元資産家がμ'sに関与する   作:宇賀神

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(どっか説明不足な所あったら)すまんな



一話目

「で、考えは纏まりましたか? 南理事長」

「……」

 

 新春の日射しが燦々と差し込むここは音ノ木の理事室。

 その部屋の端っこに、机を一つ挟んだソファが二つ。片方には音ノ木の制服に身を包んだ少年が、大量の札束が覗く学生リュックを膝上に置き、対面のソファに座している妙齢の女性に尋ねる。

 女性は音ノ木坂学院を指揮する立場にある南理事長、対する少年は今年入学してきた音ノ木一年生の冷泉 忠介。

 現時刻は学生達の登校時間で、あちこちから聞こえる女学生達の晴れやかな声をBGMに二人は睨み合いを続けている。

 

 音ノ木坂学院は数年ほど前から共学になった。理由は単純、少子化による音ノ木の経営困難である。

 が、秘密の花園だった音ノ木に足を踏み入れる無謀な冒険家など極僅かで、累計男子生徒なんざ片手で数えるほどに留まってしまう。おまけに5~6年前にはUTX学園が開校し女生徒すら奪っていく始末。これがトドメの遠因となり、音ノ木坂学院は現在校生の卒業を目処に廃校を発表していた。

 

 ところがこれが今、この元資産家な問題児、もとい冷泉一年生の思惑により、廃校が先延ばしになる可能性が浮上してきた。

 

「キャッシュで前金5000万、まぁ足りないでしょうから追加で出しましょう。少なくとも廃校は一年……長く見積もって三年くらい免れるんじゃないっすかね」

「一体何が目的なのかしら……?」

「だから言ってるじゃないっすか。 『冷泉君は卒業するまで学校を休んでていいよ!内緒で卒業証書はあげるね!計画』ですよ。すげー簡単じゃないっすか」

 

 彼の提示する条件は至極簡単である。彼がこの学院に三年間在籍したという卒業証明書を、廃校を先延ばしにするお金で埋めるだけ。

 

「要するに高校を卒業したという証明がほしいのよね?」

「おーいえす!」

「……なら、どうして高認じゃダメなのかしら」

「だって勉強すんの嫌ですもん」

 

 高認がよく分からない人に簡単に説明しておこう。 

 

 高校を卒業したと証明できる方法は二つある。

 一つは規定の日程を通い続けて一定数の単位を取得し、卒業証明書を受け取る。普通の高校生活を送ればこれ。

 もう一つは、『高卒認定試験』を受けて卒業証明書を受け取る。これを略して『高認』と呼び、これは十六歳(早生まれで一五)を過ぎていれば誰でも取得可能だ。

 

 理事長はこれを提案したのだ。冷泉は別に高認でもよかったが、そのために独学で勉強するのは骨が折れる。それだったら、多少のお金で高校卒業証明と三年間の自由を手にし、余った時間を悠々自適にバカンスを楽しんだ方が楽天的であると踏んだのだ。

 その為に彼は、入念に念入りに徹底的に周辺の学校を下調べし、廃校寸前の音ノ木を発見して素直に入学試験を受け、裏口を使わず堂々と表から合格してみせたのだ。自分の計画を見逃すであろう教師達の後ろめたさを軽減させる、謂わば先行投資の目論見だったのだが、現に理事長とコンタクトに成功し交渉までこぎ着けている。

 

「確かに私達にとっては簡単で魅力的な提案ね。けれど、そのお金は受け取れないわ」

「へぇ……その心は?」

「どこからともなく湧き出たお金で教育委員会が納得するとは思えない、つまり延命が100%じゃない事ね」

「ふむ」

 

 当然と言えば当然である。馬鹿でも猿でも裏金と分かる金で教育委員会が動くかどうかは賭けに近い。黒に染まった委員会に一人もいない場合、逆に裏金が発覚した南理事長がヤバイ状況になってしまうだろう、最もこの確立に関しては0に近しいと断言できるが。

