俺の問いとその先は。   作:to110

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Second/album

俺が始業式にあった事故の詳細について、語るとしよう。

天気は晴れ、雲もまばらにあって、非常に過ごしやすい天候だった。

俺は自転車をこいでいた。おニューのママチャリである。スーパーの安売りで10000円で買えた。こういうものくらい親に買ってもらいたかったものだ………

そして、車一台が通れば歩行者も止まらなければいけないというほどの道幅のところ、犬を散歩している少女がいた。犬に振り回されていたというとんでも光景を残して。そして案の定少女は倒れた。

悪かったのは倒れた位置とタイミング。

倒れた位置が道路の中央じゃなければ、たまたま車が来るタイミングじゃなければ、そんな偶然が見事に合わさった。彼女は腰を抜かしていて立てそうもなかった。車はその少女に気づいたが、ブレーキを強くかけたって間に合いそうもない。ちなみに俺はそんな厄介ごとに関わる気なんてなかった。だから無視しようとした。

だが、結果として俺は事故に遭っている。ほんと、ね。俺の体もいうこと聞かなくなってしまった。

 

ほんの、ほんの一瞬頭をちらついたいつかわからない、どこかわからない、そのに照らし出される人が誰なのか、全てが謎に包まれた光景が、ちらついてしまったから、俺は動いたのだろう。少女は中学生くらいか、それより幼いか。とにかく小さく見えた。会話してないからしらないけど。車は高級車だと誰もが思う車であった。一体どこの金持ちだよ。ひかれたからその代償として俺を養ってくれればいいのに。俺一人増えたって変わらないだろうに。

………いや、だめだな。

 

 

『………だめだよっ』

 

 

一体誰の声なのだろうか。

 

 

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本日7月19日、曇天。

 

 

テスト返しの喧騒もすでに過ぎ、終業式に臨む。てかなに、なんでリア充どもはたかだか一ヶ月会えないだけなのにいつも以上に会話してんの?そんな短い、つーか一瞬の別れすら悲しいのかよ。感覚おかしいだろ、どうせ連絡とか取り合うんだろ。ほんと、意味わからん。

なんてくだらないことを考え、時間を過ごす。それにしても、式のときの校長先生のお話は、校長先生のあたりはずれに影響している。いい校長だと聞いていてためになるが、悪い校長だと本当になにが言いたいのかわからない挙句に長々と時間をとる。現在の校長は後者である………

 

長い長い校長先生のお話も終わり、我々生徒は各教室に戻るべく、足を動かす。てかお話の内容が、要約すると”部活と勉強頑張ってください”というもの。その結論のために20分消費とかありえねぇだろ。とっととホームルームやって、とっとと帰りたい。今日は両親が同僚にお呼ばれで帰ってこない。一人で自宅を満喫できるだなんて最高じゃないか。

 

まさか夏の課題があるとは思いもしなかった。高校生にもなってそんなもん出されたって無駄だろ。課題やったって、そもそも勉強する気のないやつはやるだけ無駄だし、真剣に取り組むやつにしろそんな枷があったら万全の状態で勉強ができない。学校はもう少ーーーーーいや、もっと生徒のことを考えてもらいたいものである。やはり、学校というのは社会の縮図ということであっている。上からの言い分(世の中ではこれを命令という)は絶対だし、弱者は徒党を組んでやりすごさなければいけない。徒党を組まないぼっちはやはり最強である。

なんていう感じに浸ってたらいつの間にかホームルームも終わって、生徒が下駄箱に流れていった。こういう行事のあとって最初にだーっと流れるからしばらく待機が正解。流れに身を置いて行動とかありえない。周りに流されて行動するようなやつは信用できない。

ま、俺は信用なんてされないから関係ないんだけどね。

 

 

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本日7月26日、晴天。

 

 

………やばい。夏の課題が終わってしまった。いやほんとに終わってしまった。うんほんと、面倒なの以外が終わったとかじゃなくて、ほんとに全部終わった。やばいどうしよう。本格的に夏休みに目標がなくなった。いや、目標はあるのか。最近ブック・オンで大量にライトノベルを買ったからそれの消化作業がある。消化を消火にするととんでもなくかっこよくなることに気づいた。これも俺の国語力の成果だな。

実際のところ、予定より一日早く課題が終わったというだけのことだから大して俺のスケジュールに影響がない。あるのは明日に”課題終了”という文字を消してその日を真っ白にするという作業があるのだが、それでも大した影響ではない。あえて触れていなかったが、夏休みのスケジュールはそれ以降真っ白である。

 

 

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本日9月1日、晴天。

 

