風見幽香に転生した私は平和を愛している……けど争い事は絶えない(泣)   作:朱雀★☆

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第二章『寂しい少女と恐れられる花妖怪』
第一話・友達がすくない事に最近気づいた今日この頃……


 最近少しずつだが気温が上がり、ぽかぽかとした暖かさは眠気を誘う。

 今日も天気が良く雲一つない空は青色に彩られ、明るい日の光を放つ太陽は見ていて気持ちがいい。ただ、明るすぎて眩しいのが困りどころかな。

 

 まぁそれは良いとして、あの戦いから約1ヵ月が経ち、幻想郷は平和を取り戻した。

 平和にはなったんだけど、最近ある“遊び”が流行り出して、幻想郷は今、一部だが活気に満ちている。

 その遊びとは“スペルカードルール”もしくは“弾幕ごっこ”と言われる遊びだ。これは幻想郷を幻想郷として維持するために必要な役割を代わりに果たすことができる遊びなんだよね。

 

 その役割とは《妖怪が人間を襲い、人間は妖怪を退治するという関係》で、この関係はとても重要なことだ。

 もしもの話だが、人間が妖怪を恐れず存在を否定するような事が起きれば、妖怪の力が弱まりこの関係性は崩れ、人間は自分たちが住みやすい環境にするため、妖怪を排除するために動くだろう。

 

 そうなれば“幻想郷”というものが無くなってしまう。

 だからこそ、この“遊び”は重要なんだ。

 

 疑似的とはいえ決闘を行うことが可能であり、なにより殺し合いじゃない。スポーツ感覚に近い決闘だから、妖怪は気軽に異変を起こしやすくなるし、人間も異変を解決しやすくなった。

 昔と比べればだいぶ平和な世の中になったもんだよ……。

 

 そう、昔と比べればなんとも楽しい決闘か、そう思うのだが、流行りすぎてちょっと困ることが度々起こるようになったんだ。

 ある程度の力を持つ妖怪が所構わず弾幕ごっこをするせいで、花畑が荒らされるわ森が荒らされるわでもうね……。

 

 温厚な私も流石に頭にキテさ、そこらで弾幕ごっこやっている妖怪を叱ったら、皆して青い顔しちゃって、何故か命乞いまでしてくるし。

 別に暴力を振るおうなんて考えてなかったし、ましてや、殺そうだなんて考えてなかったからね。あまりに真剣にお願いされたから思わず笑っちゃったんだけど、そしたらいきなり妖怪共が一斉に気絶したんだよね。

 

 訳がわからなかったのが素直な感想。

 私の笑顔を見て気絶する要素がわからない。ま、最終的には気にしないことにしたけど……。

 

 若干私の心は傷ついたよ。

 

 それから一週間は花畑で閉じこもっていた。花にずっと話しかけていたな。

 寂しい奴と言われても何も反論できない自分の境遇に自然と涙が……。

 

 私は寂しい気持ちと悲しい気持ちを切り替えるために、今、博麗神社の縁側でお茶を飲んでいたりする。

 

 

「突然お邪魔して悪いわね」

「全然悪びれる様子もなく、よくその言葉が出るわね。幽香」

 

 不機嫌な声音で話す目の前の少女は、袖が無く、肩、腋の露出した赤い巫女服という奇抜な格好に、彼女のもう一つのトレードマークである、自己主張の激しい大きな赤いリボンが後頭部で結ばれている。この少女の名は『博麗(はくれい) 霊夢(れいむ)』といい、博麗の巫女という役職を持つ少女だ。

 

「ちょっと話し相手が欲しかったのだけれど、今、忙しい?」

「……別に忙しくはないわよ」

 

 仏頂面で答える霊夢に、心の中で可愛いっ!! って悶えていたのは内緒。

 

 

 彼女は歴代の博麗の巫女の中でも力を持っている。それこそそこらの妖怪じゃ手も足も出ない。

 強く、だけれど普通とは少し、いや、かなりかけ離れた存在だ。色々な意味でね。

 

