IS/Zero   作:小説家先輩

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またもや編集の都合で短い投稿になってしまいました……。


第三十一話 歯車

襲撃の翌日、切嗣は朝早くから生徒会室へと続く廊下をゆっくり歩いていた。そして生徒会室についたところで、ドアを一定のリズムで3回ノックする。やがて中から鍵の開く音が聞こえ、楯無が顔を出した。

 

「そろそろ来る頃だと思っていたよ、きりちゃん」

 

「お待たせしました、楯無先輩」

 

切嗣は生徒会室に入ったところでドアを閉める。その様子を見てどうやら今の切嗣にいつもの冗談は通じないのでは、と楯無は判断する。

 

「密室プレイ……か。きりちゃんには悪いけど、初めてはもっと良い場所がいいんだよね」

 

「━━━今回の襲撃について、僕なりに考察してみたのですが。どうやら今回の襲撃もやはり篠ノ之束が絡んでいるようです」

 

「完全に無視か……ひょっとして、きりちゃんカルシウム不足?」

 

緊張した場を和ませるべく、楯無はいつも通りの軽い冗句を飛ばす。がしかし、当の切嗣は何事もなかったかのように話を進める。そんな切嗣の様子にため息をつきながらも楯無は思考を切り替えた。

 

「生憎そんな話に付き合っている余裕はないので。ところで、布仏先輩の姿が見えませんがどうかしたんですか?」

 

「あぁ、虚ちゃんには防諜対策をしてもらってるとこだよ。ここのところ、学園内に何度も侵入者が入ってきてるからさ。まるで何者かが手引きをしているように、ね」

 

「……なるほど」

 

そう言って意味深な笑みを浮かべる楯無。どうやら彼女の方でも既に対策を講じているらしい。たびたび学園内に侵入され情報の流出を抑えなければならない現状では、スパイなどへの対策を講じることが急務となっていた。

 

「では、きりちゃんがどうしてそう考えたのか根拠を聞かせてもらおうかな」

 

「僕がそう判断したのかについてはいくつか理由があります。まず一つ、学園内への襲撃時に用いられたのはいずれも無人機。そしてそれを開発している国家は存在しない。そもそもそんなレベルの兵器が作れるのなら、わざわざこの学園に生徒を送り込む必要はない。諜報活動を行わせるにしても、もう少し任務に適した人材を用意するでしょうから」

 

「確かにそうね。この学園でそんなことが出来そうな生徒たちと言ったら、私たちぐらいだし」

 

そう言っておどけた顔をする楯無。彼女は対暗部専門の暗部として暗躍する楯無は秘密裏に生徒たち一人ひとりの細かい背景を調べ上げ、その全てを把握している。その調査の結果、束に連なるスパイと思しき人物は生徒の中には見つかっていなかった。

 

「二つ目、僕が相対した侵入者の存在。彼女は襲撃が始まってからの僅かな時間で、僕が潜んでいるメンテナンスルームに入って来た。タッグマッチが行われていたアリーナはかなりの広さがあり、あの僅かな時間でメンテナンスルームに到達するには、建物の構造を把握していない限りまず不可能です」

 

一旦話を区切る切嗣。どうやらここから話す内容が肝心らしい。

 

「━━━続けて」

 

「そして三つ目、ハッキングの痕跡。襲撃の後、先輩に教えてもらったアクセスコードで学内のサーバーにアクセスさせてもらった結果、明らかに不審なプログラムを発見しました」

 

切嗣はおもむろに携帯を取り出し、ある写真を楯無に見せる。そこにはパソコンの画面が映し出されており、その中のファイルの一つに「ちーちゃんへのお土産」と言う名前のファイルが存在していた。

 

「これは……犯行声明か。舐められたものだね」

 

楯無は思わずため息をつく。ここまで堂々と襲撃が行われながらも、それに反撃することすらままならない今の現状を鑑みればその反応も当然なのかもしれない。そんな楯無のようすを見ながらも切嗣は話を続ける。

 

「とにかく、早急に篠ノ之束を無力化するか、最悪でも拘束しなければこの一連の襲撃は収まらないでしょう」

 

「そうね。ちょうどこっちも篠ノ之束博士の拠点を探るべくうちの人間を総動員して調査をさせてるところなんだけど、結果が出るまではこうして耐え忍ぶしかないんだよ……本当に悔しいけどね」