 

おい、夏休みの行動はどうした。とかいう質問に対しての返答をあらかじめしておこう。

なんにもなかった。

罰ゲームで女の子が遊びに誘ってくれることも、親と一緒に旅行というのも、本当になにもなかった。ちなみに親と一緒にと言ったが、別に両親だけで行ったわけでもないので勘違いしないように。夏休みの俺の行動だが、7時起床。ゲーム。8時朝食。食べ終わり次第勉強。10時からゲーム。12時昼食。食べ終わり次第読書。14時から勉強。・・・・・・

説明が面倒になった。まぁという感じに毎日同じことを繰り返していたわけだ。

 

始業式。それはこれからの憂鬱な日常に対して悲しむという日であると同時に、今までの休みの反省を余儀なくさせられる日だ。しかも校長先生のやたら長い話を聞かされる。校長の自己満足のために生徒を使うのはやめていただきたい。心の中でそう祈る日である。久々に会った友人(笑)たちとの会話を楽しんでいる騒がしいやつら。別に俺は彼らを否定などしていない。騒ごうと、喚こうと、それは彼らの自由だ、人権が保障されている。俺が許せないのはあいつらの会話の中身にある。いやほんとはもっとあるんだけどね。その中身というのが、俺課題やってねーわーと自慢げにしゃべって、それに対して俺もだわーとか、そーれやばくね?とか課題を完全に会話のネタにしていることだ。話のネタにされたことのないお前らにはこの気持ちはわかるまい。影で散々に言われ、さらに聞こえるような声でクスクス笑う。これをされたときの精神的ダメージを知らないお前のその会話はすごく不愉快だ。つまり俺は課題に同情しているのだ。

 

ちなみにそういったやつらの会話の中には明日から始まる実力テストの話はなかった。存在すら忘れられてる実力テスト、俺みたいで、ほんと、かわいそう………

 

 

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本日9月7日、雨天。

 

 

俺が一学期に見つけた昼飯を食べる場所、通称:ベストプレイスの場所は外。こんな天気では教室で食べるほかない。そうすると、本来は静かに食べなければ行儀の悪い食事も、騒がしい。だが、この日はこの騒がしさが功を奏した。ようやく噂やらなんやらが回り始めたというこの時期、学年一位を毎回、しかも全教科とっているやつがいるという情報が俺の耳に入った。そして、その人は女の子でさらに美少女だとか。J組だから縁なさそうだからチラリと見ておこう。噂が流れ始めたということは人だかりができているはずだから、その女の子というのが誰かというのも容易にわかる。人ごみは利用の仕方によってはとんでもなく役に立つことがあるということをいい加減、世の中のぼっちは覚えた方がいい。

思い立ったが吉日、すぐ行動に移すべし。

 

J組の近くに来たが、人ごみがすごい。学年一位というだけでも見にいくだろうが、それが美少女ともなればとんでもない人の量になるのは予想済みではあるが、やはり予想していてもあてられるな。いざ、臆せず前へ。

 

 

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本日9月14日、晴天。

 

 

女の子は見たことのある人物だった。というか話したことのある人物だった。階段で助けてくれた女の子、黒髪の美少女だった。彼女が学年一位、か。これは、

 

 

八幡「はぁ………」

 

 

ため息しか出ない。あんな、中心人物に俺が近づけるわけもない。お礼は、言えそうにない。そんなことを考え、少し寂しく、悲しくなった。まぁでも仕方ない。元からそういう運命だったというだけだ。別にラブコメに期待なんてしていない。だが、彼女の見せたあのときの柔らかさ表情を見ることができないというのが少し残念なのと、やはりお礼すら言えないのは、味が悪い。学年一位なんてちやほやされるのだ。つまり俺とは無関係で対照的な存在。だが、彼女の去り方は、そういう違う世界の人という感覚ではなかった気もするが。なんて、期待してるだけか。いい加減諦めも覚えないと。希望なんて世の中にあっていいものではない。そんなものを持っては、

………また自分に失望することになる。

 

 

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本日9月22日、雨天。

 

 

今日は居残りで先生に呼び出しをくらってた。なぜ呼び出されたかというと、あまりにも文理の点数に差があるから、ということだ。国公立にいきたいならまずいと言われたが、私立にいくと言ったらそれでも数学は頑張ってやれよと言われて返された。そんな帰り道。

紅葉も、少し夏の暑さを残す涼やかな風も、秋を感じさせる。秋という季節は実にうざったい。気温、湿度、景色、その他諸々自然はいいものを提供してくれるのに、それに対して文化祭などの学校行事で地球を破壊する人間。まったく、なぜ地球に悪いことをするんだ。これだから複数で行動をする人間は。やはり国連はぼっち推奨委員会を作って積極的にぼっちを推めるべきである。

 

 

「好きです!付き合ってください!」

 

 

ちっ。せっかくぼっちを広めるための策略(妄想と読む)を練っていたのに。下駄箱で告白とかすごい度胸あるよな。誰に聞かれてるかわかったもんじゃない。ソースは俺。誰もいないはずの校舎、下駄箱で告白したら周りでソワソワ、コソコソ、ヒソヒソ、ククククという声がしてきた。ククククとか絶対曹長がいるだろ。これわかるかな?

