学園の指示により、束の葬儀はIS学園が所有する施設で執り行われることになった。なお、この式は束の死を外部に漏らさぬように千冬や一夏、そして箒などの親しかった人物のほかには切嗣や楯無などの作戦に携わったメンバーだけが参列を許されている。
「……姉さん、起きてるんだろ?もう十分寝たんだから、早く起きないと体が無くなってしまうぞ?」
「…………」
箒は未だに束の死が受け入れられないのか、遺体の入った棺の傍でずっと声をかけ続けている。本来であれば箒が喪主を務めなければならないのだが、学園に戻って来てからというもの、ずっと遺体の傍から離れようとしないために、千冬が箒の代わりを務めていた。
「参列者の方は献花をお願いいたします」
千冬の司会進行のもと、式は滞りなく進んでいく。
「待てよ、てめぇ!!」
葬式を終え、会場を後にする際に事件は起きた。
「……放してくれないか?君と話すことなど何もない」
「お前が無くても俺にはあるんだ!!」
「…………」
このままでは埒が明かないと判断した切嗣は一夏の方に向き直る。そこで二人の視線が交わる。先に口を開いたのは一夏であった。
「これから聞くことがある。俺の質問に正直に答えろ」
「……答えなかった場合はどうするつもりだい?」
「その時は、お前を然るべき場所に突き出してやる!!」
「…………」
一夏の頑なな態度に、切嗣は何を言っても無駄だと判断して首を縦に振った。
「お前はあの男と知り合いだったのか?」
「あぁ」
「……だったら、なんで俺たちにアイツの事を教えなかったんだ?」
切嗣からの答えに納得したのかは分からないが、一夏は次の質問を投げかける。
「……本来なら奴はすでに死んでいるはずだったから、教える必要はないと判断した」
「…………」
切嗣からの答えに、あごに手を当てながら一夏は吟味する。しばらくして、一夏は顎から手を降ろし、切嗣に最後の質問を投げかける。
「では最後の質問―――“魔術師殺し”ってなんだ?」
「―――!!」
一夏の核心を突く質問に切嗣の表情が険しくなった。そんな切嗣の表情を見た一夏は切嗣が動揺していると判断する。
「答えられないのなら俺が言ってやるよ―――お前はあの名前通り、たくさんの人を殺してきた。そしてやつもその犠牲者の一人なんだろ?」
切嗣自身、『僕が殺した筈のアイツが世界を超えて現れた』と言ってしまえば楽になるだろう。だが、そんな馬鹿げた話を信じる人物はこの場には存在しない。そのことを踏まえ、切嗣は無駄に混乱させるべきではないと判断する。
一夏の言葉に対し、あくまで切嗣は沈黙を貫く。そんな切嗣の態度が気に障ったのか、一夏の言葉もどんどんエスカレートし始める。
「そして、あいつはお前と敵対していた束さんに目を付け、束さんを騙し討ちにした。つまり、お前のせいで束さんは死んだって訳だ」
「…………」
「どうした?反論出来るんならしてみろよ、この殺人鬼!!」
切嗣の思惑に気が付かないまま、沸点を超えた一夏の感情が爆発する。まずはだんまりを決め込む切嗣の口を開かせるべく、思い切り拳を打ち込もうとしたが―――
「そこまでよ」
「!?」
一夏の拳は切嗣に届く手前で、二人の間に割り込んだ楯無の手によって阻まれる。
「落ち着きなさい、一夏君。よりにもよって葬式の帰りに我を忘れて人を糾弾するなんて、あなたの取った行動は人として最低のものよ」
「先輩!ですけど、こいつは「いい加減にしろ!一夏!!」!?」
なおも切嗣に突っかかろうとする一夏の言葉を遮るかのごとく、千冬が声を張り上げた。葬式の帰りに喧嘩が始ったとなれば、千冬が怒るのも無理はないだろう。
「これ以上、この場で騒ぐことは私が許さん。一夏には個人的に話があるから後ほど学園の職員室まで来るように。更識は衛宮と言峰と言う男の関係について、どんな手段を使ってもいいから必ず聞き出せ」
「……分かったよ、千冬姉」
「了解しました、織斑先生。と言う訳で、とりあえず生徒会室まで戻ろうか、衛宮君?」
「…………」
千冬は2人の意思を確認した後、施設の出口に向かって行った。楯無も切嗣の肩を引きながら、あらかじめ用意していた車のところへ向かって行く。そして一夏もしばらく眺めていたが、箒を介抱すべく急いて斎場へと戻った。
学校に戻った切嗣に対し、さっそく楯無による生徒会室での取り調べが始まった。
「―――それで、『魔術師殺し』って何?」
「どうしても答えなくてはいけませんか?」
「答えたくないなら無理に答えなくてもいいよ?そのかわり話すまではここから出られないけど」
「……それって『尋問』じゃないですか」
「受け取り方は人それぞれだよ?私はきりちゃんと楽しくおしゃべりがしたいだけだし」
「…………」
ここで切嗣は思考を切り替える。ここで大事な協力者である楯無と敵対関係に陥ってしまった時のリスクと素直に自分の素性を楯無に伝えた時のリスクを考慮した場合、間違いなく後者を選んだ方がリスクが低いのは言うまでもない。そして前者の場合、全世界を敵に回すことも考慮しなければならないのだ。それに後者の場合であれば、楯無は切嗣が見せた魔術に対してある程度の理解があるため全く信じてもらえないわけでもないのだから。
「……致し方ないですね。貴女には言葉で伝えるより事実を見てもらった方が良いでしょうから」
「?どういうこと?」
「………」
楯無の質問を切嗣は答えずに懐からコンテンダーを取り出す。そして素早くナイフを取り出し自分の指先を切ってから、その血をISの待機状態であるコンテンダーのグリップ部分に垂らした。
「!?」
それを見た楯無は目を疑わざるを得なかった。なぜなら切嗣の指先から流れた血が令呪を象ったコア部分に触れた瞬間、その部分が赤く光り始めたのだから。
「嘘!?こんなことって……」
「……ここで貴女に最後の警告をします。今から僕の過去を貴女に見せますが、この内容はあまりに刺激的であり、精神に異常をきたしてしまうかもしれません。それでも大丈夫なのであれば、この赤く光っているコアの部分に手を触れてください」
切嗣のいつも以上に険しい表情がその危険性を物語る。普通であれば間違いなく尻込みする状況である。がしかし、切嗣に楽しい学生生活を送らせると誓いを立てた楯無に一切の迷いはなかった。
「私が、きりちゃんのすべてを受け止めてあげるから」
楯無はいつも通りの不敵な笑みを浮かべながらコンテンダーの発光している部分に手を触れた。こうして楯無は掛け値なしの地獄へと足を踏み入れることになる。