 

そう言って包帯が巻かれた自分の腕に目を落とす楯無。どうやら、少なからず無人機による襲撃から生徒である一夏を守りきれなかったことに責任を感じているようである。度重なる学園への奇襲に妹との決定的な確執。彼女自身、決してそんな様子を見せないが、心のどこかで誰かに助けを求めているのかもしれない。しばらく楯無の様子を観察していた切嗣であったが、楯無が露骨に落ち込んでいるのを見て、椅子から立ち上がりゆっくり楯無に近づくと彼女の手を自分の両手で包み込む。

 

「……どういうつもり?こんなことされたら、お姉さん勘違いしちゃうよ?」

 

「僕でよければ話ぐらいは聞きますよ?」

 

「ありがとう。それじゃあ、ちょっとだけお姉さんの愚痴に付き合ってね」

 

楯無の言葉に首を縦に振る切嗣。それを見て楯無はゆっくり語り始めた。

 

 

「自分を変えたい、か……」

 

自室の天井を見上げながらそう呟く簪。一夏のお見舞いに行った後、公園で出会った男性からかけられた言葉だ。全くの赤の他人からの言葉。くだらない、と一笑に付す事は出来たかもしれない。しかし、今のままでは楯無に届かないであろうこともまた事実である。

 

「姉さんに……勝ちたい……」

 

その言葉を拾ってくれるであろう者はいない。いつもであれば本音が一緒にいて話し相手になってくれるはずなのだが、彼女は姉の虚に呼ばれて学園内の防諜対策を行っていた。

 

「やっぱり本音ちゃんも姉さんの味方なのかな……」

 

一人で考え込んでしまっているせいか、思考がどんどんマイナスの方向に行ってしまう。自分と違いクラスのマスコット的な存在であり、常に友人に囲まれている本音が簪には羨望の対象として写っていた。実力では簪の方が勝っていても、本音には人望がある。実力では姉に圧倒的な差をつけられ、私生活でも本音以外にまともな友人を作ることが出来ない自分に簪は希望を見いだせなくなっていた。

 

「このまま終わるなんて……絶対に……嫌!」

 

まるで何かに突き動かされるように簪はスカートのポケットから携帯を取り出し、名刺にある番号に電話をかけはじめた。

 

クロエからの反応が途絶えた最終地点において、束は少量の血痕と銃弾の薬莢を発見する。現場に残っていた薬莢は大口径の銃弾のものであり、血痕は検査の結果クロエのものと一致した。束がクロエに課した任務は『衛宮切嗣の拉致』であり、それが失敗して切嗣がクロエを無力化するべく銃弾を放ったとすれば辻褄が合う。

 

「あ~あ、ゴキブリはゴキブリらしくコソコソ隠れていれば楽に殺してあげたのに……。もういいや、潰そっと♪」

 

そう言って束は落ちていた薬莢を靴の裏で思い切り踏みにじる。束にとって、織斑姉弟と自分の妹以外はほぼ全て有象無象に過ぎないにしても、自分の助手であるクロエに手を出されたことが彼女の逆鱗に触れたようだ。彼女の口から出る言葉には、いつも以上に毒が篭っている。

 

「コアを暴走させて殺すのは簡単なんだけど……万が一他の奴に止められたりしたら生き残っちゃうかもしれないしなぁ……」

 

しばらく思考を巡らせる束。あの男が人を殺すことを躊躇わないことは、福音を暴走させた時に分かったことである。もし仮にほかの人間のコアを暴走させたとしても、それが止められないと分かったら速やかに最小の犠牲を払って事態を収束させるに違いない。故にあの男に人質は通用しない、と言う結論に束は至った。

 

「となれば、やはり圧倒的な物量で迎え撃つのがいいかなぁ~。大量に投入した束さんの傑作の前で“突然”アイツのISを跪かせた状態で停止させ、自分の無力さを感じさせながらじっくり追い詰めて嬲り殺す。……うん、これで決まりかな。やっぱり邪魔なゴミには速やかに消えてもらわなきゃ。大体、私の作り出した舞台にあんな汚物がいること自体間違ってるんだよ」

 

どうやら、どんな風に切嗣を殺害するのか結論が出たらしい。束は凄惨な笑みを浮かべながらその場をあとにした。

 




今年の投稿は以上です。来年もよろしくお願いします。

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