IS/Zero   作:小説家先輩

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投稿が遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。これからは一定のペースでの投稿が出来るようになると思いますので、よろしくお願いします。


第二十八話 凶刃

翌日、一夏は一週間後に迫ったタッグマッチに向けて簪の説得をするべく、再び4組に来ていた。

 

「簪さん、一緒にタッグマッチに出てくれないか?」

 

「……いいよ」

 

「だろうな~、でもそこをなんとか「だから……いいよ、と言っている」本当か!?」

 

簪からの意外な言葉に一夏は驚いた。今まで尽く断られ続けていたのにも関わらず、ようやく同意を得ることが出来たのだからそれも当然なのかもしれない。

 

「自分から提案しておいてなんだけど、どうして組んでくれることになったんだ?」

 

「……何となくだけど……君となら……上手くやっていけそうな気がする……から」

 

「そ、そっか……ありがとな」

 

少し頬を赤く染めながら、上目遣いでそう返してくる簪に一夏は思わず見とれてしまった。

 

「━━━ところで、タッグを組むのが決まったけど、簪の機体の細かい設定とかどうしよう?」

 

「…………」

 

実はそのことに関して、彼女自身、自分のISに搭載するデータが不足していることを自覚しており、どのようにして入手すればよいのか思案していた。

 

「っと、実はこんなものがあるんだが……」

 

「?」

 

あからさまに落ち込む簪を見て、おもむろにポケットに手を突っ込む一夏。そして、ポケットから出してその手にはISデータに関する大容量記憶媒体が握られていた。

 

「とあるISに関するデータ。よかったら使ってみるか?」

 

「……ありがとう」

 

(ごめんな……簪)

 

ほほえみを浮かべながら、記憶媒体を受け取る簪。一方で罪悪感からか、そんな簪から向けられる笑顔を直視することができない一夏は、心の中で簪に謝罪する。『とあるISのデータ』。その表現は正しい。がしかし、誰のものかが明かされていない。後にそれが原因で、ひと波乱起きる事になる。

 

 

「よかった、簪ちゃん喜んでくれたみたい」

 

「貴女という人は……」

 

二人の様子を覗き見ながら話をする切嗣と楯無。ほっと一息とばかりに安堵の表情を浮かべる楯無に対し、その様子を冷ややかに見つめる切嗣。切嗣は当初一夏を通じて簪に楯無のISである『ミステリアスレイディ』のデータを渡すことに難色を示していたが、楯無の強い要望により実現することになった。

 

「もしも妹さんにバレた時は、どうするつもりですか?」

 

「……この事は私達3人しか知らないし、この中の誰かが漏らさない限りバレることはないから大丈夫だよ」

 

「…………」

 

楯無からの返事を聞きながら、切嗣は2人の様子を遠くから眺めていた。

 

 

「やぁ」

 

「……どうも」

 

放課後、教室を出て剣道部の部室に行こうとしていた箒に楯無が声をかける。

 

「ちょっと話したいことがあるんだけど……少し時間大丈夫?」

 

「部活があるので、あまり長くは……」

 

「そこは大丈夫。手短に終わらせるから」

 

手短に済ませると言う言葉を聞き、箒は一旦荷物を廊下の棚の上に置く事にした。

 

「それで、私に用というのは」

 

「私と一緒に専用機のタッグマッチに出場してもらえないかしら?」

 

「……お気持ちは大変嬉しいのですが、私は一夏と組もうと考えておりまして」

 

突然の申し込みだったこともあり、丁重に断りを入れようとする箒。しかし、楯無からの次の一言が箒の態度を一変させる事になる。

 

「その一夏くんが私の妹と組むことになったとしても?」

 

「……何ですって?」

 

楯無の言葉で額に青筋を浮かべる箒。どうやら一夏が自分に何も言わずに勝手にパートナーを組んでしまったことに腹を立てているらしい。

 

「一夏ぁぁぁ……」

 

「そして私も可愛い簪ちゃんの為にも、一夏くんとくっつくのは阻止したい━━━ねえ、私達協力しあえると思わない?」

 

不気味な笑みを浮かべながら握手をする楯無と箒。ここに異色のタッグが結成された。

 

 

「……どうかしたの?」

 

「いや、何故か悪寒がしたからさ」

 

