IS/Zero   作:小説家先輩

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第四十二話 決断

「報告!我が艦の前方10キロにて所属不明ISの反応を確認!警告を発したのですが、それを無視してこちらに向かって直進中してきます……どうします?」

 

「空母『キティーホーク』よりISを二機発艦させ、目標の撃墜を許可する。各艦は総員戦闘配置に付け」

 

「了解」

 

中国との関係悪化に伴い、日本海付近に展開しているIS二機を主力とする米海軍第7艦隊は、突如襲撃してきた謎のISと交戦に入ろうとしていた。

 

 

 

「所属不明ISはこちらのレーダー網を掻い潜って中国軍基地のある方角へと逃亡した模様。そして先ほど発艦したISについてですが、所属不明ISとの交戦状態に入った後、レーダーから消失し行方が分からなくなっているようです」

 

「馬鹿な!?こちらの主力ISだぞ!?それが訳の分からないISに後れを取るとは……」

 

「「………」」

 

艦隊旗艦の作戦司令室。つい数分前までまで所属不明ISとの交戦を想定し、綿密な会議がなされていたが、キティーホークからの連絡により、場の空気は重苦しい物となってしまっている。艦隊の主力IS2機が10分もかからずに撃墜されたことを考慮すれば、そうなるのも無理はないのかもしれない。

 

「ISが撃墜されたと思しき場所に救助ヘリを飛ばし、急いでパイロットを回収。その後、我が艦隊は最寄の基地へ帰投せよ」

 

「了解しました。その様に各艦に通達します」

 

近くにいた下士官に指示を下した後、司令官は今後起こりうる事態に頭を悩ませていた。

 

しかし、第七艦隊所属のISが所属不明機に撃墜させたニュースは即座に、全米中に広まることとなる。その上で事態を重く見た政府はデフコンレベルを3に上げたうえで中国政府へ最終警告を行うも、当の中国政府側は相変わらず自国の関与を否定するだけであった。

 

 

セシリアが本国に帰国してから、数日後の夕方。ラウラの元に軍上層部からの暗号文が送られてきた。

 

「!!」

 

ラウラに届いた暗号文の内容。それは彼女への帰還命令であった。本来ならば、軍属である彼女にとっては迷うべきではない事案のはずだが、ここに来て彼女に疑問が芽生え始めている。

 

(私は本当にこのままでいいのだろうか……?切嗣たちをそのままにして帰国してしまっても……)

 

ラウラの抱える迷い、それは切嗣との関係である。作戦に携わったラウラたちよりも早く、セシリアたちの母国であるイギリスと中国は代表候補生をメンテナンスと言う名目で本国に帰国させた状況を見ている限り、最悪の事態はそう遠くない時期に起こりうる、と予測出来る。そしてラウラ自身も一旦本国に帰還してしまえば、切嗣と再会できる可能性はほぼ絶望的になる。

 

(国か言峰の確保……か。どちらかを取れば、どちらかを捨てなければならない。今までの私なら迷わず国に帰っていたはずなのに……つくづく自分が嫌になる)

 

ラウラは送られてきた暗号文を乱暴に机の中にしまい込んだ。

 

 

 

帰還命令が届いてから2日後。ラウラはルームメイトであるシャルロットが専用機に変わる代替機の換装のため楯無たちと外出している間に、自分の部隊の副官であるクラリッサに連絡を取っていた。

 

「私は本国に帰還しなければならないのだが、内心ではあいつの傍に一緒にいたくて……なんていえば良いのか、自分でも訳が分からなくなっているんだ」

 

「…………」

 

「国か切嗣の支援……。私は一体……どうすればいい?」

 

「……隊長」

 

「?」

 

受話器の向こう側でクラリッサは黙って話を聞いていた。しかし、ラウラが話を終えたところでようやくクラリッサを重い口を開く。

 

「もっとしっかりしてください!隊長のそんな情けない言葉、私たち聴きたくないです!!」

 

「!?」

 

普段とは違うクラリッサの雰囲気に、ラウラは思わず萎縮してしまう。

 

「隊長はいつも通り本当に自分がやりたい様に、行動してくれればそれでいいんです!後は私たちで何とかしますから!!」

 

「ちょっと待て!!それではお前たちが―――「「私たちがどうしたんです、隊長?」」!?」

 

クラリッサの言動は、一歩間違えれば軍への裏切り行為誘発だ。回線が盗聴されていた場合には、軍事裁判に掛けられても文句は言えない。

 

「……お前たちは、私が好きに判断しても良いのか?もし私が命令を拒否してしまったら、お前たちもただではすまなくなる可能性もあるんだぞ?」

 

ラウラは通話に割り込んできたクラリッサ以外の隊員たちに尋ねる。が―――

 