 まず性格だが、彼女は単純で裏表がなく、喜怒哀楽が激しい。ただ、誰に対しても心を開かない困った娘ではある。彼女が唯一心を開くのはゆかりんぐらいかも。私にも心を開いてほしいけど、彼女の心の中に私が入れる余地はないだろうね。

 彼女の、誰に対しても優しくもなく厳しくもない平等な性格は一見すると、悪くないように聞こえるが、実はそうじゃない。

 何故なら、それは逆に誰に対しても興味を持たず、仲よくしようとも思わないからだ。

 

 寂しいと思わないのか? 誰かに甘えたいとは思わないのか?

 それを聞くのは簡単だ。実際聞いたことがある。

 だが、答えはいつも決まってこうだ。

 

「別に」

 

 この一言だけで終わる。

 彼女のそんな態度、姿を見ていると、少々心配になる。

 博麗の巫女という大役、親のいない環境、そういった事があるから、素直に誰かに甘えるということが出来ないのか。元々の性格なのか。

 それを知ることが出来ないのが口惜しい。

 

 私だけなのかな、そう思うのは。

 

 ……まぁ、私に心配されるようなやわな心ではないか。

 

 少し、感傷的になっていた私は無意識に霊夢をガン見していたのか、怪訝そうな顔で霊夢は口を開いた。

 

「なによ?」

 

 若干引き気味に言われていることに軽いショックを受けながら、私は感情を表に出さずに答える。

 

「いいえ、なにも」

「いや、絶対なんか考えながら私の事見てたでしょ」

 

 尋問するような眼差しに私は正直に答えることも出来ず、曖昧に笑うことしかできない。

 すると、霊夢は溜息を吐く。

 

「はぁ……もういい。アンタはいつもそうやって曖昧に笑って誤魔化すから」

「そう言わないで、せっかく楽しく話をしようと思って来たのよ?」

「それはアンタが勝手に、でしょ」

 

 正直に話さなかったのが気に食わなかったのか、霊夢はプイッと顔を背けてしまう。

 くぉぉぉおお……私をそのかわゆさで萌え殺ししようとするのか!? 流石は博麗の巫女よ。末恐ろしい……。

 

 っと、そんな馬鹿なことを考えている暇はない。このままだと霊夢の機嫌が更に悪くなって会話が出来なくなる。

 慌てた私は話題を変更することにした。

 

「そう言えば、紫は最近ここにはくるのかしら?」

「紫? そうねぇ、最近は頻繁に来るようになったわ。なんか弾幕ごっこの修行とか言って無駄に気合い入れてたわね」

 

 げんなりした顔で言う霊夢に、私は苦笑いを浮かべる。

 この少女は努力という言葉が嫌いなようで、自分からは決して修行をしない。だから紫はわざわざ睡眠を削ってまでここに来るのだろう。ご苦労なことだ。

 

「そう嫌な顔をしないであげて、紫は貴女を思ってしていることなのよ?」

「私を思うなら修行なんてしないで、今みたいにゆったりお茶を飲んでいたいわ」

 

 不満を隠さずに言う霊夢に、私は未来の、それもそう遠くない時期に起きる異変が心配になった。

 正直、この世界は原作の知識があったとしてもあまり意味がないのかもしれない。

 完全に意味がないとは言わない。どういうことが起きるのか、どういった能力があるのか、どういう人物かをある程度は原作知識で知ることが出来るからだ。

 

 だが、それはあくまで知識。

 現実でゲームの通りに事が運ぶとは、私は思えない。

 

 もしかしたら、霊夢には異変を解決することが出来ないかもしれない。もしかしたら、私が思っていた異変とは違う異変が起きるかもしれない。

 考えるだけで様々な可能性、先の見えない未来が思い浮かぶ。

 

 そもそも、私の持つこの知識は未来を見通したモノではない。

 更に言えば、この知識が間違っている可能性もある。

 ゲームと同じ世界にいるというだけで、これから起きる事がゲーム通りになると断言など出来はしないのだ。

 

