風見幽香に転生した私は平和を愛している……けど争い事は絶えない(泣)   作:朱雀★☆

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第三話・動かない大図書館にご挨拶(ゆうかりんスマイル)

 コツコツと廊下に足音が鳴り響く。

 周りは紅い壁、下も赤い絨毯、全てが紅く彩られている。正直目が痛くなる光景だ。

 と言うか、いつまで続くんだこの廊下は……。

 

 かれこれ数分は歩いているが、一向に真新しい景色が見えないのだ。これは恐らく、紅魔館のメイド長『十六夜(いざよい) 咲夜(さくや)』の能力が原因か。

 彼女は“時間を操る程度の能力”を扱う。時間の流れを遅くして高速に動くことや、時間の流れを速めて存在を変化させる事ができる。

 更に、時間と密接に関係する空間も操作することができ、これによって紅魔館内の空間が拡張されているのだ。

 

 人間でありながら恐るべき能力を持つ彼女とは、出来たら会いたくはないものだ。上手く手加減ができそうにないからね。

 

 それにしても、おかしい。

 何がおかしいのか、それは、洋館内に妖怪がいないことだ。

 てっきり、部下にした妖怪で溢れかえっていると予想していたのだが、見当が外れたようだ。

 

 もしかしたら洋館内に入れたくなかったのか。自分の城に下等な妖怪をいれることを嫌いそうだ。紅魔館の主は。

 長い廊下を歩きながら様々な考えを巡らせていると、長い廊下の先に、他よりも少し大きな扉が見える。

 

 行ってみようかな。

 このまま廊下を歩いていても埒が明かないと思い、私はその扉に近づき、取っ手を掴んで押し開く。

 

 開かれた先に待っていたのは膨大な量の本。

 数えるのすら億劫になるほどの本が周りを囲む空間に、私はここが何処か直ぐに気づく。

 

 ここは紅魔館が誇る大図書館、そして、ここの管理を任されているのが。

 

「招かれざる客が来たわね」

 

 開かれていた本を閉じ、静かな、けれどこの広い空間には良く響く声が、私の耳に伝わる。

 長い紫髪の先をリボンでまとめ、紫と薄紫の縦じまが入った、ゆったりとした服を着用し、さらにその上から薄紫の服を着た少女。ドアキャップの様な変わった帽子を被るこの少女の名は『パチュリー・ノーレッジ』

 

 私は埃や本独特の古臭いにおいに顔をしかめながら、彼女に向かって歩く。

 

「お邪魔しているわ」

「……美鈴は、門番はどうなったの」

「安心して、死んではいないわ。ただ、無事とも言えないけれど」

 

 私はわざと挑発するような事を言う。これで冷静さを欠いてくれればラッキーだけれど、さぁ、どう出るかな?

 私は笑みを張り付かせて目の前の魔法使いを観察する。

 

「そう、なら問題はないわね」

「あら? 心配ではないの?」

「生きている事が知れれば十分、アレはそう簡単に死なないわ」

 

 澄ました顔で言うあたり、彼女は本当に心配をしていないようだ。どうやら紅魔館のメンバーは私が思っているよりも固い絆を持っているようだね。

 これは一筋縄ではいかないな。

 

「それじゃあ心置きなく戦えるわね」

「いつもなら断るところだけど、今日は(すこぶ)る調子が良いの。だから、相手してあげる」

 

 言葉が終わると、彼女は本を片手に呪文を唱え始めた。

 

「炎の輝きをそこに示し、地上を焼きつくせ《アグニシャイン》」

 

 パチュリーの周りに炎の渦が出現し、室内の熱が上がり、空気が息苦しくなる。

 それはそうと単純に思ったのだが、アレは暑くはないのだろうか?