「「―――ぷっ」」

 

「?」

 

「何言ってるんですか隊長。そんな事で私たちがどうにかなるわけ無いじゃないですか」

 

「そうですよ!いざとなったら、捕縛に来た憲兵隊と刺し違える位の覚悟は出来てますし」

 

隊員たちから返ってきた答えは、ラウラにとって意外なものであった。自分に好きなようにして良いと言うのはもちろん、クラリッサにしか教えていないはずの想い人のことを他の隊員が知っていた事も含めて。

 

「クラリッサ、お前……」

 

「堅いことは言いっこなしですよ隊長。“家族”に隠し事は無し、じゃないですか」

 

受話器の向こう側にいる“家族”からのエール。ここまでお膳立てされて、ラウラは何も出来ない人物ではない。

 

「そう、だったな。……本当にありがとう、お前たちが私の部下でいてくれたことを誇りに思うよ」

 

「何を言ってるんですか、最後の別れになるわけでもないのに。それよりも、シュヴァルツェ・ハーゼ の隊長としてターゲット(切嗣)を必ず仕留めてくださいね!期待してますよ!!」

 

「?あぁ……必ず(言峰綺礼)を仕留めて見せよう」

 

微妙なすれ違いに気が付かぬまま、ラウラは端末の通信ボタンを切る。その表情は先ほどまでとは違い、晴れ晴れとしたものとなっていた。

 

 

 

 

同日、深夜2時ごろ。中国上海にある人民解放軍のレーダー基地が何者かによって襲撃を受けていた。

 

「基地内に進入した所属不明ISは我が軍のレーダーや武器弾薬庫を破壊しつつ、歩兵部隊と交戦中!なお、詳しいことは分かりませんが、我が軍側に多大な被害が出ている模様です」

 

「ふざけた真似を!すぐにISを向かわせろ!奴をここから生かして返すな!!」

 

「それから、すぐに未確認機の所属を割り出すんだ!」

 

「了解!」

 

基地の中央に位置する司令棟の作戦室では、基地のトップである大校を筆頭とした参謀たちが侵入者を撃退するための作戦を練っていた。が、ISを出撃させてからわずか数十分後、彼らの元に信じられない情報が飛び込んで来ることになる。

 

「こちらのISが全滅……だと……?」

 

「はい!撃墜または通信封鎖にかかっているものと推測されますが、交戦中と思われる地点で全てのISからの信号途絶を確認しています。なお、未確認機は我が軍のISが機能停止した事を確認した後、東へと飛び去っていきました」

 

「東……か。それは本当に間違いないのだな?」

 

「はい。未確認機の反応は東海(東シナ海)を最後に途切れています」

 

上海から東シナ海を挟んだ先にあるのは、幾つもの米軍基地を抱える日本。そうすると、襲撃犯の所属が徐々に絞り込まれてくる。

 

「司令、分析班から未確認機の所属が判明したとの報告が入りましたので、スクリーンに転送します」

 

「よくやった!すぐに出してくれ!!」

 

間もなく、画面に報告書の内容が映し出されたのだが―――

 

「アメリカ軍所属……ファング・クエイク、だと……」

 

彼らの思惑は、最悪の形で的中してしまう。アメリカ軍所属ISによる人民解放軍への襲撃。これが意味するのは間違いなく―――

 

「宣戦布告……だろうな」

 

「……はい」

 

司令官は大きく息を吸って、気持ちを落ち着かせる。自分の言葉で部下の運命が決まるため、慎重にならなければならない。そして彼は決断を下す。

 

「この事実を至急、軍総参謀長に報告。同時に被害状況を確かめ、復旧に掛かれ」

 

「「了解」」

 

命令を受けた部下たちが動き出した。間もなく戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 

 

総参謀長が上海基地からの報告を受けてから、数時間以内にAATOに属する全国家の首脳を交えての会談が開かれることになった。

 

「……二日後の明朝に宣戦布告後、米軍基地が集中する沖縄、そして台湾とフィリピンに潜伏させている工作員たちを一斉蜂起させた上で、一気に軍事基地を制圧。後はそれぞれに新政府を樹立した後、軍隊を派遣し占領する。これが今回の作戦となります」

 

「なるほど。これならこちらの被害を最小限にして太平洋進出を目指すことが可能になるでしょうな」

 

「現在の欧米主導のアラスカ体制を打倒し、新たな枠組みに基づく再分配を行うしか、我々には残されていませんから」

 

今回の作戦内容を説明する中国高官の説明に、各国の首脳が賛同の意思を示す。全てはアラスカ体制打倒のために。これから48時間後にはISコアを求める各国の牙が日本に突き立てられることになる。

 


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