 なぜなら、この世に絶対はないからだ。

 

 だからこそ、霊夢には是非とも修行をしてもらいたいが本人がこれだからね。

 未だに渋い顔をしている霊夢に、私は諦めた視線送りながら内心肩を落としていると、空から元気の良い声が聞こえた。

 

「よぉー霊夢! って、幽香もいるのか」

 

 霊夢には嬉しそうな声音だが、私には明らかに嫌そうな声音で言う少女の姿を、私は顔を上げることで確認する。

 金色の長い髪を太陽の光でキラキラと美しく輝かせ、その輝きを隠すようにリボンの付いたつばの広い黒い三角帽子が少し深く被っている。

 箒に跨り、黒い服に白いエプロンを着た姿はどっからどう見ても魔法使い然とした身なりだ。

 

 彼女の名前は『霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)』と言って、自由奔放で負けず嫌いのやんちゃな少女。

 ついでに言うと、霊夢とは正反対の努力家だ。

 

「あら? 私がいてはいけない……?」

「え、えっと、そう言う意味じゃないぞ? ただ、珍しいな~ってさ!」

 

 器用に箒の上でわたわたと腕を振る魔理沙の必死さに、私は思わず笑みが零れる。

 

「そんなに焦らなくても、何もしないわよ」

「……幽香、絶対私の反応で楽しんでるだろ」

 

 ジト目でこちらを見る魔理沙に、私は満面の笑みを見せて言う。

 

「だって、魔理沙の反応って面白いもの」

「もう言い返す気力もないぜ」

 

 箒の上で疲れたように項垂れる魔理沙。

 少し弄りすぎたかな? まぁ魔理沙は弄り甲斐のある女の子だから仕方ないよね。

 

「で、魔理沙、一体なにしに来たのよ」

 

 私が魔理沙を弄っていた事は軽くスルーして、霊夢は魔理沙に要件を聞く。

 なんか若干棘のある言い方なのは気のせいかな?

 

「なんかお前、機嫌悪くないか?」

 

 あ、やっぱり魔理沙も私と同じ気持ちみたいだ。

 

「うるさいのがきたら、そりゃ機嫌も悪くなるわよ」

「煩いって、せめて元気がいいって言ってくれよな」

 

 魔理沙は何故かドヤ顔でそんなことを言い、地面に降り立つ。

 

「ま、別に用がある訳でもなかったが、たった今決めたぜ」

 

 くいっと三角帽子のつばを人差し指で上げ、魔理沙は霊夢を見る。

 

「霊夢、弾幕ごっこしようぜ!!」

「いや」

 

 即答だった。

 そりゃあもう、完璧なまでに否定のね。

 一切の可能性も考えられないほどに簡素だがダメとは言わせない雰囲気を漂わせた一言。

 

 だが魔理沙はめげない。

 

「まぁまぁ、そう言わずにやらないか?」

「いやって言ってるでしょ」

「意外にやったら楽しめるかも知れないぞ」

「だから、何度も言ってるでしょ。いやよ」

「いいじゃねぇかよ~やろうぜ~?」

 

 そんな会話を続けながら霊夢の断りもなく魔理沙は居間の中に入り、お茶碗を手に戻ってくる。

 

「お茶もらうぞ~」

「って言いながらもう貰ってるじゃない」

 

 霊夢は呆れた視線を魔理沙に送るが、当の本人は気にもせずお茶をお茶碗に注ぎ、息を吹きかけて、恐る恐る口に入れる。

 

「ふぅーふぅー、ズズッ……ふぅ、いやぁ美味い」

「ほんとアンタは自由ね」

「照れるぜ」

「褒めてない」

 

 見ていて面白い二人の息の合ったやりとりを観察していると、ふと思う事がある。

 

 羨ましいな、って……。

 

