IS/Zero   作:小説家先輩

36 / 47
タイトル通りの展開に持って行けていればいいのですが……


第三十四話 混沌

切嗣たちがゴーレムと交戦している頃、箒とラウラは上空で待機しながら地上付近で行われている戦闘を注視していた。少し前まで、地上から100メートル付近で高度を保っていたが、楯無の放った『ミストルティンの槍』により、衝撃波が発生したため、150メートル付近まで退避していた。

 

「会長の援護に行かなくていいのか、ラウラ?」

 

ラウラの腕に抱えられながら箒が尋ねる。確かに状況だけを見れば、数十体のゴーレムを相手に2人で戦うよりは、ラウラも加わり3人で応戦した方が戦況もましになるかもしれないは事実であった。

 

「……更識隊長は、私に『篠ノ之箒の確保を優先しろ』と言われた。だから私自身、本当は加勢をしたいのは山々だが、ここから次の指示を仰ぐしかない。それに私が加勢することにより、お前が敵側に捕えられてしまえば、篠ノ之束に対する切り札を2枚とも失うことになってしまうこともありうる」

 

「……そうか。お前がそうすべきだと思うのなら、私は何も言わないでおこう」

 

「あぁ。そうしてもらえると助かる」

 

そう言うと、ラウラと箒は再び戦況を見守ることにした。やがて機動力が確保出来ていない切嗣に攻撃が集中し始める。遮蔽物を利用しつつ、なんとか攻撃を回避する切嗣だが、長くはもたないことは火を見るよりも明らかであった。

 

「……すまない篠ノ之。切嗣を援護するために少しやつらに近づくが、大丈夫か?」

 

「私はお前の指示に従うといった。お前に任せる」

 

「ありがとう」

 

箒の言葉に感謝しつつ、ゆっくりと目標に近づくラウラ。がしかし、箒を抱えながら射撃を行うしかないため、いつも以上に周りの条件に気を使わなければならない。そして標的を確認しようとしたところで―――

 

『ラウラ!応答してくれ、ラウラ!』

 

「「!?」」

 

一夏からの通信が入った。

 

 

「機体のコントロールが戻った……だと?」

 

『あぁ!!よく分かんねえけど、今は普通に動けるみたいだ』

 

「?……敵の様子がおかしい、ちょっと待て」

 

一夏からの通信に答えるべく一旦視線を外したラウラと箒だったが、改めて敵全体の様子を見渡して、あることに気がつく。

 

(敵が……停止している?)

 

先ほどまで、切嗣たちに猛攻を加えていたはずのゴーレムたちがそのままの体勢で停止していたのである。その事に何か引っかかるものを感じながらも、ラウラは一夏と会話を続ける。

 

「……一旦、更識隊長のところまで移動するぞ」

 

『了解!』

 

通信を切ったラウラは切嗣たちがいると思われるところへ降りて行った。

 

 

一夏と箒、そして切嗣のISの動作確認が済んだところで、5人は再び隊列を組んで目標地点へと向かうことになった。

 

「しかし、なんで俺たちをあそこまで追い詰めておいて、急に行動停止したんだろう?」

 

「……私にも訳がわからないが、姉さんの身に何かが起こってる気がする」

 

一夏の質問に、言いようのない不安を感じた箒は焦る気持ちを抑えながら、小隊の先頭を務めていた。

 

 

「ここが、束さんのアジトなのか……?」

 

箒とともに先に到着した一夏が研究所と思しき建物を見ながらそう呟く。見た目はまさに廃墟であり壁には銃弾や砲撃の跡が点在するこの場所は、事前に研究所であると教わらなければ、まず分からないだろう。

 

「何かトラップがあるかもしれない。更識先輩たちが到着するまで待機していよう」

 

「……分かった」

 

一夏は箒の忠告に頷くと、切嗣たちを待つことにした。

 

 

一夏たちと合流した切嗣たちは、トラップに注意しつつ通路を進む。どうやら束がいるであろう研究室に続く通路は、すべてロックが解除されているようである。此処に至って、切嗣たちは待ち伏せされていることを確信し、いつでも奇襲に対応できるように心の準備をしていた。

 