「おりむーは歩くフラグ製造機だからね~、またどこかで誰かにフラグをたてちゃったんじゃないかな」

 

そうとは知らない一夏たちはISの整備のため整備科志望の本音の申し出によりメンテナンスを頼んでいた。

 

「ところで、かんちゃん。打鉄弐式の火器管制システムと制動システムってどうなってるの~?まだ完成してないなら私が手伝おうか~?」

 

「……二つとも私がやらなきゃ意味がない。……だから、本音は「シールドエネルギーの出力調整でしょ~?」……ありがとう」

 

「はいはい、任されましたよ~っと」

 

慣れた手つきでパネルを操作する本音。その様子を後ろから眺める一夏だったが、ふと誰かの視線を感じそちらの方に振り返ると、そこには一夏を冷ややかな目で見つめる簪の姿があった。

 

「……私の親友を変な目で見ないで」

 

「それは言いがかりだろ?別にそんな目で見てないぜ?」

 

「おりむーのえっち~。面白そうだから、明日箒ちゃんに教えておこっと♪」

 

「な、のほほんさんまで!?」

 

簪に突然指摘されたことに驚いた一夏の反応が面白かったようで、この後整備が終わるまで一夏は本音に弄られ続けることになる。

 

 

簪とのタッグマッチまで残り3日。簪との演習でISエネルギーの効率的な運用方法を学んだこともあり、一夏の動きも洗練されて来ていた。そんな折、簪はタッグマッチのパートナーである一夏を労うために調理場でクッキーを作り、寮にある一夏の部屋まで持って行こうとしていた。

 

(味見もしたし、一夏くん喜んでくれるかな……)

 

少し頬を赤らめそんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか一夏の部屋のすぐ近くまで来ていた。がしかし一夏の部屋の前まで来たところで部屋の中から姉である楯無の声が聞こえたため、簪は部屋に入るのをやめ中の話に聞き耳を立て始める。

 

(姉さん……なんで一夏くんの部屋に……?)

 

「━━━良かった、上手くいったみたいね。私のデータは役に立ったでしょ?」

 

「今だから言えますけど、正直あのデータを渡すときは、少し勇気が必要でしたよ」

 

「まあまあ、いいじゃない。結果として簪ちゃんからの好感度も上がったみたいだし」

 

(好感度……?どういう……事……)

 

簪の戸惑いをよそに会話は進んでいく。

 

「先輩の頼みとは言え、今のままじゃ簪の事を騙してるみたいで……」

 

「騙してるなんて失礼な!あの子にも男友達が出来て、貴方も美人な私の妹とタッグを組める。良いことづくめじゃない」

 

(何……?一夏くんは姉さんの頼みで私と組んだって事……?それじゃあ今まで浮かれていた私って……)

 

思わずクッキーが入っていた袋を強く握り締める。思い切り握り締めたためか中のクッキーが砕けてしまうが、今の彼女はそんな事など気にもならない。

 

(馬鹿みたい……。もう……訳が分からない)

 

粉々になったクッキーの入った袋を一夏の部屋の前に落とすと、彼女は何事もなかったかのようにその場をあとにした。

 

 

(結局、私は姉さんに追いつくことは出来ないんだ……)

 

一夏の部屋の外で聞いてしまった楯無と一夏の会話。逃げるように部屋に戻った簪は一人ベッドにうつ伏せになっていた。

 

『貴女は何もしなくていい』

 

『私が全部してあげる』

 

『だから貴女は━━━』

 

(嫌だ、その先は聞きたくない!!)

 

彼女の心の中に入り込む絶望という名の闇。その声は簪の意思に反して、濁流のように彼女の心の拠り所を飲み込んでゆく。

 

『専用機さえ自作することが出来れば……』

 

彼女の最大の目的すらも姉の梃入れによって藻屑と消えてしまった今、彼女の心境を推し量ることは出来ない。簪はベッドの毛布を頭からかぶる。目の前の現実を否定するために。そして、自分の心の中に巣食うどす黒い“何か”に飲み込まれぬように。

 

『だから貴女は一生、私の影に隠れてなさいな』

 

 

早朝、簪は重く感じられる体を何とか起こそうとする。目覚めは最悪と言っても過言ではないだろう。それでも彼女は起き上がらなければならなかった。何故なら今日は、簪にとってはデビュー戦になるのだから。

 

(……体が重い……でも、起き上がらなきゃ)