 

「もう一つは……この学校は、貴方が計画している三年間のバカンスより、もっともっと楽しい生活が送れる所だと気づいてほしいのよ……」

「おぉ」

 

 冷泉は、理事長の教師としての立派な心構えに思わず感嘆が漏れる。が、心構えに感心するだけであって彼は決して頷かない。

 

「いやでもそれは無いですって、そんな楽しい所なら何でUTXに生徒取られてんすか」

 

 ぐう正である。理事長はちょっと困った顔をして口を噤んでしまった。

 

「まぁでも、あなたは教師としては100点満点な解答をしましたが、理事長としてはどうなんですかね?」

「それは……」

 

 おまけに返し刀で痛い所を突かれてしまう。

 勉強を頑張って、友達を作って、学校を楽しんで、青春を謳歌してほしい。確かに生徒を第一に据える教師としては模範的な解答であるが、学校の舵取りをする『理事長』としてはどうなのかという問いかけだ。

 多くの客員を乗せた船が今にも転覆寸前で、もはや精神論や気合いでどうにかなるレベルにない。にも関わらず、彼女に手段を選んでいる余裕はあるのだろうか。いや無い(反語)。

 学校法人に位置する人間としては援助(というか裏金)を受け取り、今一度舵取りができる体制を組み直したいのが本音である。

 

「ま、もう少し考えてみましょうか……。つっても返答の期限は来週までですけどね」

 

 すっかり冷たくなったお茶を飲み、苦虫をかみつぶしたような顔の南理事長を愉快そうに眺めながら冷泉は話を切り上げる。

 期限を一週間と短く設定したのは彼女に考えさせる時間を与えないためだ。学校の延命方法は金を積む以外にもある、単純に生徒の数を増やせばいい。その手段を実地しているモデルケースも存在しているがそれに気づかせる時間を作らせてはいけないのだ。

 主導権は完全に彼のペースとなった。このまま彼女に電流が走って名案が浮かばない限り、近いうちに申し出を受け、三年間の廃校猶予と引き替えに彼のバカンスを許してしまうだろう。

 

 沈黙が空間を支配する中、理事長室前の廊下から上履きの擦れる音が鳴り響いた。どうやらこの部屋に来客らしい。

 

「じゃ、とりあえず俺はこれで失礼しますね」

 

 湯飲みを机に置き、札束の詰まった背負いバッグのチャックを締めて早々にソファから立ち上がった。念押しも無く立ち去るのは、このまま何事もなく進めば間違いなく取引は成立するだろうという余裕と自信の現れでもある。

 

 ドアを開けた際、パツキンの女性とそれに付き従うような紫髪の女性とすれ違う。

 自分のタイの色は青、彼女二人の蝶ネクタイの色は緑、つまり彼の上級生であるからして、とりあえず冷泉は会釈をし、部屋を後にした。

 

「理事長、今の男の子は新入生ですよね……? どうしてこの部屋に?」

「周囲が女性ばかりの慣れない環境だからってちょっとした相談を受けてたのよ、絢瀬さん」

 

 パツキンの三年生……絢瀬絵理生徒会長に、困った笑顔で嘘を吐く理事長。ここら辺をそつなく誤魔化せる辺り流石大人である。

 

(なーんか裏がありそうやな、カードがウチにそう告げとる……!)

 

 一方の紫髪もとい、副生徒会長の東條希は……………………電波を受信していた。

 




次回のラブライブ!


「先輩達!? ちょっとスクールアイドル活動は不味いですよ!(自分の計画が台無し的な意味で)」


「彼女達に助力をするなら少しは提案の受け入れを考えましょう(するとは言ってない)」


「はぇ~すっごい良い曲……。ええやん気に入った、なんぼなん?」


「やるって言ったら、どんなに辛くても背負わなくちゃいけない時は背負わなくちゃいけないの!」
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