風見幽香に転生した私は平和を愛している……けど争い事は絶えない(泣) 作:朱雀★☆
太陽の光をバックに、魔理沙は箒に跨って空に浮かぶ。
私はそれを確認し、日傘を広げて空を飛んだ。
すると、魔理沙がニヤニヤした顔で口を開く。
「霊夢が何か言ってたのか?」
「えぇ。神社に傷をつけたらただじゃおかないって言ってたわ」
クスリと私が笑いを零すと、魔理沙は苦い表情で答える。
「それ、笑い事じゃないだろ。弾幕ごっこ中にそんな配慮なんて出来る訳ないしな」
「大丈夫よ。神社には当たらないように弾幕を消してあげるわ」
「ほぉ? それは私の弾幕を全て防げるって言っているのか?」
私のセリフに、魔理沙の表情は一気に不機嫌に。
いや、魔理沙の弾幕は決して楽に防げるわけじゃないんだ。私はただ、神社を気にせず弾幕ごっこしていいよって伝えたかっただけなんだ。
うう、言葉のチョイスをミスした……。
心の中は両手両膝を地面につきたい気持ちだよ。
「ま、幽香が相手だし、私もはなっから手加減なんてことする気はないからいいさ。全力で勝ってやる」
やっちまった、と落ち込んでいる私の心境を無視して、魔理沙は俄然やる気に満ち溢れ、私に指を突きつける。
「今回の決闘内でのスペルカードの使用回数は二回。それでいいな?」
「構わないわ」
「よし、なら、始めるぜ?」
魔理沙の言葉を皮切りに、美しくも危険なゲームが始まった。
「先手必勝! 油断大敵ってな!!」
先手を取った魔理沙は青色のミサイル型弾幕、マジックミサイルを周りに展開し、銃弾の様な速さで弾幕を飛ばす。ただ、ぼ~と見ていた私はあっという間に魔理沙の弾幕で私の視界は埋め尽くされる。
青色に光る弾幕は客観的視線で言えば綺麗に映るが、それが眼前まで迫りくれば話は別だ。
いや怖いから!
「せっかちは嫌われるわよ」
私は魔理沙のいきなりの攻撃に少し文句を言いながら、日傘を使って、神社に当たらないように弾幕を弾く。
神社の方向ではない弾幕は軽やかに、まるで踊り子の様なステップで次々と来る弾幕を避け続ける。
全ての弾幕を難なく躱す私に、魔理沙は口笛を吹く。
「ヒュ~~流石は幽香だな」
「ふふ、褒めても何も出ないわよ?」
「いやいや“何も”ってことはないだろ」
魔理沙の言葉を肯定するように、私はお返しの弾幕を張っていた。
弾幕の形は向日葵を模様したもの。
これは、私が花の中でも向日葵が好きだから、という理由もあるし、奇しくも“風見幽香”も同じように向日葵がお気に入りだったことから、弾幕の形をこれにした。
「今度は私の番ね」
「別にずっと私の番でも構わないけどな」
「あら、それだけじゃつまらないわ」
軽口を叩く私と魔理沙だが、どちらも油断も隙も見せない。
「花に埋もれなさい」
私はその言葉と同時に、向日葵型弾幕、フラワーショットを雨の如く空から下へと、魔理沙のいる方角に降らせる。
魔理沙はそれに焦りを見せるどころか、余裕の笑みを見せる。
「花には埋もれてみたいが、その“花”はお断りだぜ! 魔符“スターダストレヴァリエ”!」
魔理沙のスペルカード宣言がなされた瞬間、数え切れない程の星型の弾幕が周囲に出現し、景色が星で染まる。
色は赤や青、黄色や緑と様々な色で彩られ、正直見ていて目がチカチカするな。
それと、よく見るとその星型弾幕は全て連結し、一つの大きな星が形作られていた。
巨大な星型弾幕は恐るべき速さで私の放ったフラワーショットを飲み込み、徐々に迫り来る。
視界を覆う星の弾幕に、私は冷静に思った。
これヤバくね?