『どうやらここが、束さんがいる研究室みたいだな』

 

通路の一番奥にあるドアを確認しながら、一夏が小声で呟く。と言うのも、これ以外の部屋のドアは完全にロックされており、かつ開けた空間にそのドアが存在していることから、ここに研究室があることが推測できたのである。

 

『じゃあ、作戦通りに頼むわね』

 

『『了解』』

 

ラウラのレールカノンで入り口を破壊した後に、一夏と箒が突入。そして敵の虚を突いたところで、ラウラが突入し再びレールカノンを射出し、目標を鎮圧。そして後詰の切嗣と楯無が討ち漏らした敵を掃討する。これが今回の作戦の概要である。

 

『レールカノン射出まで5.4.3.2.1―――発射』

 

ラウラの砲撃により、入り口には大きな穴が開く。そこから一夏と箒が突入した。

 

 

「「……え?」」

 

突入した二人の前には不可解な光景が広がっていた。部屋の中には照明が灯っておらず、部屋の様子を伺い知ることは出来ない。一夏と箒はISに搭載された高感度センサーを用いて、360度の視界を確保しながら慎重に進む。そして、入り口から10メートルほど来たところで、照明が作動し、部屋のある一点に光が集中する。その光の先にいたのは―――

 

「た……束さん!?」

 

「姉さん!!」

 

十字架にロープで磔にされている、天才科学者こと篠ノ之束であった。慌てて駆け寄る一夏と箒。顔色は青白く変化、そして右わき腹から大量に出血が続いており、一刻の余裕もないことは容易に理解できた。

 

「……て」

 

「!? 束さん! 待っててください。今助けますから」

 

すかさずISを解除し、持っていた小型のナイフで束の手足を拘束している縄を切り始める一夏。一方で、箒も束の傷の具合を確認し、どのような応急処置を行うかを検討していた。がしかし―――

 

「逃げて、二人とも!」

 

「!?」

 

その瞬間、まるで生きた昆虫を標本として釘で刺すかのごとく、束の胸から銀色の刃が生える。

 

「あっ……がっ……」

 

束の口から僅かに空気が漏れ、身体が小刻みに震える。そしてその震えが収まったところで、束の頭が重力に従い完全に下を向いた。箒と一夏は自分の親しい人の返り血を浴びながら、その最後を目撃してしまったのである。

 

「そんな……姉さん?起きてよ、姉さん!?姉さん!!??」

 

「さっき束さんにこの剣を投げたお前だろ!!出てこい!!」

 

突然の出来事に取り乱しながらも必死に束の死体に縋り付く箒に対し、前方に人影を見つけた一夏はすぐにISを装着し、溢れ出す殺気を必死に抑えながら大声で叫ぶ。すると、その人影はゆっくりと動き出し、一夏たちのいる光が当たっているところまで歩いてきた。

 

「その通りだ、少年。その女を殺したのは私だ」

 

「なんで……なんで私の姉を殺した!?理由があるのなら言ってみろ!!」

 

箒が肩を震わせながら男に質問する。顔は俯いていて表情を読み取れないが、手から出血するほど強く拳を握りしめているのを見れば、箒が男に対してどれほどの感情を抱いているのがよく分かるだろう。それに対して、男は額に手を当てながらわざとらしくため息をついた

 

「……これは困ったな。私としたことが理由を考えていなかった。明日までにはふさわしい理由を決めておくとしよう」

 

「!貴様ぁぁぁぁぁ!!」

 

その瞬間、箒の中に溜まっていた感情が爆発した。箒は一瞬で男との距離を縮め、その首を叩き落さんとばかりに刀を横一線に振るおうとしたが―――

 

「よせ、篠ノ之!!」

 

後から入ってきたラウラがワイヤブレードを射出し、箒を捕まえて近くに引き寄せる。

 

「止めるなラウラ!わたしはこの男を斬らねばならないんだ!!」

 

箒はワイヤーに巻かれながらも、ラウラに怒りをぶつける。目の前には自分の肉親を殺した憎むべき相手がいる。その相手を自分の手で裁くのを邪魔されれば、箒でなくともそうなってしまうのは仕方のないことなのかもしれない。