 

どうにか身体を起こし、隣で寝ているルームメイトを起こさないように用意していた制服に袖を通す。そうしてあらかた準備が整ったところで、不意に誰かが部屋のドアをノックした。

 

「簪、起きてるか?」

 

「!?」

 

一夏の性格から予想しうる行動であったものの、簪にとって昨日の今日で会いづらい相手であることは変わりない。簪は大きく息を吸い込んで、気持ちを落ち着かせる。そして、カバンを持ち忘れ物が無いかを確認しドア越しに返事をする。

 

「……ちょっと待ってて、今行くから」

 

「おう」

 

思考を切り替えるべく、簪は大きく深呼吸をする。そうして彼女は一夏に会うべくゆっくりドアを開けた。

 

 

楯無によるタッグマッチの開会式の挨拶が行われ、早速対戦相手が開示される。そしてそこには━━━

 

「嘘……こんな事って……」

 

『更識簪&織斑一夏VS更識楯無&篠ノ之箒』

 

何としても超えなければならない相手が表示されていた。

 

「あちゃ~、まさか一回戦からたっちゃんに当たるとはねぇ……」

 

「えっと……黛先輩、でしたっけ?」

 

不意に後ろから聞こえてきた声に一夏が振り返ると、一学期の学内新聞の取材時に自分たちの写真を撮影した黛の姿があった。

 

「こりゃあ、一夏君に賭けていた子は少なからず落ち込んじゃうかも……」

 

「何と言っても“学園最強”ですからね……。無論、負ける気はありませんが」

 

「おぉ、随分と強気な発言だね?その根拠は?」

 

「やってみない事には分かりませんから」

 

黛からの発言に堂々と答える一夏。そんな一夏の発言に関心を持った黛が彼に詳しく話を聞こうと近づいたその瞬間━━━アリーナに凄まじい衝撃が走った。

 

 

「一体何が起こっているんだ!?」

 

「何者かがアリーナに侵入したようです!監視カメラからの映像を転送します」

 

アリーナに備え付けられた管制室。そこでは学園への謎の侵入者への対応に追われていた。千冬の判断で既に警報を発令し、生徒たちの避難誘導もおこなっているものの、後手に回らざるを得ない。

 

「映像が来ました。これは……あの時の無人機でしょうか?」

 

真耶からの質問に千冬はしばし考え込む。一見すると前回と同じ無人機ではあるが、宙に浮いている謎の物体から新型機の可能性が高いと千冬は判断した。

 

「詳しくはしらんが、あれは前回の機体の新型だろうな」

 

「新型……ですか?」

 

「あぁ。おそらく奴はかなりの改良を施されているに違いない。生徒たちには間違っても交戦しないように厳命しておこう。制圧部隊はセキュリティロックの解除が終わり次第、単独ではなくツーマンセルで突入するように」

 

「分かりました!他の先生たちにもそう伝えて来ます!!」

 

真耶は千冬にそう返事をすると、そのまま急ぎ足で管制室を出て行った。

 

「……やってくれたな」

 

管制室に残った千冬は小さい声でそう呟く。幸い、千冬の声がだれかの耳に入ることはなかった。

 

 

 

目を瞑り何とか立ち去ってくれる事を願う簪。しかし無情にも目の前の無人機は一歩一歩簪に向かって近付いてくる。そして無人機は簪が装備していた薙刀を片手で叩き落とし、恐怖のあまり動けないでいる簪に向かって左手をかざした。ISを装着した状態のシャルロットの腕を焼くほどの威力を持った熱線が放たれれば、まず無事に済むことはありえない。

 

(助けて、一夏くん……)

 

「やらせるかよ!」

 

懐かしい声が聞こえたところで、目の前から放たれていたプレッシャーが遠ざかる。簪が恐る恐る目を開けると、そこには白式を展開し簪と無人機の間に割って入る一夏の姿があった。どうやら一夏は両手で構えた雪片弐型で相手の左腕を弾いたらしい。

 

「……本当に来てくれたんだ」

 

「あぁ。これ以上誰も傷つけさせない」

 

「!!」

 

小さい頃から憧れていた、画面の向こう側で颯爽と現れて人々の窮地を救う完全無欠のヒーロー。そして自分の危機に現れてくれた一夏。無意識のうちに彼女の中でその姿が結びつこうとしていた。