 この世界に生まれ落ちる前の私にも、こんな関係を持つ友はいたのかな。

 はは、何言ってんだか、私には家族も友達の記憶もないというのに。

 長い長い年月が経っているのに、未だに忘れられないこの記憶、とっくに捨てたと思っていたけど、そんなこともなかった。

 

 まるで呪いね。

 

 それとも、私が単に女々しいだけか。

 

「ん? どうしたんだ幽香? なんか難しい顔してるぞ?」

 

 少々思考に沈んでいたのか、魔理沙が不思議そうな顔でこちらを見ていた。

 

「なんでもないわ。ちょっと昔を思い出していただけよ」

「昔ね。なんか嫌な事でも思い出したのか?」

「それ、普通は聞かないわよ?」

「気になることは聞く主義ってのが私だからな」

 

 自信満々な表情で言うことではないような気がするが、ま、魔理沙だから仕方ないか。

 私は苦笑しながら口を開く。

 

「嫌な事って訳ではないわ。ただ、思い出したいと思っても思い出せないことがあるのよ」

「忘れたのか?」

「そうね……忘れてしまったんだと思うわ」

 

 博麗神社の外側を見つめ、私は魔理沙の質問に答える。

 場が静寂に包まれ、静かな時間が流れる。

 

 私としてはしんみりとした空気にしたくはなかったが、口が勝手に動いていた。

 たぶん、誰でもいいから聞いてほしかったのかもな~。

 私って本当にメンタル弱いわ。

 

 心の中であちゃあと思いながらも、なんとかこの場の空気を変えようと、口を開ける。

 

 

「ま、私の話は良いとして、魔理沙は霊夢と弾幕ごっこしないのかしら?」

「あ……」

 

 完全にそのことを忘れていたのか。

 口を大きく開けて固まる魔理沙。うん。可愛いわ。

 

「そ、そうだった。幽香、思い出させてくれて助かった。よし、じゃあ弾幕ごっこやろうぜ。霊夢!」

「なにが、よし! よ。やらないって言ったじゃない」

「意固地だな。一回ぐらい良いじゃないか」

 

 不満そうな顔で言う魔理沙に、霊夢は聞く耳もないというように、暢気に欠伸していた。

 

「はぁ……仕方ない、じゃあ幽香、私と弾幕ごっこしようぜ!」

 

 気持ちの良い笑顔を私に見せて言う魔理沙に、私は少し悩む仕草をする。

 いやさ、弾幕ごっこって当たったら痛いじゃん? しかも、相手は魔理沙だから、火力抜群のスペルカード使ってくるし……正直やりたくない。

 

 けど、あの笑顔を崩したくもない。

 

 

 ――ならやるしかないじゃないか。

 

 

「わかったわ。それなら、少し広いところに行きましょ」

「おっし、そうこなくちゃな!」

 

 魔理沙は元気よく箒を振り回しながら広場へと向かう。

 私はそれに後ろから続こうと立ち上がると、霊夢が声をかけてくる。

 

「あんまり派手に暴れないでよ?」

「私は抑えられるけど、魔理沙はわからないわよ?」

「なら伝えておいて。もし神社に傷をつけたらただじゃおかないってね」

「怖いわね。ちゃんと伝えておくわ」

 

 霊夢の目がマジなのを理解した私は、表面上は余裕に答えていたが、内心ガクブルだよ。これは魔理沙にちゃんと伝えておかないとね。

 冷や汗が背中に流れるのを感じながら歩こうとしたが、またしても霊夢に止められる。

 

「それと、遊びすぎてケガなんてかっこ悪いことにならないようにね」

 

 頬を若干赤くして言う霊夢に、私はその場で鼻血を出さなかったことを誇るべきことだと思ったよ。

 可愛すぎ。ツンデレ霊夢可愛すぎだよ。

 

「ふふ、気を付けておくわ」

 

 私はこれ以上霊夢を見ると本当に鼻血が出そうになったため、もったいないが、顔を魔理沙が待つ広場に向け、私は霊夢に一言伝えて歩いた。

 

 

 

 

 もう何も怖くない。

 

 

 

 


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