されてしまう。どうやら背中から伸びた装甲脚がそれぞれ独立したPICを展開しており、蜘蛛を連想させる素早くしなやかな動きで一夏を翻弄する。一方で、一夏も降り注ぐ銃弾の雨を円状制御飛翔でかわしつつ、反撃のチャンスを伺っていた。だが━━━

 

「そうそう、良い事を教えてやるよ。第2回モンド・グロッソでお前を拉致したのもうちらの組織さ!ハハッ、感動のご対面ってやつだ!!」

 

オータムの一言で均衡が崩れる。怒りの感情に身を任せ、冷静さを欠いた一夏をオータムが処理するのは造作もない。正面から突っ込んできた一夏をエネルギーワイヤーにて拘束。そして4本足の装置を一夏のISに取り付ける。ここまでに10秒もかからなかった。

 

「それじゃ、てめーのISにサヨナラしろよ!!」

 

「なっ!?……あぁァァァァ!!」

 

その瞬間、一夏の身体に電流に似たエネルギーが流される。身を裂かれるような激痛、それが全身に襲い掛かってきた。

 

「さて、もう終わりか」

 

「おらぁ!」

 

電流が止まったところで、一夏はオータムに殴りかかる。が━━━

 

「ISのないお前なんか、相手になんねー……よっ!」

 

難なく躱され、またもお腹に蹴りを叩き込まれる。その痛みに一夏は言い様のない喪失感の正体に気づく。そう、一夏の白式が消え去っていたのである。

 

「俺の……ISが、ない!?」

 

「お前の探してるISはこれの事だろ?」

 

得意げに笑うオータムの手にしているものは菱形立体のクリスタル。紛れもない白式のコアであった。

 

「もうすぐ死ぬテメーの冥土の土産に教えてやるよ!さっきの装置はな、剥離剤つってな、ISを強制解除できる代物なんだよ!」

 

そう言いながら、オータムは倒れている一夏の身体に更に蹴りを加える。一夏は悔しさのあまり、オータムを睨みつけるが、そんな事でどうにかなるわけではない。

 

「あ~あ……もういいや。とりあえず、死んどけ」

 

オータムは一夏の額にマシンガンの銃口を突きつけ、引き金に手をかけ━━━

 

「君がな」

 

「!?」

 

引き金を引くことはなかった。自分たち以外誰もいないはずの会議室。そこでオータムに向けられた圧倒的な殺意。彼女がそれに気づいたときには、銃を所持していた右腕の肘から下が無くなっていたのだ。

 

「あぁぁぁぁ!?なんだこりゃあ!?」

 

「!?」

 

先程まで自分を殺そうとしていた相手。がしかし、すでに彼女は右肘から下を失っており絶対防御が発動しているものの、出血は依然として止まる様子はない。一夏は目の前で起こっている非日常の出来事をただ傍観していた。

 

「くそっ、どこから入ってきやがった!出てきやがれ!ぶち殺してやる!」

 

「……潜入している工作員の情報を教えろ。そうすれば、『僕は』君を殺さない」

 

すると、誰もいないはずの会議室のロッカーの影からコンテンダーを持った衛宮切嗣が顔を出す。いつもと変わらない佇まい。がしかし、一夏の目には全く違う存在に写っていた。まるで、一切の感情を無くし、忠実に任務をこなすロボットのように。

 

「誰がてめえなんかに喋るかよ!」

 

オータムは、あえてまだ血の出ている右腕を振るう。そして血で目くらましをした後、何とか一夏のコアを持って逃走しようと考えていた。が、しかしそれを見抜けない切嗣ではない。

 

「……っ!」

 

すかさずオータムとの距離を詰め、右腕を掴みながら、大外刈りの要領で地面に叩きつける。そして叩きつけられた衝撃で動けないでいるオータムに銃口を突きつける。

 

「……大人しく質問に答えろ。三度目はない」

 

「……ちっ。流石はドイツの研究員を建物ごと抹殺しただ━━━ぐあぁぁぁ!?」

 

切嗣は、思い切りオータムの傷口を踏みつける。傷口から響く激痛のあまり、オータムは最後まで言葉を発する事が出来ない。

 

「ちくしょおぉぉ!舐めた真似しやがって!!」

 

「「!?」」

 

しかし、そこで簡単にやられるほど彼女は弱くなかった。オータムは渾身の力を振り絞って身体を起こし、無理やり自分のISである「アラクネ」を再起動する。そして、切嗣と一夏がアラクネの再起動を確認した瞬間、会議室内で爆発が起こった。

 

(くっ、間に合え!?)

 

爆発が起こる直前、切嗣は条件反射で近くにいた一夏に飛びつき、物陰に隠れた。爆発が収まった後、切嗣が物陰から先程までいた場所を確認するが、そこには血まみれになった白式のコアがあるだけで、オータムの姿はなかった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。