 

「くらえっ!!」

 

一夏は右腕に展開した雪邏から荷電粒子砲を無人機に向けて放つ。しかし、敵はそれを見切っているかのように身体をわずかに反らすだけで避けてしまう。そして一夏がビームを打ち終えるのと同時に踊りかかってきた。楯無との訓練の成果もあってか、一夏は慌てることなく雪片弐型を展開し無人機との鍔ずり合いを行う。がしかし、一瞬の拮抗の後にだんだんと体の大きさもあってか一夏が押し込まれ始める。

 

「このままだときついな……楯無先輩!」

 

「了解!」

 

一夏の声に答えるように無人機に向かって大量の弾幕が降り注ぐ。一歩間違えれば一夏にも当たりかねない状況。しかし、楯無の放つ銃弾は弾幕から逃れようと回避行動を取る無人機を的確に撃ち抜く。本人の努力にもよるが、彼女の場合それに加えて有り余る才能により、最小限の労力で最大限の効果を発揮している。その事実を簪は改めて痛感せざるを得ない。

 

(また『姉さん』なの……?)

 

自分が足を引っ張ることを恐れて参戦することが出来ない簪。そんな彼女の思惑をよそに戦いは進む。

 

「いくぞ!」

 

高速で無人機に接近した箒の二刀流による斬撃で無人機は右腕のブレードを弾かれ大きく体勢を崩す。そこに楯無のランスによる一点突破の一撃。咄嗟に無人機は左腕でガードするがそこに箒のブーストが加わり勢いを増したランスは無人機の左腕の装甲を大きく削る事に成功した。

 

「よし!これなら━━━行ける!!」

 

「一気に畳み掛けちゃえ!」

 

左手の装甲を大きく削られ、いくらか驚異が少なくなったはずの無人機。しかし━━━

 

「馬鹿な!?」

 

驚きの声を上げたのは一夏。反撃の時間を与えないように楯無の銃弾による援護を受けつつ、瞬間加速を使い無人機に突撃を仕掛けたのだが、一夏が無人機の側に近づいた瞬間、無人機は信じられないような反射速度で斬撃を受け流し、一夏の腕を掴む。一方腕を掴まれた一夏はなんとか脱出を試みるが、無人機が一夏を手放すことはない。そして無理やり一夏を手元に引き寄せたところで、一夏の腹部に強烈なボディーブローを放つ。

 

「ごほっ!?」

 

胃からせり上がってくる嘔吐感をなんとか押さえつける一夏。だが、無人機の攻撃はこれだけで終わらない。突然、一夏に撃ち込まれた左腕の拳が光を放ち始める。

 

(これはやばい!!)

 

左腕から熱線が放たれる直前、一夏は身体を捩る事で回避を試みる。そのおかげで直撃は避けられたのだが━━━

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

完全に避けらなかったらしく、腹部の右半分が焼け爛れてしまっている。一方無人機はもう一夏に用はないとばかりに、満身創痍の一夏を放り投げた。床に叩きつけられ、ピクリとも動かない一夏。それを見た更識姉妹の反応は大きく違った。

 

「あ……あぁ……」

 

恐怖で足が竦んで動けないでいる簪と

 

「…………」

 

静かにランスを構え、相手を睨みつける楯無。

 

「━━━━」

 

刹那、楯無の姿が消える。いや、消えたと錯覚してしまうほどの速さで無人機に接近する楯無。それに反応する形で無人機も左腕から熱線を撃とうとするが

 

「遅い」

 

無表情の楯無が発射口にランスを突き立てる。発射口を塞がれ行き場をなくしたエネルギーがどうなるのか。結果は言うまでもない。その瞬間、無人機の左腕が吹き飛んだ。

 

「…………」

 

爆発の衝撃を避けるために後ろに飛んで距離を開ける楯無。対する無人機の左腕は外装が完全に吹き飛んでおり、だらんと垂れ下がっている状態である。一見すると最早死に体。しかし、今の楯無には欠片の油断もない。再びナノマシンを制御し穂先を再構成する。

 

「死になさい」

 

そう言うやいなや再度無人機に躍りかかる楯無と箒。

 

「なっ!?」

 