あんなの食らったらひとたまりもない。なら私もカードを切ろう。
「咲き誇りなさい。花符“幻想郷の開花”」
今まで私の眼前に迫り来ていた星型弾幕の周囲に、多くの花型弾幕が出現する。
一輪の白い花、儚くも凛々しき一輪草、自己主張の強い真っ赤な花、情熱の赤い
それは魔理沙のスペルカード、魔符“スターダストレヴァリエ”を覆い、食い潰す勢いで咲き誇り、空に満開の花を咲かせた。
まさに幻想的な光景、淡く光る色とりどりの花の弾幕が星とぶつかり、散る様は、まるで儚くも力強く光る花火。
今が決闘をしているということを忘れてしまいそうな美しさだ。
「――よそ見厳禁だぜ?」
目の前の光景に目を奪われていた私の前方から、互いの弾幕を避け、一直線に突っ込んでくる魔理沙の姿が目に映る。
更に言えば、魔理沙の周りにはビーム型弾幕、イリュージョンレーザーが左右に展開され、私に向かって絶賛放出されていたりする。
頬に掠る魔理沙の弾幕に肝を冷やしながら、私は咄嗟に日傘で防ぎ、魔理沙のイリュージョンレーザーの射程から横にズレる。
この弾幕は真っすぐしか発射出来ないから、本来、避けるのはそこまで難しくはない。
だが、魔理沙の機動力が合わさると厄介この上ないものになる。
「ははっ! 遅いぜ幽香!」
その言葉通り、魔理沙は猛スピードで縦横無尽に駆け巡り、私の放つ弾幕は魔理沙の速さに追いつけず、むなしく空を切るばかり。
逆に、私は魔理沙の放つ弾幕を防ぐばかりと、一気に劣勢に立たされた。
やっぱり魔理沙のスピードは速い。私の飛行するスピードはお世辞にも早くはないから、どうしても後手に回ってしまう。
ま、だからと言ってずっと後手に回るのも面白くないよね。
私は向日葵型弾幕のスピードを減速させ、代わりに一つ一つの弾幕を大きくする。
「遅すぎて欠伸が出るな」
「言ってなさい」
小馬鹿にした魔理沙の言葉に、私は気にせず弾幕を張り続ける。
無心になって花の弾幕を放ち続け、数が徐々に増え始める。魔理沙はそれでも華麗な動きでそのすべての弾幕を避け続け、こちらに弾幕を飛ばしてくる余裕まであった。
それでも私はこの行動を変えない。その不可解な行動に不信を抱いたのか、魔理沙は一度止まり、周囲を見渡す。
「くそ、してやられたか」
周囲を見渡した後、大きく溜息を吐く魔理沙。
どうやら、私がやっていた事の意味を漸く気づいたみたいだね。
私の行動にはちゃんとした意味があった。勿論、何も考えずに弾幕を放っていた訳ではない。
第一、魔理沙に普通の弾幕を当てるのは困難だ。しかも、飛行能力が低い私は更に難しくなるのは自然なこと。
ならどうするか?
答えは簡単。
“動きを封じ”ればいいのさ。
どんなに機動力があろうと、避けるための“場所”がなければ意味がない。
私は魔理沙の行動を制限するために大きな弾幕をそこかしこに留めさせていた。これで魔理沙も迂闊に飛び回れなくなった。
やっと形勢逆転かな?
「さぁ、どうするのかしら?」
「どうするって? そんなもの決まっているさ」
魔理沙そう言い、帽子を手に取って中をまさぐる。
あ、今すごい現実から目を背きたくなった。
私の現実逃避を他所に、魔理沙はある物を帽子から取り出した。
「パワーで押し切るのさ!!」
魔理沙は、八角柱の形をした小さな筒の様な物を私に見せつけるようにして言った。
あれはミニ
まぁザックリ説明すると、ミニ八卦炉に魔力を注げば注ぐほど火力は上がり、最大出力なら山一つ消し飛ばせる火力を有しているってこと。
こんなに幼い少女が持っていていい物じゃない。
全く、霖之助さんは心配性なんだから、いくら家出少女が心配だからってこんなとんでもないマジックアイテムを渡しちゃダメでしょ。
内心で文句を垂れながら、私は無駄な抵抗とも思えるが、魔理沙にマスパしないように遠回しに言ってみる。
「パワーだけなんて華がないわ」
「魔法は派手だからこそ華があるのさ……火力のない魔法は華がないぜ? 恋符“マスタースパーク”」
魔理沙はその言葉と同時にミニ八卦炉に魔力を注入し、白い光が急速に溢れ、次の瞬間、極太レーザーが放たれた。
交渉失敗。
うん。何言ってもそれ止められないってわかってた。
――はぁ、仕方ない。魔理沙がマスパをするなら、こちらも“少し”本気を出そうか。
眼前に迫る光の奔流に向け、私は傘を前に出す。
気負う事もない。
力む事もない。
ただ少し、妖力を開放する。
魔理沙……貴女は間違った選択をした。
私に“力勝負”をした時に、貴女の命運は決まってしまった。
「吹き飛びなさい」
私の言葉と同時に、日傘の先っぽから魔理沙のマスパと同種の光――元祖マスタースパーク――が放たれる。
大きな光の塊がぶつかり、大気が揺れる。
衝撃波だけで木々が弓の様にしなり、大地は地震でもあったかのように揺れる。
力と力のぶつかりは、一見拮抗しているように思えるが、そんな事はない。
何故なら、魔理沙は魔力を全開にして放出しているが、私は鼻歌を歌うぐらいに余裕を持っている。
力をセーブしているからね。
うっかり全力なんて出したら、魔理沙がこの世からいなくなっちゃうよ。
文字通りね。
「貴女のパワーはそんなもの?」
「うっせぇ! まだまだこれからだ!!」
魔理沙は荒い口調で言い放ち、ほんの少し、魔理沙のマスパが私のマスパを押し返す。
あら? 意外に余力が残っていたみたいだ。
けど、それぐらいじゃ簡単に押し返せるよ?