 

「馬鹿者!怒りに任せ、何の考えもなしに敵に突っ込んでどうする!!」

 

「!!」

 

箒は自分が危険な行動をしていることにようやく気付いたのか、慌てて相手との距離を開ける。一方で、ラウラは相手を睨みつけながらも、注意深く相手を観察する。あの天才科学者を葬り去った実力、そしてISと生身で対峙しても決して動揺しない強靭な精神力を兼ね備えた男。いずれにせよ強敵であることには変わりない。そこから一対一の勝負に―――とはならなかった。

 

「っ!!」

 

何かに気づいたようにラウラとの距離を開ける男。一瞬遅れて、先ほどまで男が立っていた場所には大量の銃弾がばらまかれていた。

 

「やはり来ていたか……衛宮、切嗣」

 

「……言峰、綺礼!!」

 

自分に銃弾を放った相手を見ながら、男は微笑みを浮かべる。衛宮切嗣と言峰綺礼。これが宿敵同士3度目の邂逅だが、微笑みを浮かべる言峰に対し、信じられないものを見たような驚愕の表情を浮かべる切嗣、と表情は全く対象的であった。

 

「なぜお前がここにいる!?」

 

「そうだな……。さしずめ、神のお導きといったところか」

 

真面目に答える気のない綺礼の回答に対し、切嗣は静かに相手を睨み付ける。

 

「……まあいい。なぜお前がここにいるのかは分からないが、これ以上の災いをもたらす前にお前との因縁を断ち切る」

 

「さて、そう簡単に上手くいくかな?」

 

「何?」

 

口元を歪めながら笑みを浮かべる言峰の言葉に警戒感を露にする切嗣。

 

「こっちの準備は終わったぜ、マスター」

 

「ご苦労だったな、イーリス」

 

「「!?」」

 

その二人の間に走る気まずい空気を壊すかのように、イーリスは綺礼の後ろから音もなく現れる。言峰側の人間の登場に身構える切嗣たちであったが、楯無の反応は全く異なるものであった。

 

「イーリス=コーリング!?なぜ貴女がいるの!?」

 

「……お前の知り合いか、イーリス?」

 

「ロシア国家代表の更識楯無だ。直接、顔を合わせたことはない」

 

「……排除するか」

 

そういうや否や、言峰はカソックに仕込んだ黒鍵を取り出し構える。その場に再び緊張が走る。がしかし―――

 

「せっかちすぎだよ、マスター。もう準備は終わってると言ったでしょ?」

 

「??」

 

イーリスの曖昧な言葉に切嗣は疑問を浮かべるが、次の瞬間には、その疑問は雲散霧消することになる。突然壁に穴が開き、外で停止していたはずの最新式のゴーレムたちが乱入してきたのだ。ゴーレムたちは一糸乱れぬ動きで言峰と切嗣たちの間に割って入り、切嗣たちの前に立ちふさがる。

 

「!?」

 

「……なるほど、これはなかなか愉快なものだ。では先に失礼させてもらおう」

 

言峰とイーリスは穴のところまで歩いてゆくと、その場に待機していたゴーレムの手のひらに乗る。一方、切嗣たちは目の前にいるゴーレム数体のせいで、うかつに言峰を攻撃できないため、言峰たちを黙って見ているしかない。逃走の準備を終えた言峰だが、何かを思い出したかのように切嗣に語り掛けてきた。

 

「今回はあの時より“駒”の数が多いようだな」

 

「……どういう意味だ?」

 

「その意味は貴様自身が一番判っているのではないか、“魔術師殺し”」

 

「…………」

 

笑みを浮かべる言峰に対し、切嗣は何も答えない。一瞬の沈黙の後、言峰は自分の話は終わったとばかりにゴーレムたちに守られながらその場を去る。そして、その場に残ったのは―――

 

「――――」

 

物言わぬ篠ノ之束の死体と、

 

「魔術師殺し……?」

 

切嗣に懐疑の視線をぶつける仲間たちであった

 




正直な話、ここから先はかなりの鬱展開になる予定です。ですので、ヒロインズとのイチャラブ展開を想像されている方はお気を付けください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。