 

 くだらない事を考えていると、パチュリーは不敵な笑みを浮かべる。

 

「風の精霊よ、敵をその風の刃で切り裂け《シルフィホルン》」

 

 私を囲むように風の刃が生まれる。その風は周囲を埋め尽くすほど、そして、その風が追い風となり、先に発動していたアグニシャインの炎が倍以上に膨れ上がる。

 流石は一週間少女、中々厄介な相手だ。こうも簡単に魔法を連続して行使するとは。

 日傘を広げ、私は周りを見渡す。

 

「その余裕な態度、いつまで続くのか見物ね」

 

 私は別に余裕な態度をしている訳じゃないのだけど、寧ろこれどうしよう……って、軽く現実逃避してるくらいだからね。

 

 それにしても、上から目線で言う彼女からは棘を感じるな。

 ……もしかして、パチュリー怒ってる? どうやら彼女はポーカーフェイスは上手いが、感情のコントロールは上手くないようだ。

 思っていたよりも激情家なのかもしれないね。

 

「その言葉、そっくりそのまま貴女に返すわ」

「言ってなさい!」

 

 パチュリーの手が振り下ろされると、宙を彷徨っていた魔法は私に向かって一斉に襲いかかる。

 暴風と灼熱、これを無防備に食らうのはちょっとキツイかな。

 私は妖力を日傘に送り、丈夫さ、大きさを変えて魔法を受け止める準備をする。

 傍から見たら日傘でこの嵐を受け止める事は不可能だと思うだろう。

 

 けど、この日傘は“普通”じゃない。これは私の身体の一部、故に、壊れる心配もない。

 “幻想郷で枯れない唯一の花”と言われたこの日傘『風見幽香』が言った言葉だが、まさにその通り。

 

 何故って? 私が死なない限りこの“花”は枯れないからよ。

 

 ゴウッ! と、吹き荒れる暴風を日傘は難なく受け止め、肉を一瞬にして灰にする灼熱も日傘には焼け跡一つ残らない。

 

「もう終わり?」

 

 魔法の行使が終わるタイミングで、私は日傘から顔を出し、彼女の顔を見る。

 

「ッ! まだ終わりじゃない!」

 

 本のページを捲り、彼女は声を高々に叫ぶ。

 

「全てを溶かし、巨大な溶岩を持って殲滅しろ《ラーヴァクロムレク》」

 

 人間一人簡単に潰せそうな溶岩が幾つも作られ、四方八方から私を潰そうと迫り来る。

 今度は日傘を閉じ、私はボールを打つ姿勢を作り、日傘を両手で持ち構える。

 

「溶岩を打つ日が来るとは思わなかったわ」

 

 冗談を言いながら、私は腕に、手に力を入れ、日傘を振り抜く。

 日傘は綺麗に溶岩の中心に当たり、弾丸の如く打ち返す。

 

「な……!?」

 

 驚愕した表情を見せるパチュリーに向かって溶岩が迫る。自分で作った魔法がまさか打ち返されるとは思わなかったのだろう。

 彼女はすぐに防御をするために透明な結界が張られた。

 私が打ち返す溶岩は全部弾き飛ばされていく。まぁそんな簡単にやられはしないか。

 

 しかし、笑みを作りながら平気でそんな事をする私は結構余裕そうな印象を受けるかと思うが、実際はいっぱいっぱいだったりする。

 

(ぬぉぉおぉおおお!? なにこれ、ちょ、なにこれ!?)

 

 ……必死に頑張っている事をどうか理解してほしい。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 立て続けに魔法を発動させていたパチュリーは、苦しそうな顔で荒い呼吸を繰り返す。

 やっと症状が出始めたか。

 

 彼女、パチュリーには喘息の持病を持っている設定があるのだ。

 この設定が原作通りで、私は安堵していたりする。美鈴と違って魔法使いの身体は頑丈ではない。

 だから攻めるに攻められなかった。勢い余って死なせてしまうなんて笑えないからね。

 

 胸を押さえて、苦悶の表情を見せるパチュリーに、私はゆっくりと、だがしっかりとした歩きで、彼女に近づく。

 

「もう魔法は使わないのかしら?」

「はぁ、く、黙りなさいッ!」

「負けを認めなさい。貴女じゃ私に勝てないわ」

 