私はまた少し妖力を開放し、押された光を戻す。
「ぐぬぬぬっ」
「ふふ、もう終わりかしら?」
そろそろ魔理沙の魔力も尽きる頃合いだろう。
ここで一気にいかせてもらう。
グッと日傘を持つ手に力を入れる。
「うわ!? くそっ! 幽香の奴、余力残してやがったのか!?」
ドンドン押されていくことに危機感を覚えたのか。魔理沙の焦った声が聞こえる。
ふっふっふ、魔理沙にはいいように翻弄されたことだし、ここでちょっとしたお仕置きをしよう。
妖力を一瞬だけ八割ほど開放し、徐々に浸食するように魔理沙のマスパを押していた私のマスパが、刹那の時に魔理沙のマスパを飲み込む。
「なっ!?」
魔理沙の驚愕した声が私の耳に届く。
おっと、このままじゃ危ない。
私は意識的にマスパを放つ位置を変える。
極太レーザーは魔理沙の顔の横を通り過ぎていく。
ふぅ危なかった。あのままだったら私のマスパが魔理沙を飲み込んじゃうところだった。
溢れ出していた妖気を抑え、私は閉じていた日傘を開く。
「私の勝ちね?」
「……私の負けだ」
頬を膨らませて言う魔理沙に、私は微笑む。
いやぁよかったよかった、魔理沙のマスパを上手く拮抗させられて。
力の制御が得意じゃないから、魔理沙のマスパを上手く拮抗できるか、そこが心配だった。
ま、結果は魔理沙のマスパを良い具合に拮抗させられたから、その後ちょっとしたお仕置きができたしね。
満足満足!
「くそっ! 今日こそ幽香に勝てると思ったんだけどな」
「何度やっても私が勝つことは変わらないわ」
苦笑しながら私が言うと、魔理沙はムッとした顔をする。
「そんなこと、やってみないことにはわからないぜ?」
「そう思うなら、何度でも受けて立ってあげるわ」
「言ったな? よーし、何度でも勝負してやる」
ニヤッと笑みを作り、魔理沙は言う。
あ、藪蛇だった。
「勝負はついたことだし、一旦神社に戻りましょう」
「お、そうだな」
コロコロと表情を変える魔理沙を連れ、私達は霊夢が待っているだろう縁側へと飛んでいくと、霊夢は縁側でお茶を飲んでいた。
「霊夢、私にもお茶くれ」
「それぐらい自分で淹れなさいよ」
素気無く返され、口を尖らす魔理沙。
私はそれを見ながら自分でお茶を淹れようとすると、霊夢に止められる。
「いい、アンタのはもうそこに淹れてあるから」
「あら、淹れてくれたの?」
「偶々よ」
私に顔を見せないようにする霊夢に、私はにやけた顔しないように努める。
まぁ、そんなことしなくてもこの顔に限ってにやけるなんてことはしないだろうけど。
「ずりぃ~なんで私は駄目で幽香はいいんだよ~」
「うっさい。偶々だって言ってんでしょうが」
「絶対準備してたな」
「なにか言った?」
「いいえ~なーんも」
不貞腐れた魔理沙に、霊夢がギラッとした目で睨む。
おおう、嬉しいけど二人が喧嘩するところは見たくないよ。
「魔理沙、私がお茶を淹れるからそんな顔しないの」
「お、それならいいぜ?」
「なんで幽香が淹れるのよ……」
今度は霊夢が不貞腐れた顔をする。
え、これどうすればいいの!?
誰かこの二人を笑顔にする方法教えて!
若干現実逃避をしたくなる私は、取りあえず魔理沙のお茶を淹れるために、戦略的撤退をした。
ほとぼりが冷めるまで、居間でゆっくりしてよ。
縁側で言い合う二人の少女から、私は逃げる事しか出来なかった。
ヘタレと言うなかれ、これは必要なことなのだよ……。
長らく更新せず、誠に申し訳ありません。
今回『魔理沙と弾幕ごっこ』を一度消し、再投稿させて頂きました。
様々な人の意見を聞き、私が決断したことです。
では何が変わったか? それは幽香の扱い方です。
前回の幽香は、極太レーザー、まぁ元祖マスパとも言われるものを使えませんでしたが、改稿版では使えることにして、話を進めることにしました。
やはり幽香と言えば、あの極太レーザーだ! という方の意見が多く、幽香が極太レーザーを使えないのは違和感がすごいとも言われました。
確かに、と、私自身納得する部分が多く、今回、再投稿するということにしました。
読者様にはご迷惑をおかけしますが、何卒、ご容赦くださいますようお願い申し上げます。