 

と、相手のお方は誰かな?ちなみに告ったのは男子。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

学年で知らない者はいないだろう。学年一位の頭を持つと共に、学校一の外見を持つ少女。

てか返答が早い。秒も入らず、というか考える間もない返答。さらにすぐ帰っていった。そしてあの声の冷たさ。絶対零度を発した彼女は、彼女の声は、とても冷たかった。

それにしても、彼女の声ってこんなに、その、なに?柔らかさがなかったか?硬く冷たい、その声は冷酷と言って違いない。こんな声での会話は記憶にない。

 

さて、そんな空気の中にいる必要もないので俺もとっとと帰るとしよう。

 

 

「なにあの態度」

 

 

「私の柏木君………」

 

 

「何様のつもりなのよ」

 

 

そんな三人の声が陰から聞こえたことに関して、触れる気はない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

本日9月23日、晴天。

 

 

俺は今世紀(今月と読む)、最大の失態を犯す。

時計の針が停滞していることに気がつかなかったのだ。簡単な話が時計の電池がなくなったということだ。だから、怪我をしていたときと同時刻に学校に着いてしまう。

だが、そのときと違う点がある。一つ目、当然のことながら俺の両手に松葉がないこと。二つ目、下駄箱に人がいること。この時間に学校にいるということは大して不思議ではない。朝練とかあるし。ただ、その人は、いや、人たちは三人で、なにやらかたまって話しをしている。

 

 

「これだよね?」

 

 

「これこれ」

 

 

「人がいないうちにやろうよ」

 

 

最後の人、ちょっといいですか?俺、ここにいるんですけど。まぁ気にしないんだけどね。そんな会話があり、そのうちの一人が下駄箱を開けて中にある靴を取り出した。三人は靴を履いているためどう考えても違う誰かのだ。

てか、この時間に靴があるっていうことはもうすでに誰かがいるってことか。なんか、俺、恥ずかしい………

ま、どうでもいいや。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

今日の授業も終わり、これから帰るところだ。とっとと帰ろうと、下駄箱目指して歩みを進める。

………ただなんとなく、今朝の靴の持ち主が気になって誰かくらいの確認はしておこう。特に意味はない。

 

十数分の後、靴の入っていない、つまり空の下駄箱を開けたのは、彼女、学年一の才女だった。その彼女は下駄箱を開けたあとにすぐ、反転をして進んだ。

俺は特に何かをする気はない。どうしてわざわざ好き好んで面倒ごとに巻き込まれなければいけない。関係のない人のためにわざわざ行動する気もない。関係ない人、ね。

………そういえば今日ってこのあと特に用事ってなかったよな。そういえばまだ学校の探索ってしてなかったし。探索って心をくすぐるしな。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

たまたま、学校探索の過程で彼女の靴を見つけたから彼女の下駄箱に入れる。まぁさすがに事情を知ってるわけだし。知らん振りをする方が無理やりだし。

あった場所は人通りの少ない学校裏の茂みの中。昨日の雨のせいで草は濡れていた。まぁ見つけてしまったもんだから取ってきた。俺の靴やズボンに泥も付いたし、結果としては損ばかり。持っていたタオルで靴の水分はできるだけ取った。靴は何も悪くないしかわいそうだからな。

言っておくが、学校裏には来たことなかったから来ただけだ。ここが隠しやすそうとかいう予想はもちろん立ててない。

 

さて、帰るか。外に向かって歩く。そのときに、

 

 

「………ありがとう」

 

 

なんて小さな声が後ろから聞こえたが、俺には関係ないので、その声を響く足音でかき消した。

故意的に俺は靴を探したわけではないから恩は返した、ということにはならない、する気もないが、それでも、まぁこれで借りた恩の利息分は返した、ということで。

彼女のことだ。これからは同じことをされないように対策はとるだろう。よかったですねっと。

 

帰り道は少し足取りが軽かったということは、単なる気のせいだと思う。自転車だしな。


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