その穂先が突き立てられようとした瞬間、無人機はボロボロの左腕を盾がわりして防ぎ、右腕で反撃してきた。楯無はそれを寸前で回避すると、再び鋭い突きを入れる。それを防ぐ無人機。目まぐるしく入れ替わる攻防。わずかな時間の間に彼らは数合以上切り結ぶ。ISによる補助があるとは言え、人間である以上体力の消耗は避けられない。僅かながらも徐々に疲弊する楯無。そしてそれを黙って見ている無人機ではない。そして痺れを切らした楯無の突きを右腕のブレードで受け流しつつ接近、懐に入ったところで回し蹴りを放つ。その攻撃を身体を逸らすことでどうにか回避する楯無。しかしこのやり取りを境に状況は一変する。左手を失っているとは言え、片腕のブレードを駆使してクロスレンジの戦いを行う無人機をランスで相手にする上でリーチを潰されるのはかなりのマイナスになってしまう。

 

(これは……マズイかも!!)

 

先程とは違い防戦一方になっている楯無。そんな楯無とは反対に勢いを増す無人機の斬撃。そしてついに無人機が楯無の右腕を切りつけた。

 

「ぐっ」

 

どうにか痛みを堪えて、距離を開ける楯無。どうやら傷は思ったよりも大きく無いようだが、腕に力が入らなくなっており武器を取り落としてしまう。そこに襲い掛かる無人機のブレード。無手の彼女に凶刃が迫る。

 

「させるかぁ!!」

 

「!」

 

しかし、その刃は彼女に触れる寸前に何者かによって防がれる。倒れたはずの一夏である。一夏は歯を食いしばりながらも無人機と鍔ずり合いを繰り広げる。既にエネルギーは底をつきかけており、パワーアシストも受けられない状態。にも関わらず、一夏は腹部から走る激痛を堪えつつも反撃の好機を伺っていた。

 

ゴーレムと一夏の斬り合いは予想以上に長引いている。と言うのも、腹部の大火傷を負っているはずの一夏の奮闘により戦いは膠着状態に入ろうとしていたのだ。がしかし━━━

 

「ぐっ!!」

 

大振りになった一夏の斬撃を回避したゴーレムの放った回し蹴りが一夏の負傷した部分を直撃した。痛みを必死に堪える一夏だが、それを見逃す相手ではない。

 

「このっ━━━」

 

ゴーレムは明らかに先程よりも鈍くなっている一夏の攻撃を身体を僅かに動かして避けた後、再び同じ場所に残った腕で拳を叩き込んだ。

 

「……すまん箒。後は任せた」

 

「任されたぞ、一夏」

 

「!?」

 

一夏の身体が崩れ落ちる刹那、ゴーレムの後ろに紅椿を纏った箒が超高速で接近。装備した雨月をがら空きになっているゴーレムに向かって振り落とした。

 

「━━━!!」

 

しかし、ゴーレムの反応速度はそれ以上に速く、残った腕で箒の斬撃を受け止められてしまう。が、そこで止まるほど箒の一撃は軽くはなかった。

 

「私が、一夏を、護って見せる!!」

 

ブレードを持つ腕に渾身の力を込める箒。そして、箒の雨月を受け止めていたゴーレムの腕に亀裂が生じた瞬間ーーー

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

箒の雨月が縦に一閃。その威力は、ガードしていた腕ごとゴーレムの装甲を紙のように切り裂く。そして、分厚い装甲の奥から動力源であるコアが露出した。

 

「そして、これでチェックメイトだよ」

 

そう言って楯無は『何か』を剥き出しのコアに向かって投げつける。そして、それは吸い込まれる様にしてコアに向かって飛んでいき、大爆発を起こした。普通の攻撃では傷一つつかないほどの強度を誇るレアメタルで作られたISコア。爆発の煙が無くなった後、其処には原型を留めないくらいに吹き飛ばされたゴーレムの身体と一目で修復不能と分かるくらいに破壊されたコアがあった。

 

「……これで私達の勝利、って訳ね」

 

「えぇ。急いで一夏を病院に運びましょう」

 

そう言うと、箒は急いで端末を取り出し電話をかけ始めた。楯無も一夏の意識の確認をする為に、呼びかけを行っている。一方でコンビであった簪は慌てて一夏に駆け寄ろうとするが、

 

「下がってて!!」

 

楯無にそう言われてしまい、側で一夏の意識が回復するのを祈っているしかなかった。

 

 


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