 パチュリーの眼前に、日傘を拳銃で撃つ様な体勢――ただし片手だが――にして、私は言い放つ。

 

「チェックメイト。もう貴女は詰んでいるわ。魔法使い」

「…………降参よ」

 

 両の手を上にあげ、溜め息とともに彼女は言った。

 ふぅ、素直に降参してくれて助かった。喘息を悪化させる事は出来れば避けたいことでもあったからね。

 

「それで、私はどうなるの?」

「別にどうもしないわ。貴女に戦う意志がないのならもう相手をする気もないわよ。けど、二つほど聞きたい事があるわ」

「なにかしら?」

 

 私は無数にある本棚の中から一点を見つめて、言う。

 

「どうして“二人”で同時に戦いを挑まなかったの?」

「こぁの事ね。あの子は戦闘用ではないのよ。いてもこの結果は変わらなかったわ」

 

 なるほど、まぁそれもあるが、身内には優しい彼女の事だ。戦いに参加させたくもなかったのだろう。

 

「じゃあ二つ目、なぜ幻想郷を侵略しようと思ったのかしら?」

 

 私の問に、彼女は苦笑を持って返してきた。

 

「始めに言っておくわ。私は侵略に興味はないわ。けれど、レミィは興味があったみたいね」

「レミィ?」

 

 その名前は知っているが、私が知っていてはおかしな話しになってしまう。

 だから、私は聞き返した。

 

「えぇ、本名は『レミリア・スカーレット』この紅魔館の当主にして吸血鬼よ。侵略はレミィの命令で始まったわね」

「止めようとは思わなかったの?」

「私が言っても誰が言ってもアレは止まらないわ」

 

 やれやれと首を横にふりながら話す彼女に、私は内心、やっぱそうなのかと、納得していた。

 レミリア・スカーレットは、超がつくほどの我が儘であり不遜な少女だ。親友であろうと誰であろうと止めることは出来ないか。

 

「そうなの。全く困った吸血鬼ね」

「そこは同感ね」

 

 疲れた表情をする彼女に、私は内心同情する。パチュリーは苦労人なんだね。

 

「疲れたし、しばらくここにいさせてもらうけど、構わないかしら?」

「別にいいわよ。ただ、私の読書を邪魔しなければね」

 

 興味なさそうに答えたパチュリーは、自分の指定席へと座り、机にある本を読み始める。

 さっきまであんなに激おこだったのに、もう怒りはないのかな?

 

 私は一人首を傾げる。

 まぁ、休ませてもらえることだし、いっか。もうそろそろゆかりんがレミリアを倒して契約を交わす頃だと思う。

 なら、私はここで休ませてもらおう。もう原作キャラと戦うのも嫌だしね。

 

 肩を鳴らしたり、身体を伸ばしたりしていた時、突如、扉が粉砕される。

 木の欠片が辺りに散る中、二人の少女がこちらに向かって歩いてくる。

 

 ちょ、ちょいちょい! これはどういうこと!?

 

 なんで、なんで!?

 

 

 

 

 “レミリア・スカーレット”と”十六夜 咲夜”がここに来ているの!? しかもメチャクチャ機嫌悪そうに私を見るレミリアに、嫌な予感しか感じない。

 青みがかった銀髪を揺らし、真紅の瞳は細めている。背中に大きなコウモリの翼を持つ少女は、威圧的に言った。

 

「アンタが風見 幽香?」

「えぇそうよ」

 

 いやなに冷静に返してんの私。ここは嘘を吐いて逃げの一手でしょうに!

 

「そっ、ならアンタはここで死んでもらうわ」

「小娘がいい度胸してるじゃない」

 

 不遜な態度でいきなり死の宣告をする目の前の少女に、私は頭を抱えたい気持ちになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆかりん、これはいったいどういうことなのっ!!!

 

 

 

 

 




 ゆうかりんの日傘については私の独自設定・独自解釈ですのでご了承下さい。
 
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